はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

お茶にごす。

2007-08-28 15:41:13 | マンガ
「お茶にごす。」西森博之

 別に誰かを殴りたいわけじゃない。皆と仲良く暮らしていきたいだけなんだ。
そんな願望とは裏腹に、船橋雅矢・通称悪魔(デビル)まークンの日常は激しい。コンビニで立ち読みしていたら絡まれ、自販機でジュースを買っていたら絡まれ、海をぼんやり眺めていたら絡まれ……とにかく日常生活のあらゆる局面でケンカを売られる。返り討ちにすればしたで、その先輩・友達・兄貴・知人・OBなどが雨後の竹の子のようににょきにょきにょきにょきどこからともなく現れる。年中無休のバイオレンスな中学時代とおさらばするために、まークンは高校入学と同時に部活動を始めようと思い立つ。しかし将来の強面とガタイの良さ、中学時代に築き上げた武勇伝が災いし、誰も彼を勧誘しようとはしない。そんな中、唯一彼を誘ってくれたのは茶道部の姉崎部長だけだった。しとやかで優しい姉崎部長に自分の理想の生き方を見たまークンは、親友ヤマダにやんわりと止められながらも逆に気合いを入れて茶道部の戸を叩いた。
 女だらけの茶道部面子は、予想外の悪魔の乱入に怯えて顔も上げられない。姉崎部長ですらも膝をがくがく震わせるほどの迫力のまークンを強烈に敵視する夏帆は、正面からまークンと渡り合い、問題を起こしたら叩き出すと宣言する。
 厄介な約束に縛られたまークンは、先輩からの呼び出しを避けるため逃げまくる。しかし茶道部に入ろうとするところを捕まってしまい、慌てて隣のアニメ部に入るのだが、入ったら入ったで当然騒動が起こる。
 アニメ部の部員と打ち解けたまークン。自ら好んではしないが、人のために振るう暴力には躊躇がない。ヤマダや夏帆、茶道部の面々の目の前で、彼はアニメ部の漫画を破いた不良の単車を燃やす。一切の躊躇いなく、正義を断行する。即退部かと思いきや、それで彼への見方を変える人もいて……。
「今日から俺は!!」、「天使な小生意気」などヒット作を飛ばす西森博之。最新作は得意の不良ものだが、こともあろうに主人公はロハスを目指す。不良でもない人間が不良を志したり、不良じゃないのに不良扱いされたりという筋書きの作品はよく見かけるが、脱不良の話は珍しい。加えて茶道部ときては他に類を見ない。特有の「ギャップ」の笑いや、周囲を取り巻く人間模様のユニークさもあり、最後まで一気に読めた。

RENT

2007-08-26 19:49:25 | 映画
 自分しかない 今しかない
 後悔してると人生を逃してしまう
 他に道はない 方法もない
 あるのは今日という日だけ

「RENT」監督:クリス・コロンバス

 52万5600分。それは一年を分で計算した数字。1989年12月24日のクリスマスイブ。ニューヨークのイーストヴィレッジのとあるアパートメントでは、元ロッカーのロジャー(アダム・パスカル)と映像作家志望のマーク(アンソニー・ラップ)が、家主から滞納している家賃(レント)の支払いを要求され困り果てていた。家賃なんて払わんぞと気勢を上げてみても、代替わりした家主ベニー(テイ・ディグス)の圧力は強いし、夢がかなうどころか今日の飯代にすら事欠く自分達のお先はまさに真っ暗。時に酒に酔い、見通しの立たない未来や悔やんでもどうにもならない過去を思ってはため息をつく。
 しかし根が明るく陽気なボヘミアン・イーストヴィレッジの芸術家連中。元MITの講師コリンズ(ジェシー・L・マーティン)やドラッグクイーンのエンジェル(ウィルソン・ジャーメイン・ヘレディア)。ヌードダンサーのミミ(ロザリオ・ドーソン)。パフォーマーのモーリーン(イディナ・メンゼル)と、その彼女にして優秀な弁護士のジョアン(トレーシー・トムズ)なども加え、決して暗くなりすぎることはなく、絶望の泥沼に片足突っ込みながらも能天気で奔放な日常を送っていた。
 死んでしまった昔の恋人の亡霊を跳ね除け結ばれたロジャーとミミのHIV感染者カップル。コリンズとエンジェルのHIV感染者+ゲイカップル。性別の境を越えて結ばれたモーリーンとジョアン。マークにいたってはモーリーンが行った過激な政治ライブのドキュメント映像が認められ、映像業界への道が開かれ、といいことづくめ(?)。しかし世の中うまくはいかない。当然の如くそれぞれに死期は近づき、そのために気持ちは乱れ、あれほど仲の良かった彼らの関係は千々に切り裂かれ遠ざかっていく……。
 1996年の初回公演前に急逝したジョナサン・ラーソン(原作・作詞・作曲・脚本)の存在と、その観客への訴求力により脅威のロングランヒットを記録した伝説の舞台を映画化したもの。貧困と病魔。ゲイ、レズビアン、バイセクシャル、HIV感染にドラッグと様々なものに蝕まれた若者たちの「ある一年」を生きてゆく姿が印象的だ。小さくて頑丈な箱の中で窒息死するのを待ちながら見る夢。その儚さと甘美さ、残酷さが、きっと多くの人の心をとらえて離さないのだろう。一本筋の通った良い映画だ。

