戦国時代より受け継がれた伝統的な甲冑組討の技法を、平和な日常でも使えるようにアレンジしたのが、現在広く知られている柔術だ。平たくいえば無手丸腰のまま戦う術で、その原型は江戸時代に形作られ、完成と成したのが明治時代だ。その裏には一人の男の存在がある。武田惣角。大東流合気柔術・開祖である。
「惣角流浪」今野敏
触れるだけで相手を投げ飛ばす。大して力を入れてもいないのに相手を無力化させる。様々な伝説と下卑た噂を呼ぶ合気の技。その開祖の若き日の戦いを描いた物語だ。
惣角は、会津の郷士の家に生まれた次男坊だ。生来戦うことの好きな男で、幼き頃より戦場を駆け巡ってちょこまかと遊んでいた。世の中が武士の時代から平民の時代へと移行しているのにも関わらず、学問を放って武芸を学び、宝蔵院流槍術、剣術、相撲、家に伝わる大東流などをベースにめきめきと腕を上げた。
学問を教えることを親に諦められたほどの格闘バカ惣角は、さらに小野派一刀流の皆伝を受け、直心影流を学ぶ。兄の訃報に接しても微動だにせず、家督を放棄してひたすらに己の道を突き進む。いっそ清々しいとすらいえるその姿勢は、最後まで変わらない。この人は本当に戦うことが好きなのだ。傍から見ると危なっかしく見えるほどに。
講道館柔道の創始者・嘉納治五郎との対決。琉球空手の使い手・伊志嶺章憲との戦い。命がけの死闘を経て、惣角の技と精神状態は極限まで極まっていく。暴徒の群れに立ち向かうラストシーンなどは、返り血にまみれながら歓喜の雄叫びをあげたりしているんだから、「本当にこの人、これでいいんだろうか」と心配してしまった。
人間としては明らかに間違っている。だけど、武士という絶対的な価値観の崩壊に接しながら、なおも自分の生き方を貫き通したという意味では素直に尊敬できる。明治という変革期にあって、己の持てる技と知恵の限りを後世に伝え、そして今もそれが受け継がれているんだから。たとえただの格闘バカだったのだとしても。
「惣角流浪」今野敏
触れるだけで相手を投げ飛ばす。大して力を入れてもいないのに相手を無力化させる。様々な伝説と下卑た噂を呼ぶ合気の技。その開祖の若き日の戦いを描いた物語だ。
惣角は、会津の郷士の家に生まれた次男坊だ。生来戦うことの好きな男で、幼き頃より戦場を駆け巡ってちょこまかと遊んでいた。世の中が武士の時代から平民の時代へと移行しているのにも関わらず、学問を放って武芸を学び、宝蔵院流槍術、剣術、相撲、家に伝わる大東流などをベースにめきめきと腕を上げた。
学問を教えることを親に諦められたほどの格闘バカ惣角は、さらに小野派一刀流の皆伝を受け、直心影流を学ぶ。兄の訃報に接しても微動だにせず、家督を放棄してひたすらに己の道を突き進む。いっそ清々しいとすらいえるその姿勢は、最後まで変わらない。この人は本当に戦うことが好きなのだ。傍から見ると危なっかしく見えるほどに。
講道館柔道の創始者・嘉納治五郎との対決。琉球空手の使い手・伊志嶺章憲との戦い。命がけの死闘を経て、惣角の技と精神状態は極限まで極まっていく。暴徒の群れに立ち向かうラストシーンなどは、返り血にまみれながら歓喜の雄叫びをあげたりしているんだから、「本当にこの人、これでいいんだろうか」と心配してしまった。
人間としては明らかに間違っている。だけど、武士という絶対的な価値観の崩壊に接しながら、なおも自分の生き方を貫き通したという意味では素直に尊敬できる。明治という変革期にあって、己の持てる技と知恵の限りを後世に伝え、そして今もそれが受け継がれているんだから。たとえただの格闘バカだったのだとしても。