はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

AVATAR

2009-12-31 10:20:02 | 映画
「AVATAR」監督:ジェームズ・キャメロン

 とある未来の人類は、5年の月日をかけて惑星パンドラに到着した。その地に眠る有益な鉱物を手に入れんと早速入植を開始した人類だが、自然と供に生きる原住民ナヴィとの間に諍いが起こる。その解決策を模索する為に編み出された手法は、なんとナヴィに模して造られたアバターの脳に人間の意識をリンクして同じ目線で懐柔・教化するというもので……。
 アバター適合者として選ばれた主人公ジェイク(サム・ワーシントン)は、戦傷で車椅子生活を余儀なくされた海兵隊員。他の適合者のような文化的探求心からではなく、純然たる高給の為にリンクを始めるのだが、アクシデントから仲間とはぐれたところをナヴィの女ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)に救われ、霊的存在エイワにも認められ、成り行き上ナヴィの中で暮らすことになる。
 力に満ちたナヴィの肉体と、自然を尊重する健やかな精神性、豊かなパンドラの大地に魅せられたジェイクは、やがて人間とナヴィの間をたゆたう自らの矛盾に苛まれるようになる。どこまでいっても足の不自由な落伍者にすぎない自分。強き者として尊重し受け入れられている自分。どれほど望んでも越えらぬ種族の壁。迫る人間とナヴィの衝突の時。苦悩の末に彼がたどり着いた答えとは……?

 文句なく傑作。陳腐な表現だが、映画表現におけるひとつの革命であると断言できる。
 肌の質感。熱帯の海のように色彩豊かな大地の広がり。個性豊かな動物たち。たくましく走り回るナヴィ。それらすべてが先進の3D表現により、実際に目の前にあるように見える。自分が今まさにそこにいるように感じることができる。夢のような臨場感に、僕は酔いしれた。
「ありがち」、と切って捨てられがちなストーリーは、まあたしかにいかにもジェームズ・キャメロン風で無難な出来に終始している。ネイティブ・アメリカンの宇宙版にしか見えないナヴィの風俗も、想像の域を出ない。
 反面、人間ドラマはよく描けていた。主人公の苦悩がしっかりと描かれていた。まるでネトゲにハマるゲーマーのような悩みを抱えるジェイクに共感できるという人は少なくあるまい。ご都合主義でも、考えなしでも、彼が選び戦い抜いた戦争と出会いは、多くの視聴者の心をとらえるはずだ。敵役のマイルズ・クオリッチ(スティーヴン・ラング)大佐の奮闘ぶりも素晴らしい。
 2Dで見たらどうなるのか、という疑問はあるものの、しかしいったん3Dで観てしまうととても2Dを観る気にはならず、翻って考えてみると、これは映画館で観るしかない作品なのだ。ちょっとでも興味のある方は、いまのうちに是非に。