くるみ

2007-08-24 07:21:06 | マンガ
「私なんか」と何回言った?
 人生はアミダくじ。選ぶのはあなた。幸せじゃないのはあなたが自分で選んでいないからよ。
 戦士(ウォリアー)におなり。人生は戦って勝ち取るのよ。
 
「くるみ」深見じゅん

 山田くるみ31歳。結婚して滝井くるみ。子供はいない。夫の親族経営の会社で経理を勤めるが給料は出ない。家事も任されっきりでなかなか休む暇もない。ひさしぶりに会った友達と一緒に豪華ディナーを楽しみたかったが、お金がなくていけなかった。ぽつんと待ち合わせ場所のデパートで佇みながら思い出すのは、友達と会う前に偶然再会した後輩の柿崎美也。大学で東京に行き、見違えるほどに美しく成長した彼女の横顔を思い出した。大恋愛、田舎では考えられない東京での暮らし。「私なんか」と心の中でつぶやくと、不意に声をかけられた。誰にも見えない、自分にしか見えない謎の老女。魔法のような言葉で彼女は目覚めた。
 一ヶ月だけの期限付きで、くるみは家出をした。家からも亭主からも遠く離れた東京で、たったひとり生活を始めた。日割りで貰いながらの飯処「きよい」でのバイト代は時給780円だけど、お金じゃない生きてる実感を感じられることにくるみは楽しさを覚えていく。そのためならば、寂しさも心細さも目じゃない。 そんなくるみに、周りの扱いは手厳しい。「30過ぎて家出……なにやってんだか」、「人生甘く見るなよ30のお姉ちゃん」「そんな嫁をもらった亭主がかわいそうだぜ」、「うっとうしい。早くすませてさっさと帰れ」、「家出するくらいならなんで結婚したんだ?」……などなど、きつい発言が飛び交う中、わかってくれる人もいる。きよいの夫婦に出入りの魚屋の妻。自分で勝ち取った人との繋がりの中で、くるみはいったい何を見つけるのか……。
 少女漫画も抵抗なく買えるのはアマゾンのいいところだ。読んでみるとなかなかどうして名作が多い。この「くるみ」もその中のひとつ。金も才能も美貌もない31歳の人妻が何に出会いどう成長していくのか。世の男性諸君にとっては洒落にならないテーマだが、自分がもしくるみと同じ立場になったとしたら、きっとすごく興奮すると思うのだ。いつでもどこへでも行ける自由な生活。新たな環境と友人。閉じこもっていた殻の破れる音が聞こえるほどの大変革。嬉しくて楽しくて、眩暈がするんじゃないかと思うのだ。今後、例えどんなに辛い現実が待ちうけていようと、その一瞬だけで生きていけるというほどの眩暈が。

