はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

葉桜の季節に君を想うということ

2008-01-31 10:18:33 | 小説
葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫 う 20-1)
歌野 晶午
文藝春秋

このアイテムの詳細を見る


 あまり詳しくはストーリーを紹介できない作品です。
 とにかく読んで、騙されてください。
 最後の一文に至るまで、
 あなたはただひたすら驚き続けることになるでしょう。 

「葉桜の季節に君を想うということ」歌野晶午

「長い家の殺人」、「密室殺人ゲーム王手飛車取り」の歌野晶午の最高傑作。「このミステリーがすごい」や「本格ミステリ大賞」、「日本推理作家協会賞」など数々のタイトルを総なめにしたのは伊達じゃない。
 帯の煽りも決して大げさじゃない。ページをめくった瞬間からラストまで、延々と騙され続けた。多くのブログでもストーリー概要は端折ってあるが、さもありなん。一言一句慎重に書かなければ、トリックから犯人まで即バレの危険性がある。
「何でもやってやろう屋」を自称する元私立探偵・成瀬将虎は、女を抱くためにフィットネスクラブに通う壊れた人間。ある日同じフィットネスクラブに通う弟分・キヨシから、意中の人・久高愛子が巻き込まれた霊感商法詐欺組織について探りを入れて欲しいと相談を受ける。時を前後して、将虎は自殺未遂の女性・麻宮さくらと運命的な出会いを果たし、これが意外な事件に発展する。
 これ以上は説明不能。あとは作品自体を読んでいただきたい。歌野独特の「痛い」キャラや設定に嫌悪感を抱かなければ、最後まで楽しく読めることは保証する。

H20/1/28

2008-01-29 19:20:48 | 出来事
H20/1/28 晴れ
朝09:00帰宅し、ほか弁で購入したから揚げ弁当(大)を食し、風呂に入って病院へ。といっても具合が悪いわけではない。36協定どこ吹く風の当社の残業時間上限に抵触したので、産業医の問診を受けるのだ。11人からの人間が三々五々集まって、具体的に何をするかといえば「とくに悪いところないですか?」「はい」なんてやり取りをするだけ。子供のお医者さんごっこでももう少しマシなことするぞ。
問診後は解散して近くのホームセンターへ。3つステップのある脚立のような椅子購入1980円なり。
そのままおとなしく帰宅……とはならず、再びパチンコ。大手N店へ。1000円20回転の宇宙戦艦ヤマトを7時間粘り倒してプラス6000円。
帰宅後、サブPCのHDDデータ消去。アクロニスのドライブクレンザーをブータブルCDとして起動し、全消去まで2時間30分。
待ち時間に録画していた「斉藤さん」見る。ご近所関係に悩む母子が(父はいるけど悩んでない)、村八分にされても正しい自分を貫く斉藤さんと出会って変わっていく話。ミムラのほわっとした笑顔が好きなので録画したけど、考えてみりゃご近所関係に興味なかった。途中で視聴やめ。
筋トレして入浴してあがると22時。データ消去終わっていた。綺麗さっぱり何もなし。あとはリカバリディスクを入れるだけだが時間がないので後日。
FF11ログインし、骨倉庫の商品補充。メインタルにチェンジし、カンパニエOPS軍需品Iを2回。カンパニエinソロムグ1回やって就寝。

