はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

あなたにもできる悪いこと

2010-07-31 07:48:48 | 小説
あなたにもできる悪いこと (講談社文庫)
平 安寿子
講談社

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「あなたにもできる悪いこと」平安寿子

 38歳になる檜垣は、人に好感の持たれる男前で、弁が立つし倫理感も薄い。まったくセールスマンになるために生まれてきたような男だった。高校時代同級生だった時任の経営する新会社に入ったはいいものの、いきなり当の時任が行方をくらました。
 途方に暮れていると、時任の秘書をしていた畑中里奈が声をかけてきた。檜垣と同じく職を失うことになった彼女が檜垣にやらせたい仕事とは……。
 年寄りのセクハラ騒ぎ、教師の不倫、NPOの資金着服疑惑、宗教団体のトラブル解決、選挙戦候補者へのゆすりたかり。様々なトラブルの隙間に転がる和解金や慰謝料や口止め料をかすめ取る、小さな悪事の数々。世の偽善と保身の間をくぐって生きる彼らの明日はどっちだ?

 徒手空拳で、あるのは見た目とよく回る口だけ、という最低男が、ブレインの指示のもと、ささやかな一儲けを企むピカレスク小説。
 悪くない。主人公の檜垣の軽薄なキャラも、小悪党すぎて憎めないものに映るし、ツンな里奈との男女関係も、つかず離れずな距離感が絶妙で微笑ましい。メインとなる悪事パートも、稼ぐのがせいぜい数十万単位の小銭だし、被害者も悪人というケースが多いので、それほど悪いことをした気がしない。悪は悪? まあそうだけども。
 別れた女房や子供のこともあるし、続きが読みたいね。

惑星のさみだれ(9)

2010-07-29 19:48:02 | マンガ
惑星のさみだれ 9 (ヤングキングコミックス)
水上 悟志
少年画報社

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「みなごろしのじかんだよ~」

「惑星のさみだれ(9)」水上悟志

 幻獣の3騎士が集い、全員揃っての合体技も完成し、いよいよ迫る12体目の泥人形との対決。その先には当然ビスケットハンマーとアニムスが立ちはだかっているし、それらを全部クリアしたらしたで、さみだれと雨宮には地球を破壊するという野望が待っているしで、まだまだ問題は山積み……なのだけど、けっこういろいろ片づいた。どう片づいたかは実際に読んでみてもらうしかないのだが、予想を裏切る意外な進行だった。
 キャラ相関が生み出す熱さは相変わらず。さみだれと雨宮の接点がさらに深まり、アニムスのいやらしさはよりいっそう際だっていた。
 そして……まあでも、とにかく次巻だね。続きが読みたくてしょうがない。この盛り上がりの落ち着き先が気になる。

月光条例(9)

2010-07-28 08:50:22 | マンガ
月光条例 9 (少年サンデーコミックス)
藤田 和日郎
小学館

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「月光条例(9)」藤田 和日郎

 月打された桃太郎が、「日本一」の実力でもって暴れ回る。大切な友達の首をはねられた「長靴を履いた猫」イデヤは、伝説の「呑舟」こと鉢かづき姫の助力を得て桃太郎に挑むのだが、あえなく返り討ちに遭い、逆に鉢かづきを奪われてしまう。
 抵抗する鉢かづき。しかし桃太郎のきびだんごの怪しい妖力に籠絡され、武器として扱われてしまう。
 最後の頼みは月光。エンゲキブの身に起きた悲劇を知った月光は、桃太郎に単身戦いを挑むが、犬猿雉に邪魔され、手も足も出ない。このまますべてを桃太郎奪われてしまうのか……?

 いやあ、桃太郎無双から月光登場、月光のピンチになんと……の流れが熱い熱い。今回も面白かった。
 ところで、きびだんごで桃太郎のいいようにされてしまう鉢かづきが妙に色っぽかった。けっこう同じ感想の人いるんじゃないかな。

鉄風(2)

2010-07-26 18:41:05 | マンガ
鉄風 2 (アフタヌーンKC)
太田 モアレ
講談社

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「ウフフ……。ナッちゃんって性格悪いよね」
「え? そうなの?」
「うん!! でもまっすぐに性格悪いからいいと思うよ。ずるくなくて」

「鉄風(2)」太田モアレ
 
 充実した日々を送るゆず子を倒したいため、総合格闘技を始めることにした夏央。どこのジムで習えばいいのか悩んでいた折、道場破りした空手部の主将・早苗と公園でタイマンをしていたところを女子総合格闘技日本一の紺谷に見初められる。
 さっそく紺谷のジムに所属することに決めた夏央は、ひょんなことからブラジルの最強親子・コルデイロ父娘プラスゆず子と、竹中・紺谷師弟の確執に巻き込まれることになって……。