Q.E.D.27巻

2007-08-21 20:55:10 | マンガ
「Q.E.D.27巻」加藤元浩

 エラリー・クイーンの決め台詞「Q.E.D.」をモチーフにした推理漫画。「金田一少年の事件簿」のような劇場型犯罪ではなく、もっと卑近な、日常に基づいた事件を取り扱っている。主人公の燈馬君はスーパーIQの天才で、MITを優秀な成績で卒業。就職せずに日本の高校生になっているという設定。数学科学を得意とし、論理的視点でずばりと切り込む犯人当ては、他の推理漫画にはない斬新さがある。
 27巻は2話構成。それぞれお題は「鏡像」と「立証責任」。
「鏡像」
 タイトル通り鏡がテーマ。鏡は「左右」を逆に映しているのではなく「前後」を逆に映しているという論理から放火犯を当てる筋立て。肝心の犯人当てが強引で残念。
「立証責任」
 2009年(平成21年)5月に迫った裁判員制度を目前に、燈馬君の学校では生徒に模擬裁判を体験させることになった。スーパー運動能力を持つヒロイン・水原加奈が運悪く参加裁判員の当たりクジを二本も引いてしまい、燈馬君と共に全校生徒の前で裁判員をやるハメになってしまった。
 裁判員制度というのは選挙権を持つ市民の中から無作為に選ばれた裁判員が裁判官と共に裁判を行う制度だ。国民の司法参加により裁判に対する理解と信頼性の向上、裁判時間を短縮することが可能とされている……とまあそれはともかく、現代に根ざした筋立てが面白い。被告人が有罪か無罪か、有罪ならどれくらいの量刑が妥当か。一人の人間の一生を決める犯判断を下すということの重さを生徒達が味わうシーンがとても印象深い。模擬裁判の裁判官役をやった現役の裁判官が未だに抱える責任の重さ、判断の困難さも合わせて、この制度の重要さを思った。

南朝迷路

2007-08-19 09:22:42 | 小説
「南朝迷路」高橋克彦

「パンドラケース~よみがえる殺人~」の生き残り組みが、再び殺人事件に遭遇する(?)
 エログロミステリ作家のチョーサクこと長山作治と、経済誌の編集者リサこと名掛亜里沙は時々連絡を取り合うようにしている。40を過ぎての恋愛なんておおげさなものではなく、歳をくった古い友人としての、気のおけない付き合いだ。チョーサクはその関係を一歩踏み越えたいらしいが、まだまだ友人の間の壁は高い。
 事件はある夏の日に始まった。青森県黒石市で発見された変死体が、はるか本州を飛び越え、隠岐島は後醍醐天皇の流刑地で取材をしていたチョーサクとリサにまで影響を及ぼす。
 後醍醐天皇というと13世紀~14世紀の人物で、幕府と争い流刑地であった隠岐島から舞い戻り、建武の中興と呼ばれた新政府を立ち上げた人物だ。立ち上げ直後に足利尊氏に謀反を起こされて都を追われ、楠正成らと各地を転戦するなどその人生は苦難に満ち、ために多くの伝説を残している人物でもある。
 その数多い逸話の中から高橋克彦がピックアップしたのが、セックス宗教である立川流と、実在が証明されていない乾坤通宝。ひとつだけでもお腹一杯、というくらいの日本の歴史の暗部を二つ重ねて、しかもそれなりに説得力のある推論をもって事件に絡ませていくという手法はいつもの高橋流。
 隠岐ー吉野ー長野ー青森。点と点を結ぶ事件の謎に加えて、歴史の叙情、旅の楽しみ、チョーサクとリサの年配カップル(?)のやり合いまで味わえるときては、ファンならずとも「買い」の一冊なのだ。

ドージンワーク①

2007-08-18 18:53:03 | マンガ
「ねえなじみ。日曜日にビッグサイトに来てくれない」
「? いいけどなんで?」
「同人誌即売会の売り子をしてほしいの」
「ど……どーじんし? それって漫画のキャラとか使って自分で書く漫画よね……」
「大体そう。ちなみにえっちい漫画を描く人が多いわ。私は主に陵辱系」
「……」

