はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

カンニング少女

2009-06-30 20:35:08 | 小説
カンニング少女 (文春文庫)
黒田 研二
文藝春秋

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「カンニング少女」黒田研二

 都立K高校3年・天童玲美は、不審な交通事故で死んだ姉の死の真相を探るため、姉の在籍していた馳田学院大学へ進学することに決めた。しかし超難関で有名な馳田学院の前には、ぼんやりふつーの女子高生をやっていた玲美にはあまりに高いハードルがある。受験シーズンも押し迫ったこの時期に、いまさら一念発起したところで結果は火を見るよりも明らか。追い詰められた玲美は、クラスの優等生・愛香、陸上インターハイ選手・杜夫、幼馴染で機械オタクの隼人の3人の協力を得て、大カンニング作戦を計画するのだが……。
 
 昔そんな映画あったなーと懐かしい思いで読んでみたのだが、思いのほか異なる読み口。まああっちには姉の仇なんていう重い背景はなかったし、あくまでコメディ映画だったからな。
 で、こっちについて。
 一言でいうなら書き込み不足。犯罪なんて思いもよらない清純女子高生がカンニングに至る葛藤とか、万能女子・愛香のかっこよさとか、杜夫と玲美の恋愛パートとか、敵役の鈴村女史の憎らしさとか、玲美の姉が憧れていた咲田教授の人となりとか、青春の季節の過ぎ行く様とか、とかとか。
 もっと表現できるだろ? と、歯がゆい思いで一杯になってしまった。登場人物に感情移入できぬまま物語は終わってしまった。現代風なカンニング方法の数々には感心させられた部分もあったけど……。

狼と香辛料(7)

2009-06-27 21:01:21 | 小説
狼と香辛料〈7〉Side Colors (電撃文庫)
支倉 凍砂
メディアワークス

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「狼と香辛料(7)」支倉凍砂

 共同のあがりを奪って逃走した女商人・エーブを追うホロとロレンスは、レノスの港からの商船に同乗させてもらい、一路ケルーベを目指す……という本筋はさておき、絶好調行商ファンタジーシリーズの短編集。
「少年と少女と白い花」
 6巻でも多少触れられていた、ホロと旅を共にしたことのある少年クラス、少女アリエスの出会いの一幕(おそらく続きもの)。クラス視点の一人称。
 どこまでも純粋に神を信じるアリエスの出生の秘密と、そのアリエスを守ると誓ったクラスの幼い愛。それをおちょく……もとい見守るホロの慈愛、といったところが見所なのだろうけど、このシリーズって、「商売」がないとただのファンタジーなんだよね。凡庸。
「林檎の赤、空の青」
 ロレンス一人称。
 ホロが大好物の林檎を食べまくったり、北へ行くための服を2人で品定めしたり……ただのデートの話。
「狼と琥珀色の憂鬱」
 ロレンスはいるが、あえてホロの一人称。
 羊飼いのノーラと打ち上げの最中、いきなり調子が悪くなったホロが倒れる。病床(というほどおおげさでもないが)で甘えまくるホロの赤裸々なベタ甘な胸の内がいま明らかに。羊と羊飼いと狼を実際の人間に見立てるシーンが良かった(誰がどれかはわかるよね)。

 2話以外は行商シーンがなく、やはりそこがいまいち喰い足りない印象。本筋への思い入れは深まるが、あえて読む必要はないのかな……。

林檎の木の道

2009-06-24 18:57:33 | 小説
林檎の木の道 (創元推理文庫)
樋口 有介
東京創元社

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 それでも由美子は殺されたのだと、ぼくは声に出して、一人ごとを言った。

「林檎の木の道」樋口有介

 広田悦至17歳の夏。元彼女の由美子からの呼び出しを蹴って家で土いじりをしていた彼は、後に由美子が千葉の御宿で自殺したことを知る。しかも事件が起こったのは悦至が由美子につれなくしたその夜……。
 悦至と由美子の旧友・涼子は、由美子の死の真相を知るため聞き込みを始めた。探偵ごっこと揶揄されながら、でも彼らには確信があった。由美子は自殺なんかする奴じゃない。殺される必然もなかった。

