「魔術士オーフェンはぐれ旅 約束の地で」秋田禎信
折込みのイラストは、やんちゃさを残しつつ大人になったオーフェンと、すっかり母親の顔になったクリーオウのツーショット。庭先で談笑する2人の傍らをレキが走り回り、その様子を物陰から子供たちが覗いているという、夢のような光景が広がっている。
あれから20年。オーフェンもクリーオウも、四捨五入すれば40、という年齢になっていた。クリーオウがレキの大ジャンプでオーフェンの乗船する船に無理矢理追いついてから、やっぱりいろんなことがありました。オーフェンにも、開拓民たちにも。オーフェンたちとカーロッタ派の抗争があったり。神人種族や、その恩恵に預かり巨大化した人間たちの大暴れによって、街そのものが壊滅するほどの災害が起こったり。キエヒサルマ島の常識が通用しないような数々の生まれたての脅威を退け、ともあれ人間たちは原大陸に橋頭保を築いていた。
結果的にオーフェンは魔王として魔術師たちを束ね、反魔術師派やカーロッタ派、その他利権の絡んだあらゆる層から憎まれ、恐れられていた。
そんな中、牙の塔からある一団が原大陸に渡る。メンバーの一人は、どうやら今シリーズの主人公らしいマヨール・マクレディ。名前からもわかる通りレティシャの子供で、真面目な堅物タイプ。奔放な妹のベイジットがついてきたことを苦々しく思いつつも、同行したプルートー教師の手前、我を忘れるわけにはいかないのでストレスがたまっている。そんな彼に、次々と原大陸の洗礼が与えられる。オーフェンの長女にしてのんびり毒舌家のラッツベイン(クリーオウ似?)、次女にしてハイパー好戦的なエッジ(オーフェン似?)、謎の3女ラチェットなどの濃厚なキャラたちの接待(?)。そして、巨大化した人間たちの襲撃……。
少し補足すると、巨大化、といっても闇雲に巨人になるわけではない。「進撃の巨人」とか想像しないように。具体的には身体能力や構造骨格までもが劇的に変化を遂げることを指す。それは精神にまで影響を及ぼし、周囲の人間をも取り込んでどこまでも成長するため、巨大化した人間はどうあれ殺すしかない。だが強すぎるし回復力も桁違いすぎるので通常の魔術で倒すことはできない。そこで登場するのが魔王術。通常の魔術とは異なる成り立ちのこの術式は、とある筋からオーフェンに伝えられ、オーフェンはそれを魔術戦士たちに伝えた。存在そのものを記憶からも消し去ることで対処するのだが、完全に何もかもを忘れてしまうと復活するらしいので、石碑とかに名や倒した者の名を刻んだりする。このへんはまわりくどいけど、いかにもこの人らしい設定だよね。
というわけで新オーフェン第2巻。というか、厳密には前巻のキエヒサルマの終端はプロローグというかエピローグみたいなものなので、これを1巻とカウントすべきかな。
相変わらずの情報量で、読むのが大変だった。もともと勧善懲悪なシリーズではなかったけど、ここまで敵味方が入り乱れると疲れる。見せ方がうまいので全然見れるけど。
しかしまあ、まさかの展開ばかりだった。最初から最後まで驚かされっぱなし。細かなことはいわないけども、まさかあの娘がねえ……歴史は繰り返すのかな。しみじみ。
マヨール君は、キャラ的にはさほど魅力を感じなかった。実は現時点で次巻を読んでいるので、それで化けることがわかっているのでいいんだけど、この巻だけだとほとんど脇役だよね。
個人的には、クリーオウがレキに乗って大ジャンプ、後の展開を読みたかった。魔王の片腕と呼ばれていたり、カーロッタの片腕を切り落としたりとか、興味深すぎる。オーフェンのプロポーズだって見てみたいし。秋田先生、お願いします!