「ドージンワーク①」ヒロユキ

 いきなり身も蓋もない出だしだ。同人エロ漫画を描く人間ばかりが集まった4コマとはいえ、もう少し奥ゆかしさがあってもいいのではないかという老婆心はさておいて、最初から最後までエロとシモネタのオンパレードという構成はいっそいさぎよい。
 主人公・長菜なじみの漫画を描くに至ったきっかけが金目当てというのが正直でよい。同人誌は儲かるなんて邪な認識でペンを握り、けど他人に見られる悦びを覚えて漫画にハマッていく。モテタイからスポーツをしていたらスポーツが好きになったとか、安定した職業に就きたいから勉強をしていたら勉強が好きになったとかとなんら変わらぬ成り行きで、彼女は漫画にハマッていく。世間体と欲望の狭間で揉まれながら、けれど自分の中の声に忠実に、表現したいことをありのままに描いていく姿勢は題材のわりにストイックだ。
 それは周囲を固めるキャラのせいかもしれない。クラスメイトの露理(ペンネームはブルマ子)、幼馴染のジャスティス(ペンネームに同じ)。共に自分の中の声に忠実な人間だ。そのせいで時に変態としか思えないような行動をとるが、それが逆に好ましい。自分に嘘をつかずに生きている彼女達がうらやましくてならない。
 大人になることで失われてしまうものっていくつもある。情熱。環境。自分が自分であるための多くの要素。この漫画にはそれらの要素が満ち満ちている。情熱の対象は違うけど、もう戻れはしないあの頃を垣間見た。

オーシャンズ12

2007-08-14 20:22:31 | 映画
「オーシャンズ12」監督:スティーブン・ソダーバーグ

 ラスベガスのカジノ王テリー・ベネディクト(アンディ・ガルシア)から1億5千万ドルを奪うことに成功したオーシャンズ一味は、分け前を元手にそれぞれの暮らしを送っていた。成功した者も失敗した者もいる。ダニエル・オーシャン(ジョージ・クルーニー)は元妻でベネディクトの恋人だったテス(ジュリア・ロバーツ)とよりを戻し、仲良く隠居生活を送っていた。しかし盗みへの飽くなき欲求に耐えがたく、現役復帰を志してとある宝石店の下見をしていたところ、テスから電話が入る。通話口で動揺を隠しきれない彼女は緊急事態用の符丁を口にした。「地下室で水漏れがあって電気がショート……」。
 3年ぶりに居場所を突き止められたのはダニエルだけではなかった。ラスティ・ライアン(ブラッド・ピット)やライナス・コールドウェル(マット・デイモン)、イエン(シャオボー・クィン)、フラック・キャットン(バーニー・マック)、バシャー・ター(ドン・チードル)、バージル・モロイ(ケイシー・アフレック)、ターク・モロイ(スコット・カートン)、ルーベン・ティシュコフ(エリオット・グールド)、リヴィングストン・デル(エディ・ジェイミソン)、ソール・ブルーム(カール・ライナー)と芋づる式に見つかり、ベネディクトから奪った金に利子をつけて返せと無茶な要求を突きつけられる。不足分も当然生半可ではない。到底まっとうな手口では返せぬと悟った一同は、ヨーロッパへ出稼ぎに出かけた。
 古物コレクター・バンデルバウデの所持するお宝(東インド会社発行の一号株券)を、屋敷ごと持ち上げるという大技で奪取に成功したかと思われたその時、しかし株券のあるべき位置には一匹の狐の置物が置いてあった。狐は世界一の泥棒を自称するナイト・フォックスことフランソワ・トゥルワー(ヴァンサン・カッセル)のトレードマークであった。彼はダニエル・オーシャンの名声が気に食わず、個人的に宣戦布告してきたのだ。
 勝てばベネディクトへの借金を代替わりしてくれることを条件にナイト・フォックスと対決することになった一同。狙うはファベルジェの戴冠式のエッグ。追うは警察と、ユーロポールの捜査官にしてラスティの元恋人だったイザベル・ラヒリ(キャサリン・ゼタ・ジョーンズ)。世界が認める大泥棒同士の智謀知略を尽くした戦いに加えられた横槍は、二転三転したうえ誰もが予想だにしないほうに結果を転がしていくのであった……。
「オーシャンと十一人の仲間」のリメイク「オーシャンズ11」の続編。今夏公開される「オーシャンズ13」に先立ちテレビ放映された。
 実績、知名度ともに抜群の俳優・女優を綺羅星の如く散りばめた絢爛豪華な作品。これだけの面子が一同に会するわけだから、出演料だけでも相当なものになるだろう。一本の映画に全て投入するのがもったいないくらいだ。
 肝心の中身はというと、正直かなり回りくどい。前作のシンプルさは影を潜め、またところどころわかりづらい伏線が張ってあるので、初見ではいまいち納得のいかない部分も多かった。大泥棒が「いきがかり上やむを得ず」盗みを働いている点もどうだろうか。情けないイメージがあり、個人的にはマイナス点だ。
 ユーモア部分はベタ。ブルース・ウィリスの友情出演や、テスがジュリア・ロバーツに成りすますシーンはたしかに面白い。けどベタにすぎて粋ではない。