H20/1/26

2008-01-27 14:21:04 | 出来事
H20/1/26 晴一時雪
10時起床。サブPCを売るか譲るかしようと思いたつ。データ消去しかるのちリカバリCD起動して諸々再インストールという手順を考えている。PCは3年前に3万円で購入したSOTECのPV7220C。消去ソフトはソースネクストのユーティリティソフト4本パックの中に収められているアクロニスのドライブクレンザー。何せHDDを消去するなんて初めての経験だからわかることのほうが少ない。メーカー補償期間も過ぎていて問い合わせも有料ときてはネットに頼るしかない。
洗濯しながらネット徘徊していると、いつの間にか12時。コインランドリーで乾燥機をかけつつCDショップでRADWIMPSと青山テルマのニューシングルを購入し、HDナビのミュージックサーバーに入れる。青山テルマは「ここにいるよ」のアンサーソングの「そばにいるね」。終わってしまったような終わってないような微妙な男女の恋愛を描いた歌。歌詞、曲、相方のSOULJAと皆よいけども、なんといったって青山テルマの声がよい。
1時からは美容院。耳を出して、もみあげは自然に短く、後ろはかりあげないで自然に短く。簡単に要望すると、イケメンお兄さんが手早くカットしてくれた。軽快なトークと暖かい店の空気の中でふわふわと意識を漂わせるうちに、いつの間にか終わっていた。髪切り嫌いな僕としては、気持ちのよい髪切りなんて初体験。快挙。
2時からはパチンコ。某大手N店にて、萌えよ剣、ターミネーター2、海物語inカリブと渡り歩いて6時間で会員カードの貯玉が8800から9800へ。3.6円の換金率を考えるとプラス3600円。
店を出ると路面が完全に凍結していた。車の窓ガラスはもちろんワイパーまで凍っているし、たった6時間での変化にびっくり。
家に帰る道すがら、セブンイレブンでフレンチトースト1個購入。夕飯にしてぱくつきながらメインPC起動。ネット徘徊してからFF11。骨倉庫ガルの三国及びジュノの出品を補充し、メインタルにキャラチェンジ。召喚でOPS生産支援技術供与II・1回プラスカンパニエinジャグナーを2回……も死亡多数で経験値は500ほど。66まで@25000。
2時に就寝。

XXゼロ 呪催眠カーズ

2008-01-24 15:16:07 | 小説
XXゼロ 呪催眠カーズ (宝島社文庫 598)
上甲 宣之
宝島社

このアイテムの詳細を見る


「XX(エクスクロス)ゼロ 呪催眠カーズ」上甲宣之
 阿鹿里村事件より半年前の神戸。「別れ屋」の彼女は、御名方稲荷大社の境内にいた。別れ屋というのは、依頼を受け、対象のカップルの仲を引き裂く業者のこと。片割れの浮気相手になることすらも辞さない苛酷な仕事だが、もって生まれた美貌と抜群の頭脳で、彼女は全営業所トップの成績をあげるクイーンとして君臨していた。
真夜中の境内に潜む彼女。丑の刻参りの装束に身を包み、藁人形と五寸釘を携えたターゲットの醜い姿をカメラにおさめたまではよかったが、不注意から姿を目撃され、さらに相方・くららのミスからターゲットに命を狙われることになる。彼女の名は西園寺レイカ。最凶の殺人鬼のかつての姿である。

「そのケータイはXX(エクスクロス)で」、「地獄のババぬき」で話題の上甲宣之の手による本作は、人気キャラ・レイカ様を主人公とした番外編。彼女が理性を失う前の、真人間(?)だった頃の貴重な記録だ。
 真人間とはいえ、頭脳戦肉弾戦ともに抜群のレイカ様の命を狙ったってどうなるものか、と思われるところだが、どうしてどうしてターゲットは強敵である。見ただけで相手を催眠状態に陥らせ、好きなように暗示をかけることのできる、「呪催眠」という無茶苦茶通り越してやりすぎの技を持っている。さすがのレイカ様も、「車の外には空気がない」とか「移動速度40〓を下回ると激痛が走る」なんて暗示に邪魔されては満足に動けない。さらに「夜明けとともに地球上の酸素は消失する」でとどめを刺される。最凶神話はどこへやら、話は嫌でも緊迫感を放つ。
 恋愛名所を転々とする、痛みとシニカルさに満ちた追跡行だけでも読めないことはない。実際それだけでも十分に面白いのだが、できることなら他2作品とも読んでおいていただきたい。「彼氏とラブラブ。信頼をおく妹分のいるレイカ様」なんていうレアな姿を見る喜びがあってこそ、本作は本来の光りを放つ。ラストに待つ別れの味わいもいや増すというものなのだ