 死の理不尽と元彼女の死。主人公は斜に構えた少年で、相棒はエキセントリックな少女。
 樋口有介の代名詞ともいえるセンチメンタルなボーイミーツガールに加え、今回はキャラ配置にひねりがある。バナナで世界を救えると信じる植物学者の片親の母。その母を狙って家に出入りする新聞記者。いい歳こいてヒモの祖父。その恋人の元女子プロレスラー。悦至と同じ高校の元同級生など、「お」と思わせる人物が揃っている。彼らのやり取りはユニークかつ魅力的だ。
 だが、メインはやっぱり悦至と涼子だ。冒頭に抜粋したように、悦至は厭世主義を装いつつも熱いものをもった少年だ。世間へも自分へも真っ向から立ち向かう涼子との共闘には、若い世代に特有の清潔感があふれていて非常に気持ちがいい。
 舞台は夏。誰もが持っている、誰にだって還元できる、「あの時の、あの時代の空気」を思い出しながら読んでいただきたい。

哀愁の町に霧が降るのだ(下)

2009-06-22 09:35:18 | 小説
哀愁の町に霧が降るのだ〈下巻〉 (新潮文庫)
椎名 誠
新潮社

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「哀愁の町に霧が降るのだ(下)」椎名誠

 昼でも陽がささないおんぼろアパート・克美荘で共同生活を営む若き日の椎名誠と愉快な仲間達のエッセイ・下巻。
 貧しいながらも精一杯に飲み、食らい、寝起きする彼らの生活にも、いよいよ終わりの日が近づいていた。木村が司法試験で、椎名は就職で、その他のメンバーも様々な理由でひとりまたひとりと去っていく。365日オールのどんちゃん騒ぎが静まっていく様は、まるで自分自身の青春時代が終焉を迎えるのを回顧して見るようで、えらく寂しい。
 後半、ある程度年月が経ってから、この本のネタだしのために集まった椎名、木村、沢野が当時を懐かしみながら酒を呑むシーンがあるんだけど、この時の酒がホントにうまそう。絶対女子供にゃわからない味。いい歳こいた親父にしかわからない味。つまることろこの本は、そういう人のための読み物なのだな。

神のみぞ知るセカイ(4)

2009-06-17 20:28:35 | マンガ
神のみぞ知るセカイ 4 (少年サンデーコミックス)
若木 民喜
小学館

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「神のみぞ知るセカイ(4)」若木民喜

 数多のギャルゲーをクリアしたことから落し神と呼ばれる桂木桂馬は、落ちこぼれ悪魔・エルシィと協力して人の心の隙間に住む駆け魂を狩らねばならない。これまで培ったキャラ別攻略法を駆使してようやく6体を捕獲したのだが、エルシィの同期の悪魔・ハクアに残りの駆け魂数は6万匹と聞かされる。自分以外にも駆る者はいるにしても、ギャルゲーに没頭できる平和な日常がしばらく戻ってこないのだと凹む暇もなく、桂馬の前に次の駆け魂が現れた。
 今回の宿主は桂馬の同級生にして、没個性の現実女・ちひろ。しかも好きな男有りときては、今まで培ってきた桂馬の知識がまったく役に立たない。桂馬自身もモチベーションがあがらず、あげくちひろと喧嘩してしまい落ち込んでいるところに、かつて攻略した女子・歩美が話しかけてきた。
 歩美のおせっかいによりちひろ攻略の糸口を見つけた桂馬。だがひとつ疑問が残る。攻略後は記憶を失っているはずの歩美に優しくされた。以前ほどではないが好意のようなものすら感じる。それは互いの、何より桂馬の有り方が変わったことによる良い変化なのだが、頑なに現実との接触を拒否する桂馬には、その答えが見つからない。疑心暗鬼のまま、さらに内へ内へと閉じこもっていく……。

 ぬるい外見とは裏腹、しっかり地に足の着いた良作。4巻になってもそのクオリティは落ちることなく、さらなる展開への期待を抱かせてくれる。楽しみ。

惑星のさみだれ(7)