2007/8/13 K-1GPinラスベガス

2007-08-13 14:43:09 | 格闘技
2007/8/13 K-1GPinラスベガス

 9/29の本大会に向けての出場者を選出する最後のチャンス……だったか? ワンデイトーナメントとスーパーファイト3回戦が放送された。
 
○ビヨン・ブレギーVSレイ・セフォー×(判定2-1)
 3月の大会で王者シュルトをあと一歩というところまで追い詰めながら、カウンターパンチの前にK-1初のKOの苦汁をなめた「南海の黒豹」。対するは身長202センチの「アルペンタワー」ビヨン・ブレギー。その差22センチプラス重量というハンデを背負うも、百戦錬磨のセフォーの勝ちを誰も疑わなかったこの一戦。いきなりの番狂わせが起きた。
 今までは恵まれた体躯を誇りながらももてあまし気味に見えたブレギー。K-1レジェンドの一人との対決ということもあり、勝てばGP出場の推薦枠に滑り込めるかもしれないという可能性もあって気合いが入っている。
 しかしセフォーのインファイトのうまさを警戒してか、力でごつごつ押していくのではない徹底的なアウトボクシング。ジャブでこつこつ突き、ローを飛ばす。でかい図体のくせにものすごいコンパクトな戦い方。ガードも堅い。セフォー得意のフック系のパンチの連打で追い詰められても、不意のバックハンドブローの奇襲を受けてもびくともしない。焦れたセフォーがボディブローから左右フック、左ハイなど見事なコンビネーションを繰り出すが、微塵も揺るがない。むしろ体格差を利した膝でセフォーの動きを止めたり、ミドルや打ち下ろすストレートでポイントを稼ぎ、そのリードを広げながら3R終了のゴングを聞いた。

○パトリック・バリーVSリカルド・ノードストランド×(2R2分)
 「ミスターパーフェクト」アーネスト・ホーストの弟子バリーと、北欧の貴公子(ってほどイケメンでもないような)リカルド。
 想像の範囲を越えないリカルドの「並み」ぶりはどうでもいいが、バリーの強さは特筆すべき。開始数秒左ハイでリカルドからダウンを奪うと、ホーストの弟子とは思えぬような気迫を前面に押し出した荒っぽいファイトを展開する。フック系のパンチと股関節の柔らかさを利した見えないハイに加え、ホースト直伝の鉈のようなロー。一撃一撃が重い。カウンターがうまいということもあり、とにかく力の乗った打撃がリカルドの体にダメージを刻んでいく。途中、熱くなった両者のローブローの応酬、という醜い場面もあったものの(偶然に非ず)、最後は順当にローキックでなぎ倒した。

○ザビット・サメドフVSエスチャダー×(2R1分05秒)
 サメドフ速い、手数が多い。フリッカーや飛び技、パンチフェイントにキックフェイントと多彩な攻め手をフルに使って一方的にエスチャダーを攻め倒す。1R終わりにはコーナーに追い詰められたところをくるりと体勢を入れ替えて逆にエスチャダーを追い詰め、ボディとアッパーでガードに隙を作り、空いたこめかみに左フックを叩き込んでダウンを奪う。
 2Rも同様の展開。1分05秒に右フックのフェイントから強烈なバックスピンキックをボディに決める芸術的な勝利を納めた。

○アレキサンダー・ピチュクノフVS中迫強×(3R判定)
 将来を嘱望されるロシアの極真王者対、将来を嘱望されていた中迫。2度目のダウンをスリップとごまかすも、結局中迫の判定負け。テレビ放送分だけでは実にくだらない試合に見えた。

○ステファン・ブリッツ・レコVSマイティ・モー×(3R判定)
 インファイターのモーが翻弄される典型的な試合。レコ、昔ほどの輝きはないものの、ローやストレート系パンチなどの直線打撃が走っている。出入りもうまく、自分は当たるが相手は当たらぬ理想距離を保ったまま普通に勝利。