ガールファイト

2008-01-21 21:44:44 | 映画
ガールファイト

松竹

このアイテムの詳細を見る


「ガールファイト」監督:カリン・クサマ

 アメリカで話題になっている少女たちによる暴行ビデオ……ではない。学校でも家でも不満だらけで、世間のどこにも居場所のない女子高生・ダイアナ・グスマン(ミシェル・ロドリゲス)がふとしたことからボクシングと出会い、成長していく様を描いた青春ムービーだ。
 父の暴力、母の自殺、気弱な弟に八方美人の親友。ストレスがたまり爆発してケンカすれば学校から厳重注意を受け、それが父にバレて叱られてとまったくいいところがないダイアナの日常は、その日唐突に変わった。弟の月謝を払いにいったボクシングジムの練習風景に魅せられ、ダイアナは即座に入門を志願する。
 三白眼と闘争心という持って生まれた凄みはあれど、ダイアナも最初はただの気の強い女の子。ジャブやストレートどころかパンチングボールすらまともに打てない。だが日々の練習(五ヶ月)や男子との試合の甲斐あって、後半ではきちんと「やっている人」のボクシングができるようになる。
 学校、親、弟、友達、恋人……ボクシングだけでない様々のものと戦いながら、ダイアナは、いつしか生き方という大事なものを手に入れていたのだった。

 ……とはいうものの、実際のところはミシェル・ロドリゲスを見る映画、という以外の何物でもない。三白眼とマウスピース剥き出しのミシェルが画面狭しと暴れまわる姿には、美しさ以上に恐ろしさがうかがえる。彼女が男を殴り倒すシーンには、男だけにしかわからないある種の戦慄を覚える。

地獄のババぬき

2008-01-18 15:28:42 | 小説
地獄のババぬき (宝島社文庫)

宝島社

このアイテムの詳細を見る


 今あなたたちが食べたまんじゅうには毒が入っています。解毒剤が欲しければ奪い合いなさい。生き残りを賭けたゲームの内容は……

「地獄のババぬき」上甲宣之

 世間を騒がせた阿鹿里村事件の生き残り、水野しよりと火請愛子は卒業旅行の高速バスの中にいた。しよりの親友弥生は都合が合わず、共に死線をくぐり抜け結ばれたしよりの彼氏・物部は深夜ラジオの生放送中。
 バスジャックに遭遇し再びのサバイバルを強いられたしよりは、あの時と同じようにケータイを手にした。弥生と物部という力強い味方と共に、まんじゅうの毒で意識を失った愛子をかばいながら。
 敵は無敗のギャンブラー、世界を股にかける怪盗、抱き人形と意思疎通できる娘、裁縫バサミ・朱鎌2007を携えた最凶の刺客・レイカ様。常軌を逸したその道の達人達を相手に、一般ピーポー代表・水野しよりは無事バスを降りることができるのか……。

「そのケータイはXX(エクスクロス)で」の上甲宣之が送る奇人変人エンターテイメント第2弾は、かつてあったバスジャック事件を思わせるような高速バスが舞台。自らの生死をババぬきで決めるというえげつない設定を加えて、他の誰にも真似できないオリジナリティあふれる作品に仕上がっている。
 相変わらず、文章のうまさとかプロットの見事さとか、そういったものはまったくない。でもやっぱり面白い。自分の信じたものを一心不乱に書き殴る上甲宣之の筆はとどまるところを知らず、読者はただそのジェットコースターに揺られればいいだけ。前作を好きだった方なら何も考える必要はない。読め。

そのケータイはXX で

2008-01-16 17:34:16 | 小説
宝島社文庫「そのケータイはXX(エクスクロス)で」 (宝島社文庫)
上甲 宣之
宝島社

このアイテムの詳細を見る


「そのケータイはXX(エクスクロス)で」上甲宣之

 ひなびた温泉地・阿鹿里村に出かけた女子大生・水野しよりは、泊まった部屋の押入れの中で、誰の物かわからないケータイを見つける。けたたましく音を立て着信するそれに出てみると、深夜ラジオのパーソナリティのようなしぶい声の男がこう告げた。
「逃げろそこから。脚を斬り落とされるぞ!」
 しよりが硬直していると、電話の男・物部は阿鹿里村に伝わる呪われた因習について語り出した。世間から隔絶された秘境にあるその村が、代々、片目、片腕、片脚を斬り落とした女の「生き神」を祀ってきたこと。有資格者は若い女が望ましいこと。最近先代が命を落とし、次代の女を村ぐるみで待望していたこと。電話の持ち主である物部の妹は、おそらく連中の手に落ちたであろうこと。
 不気味なたたずまいを見せる村。無愛想な老婆の仲居。離れの露天風呂に出かけた後輩・火請愛子はまだ戻らず、頼れる者は誰もいない。物部の話が真実なら、しよりの身には刻一刻と危機が迫りつつある。
 荒唐無稽な話に戸惑うしよりに追い討ちをかけるように、部屋は突然の停電に見舞われ、廊下では部屋の鍵を開けるよう老婆が囁く……。
 一方、火請愛子は露天風呂の脇にある公衆トイレで戦っていた。便意と、そして裁縫バサミを振るう謎の女殺人鬼と。
 武器はケータイと化粧ポーチ。もって生まれた運動神経と状況に即応できる判断力と……つまりは自分の肉体ただそれのみ……。

