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父よ 私の声は ちゃんとあなたの耳に届いているのでしょうか
我らの父よ……あなたはあなたの姿に似せて私達をお作りになった
でも あなたはそのお力を私達に分けては下さらなかった
私達が最も必要とするものを あなたはアダムに与えては下さらなかった
父よ 何故あなたは私達に試練を与えるのですか?
あなたが善き者も悪しき者も等しく愛されるというのなら
無力な私達の力を試すのは何のためですか
父よ私の声は あなたの耳の届いているのでしょうか
我らの父よ 私は あなたの愛を疑っています
「ヴィンランド・サガ④・⑤」幸村誠
スヴェン王の第二子クヌート王子を奪い返すことに成功したアシェラッドは、トルフィンを王子の護衛につけると、スヴェン王の軍に合流すべく北上を開始した。しかしイングランド軍の弱兵とは異なる精強無比のトルケル軍を追手に迎え、その行軍は至難を極めた。
セヴァーン川の向こう岸、ウェールズのモルガンクーグ王国の援軍を要請をするという奇策に出たアシェラッドはこれに成功。再び陸路からゲインズバラを目指すも、トルケル軍に捕捉されてしまう。
トルケル自身の圧倒的な武力に加え、5倍の兵力差のデーン人を敵に回し、一枚岩を誇ったアシェラッド軍の結束にもとうとうヒビが入る。そして起こる逃亡と反乱。仇を討つ前に死なれてなるものか、とアシェラッドの救出に獅子奮迅の活躍をするトルフィンだったが、包囲網の中トルケルと決闘するハメになってしまい……。
出生の秘密を武器にクヌート王子を擁立するアシェラッド。
そのアシェラッドを自らの手で殺すため逆にこき使われるトルフィン。
そのトルフィンの父トールズを慕う戦闘狂トルケル。
三者の思惑入り乱れての乱戦が良い。トルフィンの双剣さばきは相変わらずだが、今回はかつての部下と切り結ぶアシェラッドの切れ味鋭い斬撃や、トルケルの圧倒的武力が見ものだ。とくにトルケルはすさまじい。投げ槍で4人を串刺し、馬を素手で殴り倒すなど人類の枠を超えた腕力は眼福の一語。
父から見捨てられた男女の第二王子クヌートと、トルフィンの間に生まれた不器用極まりないコミュニケーションが微笑ましい。バカにされたことに対しクヌートが子供のように癇癪を起こしたり、そのクヌートの手料理の出来の良さにトルフィンが呆然としたりといった何気ないやり取りが生むかもしれないものを想起すると、なんだか嬉しくなる。
冒頭に掲げた台詞は、⑤において僧侶が神に捧げた愚痴だ。自らの無力と神の無慈悲を呪う言葉が夕闇迫る雪原に染み入る様が、無常観に満ち満ちていて切ない。