20世紀少年最終章~僕らの旗~

2009-12-29 08:05:29 | 映画
20世紀少年 <最終章> ぼくらの旗 豪華版 (本編DVD1枚 特典ディスクDVD1枚)※生産限定

バップ

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「20世紀少年最終章~僕らの旗~」浦沢直樹

「MASTERキートン」と「パイナップルARMY」は間違いなく傑作だった。「YAWARA!」も嫌いじゃない。基本的には好きな作家なのだけど、天才肌というのか、時にわけのわからない作品を作る傾向にある。「MONSTER」や、この「20世紀少年」がそうだった。出だしの面白さは抜群。その後の展開についていけず、どちらも途中で追うのを諦めてしまった。
 今回わざわざ映画館まで足を運ぶことになったのは、A君のせいだ。2人の記念日に何か映画を観ようということになって、A君は「しんぼる」、僕は「サマーウォーズ」と、意見が対立した。折衷案が、同時期に1、2章をテレビ放送していた「20世紀少年」だった。
 内容は、もう説明するまでもないような気がするが、幼少の頃、秘密基地を作って遊んでいたグループのリーダー格・ケンジ(唐沢利明)が戯れに作った「よげんのしょ」通りの事件が現代に起こる。果たして犯人は誰なのか? というもの。過ぎ去った年月の中でねじ曲がった思い出と、バイオテロとか新興宗教とか現実に起こる事件のえぐさの狭間にある真実。そのあまりの「あり得なさ」に、僕はずっと拒否反応を起こしていた。今回の一気の視聴でも、その印象はあまり変わらない。一応整合性はある。けど、「やっぱりそりゃねえよ」。そう思った。登場人物の行動もいちいち嘘くさい。「ともだち」の正体も見た目でばればれだし。バカ作品として扱うならそれでいいのかもしれないけど、うーん……。
 わかんなくもないんだよね。これはケンジが相手していた「もの」の正体のことをいってるんだけど。でも、それってあまりにも曖昧すぎないか? そんなものが人を殺すか?
 ぼかしただけなのかな? わからない。なんかね。すっきりできなかった。とりあえずA君は満足そうだったんでよかったかな。人前で満面の笑みを浮かべながら「ともだち」ポーズをとるのは勘弁してほしいのだけど。
 あ、マンガと映画の比較は、僕自身の記憶が薄れているのでできない。あんな荒唐無稽な話をよく実写にできたな、という意味では褒めるべき。張りっぱなしの伏線とかもあるけど。
 オールドスクールなロックはうまいこと効いてた。誰の中にもある「あの頃への憧憬」も印象的。ひさしぶりに同窓会をやりたくなった。
 配役は、ケンジ役は適任だったね。唐沢利明以外にゃできない、あれは。歌の巧拙はこの際無視で。他はまあ……同級生に見えなすぎる同級生たちがきつかったかな。実年齢はどうなってるんだ? 意外に近かったりして。ないか。カンナ役の娘は、誰なのこの娘? 目の光が強くて、ものすごいインパクトがあった。この娘主体のエピローグが欲しかったなあ。ケンジ復活後は空気になっちゃったから。そこが残念。

義珍の拳

2009-12-27 12:31:10 | 小説
義珍の拳 (集英社文庫)
今野 敏
集英社

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「義珍の拳」今野敏

 時は明治。琉球の下級士族の家に生まれた富名越義珍は、生まれついて病弱で臆病者。勉強はできるが喧嘩なんてしたことはなく、人と争うことも大嫌い。
 このままではいけない。
 惰弱な自分を克服しようと一念発起した義珍は、達人・安里安恒の家に出入りし、当時門外不出の秘伝であった唐手を習うことに。
 突きや蹴りといった個別の技でなく、ナイファンチと呼ばれる型の流れのみをひたすらに修練する義珍。1年が過ぎ、2年が過ぎ、心身共に強靱となった義珍は、安里の紹介で糸州安恒のもとにも弟子入りし、さらなる型を覚えていく。
 唐手を身につけ、大人になった義珍は、今度は教育者として唐手を青少年の育成のために普及させようと理想に燃える。しかし、そこにはある問題があった。一般向けに噛み砕いてわかりやすくした唐手の指導は、琉球の宝であった本来の唐手の理合いを失わせた。反射神経や筋力体力を重視し、より西洋的なものへと変貌していく唐手を寂しい思いで見つめながらも、しかしいまさら歩みを止めることはできない……。

 廃藩置県や世界大戦。激動の時代を駆け抜けた、ある唐手家の半生を描いた傑作。
 自身で今野塾なる空手道場を経営する今野敏だけに、さすがに説得力がある。型の持つ意味。戦わぬことの意義。古来から連綿と受け継がれてきた唐手への愛が、文章からにじみ出ている。義珍の成した功績や、その悲しき最後を見て、奮い立つ若者も多かろうなあ、と思いながら呼んでいたら、あとがきでぶっ飛んだ。押井守、あんたもか。

まほろ駅前多田便利軒

2009-12-26 20:00:37 | 小説
まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)
三浦 しをん
文藝春秋