2009-06-15 10:41:44 | マンガ
惑星のさみだれ 7 (ヤングキングコミックス)
水上 悟志
少年画報社

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「惑星のさみだれ(7)」水上悟志

 惑星を打ち砕こうとするビスケットハンマーを操る魔法使い・アニムスと泥人形たち。対するは惑星の守護者たる精霊アニマと獣の騎士団……の裏で暗躍する第三勢力・さみだれとその下僕の根暗メガネ・夕日が主役の物語もいよいよ7巻。
 今回のテーマはずばり、「先達として」。
犬の騎士・東雲半月の遺した技を受け継ぎ、多くの人の犠牲を踏みしめ、東雲三日月や泥人形との死闘の末に、夕日は強くなった。騎士団での順位も上がり、今では昴、ユキ、太陽なんていう後輩までいる。そう、いつまでも引っ張られる存在ではない。自分達は、自分と三日月は、これからの騎士団を支えなければならないのだ……。
 というわけで、今回も熱い。先輩としての自覚に目覚めた夕日と三日月のどつき合いや、三日月の半月との日々の回想など、見所満載。日本酒でもちびちびやりながら、二人の心の叫びを聞いていただきたい。先輩として、兄姉として、親として、誰かに見せねばならぬ矜持がある人なら、より一層楽しめるはず。

狼と香辛料(6)

2009-06-12 20:11:16 | 小説
狼と香辛料〈6〉 (電撃文庫)
支倉 凍砂
メディアワークス

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「狼と香辛料(6)」支倉凍砂

 共同のあがりを奪って逃走した女商人・エーブを追うホロとロレンスは、レノスの港からの商船に同乗させてもらい、一路ケルーベを目指す……が、行程は一筋縄ではいかない。川筋の関所で面倒事に巻き込まれていた少年・コルを助けたロレンスは、何の因果か師匠になるハメに。
 いままで弟子などもったことなどないと頭を抱えるロレンス。しかし自分が弟子だった昔を思い返しながら教え始めると、コルのもともとの頭の良さや素直さもあいまって、師弟関係は存外良好。秘密の思惑があるホロはにんまり。
 そんな折、エーブの策略により先行した船が沈められ、水路は完全に塞がれてしまう。自棄のやんぱちで大宴会を催す船乗りや商人たちの語る噂話や、コルの故郷の話を総合した先に見えた故郷ヨイツの異変にホロの心は乱れる。支えるのはもちろんロレンス。力強く手を繋ぎ合う。
 旅の終わりが見え始め、ぎくしゃくしていた2人の関係は、旅の仲間の追加や当面の目的が定まったことによりひとまず落ち着く。次なる目的地はケルーベ、そしてコルの故郷。ホロの仲間のものと思われる「狼の手」を求めて、3人の旅が始まった……。

 優秀な弟子候補・コルを巡るロレンスと船乗り・ラグーサの駆け引きが面白かった。頭が良く素直な人材ってのは、いつの時代、どの場所でも貴重なものなのだとあらためて実感させられた。社内における教育や指導をしなければならない年齢になった僕としても、これは身につまされる。
 いやほんと、今風の若者を教えるのは大変なんですよ……。

狼と香辛料(5)

2009-06-10 20:14:48 | 小説
狼と香辛料〈5〉 (電撃文庫)
支倉 凍砂
メディアワークス

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「狼と香辛料(5)」支倉凍砂

 故郷ヨイツの森を探すべく人間の少女の姿に化身した賢狼ホロと、町住みの商人となるべく行商に明け暮れるロレンスの2人は、テレオの村をあとにし、ホロの伝承の残る街、レノスへとたどり着いた。
 2巻でも触れられた「大遠征」の中止の影響をもろにかぶった毛皮と材木の街の行く末が決まる50人会議の最中ということもあり、街には奇妙な緊張感が漂う。酒だ豚の丸焼きだとお気楽なホロも、年代記作家リゴロに借りた書物を前にさすがに緊張感が隠せない。一方ロレンスは街に漂う商機の源を探る。酒場の看板娘や女行商人エーブとお近づきになり、念願の店を手に入れる道筋へと突き当たるのだが、当然そこには一筋縄ではいかない問題が待っていて……。

 絶好調行商ファンタジー第5巻。テーマは「磨耗する愛」。
 もちろん今回もロレンスの携わる商いは面白いのだが、金の入手方法以外はとくに目新しくはなかった。それよりも「ここで旅を終わろう?」というホロの衝撃発言のインパクトのほうが断然強い。
 もともとこのシリーズの面白さは、美しい娘(の姿をしたもの)との楽しい道中、ではなく、その先に横たわる別れだった。それがあるからこその出来事の積み重ねの重みだった。自らの身を質種とされようとも微動だにしなかったホロがもっとも恐れるものは「孤独」なのだが、その意味、真の姿がいよいよ浮き彫りにされた。長い時を過ごす神ならぬ身であるホロが抱える潜在的な悲しみを前に苦しむロレンス。その横顔から目が離せない。あとはまあ、モテ期到来らしいので、そっちがらみも注目で。