 話題の女子格マンガ第2巻。
 いやあ、面白い。
 勘を取り戻すために昔の仲間とガチで果たし合いをし、ジムで真面目に練習に取り組み、どこまでも容赦なくストイックに打倒ゆず子に燃えている。しかしそこにスポーツマンシップなどはない。そんなアクの強さが素敵すぎる。
 今回の収穫は、夏央の学校での唯一の友達、ケイ。この娘の夏央とのあっけらかんとした距離のとり方がとても良かった。上記の台詞に痺れた。

WORKING!!(1)

2010-07-24 18:50:55 | マンガ
WORKING!! 1 (ヤングガンガンコミックス)
高津 カリノ
スクウェア・エニックス

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「WORKING!!(1)」高津カリノ

 北海道某所にあるファミリーレストランチェーン「ワグナリア」でバイトを始めた小鳥遊宗太は、いきなり個性豊かな従業員たちの洗礼を受ける。小鳥遊よりも年上で高校の先輩なのに、どう見ても小学生にしか見えない種島ぽぷら。過度の男嫌いで、近くにいるだけで反射で殴ってしまう伊波まひる。仕事はしないが店の売り物には手をつけ(食い)まくる元ヤン店長・白藤杏子。杏子を崇拝する帯刀娘・轟八千代。好きな八千代に杏子の話ばかりされていつもつらそうな佐藤潤。行方不明の妻を捜して全国を旅しているためあまり店にいないオーナー・音尾兵吾。小鳥遊姉妹とか山田とか、まだ登場していない面々を除いても、すでのこれだけの個性の塊ぶり。
 そんなアクの強いキャラたちに振り回されてびくともしない小鳥遊はすごい。まあもともと無茶な姉妹たちに振り回されて育ったので忍耐力はあるし、家事全般と細かな気配りできるから仕事はそつなくこなす。ちっちゃいもの好きなのがちょっと男性として不安なところだけれども、伊波さんとの触れ合いを通して変わっていってくれるだろう。きっと。

 ところで僕はアニメから入ったんだけど、なかなか原作に忠実だったんだね。まあ4コマだから自然忠実にはなるっちゃなるんだろうけども。
 マンガのほうもおもしろいので、継続購入決定。

七花、時跳び!

2010-07-23 08:01:01 | 小説
七花、時跳び!―Time‐Travel at the After School (電撃文庫)
久住 四季
アスキーメディアワークス

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「七花、時跳び!」久住四季

 未来研究会の部員・柊は、退屈だった。変わり映えのしない日常と、希望のない未来を思って憂鬱だった。そんな柊に、ある日転機が訪れる。後輩の七花が、いきなりタイムトラベルができるようになっていたのだ。
 七花の能力に乗っかって様々な時間に跳ぶ柊は、そのあまりの面白さに、非日常に、大盛り上がり。ハイテンションで七花を引きずり回す。
 彼らの跳ぶ時間は、そんなに大それた過去や未来じゃない。歴史上の出来事を体験したいわけでも発展した未来都市を見たいわけでもない。せいぜいが、3分後の未来でカップラーメンを食べるとか、無くなったケーキを食べた犯人を捜して昨日へ跳ぶとかその程度のかわいいもの。
 だけど、腐ってもタイムトラベルはタイムトラベル。2人の前には大いなるパラドックスが横たわっていて……。

 タイトルそのまま、タイムトラベルもの。
 最初は主人公が好きになれなかった。七花のいうことを聞かず、自分勝手に振り回して自分だけ楽しんで。でも、読むにつれてだんだんと主人公のことがわかってきた。つまらない日常に膿んでいた少年が、七花との時間旅行を経て変わっていくのが好ましく思えた。
 それに、もし自分が同じ立場になったとしたら、けっこう同じような行動をとるかもしれない。過去や未来の自分を見て、にやにやするかもしれない。未来や過去の彼女と出会い、胸を熱くさせるかもしれない。理性も理屈も吹き飛ぶような、それは大きな感動に違いないのだから。
 非日常との邂逅がもたらす衝撃。大人の七花さんのかわいさ。おすすめです。

響子と父さん

2010-07-21 18:33:17 | マンガ
響子と父さん (リュウコミックス)
石黒 正数
徳間書店

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「響子と父さん」石黒正数

 庭で模造刀を振り回したり、娘と一緒に行ったソバ打ち教室で皆に娘のことを嫁と紹介したり。どこにもいなそうで、でもどこかにはいそうなお茶目な父さんと、イラストレーターの娘のお話。
 同作者の「ネムルバカ」の鯨井ルカの家族の話というのを聞いて手にとってみたのだが……うーん、あんまり面白くない。期待しているほどには「ネムルバカ」との繋がりはないし、そもそも僕自身がお茶目なおっさんというものに興味がないせいもある。やっぱりこの作者のお話の主人公は女の子じゃないと。「それでも町は廻っている」に集中してください。

漂流ネットカフェ(3)

2010-07-19 09:15:04 | マンガ
漂流ネットカフェ3(アクションコミックス)
押見 修造
双葉社

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「おかえり」

「漂流ネットカフェ(3)」押見修造

 ふとしたことから訪れたネットカフェごと異次元へ飛ばされた土岐は、初恋の人・遠野と共に、なんとか元いた世界へ帰ろうと努力していた。そんな2人を引き裂き、遠野をモノにしようと画策する寺沢の陰謀により、土岐は殺人の疑いをかけられる。そんな土岐のピンチを救ったのは、元の世界に残してきた身重の妻によく似た雰囲気の女・まこだった。彼女はネットカフェの中で唯一まともに見える男である土岐を頼ろうと、事あるごとに接触を求めてきて、ついには……?