○アリエル・マストフVSピーター・ボンドラチェック×(3RKO)
 開始早々右ストレートでダウンを奪ったマストフ。バックスピンが得意技というだけあって蹴り技が多彩。だが詰めが甘く、「効いてる」ボンドラチェックを攻めきれない。線の細さとガードの甘さもあって一抹の不安を覚えていると、案の定復活したボンドラチェックに逆襲をくらう。重戦車のような突進と、ガードの上からでもお構いなしに叩きまくる強引さに圧倒され、2Rにダウンを取り返される。
 3R。疲れからかガードが下がり出したボンドラチェック。マストフはその隙を見逃さず、テンプルに右フックを放り込んで「かぎりなくダウンに近い」スリップをさせる。もちろん効いているためグロッキーなボンドラチェック。マストフはパンチ、キック、膝と攻めに攻め、有効打の山を築き上げる。最後は右のバックスピンでとどめ。

○ザビット・サメドフVSパトリック・バリー×(3R判定2-1)
 今大会屈指の好カード。どちらもアグレッシブで、しかもかなりの実力者同士。サメドフは左ハイ、バリーは左フックと互いに得意技から始め、ばきばきの死闘を繰り広げた。スピードと手数ではサメドフ。ローの効かせではバリー。長所と長所がぶつかり合い、しかも相殺することなく昇華し合い、素晴らしい試合となった。それは試合中のサメドフの楽しそうな表情からもうかがえる。漢は漢を知る、といったところか。それだけに、結果が残念でならない。途中からバリー優勢が明らかになったのにも関わらずジャッジはサメドフ。キックよりもパンチを優遇するラスベガスの土地柄らしいが、観客のブーイングと、サメドフの納得いかなそうな顔がすべてを物語っていた。

○ダグ・ウィニーVSアレクサンダー・ピチュクノフ×(3R判定)
 リザーバーから勝ち上がったダグ対ピチュクノフ……の試合は大幅な放送時間カット。パンチを上下に打ち分けたダグの勝利。

○ダグ・ウィニーVSザビット・サメドフ×(3R判定)
 ラッキーボーイ・ダグはいまいちどんな選手かわからない。ストレート系のパンチが得意なところを見るとボクシング出身か?
 一方サメドフは、不本意かつ熱闘だったバリー戦の疲れが抜けていない。殴り合いでは負け、蹴りでリズムを掴もうとするも、カウンターでパンチを合わされ八方塞がり。出入りも少なく精彩を欠き、そのままなす術なく試合終了のゴングを聞いた。ワンデイトーナメントはやっぱり嫌いだ。