QuickStart(1)

2009-06-07 13:05:29 | マンガ
「QuickStart(1)」安達洋介

 テーブルトークRPG(以下TRPG)版「あずまんが大王」というと身も蓋もないけど、そんな話。入学したての女子高生・桃子と仲間たちが出会い、あっというまに意気投合し、共にTRPG部を立ち上げキャンペーンを開始するまでの日常を描いている。
 TRPGなんてまったく知らないという人のために説明すると、紙と鉛筆とダイス(サイコロ)を使った卓上演劇のことだ。ぶっちゃけていってしまうと、演技だけでコンピュータゲームのRPGをやってしまおうという試みだ。つまり、ドラクエやらFFやら、世に有り余るRPGで感じた様々な矛盾・理不尽、「なんでそこでそんなことするんだ?」というWHYをフォローすることができる。ゴブリンとのバトルひとつにしたって、「攻撃する」という単純なコマンドは存在せず、自分の頭とキャラの能力の範囲内でできるあらゆることができる。石を投げたっていいし風呂敷をかぶせたっていいし、アイテムを差し出して命乞いなんていうことまでできてしまう(命の保証はないけども)。
 演技する恥ずかしさを凌いでしまえば、とてつもなくフリーな娯楽の空間が待っている。だが最大の問題点はというと、甚だしくマイナーなジャンルだということ。同好の士は一握り。プレイヤーを集めるのに最適なのは学校だが、当該同好会がない場合はなんとかして見つけるしかない。幸いぼくの場合は在籍した大学に二つも(!)当該同好会があったし、新入生への説明会で偶然隣り合った人が同好の士だった(いまでも奇跡だと思う)。
 本作には、高校入学までに仲間がいなくてキャラシートを作って妄想するしかなかったフミという女の子が登場する。フミはすぐにプレイすることに馴染んでしまうので、知らない人とセッションする恥じらい、なんていう初心者にお馴染みの光景は見られないけど、身近にTRPG環境が出来た喜びが痛いほど感じられる。顧問の高見先生の「……学生のうちはほんとに存分に遊ぶといいわよ」というつぶやきにも、社会人になって味わうセッション機会の少なさ、という切実な現実がうかがえる。かくいうぼく自身も、今や完全に引退の身だ。身近にTRPG環境がないのはもちろん、仮にあったとしてもセッションする暇がない。キャンペーンなんて夢のまた夢だろう。
 登場するゲームがF.E.A.R製ばかりだったり、各ゲームへの説明がやたら少なかったりという欠点はあるものの、桃子たちの周囲にあるTRPG漬けの環境を見るだけで、ぼくには深く感じ入るところがあるのだ。

狼と香辛料(4)

2009-06-05 20:58:33 | 小説
狼と香辛料〈4〉 (電撃文庫)
支倉 凍砂
メディアワークス

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「狼と香辛料(4)」支倉凍砂

 故郷ヨイツの森を探すべく人間の少女の姿に化身した賢狼ホロと、町住みの商人になるべく行商に明け暮れるロレンスの2人は、異教徒の街クメルスンで得た情報をもとに、テレオの村へとやって来た。
 伝承に詳しいフランツ司祭の居場所を求めて村の教会を訪れた2人の前に現れたのは、エルサと名乗る司祭代行の少女。無愛想な少女にすげなく追い払われた2人は、やむなく村への長逗留を決めるのだが、一見小麦の生産で潤う村に横たわる違和感に気づく。その違和感は、やがて現実の危難として2人に降り懸かるのだが……。

 絶好調行商ファンタジー第4巻のお題は「街と村の関係性」。
 従来のファンタジー小説においてはあっさりと通り過ぎ片づけられてきた問題にメインスポットを当てるあたりはさすがの着眼点というべきか。前の街で手に入れた小麦を商おうとしただけのロレンスが巻き込まれる陰謀には、正直背筋が凍り付いた。人間って怖い。
 んで、普通の人間なら逃げるしかないところなのだが、そこはさすがにロレンス。いつ何時でも商売に繋げる道を模索し、見事帳尻合わせに成功する。
 いずれ終わりがくるはずの2人の関係性においても、そのたぐいまれなるバランス感覚を発揮してもらいたいものだが、果たして……。