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「俺には子どもがいた。生まれてすぐに死んだけどな」

「まほろ駅前多田便利軒」三浦しをん

 ラーメン屋みたいな屋号の便利屋・多田は、ある日バス停のベンチで旧友の行天を拾う。
 あれよあれよというまに懐かれ居座られた多田は、行天のキャラの変化に戸惑う。学生の頃はあんなに無口だったのに、こんなにものべつまくなし喋るキャラになるとは……。
 行天の奇想天外な行動に悩まされつつ、日々は過ぎゆく。チワワの預かり、コロンビア人のアパートのドアの修繕、塾の送迎、納屋の整理、女子高生隠匿etc……。様々な以来をこなすうちに、共にバツイチ子持ちなコンビは信頼関係を深めていく。

「風が強く吹いている」の三浦しをんの手による直木賞受賞作。
 心に傷を抱えた2人の男が過ごすちょっと不思議な日常生活を描きながら、その傷の癒しと再生へと結びつけるやり口が巧妙。
 犬みたいな行天、元妻の凪子さん、若者ヤクザの星、自称コロンビア人のルルちゃんなど、各キャラもユニークで、見ていて飽きない。次巻があるみたいなので、そちらも買うつもり。

深夜食堂(1)

2009-12-24 08:01:12 | マンガ
深夜食堂 1 (ビッグコミックススペシャル)
安倍 夜郎
小学館

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「深夜食堂(1)」安倍夜郎

 営業時間は夜12時から明け方の7時まで。メニューは酒類以外は豚汁定食のみ。それ以外も頼まれればなんでも作ります。
 顔に傷ありワケありな店主の営む通称・深夜食堂には、今日も濃ゆい客が訪れる……。

 評判だと聞いて。
「赤いウインナー」「きのうのカレー」「猫まんま」といった、一線級ではないけどどこか心をとらえる「あの味」を求める客たちの人間模様を描く、という構図が面白い。
 ゲイバー経営者の小寿々、暴力団の幹部・竜ちゃん、風俗嬢エリカ、巨漢のまゆみちゃん、ストリッパーのマリリン、女子プロレスの王者・リョーマ藤崎……普通のサラリーマンやら飲み会帰りの女子大生なんかももちろんいるけど、個性豊かな常連客やワケありの一見さんが持つ、個人的な「あの味」との関わり方が良い。ぜんぜん洒脱じゃなくて、むしろ泥臭い人間くさい会話をかわしながら、実にうまそうに料理を食う彼らの隣に、お酒片手に座りたくてしょうがない。ダイエット? カロリー? 問題は承知の上で、夜中に腹を減らしながら読んでいただきたい。

インセクツ(4)

2009-12-22 18:49:31 | マンガ
インセクツ 4 (バーズコミックス)
杉山 敏
幻冬舎コミックス

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「インセクツ(4)」杉山敏

 戦車砲でも航空機でもしとめられない、対昆虫用の殺傷兵器IRSも効かない。イージス艦でのミサイル攻撃でしとめたものの、すぐに第2の昆虫が登場する。しかも今度のは前よりでかい……。
 日本政府の戦力を超えて成長する昆虫退治に、いよいよ米軍が乗り出した。爆撃機から落とされるMOAB(核に次ぐ威力を持つ爆弾)によって発生するキノコ雲、胴体を半分失ってもまだ動く昆虫、事態はさらに混迷の一途を辿り、ついには……。

 巨大昆虫パニック最終巻。
 えっと……これは打ち切りなのかな? あまりにも大味すぎる気がするのだけど……。いや、ジャンル的にはこれでいいんだろうし、実際、映画とかならこうなるんだろうけど、なまじ1、2巻でじりじり築き上げてきたものがあっただけに、もったいなかったような気がする。あんなに丁寧に描いていたのに。
 マイフェイバリットな行動派科学者・小田嶋さんも、やたら定型的な終わり方を明示されていたし、残念。モンスターパニックものの名作「B・M・N」みたいな壮絶な展開まではしなくてもいいから、こんな無難な収束のさせ方はしないで欲しかった。

光速シスター(1)