県庁の星

2007-08-09 22:26:20 | 映画
「目の前の問題から逃げ出す人は、人生のいかなる問題からも逃避する人だ」

「県庁の星」監督:西谷弘

 中学、高校、大学と常にトップの成績で合格し、愛するK県県庁に入社した野村聡(織田裕二)は、商工労働部産業政策課係長としてバリバリ働いていた。キャリアに加え、県有数の建設会社社長の娘・貴子(紺野まひる)との結婚も秒読みに控え、まさに順風満帆。しかし自身の立案したケアタウンリゾート「ルネッサンス」の計画に対して市民団体から反対運動が起きたことから徐々に歯車が狂い始める。
 民間のノウハウを学ぶため、帰庁後の昇進を約束された上で、半年間の期間限定で民間企業との人事交流計画の研修メンバーに選ばれた7人。その中に野村もいた。配属先は三流スーパー満天堂。
 消防法を無視して積み上げられた在庫のダンボールが通路どころか店長室にまで溢れたバックヤード。やる気のない店員とがらがらの店内を見て、野村は行き先の困難さを思った。しかしK県を愛する気持ちと士気の高さだけは誰にも負けない。教育係のパート・二宮あき(柴咲コウ)から「県庁さん」なんて呼ばれてお荷物扱いされながらも、必死に仕事をしようとする……ものの、すべて空回り。万引き犯に翻弄され、寝具売り場を勝手にいじり、カードの使用限度オーバーを堂々と客に告げ、お客様相談窓口すらも満足に務まらない。機転と臨機応変さを必要とされるサービス業では、県庁で培ったマニュアル対応がまったく通用しない。無力感に苛まれる日々。
 惣菜売り場の厨房に回された時に野村はある事実に気づいた。芽の出たジャガイモでコロッケを作り、二度も三度も揚げ直した惣菜の値札を貼りなおす杜撰な衛生管理。防火体制む含めて、このスーパーはいい加減すぎる。人一倍正義心の強い野村は分厚い業務マニュアルを作り戦闘態勢に入るが、上申はことごとく却下されるか無視される。
 同じ頃、県のケアタウンリゾートの着工が早まったが、自分以外の6人の人事交流メンバーが県庁に呼び戻されたのに自分だけ呼ばれないことを知る。婚約者の貴子の心変わりというとどめもあり、一気にどん底まで突き落とされた野村はやけ酒を呑んで夜の街を彷徨する。信じていた未来と、自分が正しいと思っていたものすべてに裏切られた彼には、壊れてしまう以外の術がなかった。
 二宮もまた困っていた。保健所と消防署の抜き打ち査察が入り、基準とする値をクリアできていない上に売り上げ不振で店舗解体すら有り得るという最悪の状況。店長も頼りにならないし、16の頃からずっと勤め続け、裏店長と呼ばれるまでに知り尽くした我が子のような満天堂が取り潰されるのは見るに耐えない。
 二人の利害が一致した時、満天堂のルネッサンス(再生)は始まる。自負心を粉々にされ、地の素直さが浮き彫りにされた野村と、満天堂マスター・二宮。二人に触発された店員全体のバックアップもあって、見事防火衛生の基準をクリア。前年度売り上げ比130%を達成し、本社にも面目が立った。
 半年の研修を終了し県庁に戻った野村には、また別の戦いが待っていた。県政を牛耳る古賀県議会議長(石坂浩二)との、ケアタウンリゾート総工費削減策のぶつけ合いだ。民間のノウハウを会得した県庁キャリアは、皮肉な事に民意を代表した強大な敵として、県庁の前に立ちはだかるのであった……。
 どことなく伊丹監督の「スーパーの女」を思い起こさせるようなスーパー再生もの。しかし主演の織田裕二の、県庁キャリアらしい、いかにもな傲慢さや鼻持ちのならなさなどはそれにはなかったものだ。親組織である県庁に牙を剥くくだりなどは、痛快さもあり、時代世相を反映していて独特の面白さを醸し出している。
 とにかくこの映画の肝は「県庁さん」にある。マニュアル対応しかできないお役人が、サービス業習得する際のどたばた劇。そのギャップが笑いを誘う。個人的には漫画版(作:今谷鉄柱)の野村のほうが「K県愛」が目に見えて好きなのだが、映画の野村も悪くない。何せ織田裕二が適役だ。美形で歯が白くて、どこか偉そうだけどどこかコミカル。カッコつけの決め台詞も含めて、この俳優ならではの味を出せている。

2007/8/5 K-1GPin香港

2007-08-07 01:18:33 | 格闘技
2007/8/5 K-1GPin香港

 アジアGPのワンデイトーナメントとワンマッチ3試合の計10試合が行われた。うちテレビ放映されたのは武蔵VSパク・ヨンス、戦闘竜VS金泰泳、武蔵VSワン・チャング、藤本VSワン・チャングにワンデイトーナメント3試合のみ。残りの試合は結果のみが伝えられた。
 さてアジアGP。今回の主役は進退のかかった武蔵。ここのところ連敗中で、藤本に丸太のようなハイキックで敗れてからは日本人最強ですらなくなった男の泣きの一回。
 
武蔵VSパク・ヨンス(1回目)
 開始早々、テコンドー出身のパク・ヨンスのインローがサウスポーの武蔵の内股……ではなく股間にヒット。インターバルをとってすぐに再開するも、再びインロー。これが股間にクリーンヒット。吐き出すマウスピース。どよめく観客。ああ、いつもの武蔵だなーと変な感慨に浸っていると、1試合挟んでパク・ヨンス減点1の状態から再開するとのこと。