 脱出の希望が見えぬまま、性と暴力に支配されていくネットカフェ。しかも一番の敵は、もっとも強大な暴力を持つ寺沢。というのが絶望的でいい味出してる。
 のだが、なんだか誰も真剣に脱出方法を考えてない風なのが気になる。人任せにして事態が勝手に解決してくれることを望む、いかにも現代っ子らしい都合のいい考え方の持ち主ばかり。みんながみんなネットカフェにひきこもってる展開にはどうも違和感がある。もっと外に目を向ける人がいてもよくないか?

氷菓

2010-07-18 20:24:12 | 小説
氷菓 (角川スニーカー文庫)
米澤 穂信
角川書店

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「氷菓」米澤穂信

 勉強、運動、友人、恋人。何事にも積極的に関わろうとしない省エネ人間・折木奉太郎は、青春のせの字も知らない。当然部活は帰宅部。そんな奉太郎には強引極まりない姉が一人いて、奉太郎的には逆らえない存在で、それ故に、奉太郎は神高伝統の古典部に入部することになった。
 いまや部員ゼロの部活だし、適当にやってればいいかぐらいに思っていた奉太郎だったが、いざ部室を訪れてみると、そこには一人の新入部員が待っていた。千反田える。好奇心の塊のようなお嬢様との出会いが、昼行灯の奉太郎の人生を変えた……。

「春期限定苺タルト事件」シリーズの米澤穂信のデビュー作。
 まあまあ面白いけど、あんま当該シリーズと代わり映えはしない。青春への取り組み方が素直、といえばいえるか。
 悪友の福部里志、福部に惚れてる新聞部の伊原摩耶花など、脇を固めるキャラクター造形もオーソドックスで、良くも悪くも米澤穂信のデビュー作、という感じ。
 人が死んだりしない緩い日常系のミステリが好きな人はどうぞ。

笑わない科学者と時詠みの魔法使い

2010-07-16 07:33:57 | 小説
笑わない科学者と時詠みの魔法使い (HJ文庫)
内堀優一
ホビージャパン

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「信じますからね。知らないですからね」
 そう言って咲耶は耕介の身体を強く強く抱きしめる。

「笑わない科学者と時詠みの魔法使い」内堀優一

 どんなことがあってもポーカーフェイスで、自分のペースを崩さない物理学科の学生・耕介は、アパートの更新料が支払えなくて困っていた。実家はそれほど裕福じゃないし、迷惑かけるくらいなら大学を辞めてしまおうか、そんなことを考えていたところに、教授からおいしいアルバイトの話が舞い込んだ。
 咲耶という名の女の子と共同生活を送れば、たっぷりの報酬と、ただで高級マンションに住む権利を与えられる。あまりにもおいしい話には、当然のように裏がある。咲耶はなんと、魔法使いだったのだ。
 物理学の学び手と本物の魔法使いの共同生活。というわりにはそれほど障害も軋轢もなく、あっさりとうまいことやっていけるようになった2人。それにはやはり、耕介の性格によるところが大きい。目の前で起きた魔法という現象の不可思議を受け入れられる素直さと、生い立ちのせいで、常に自分より他人のことを考えて行動できる真摯さでもって、警戒心ばりばりの傷ついた子猫のようだった咲耶を、一晩にして懐柔。
「耕介は私のことを誰よりもわかっています(目がキラキラ)」とまでいわせる。
 魔法の世界から戻ってきた咲耶の世間知のなさがもたらす数々のアクシデントは、2人と周りの人間の間に、他に変えようのない暖かなものをもたらす。そんな、かけがえのない日々は、しかし長くは続かなかった。咲耶の身に、命の危機が迫っていたのだ……。

 耕介の性格の良さがすべて。そこが、話全体に丸みというか優しさをもたらしている。幼なじみの女学生・あすみとの三角関係がぎくしゃくもせずなごやかに進行するのもそのためだ。姉妹のように仲睦まじい咲耶とあすみが、こと恋愛に関してはライバルで、でも、なんだか落ち着いて安心して見ていられた。どっちがどうということもなく、ただ3人、みんなが幸せになってほしいと素直に思えた。
 物理学的理詰めと魔法のハイブリッド、な展開は、まあぼちぼち。せっかくなんだから、もうちょっと物理方面から攻めてほしかった。
 ちなみに上記は、作中でかなりインパクトのあった発言。いやあ、なんというか、こういうセリフ、女の子にいわれたらぐっとこない?