 第一回「このミステリーがすごい大賞」の最終候補に残った本作は、血塗られた因習に支配された村でうら若き女子大生2人が遭遇した恐怖の一夜を描いたシチュエーションホラーだ。
 いきなり「さあどうする?」という状況に主人公と読者を投げ出し、村人と殺人鬼で追いたて、味方かと思える物部にも疑いを抱かせ、充電池と電波状況と着信音という悪条件をケータイに付加し……これでもかと畳み掛ける展開が見もの。活劇映画のように目まぐるしいアクションも加えた魅せるエンターテイメント。
 キャラクターもよい。男性不信の女子大生しよりと今時ギャル愛子。理知的な理想の男性・物部にしよりの元彼・サドの朝宮。無敵のハサミ使い・レイカ様。一癖も二癖もある登場人物達のやり取りは、終始アップテンポで見ているだけでも飽きない。それでも一番を上げるなら愛子だろうか。公衆トイレや診療所や救急車内などあらゆるところを戦場にし、日常品を武器に変えて苦境を乗り越える姿は痛快の一言。
 あとがきで選者が語るように、お世辞にも端整な作品とは言いがたい。説明過多で抑制が効かず無茶苦茶。でも、抜群に面白いのだ。ファーストフードのぴりっとくる塩加減のように、一度読んだら癖になり、最後までページをくる手を止められない。お薦め。◎

内と外

2008-01-15 15:19:17 | 出来事
H20/1/14
 曇。昨日来の雪は大分溶けたが、なお風強く気温低し。
 僕の部屋には暖房器具があまりない。エアコンはほんのり温かい風しか送り出せないし、電気ストーブは周辺数十センチしか届かない。それでもなんとか3年あまりもやってこれたが、今日ばかりはなんとも耐え難い寒さだ。ほぼ外気と変わりない室内の気温は氷点下を下回り息が白い。羽毛の少ない羽毛布団と肌掛け2枚では眠ることすらおぼつかない。といって他に寝具もないのだ。
 途方に暮れた僕は、洗い替えの布団カバーを布団の上に掛け、コートやジャンパーなどの防寒着を乗せた。ずしりと重みが圧し掛かり気持ちが悪いが、背に腹は変えられない。
 ようやく訪れたまどろみの中で、ふと僕は少年時代を思い出した。
 小学生の頃、仲のいい友達の家に遊びに行った時の事だ。その日もたいそう寒い日で、外では大雪が降っていた。友達の家は古い木造家屋で隙間風が吹き込み、子供部屋には暖房器具も満足になく、常に室温は氷点下であった。だからというか、僕らが遊ぶときは常に布団の中だった。4人兄弟分の万年床で布団や毛布や丹前(かいまきとどてらの中間のようなもの)をひっかぶり、白い息を吐きながらボンバーマン(ファミリーコンピュータ)をやった。
 それだけだったら美しい思い出で済むのだが、実はその友達、窃盗罪で服役している。幼き日、ともに布団の中で肌を寄せ合った彼は、今は塀の内側にいる。布団1枚、丹前1枚の僕らの距離は、いまやずいぶんと離れてしまった。