○金泰泳VS戦闘竜×
「相撲は…強いんだよう!」でおなじみ戦闘竜。圧力と大振りのフックのみでどうやったらK-1勝ち抜けるつもりなんだろうと思ってたらやっぱり悲惨な目に……。金に翻弄され、焦って前のめりに突っ込んだ戦闘竜の顔面に、最悪のタイミングで金のミドルが炸裂。有効打どころかパンチを満足に打つこともないまま、1R終盤に勝負はついた。

○武蔵VSパク・ヨンス×(2回目)
 挟んだ一試合がいかんせん1RKO決着では満足に休めなかった武蔵。半病人のような顔でリングに上がる。
 パク・ヨンスはさすがテコンドー選手だけあって蹴りが走っている。インローは控えるようになったものの、武蔵の奥足へのローや、開いた側へのミドルはかなり有効。だがボクシング技術に穴があり、そこを武蔵につかれる。蹴りのダメージを無視して突進されるとバランスが崩れてしまう。
 しかしこの日の武蔵は強かった。パンチ、キックともキレがよく、本人がキレていることもあって、いつものおとなしさはなりを潜めた荒々しいファイトでパク・ヨンスを追い詰める。2Rになり、右ハイ→左右のフックでダウンを奪うと、勝利の雄叫び。そんなにローブローは痛かったのか、それともこの日にかける思いが強かったのだろうか。

○ピーター・アーツVSニコラス・ペタス×
 再びかつての勢いを取り戻しつつある20世紀最強の暴君の相手は、三度の骨折で地獄を見せられた青い目のサムライ、懐かしのニコラス・ペタス。
 1R。蹴りを打ちたいペタス。しかし圧力の強いアーツに先に詰められ、蹴りの間合いが作れない。しかたなく打った左右のフックが大正解。アーツのガードの隙間からヒットし、たびたび追い詰める。そうなると殺されていた蹴りも打てるスペースが出てくるわけで……。ミドル、バックスピンキック、かかと落としなど元気に攻め立てる展開で、ジャッジはペタス。
 2R。またも似たような展開から始まるものの、さすがはアーツ、ずるずるとはいかせない。力任せに打ち下ろした右でダウンを奪うと、一気に畳み掛ける。パンチと膝で圧力をかけ、ローをさんざん効かせたところで右ハイ一閃。試合巧者ぶりをいかんなく発揮した。
 
○武蔵VSワン・チャング×
 投げもある謎の多い格闘技散打の王者。しかも18歳という年齢。さてどうなることかと思って見ていたら、いきなりワン・チャングの膝が武蔵の股間に。悶絶する武蔵。どよめく観客。セコンドからタオル投入。可哀想で見てられない。
 反則でのダウン後のタオルだから無効である。インターバル3分の後試合再開。という謎のジャッジング。しかも状況がわかっていない(つまり勝ったと思っている)ワン・チャングは控室に戻ってしまった。3分過ぎても戻らないので試合放棄と見なし、武蔵勝利……ええと……。

○バダ・ハリVSピーター・グラハム×
 会見の席での乱闘。胴回し回転蹴り(ローリングサンダー)で顎を砕かれるなど、かつてさんざんな目にあわされたグラハムに対してのリベンジマッチ。
 長い手足を生かしてアウトボクシングに徹し、コンビネーションもワンセットずつしか打たない(続きがない)バダ・ハリと、距離を詰めなきゃ勝機はないのに必死に距離をとろうとするグラハム。バダ・ハリの一撃一撃が恐ろしいほどキレているため見れることは見れるが、なんだかちぐはぐな印象。
 3R目にグラハムの開いた側へのバダ・ハリのミドルが腹に直撃。追い込みのボディブローでダウンを奪い勝利。

○藤本祐介VSワン・チャング×
 三位決定戦ではない。アジアGP決勝。股間のダメージが蓄積した武蔵と眼窩底骨折の疑いのある金泰泳。二人の勝者が棄権したため敗者復活の二人が決勝へ駒を進めるというわけのわからん展開。
 試合も大味。体幹の強さと馬力で攻めるワン・チャング。藤本を追い込むも、ぶんぶか振り回した左右のフックがクリーンヒット。1R後半に2度のダウンを奪い、藤本が優勝。
 詰めの甘さが気になっていた藤本だが、たなぼたとはいえきっちりKO勝利をおさめたところが偉い。実力的には大分武蔵に見劣りするものの、運の強さも含めて代表には適任かもしれない。