2009-12-21 08:20:57 | マンガ
光速シスター 1 (ビッグコミックス)
星里 もちる
小学館

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「光速シスター(1)」星里もちる

 衛星放送チャンネルTERAの営業・三谷は、ドラマが大好き。古今東西のドラマを見倒し、最終的にはドラマを制作したいという野望があったが、あいにくと夢は叶わず、でも大好きなドラマに間接的ながらも携われる仕事につけて、小規模な満足を得ていた。
 ある日、いつものように趣味のドラマのロケ地巡礼をしていた三谷は、廃線となった鉄道の駅舎で、謎の光球に衝突。死亡寸前まで追い込まれる。
 次に三谷が気がついたのは、自宅のベッドの上だった。事件の日のことを一切忘れ、ぼんやりと部屋を見回す彼の目に飛び込んできたのは、バレッタにエプロン姿のかわいい女の子。
「誰? おまえー」
 口に出しかけた疑問は、すぐに氷解する。そうだ。こいつはハナ。妹だった。料理が苦手で、一般常識に疎くて、兄貴にいつもべったりな、困った妹。そう、そのはずだ……。
 かすかな違和感を感じつつも、三谷はいつもどおりの日々に舞い戻る。同僚の松木と交わす軽口や、総務の北川さんとのデートでのどきどき。毎日会社までついてくるハナには閉口させられるけど、なんてことない、これも平凡な日常の1ページ……ほんとにそうか? 俺は何か、大切なことを忘れてるんじゃないか?

「りびんぐゲーム」他ハートフルな良作を連発する星里もちる最新作は、兄に恋する妹物。キスや入浴といったお約束シーンは当然外さず、プラスアルファでSF要素が絡んでくる。何故ハナは三谷にべったりなのか、どうしてそういう「設定」なのか、そして、ハナが実の妹でないと知った三谷の動揺は……。
 なんだかすごく切ない気持ちに浸らされた。もうちょっと、謎の妹期間を延ばしてほしかった気がする。だって、最後に悲しい結末が待つのはわかりきっていることだから。シリアス成分は、もう少しあとでもよかった。星里らしく、きっかりハッピーエンドにしてくれるのならいいけど、いやあ、この展開ではさすがに無理じゃないか……? 

化物語(上)

2009-12-19 10:18:39 | 小説
化物語(上) (講談社BOX)
西尾 維新
講談社

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「化物語(上)」西尾維新

 ある春の日に吸血鬼と出会って以来、平凡な高校生・阿良々木暦(あららぎこよみ)の周りには騒動が絶えない。自身の吸血鬼化問題こそ謎の霊能力者・忍野のおかげで解決したものの、体重が軽すぎる戦場ヶ原ひたぎ(せんじょうがはらひたぎ)、いつまで経っても家に帰れない八九時真宵(はちくじまよい)、猿の手を持つ神原駿河(かんばるするが)などという一癖も二癖もある美少女たちの、これまた強烈な悩みに遭遇してしまう。超がつくほどのお人好しの暦は、文字通り体を張って、彼女たちの悩みのもとを絶とうと試みるのだが……。

 シャフトによるアニメ化が最高の出来だった同作品の、こっちが原作。原作とほとんど変わらないアニメ化のくせに失敗しなかったのは、ひとえに本作品の特徴による。
 基本暦と女の子の漫才で話が進む。アクションシーンの描写は下手だがイメージが鮮烈である。この2点。
「クビキリサイクル」で出会い別れた西尾作品は、相変わらず衒学的で、ぐだぐだぐだぐだひとつのことを繰り返し描写する癖が抜けていない。一方で、ボケとツッコミはかなり上達していた。むちゃくちゃな女の子たちへの暦の必死のツッコミには、かなり共感できるものがある。アクションシーン自体はそんなにないのだが、後半に待ちかまえる暦とあのキャラとの死闘(一方的にやられていただけだが)は、何をやっいてるのかが非常にわかりにくかった。
 0か100しかない尖ったキャラ造形は、今回に関しては悪くなかった。恋人ひたぎのツンぶりや、おませな八九寺、体育会系の神原、ザ・委員長な羽川など、いちいち掛け合いが面白かった。次巻も当然の買いだ。

シュトヘル(2)

2009-12-17 16:45:44 | マンガ
シュトヘル 2 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
伊藤 悠
小学館