雪の中

2008-01-12 23:54:27 | 出来事
H20/1/12
雨のち雪。気温は氷点下を下回ることなく、雪も夕方まで降り続いた。この地にしては珍しく、フロントガラス一杯に雪化粧がされた。
ふと、高校時代を思い出した。この地より遥かに降雪量の多い田舎で少年時代を過ごした僕は、冬休みの部活の帰り道に人生初のホワイトアウトに遭遇した。猛烈な吹雪で進退かなわず、道路の真ん中で立ち往生した。一瞬、本気で方向感覚を失った。あの時の恐怖は筆舌に尽くしがたい。自然とは、雪とは怖いものなのだ。
昨年12/30、山形県米沢市天元台スキー場から吾妻連峰に入山したまま行方不明になった埼玉県の会社員・中村雅之さん(55)が、11日、福島県北塩原村グランデコスキー場付近に自力で下山した。実に12日間の遭難からの生還だ。衰弱しているが大きな外傷もなく元気だという。
本人談によると、食料は5日目で尽き、以後は沢の水を飲み、塩を舐め、雪にほんだしを振りかけて飢えを凌いだという。肉などは凍ってしまって食えず、体力を消耗しないように荷物は極力捨てた。捨てた荷物の中にはシュラフまであった。昼は歩き、夜は休んだが、シュラフなしでは寝ることもかなわず、ただ夜が明けるのを待っていた。
同日ニュージーランドでは、エベレスト初登頂を成功させた登山家・エドマンド・ヒラリー氏(88)が死去された。「やつをやっつけてやった」の台詞で知られる伝説のナイトは、多くの人に惜しまれながらこの世を去った。
この2人のニュースに同じ日に触れたのがなんとも皮肉。世界の著名人と埼玉の会社員では比べるべくもないかもしれないけれど、共に雪山という自然の脅威を乗り切った者同士、挑んだ者同士、通じるところがあるのではないかと思ったりする。僕には想像もできないような恐怖に立ち向かえる人達。その偉業は尊敬に値する。

ブラッドハーレーの馬車

2008-01-11 22:37:49 | マンガ
ブラッドハーレーの馬車 (Fx COMICS) (Fx COMICS)
沙村 広明
太田出版

このアイテムの詳細を見る


 ……思えば小さな違和感が始めからあった。
 劇団員養成のために国中の孤児院から一人ずつとも言われる規模で、毎年養女をとるブラッドハーレー家。
 だが一方、年一回のお披露目会で舞台に上がる少女達の数……。
 多くて4人。5人だったことはない。
 舞台に上がらなかった養女達はどこへ行ってしまうのか……?

「ブラッドハーレーの馬車」沙村広明

 ブラッドハーレー聖公女歌劇団。
 国4位の資産を有する公爵家の庇護下。孤児のみによって編成された歌劇団は、国中に溢れる孤児達の憧れの的であった。絢爛豪華な舞台に比して謎と黒い噂の多い公爵家ではあるけれど、どうあれ一夜にして成り上がることができるのだから、持って生まれた面相に自信のある少女もそうでない子も、あの舞台を目指して日々を強く生きていく。
 だが、選ばれた孤児達に与えられる舞台は必ずしも「聖公女歌劇団団員」という晴れがましいものばかりではない。
「パスカの羊」と呼ばれるものがそれである。長期・無期服役者の暴動や脱獄を抑えるため、性的欲求・破壊衝動解消のため……舞台に上がれぬ孤児達には慰み者として捧げられる運命が待っていた。
 無数の囚人達に代わる代わる犯される。打たれる。時に乳首を切り取られ目を抉られる。1日2日で気が触れ、3日4日で体が壊れる。まず一週間ともつ少女はいない……。

「無限の住人」の沙村広明最新作は、慰み者に貶められた少女達に与えられる過酷な運命を綴った問題作だ。
 国まで味方につけたブラッドハーレー家の強大な力と、それに抗おうとする人間達のドラマが描かれている。歌劇団に入ったはずの少女の行方を探る友人や先輩。刑務所の中で娘と再会した父親。少女を逃がそうとする刑務官。様々な視点から物語は語られる。
 エロティックな描写やバイオレンスな描写は、話の冒頭で少し触れられるだけで、以後はほとんど出てこない。だが存在感は十分。「怖い行く末の暗示」として、作中に暗い影を落とし続ける。
「ブラッドハーレーの馬車」は少女達を刑務所へ運ぶ馬車の事。田舎唄を歌う御者の歌声が野に響き渡り、そして悲劇は繰り返される、という効果的な使われ方をしている。