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「凶賊「悪霊(シュトヘル)」は、モンゴルの神なる大狼を噛み殺したっていう噂だった。だからオレは本物に会ったら聞いてみたかったんだよ。獣と噛み合って得たもの、失ったものをね」

「シュトヘル(2)」伊藤悠

 モンゴル軍に属するツォグ族の男・ハラバルに味方を殺された雀(ウィソ)は、仇を討つためすべてを捨てた。正気さえも。モンゴル兵とみればすべてを殺す悪霊の噂は、瞬く間に中華全土に広まった。その名はシュトヘル。
 西夏の歴史を秘めた文字盤に魅せられ、モンゴルの破壊の手から守ろうと成都を目指して逃げる少年は、平和と文化を愛するおとなしい皇子だ。その名はユルール。
 一見なんの繋がりもない2人の接点は、ユルールの兄がシュトヘルの仇・ハラバルであること。
 黒い商人・アルファルドの導きで出会った2人は、囮と護衛という利害が一致し、道中を共にすることとなる。
 すべてを許し受け入れる博愛少年・ユルールと、無慈悲な殺戮マシーン・シュトヘルを繋ぐのは、奇しくも文字であった。拙く幼稚な2人の交流を、しかし快く思わないアルファルドは、ユルール殺害を試みるのだが……。

「皇国の守護者」の作画担当の人・伊藤悠のオリジナル。
 1巻ではあれだけ素直で可愛かったウィソの変貌ぶりに驚いた。復讐心に凝り固まった彼女が様々な手段で行うモンゴル兵纖滅作戦は、派手さこそないものの思い切りが良くテンポがいい。複雑な体勢をとらせたがるクセがあって、時に場面が理解しづらくなるものの、テンポの良さでさくさく読める。シュトヘルに殺されたくてしかたない自殺志願者・アルファルドなんていうユニークな脇役もいるし、なかなか味のある作品に仕上がってきた。先が楽しみ。

レンタルマギカ(1)魔法使い、貸します!

2009-12-16 10:29:05 | 小説
レンタルマギカ ~魔法使い、貸します! (角川スニーカー文庫)
三田 誠
角川書店

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「レンタルマギカ(1)魔法使い、貸します!」三田誠

 怖い物が苦手なあまり、ちょっとしたことで失神するヘタレ主人公・伊庭いつきが、失踪した父の代わりに経営する羽目に陥ったのは、アストラルという名の零細企業。猫マニアの猫屋敷蓮、巫女服姿の葛城みかん、セーラー服の魔女っ子・穂波・高瀬・アンブラーと、やたら個性的な……というか、いっそ社会人とは思えぬ面々から構成される「魔法使い派遣業」だった。
 ただでさえびびりのいつきは、目の前で繰り広げられる陰陽道、神道、ケルト魔術の秘儀の数々や、魔獣たちとの戦いの日々に七転八倒。血やら意識やらあらゆるものを飛ばして苦しみ惑う。
 どこかのほほんとした猫屋敷や、お兄ちゃん社長と呼んで慕ってくれる葛城はともかく、同級生の穂波がビシバシスパルタスタイルで社長業を指導してくるから、家でも学校でも気の休まる暇がない。ソロモンの血に連なる敵対企業「ゲーティア」の首領アディリシアもちょっかいをかけてくるし、常に眼帯してないと「見えすぎる」右目もじくじく痛むし、「夜」と呼ばれる奇怪なる魔法空間に巣食う者も忍び寄っていたりして……。

 古今東西の秘儀秘術がてんこ盛りプラスボーイミーツガール。シンプルでわっかりやすい狙いが好印象な、シリーズ第1巻。
 幼い頃の事故(?)で「妖精眼(グラムサイト)」を持つに至った主人公・いつきの目覚めと、キャラや世界設定の紹介が主。いつきの幼なじみで最近イギリスから帰ってきたばかりの優等生・穂波と、その同級生だったツン娘・アディリシア。2人といつきの三角もまだまだほの見えたくらいだし、本格始動は2巻から、なのかな。先にも述べたようにストーリーはシンプルかつ王道でクセがなく、魔術の闇鍋みたいな状況が好きな人ならまず買って損はしない。