はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

サイレント・ブラッド(1)

2009-08-31 17:56:10 | マンガ
サイレント・ブラッド 1 (少年チャンピオン・コミックス)
神先 史土
秋田書店

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「サイレント・ブラッド(1)」作:神先史士 画:太田正樹

 昭和の中頃まで鉱山で栄えていた村・潮岡村。過疎化と医師不足に悩む江田園病院に2人の医師、無愛想な真壁とアフロデブの鶴田が転院してきたのと前後して、村には怪しげな奇病が流行る。健康な大人が正気を失い水分を……というよりは血を求めて歩き回るようになるその病は、人知を超えた寄生虫を原因とするものだった。
 第三世界での経験を生かし、メスを振るって寄生虫を駆除する寄生虫ハンターの真壁は、院内での大量感染こそ防ぎとめたものの、寄生虫はすでに村中にはびこりつつあった……。

 虫は嫌い。むかしむかーしのイノセントな頃は昆虫採集に明け暮れる子供だったんだけど、冷蔵庫に張り付いたゴキブリをハエタタキで仕留めようとして、起死回生のバンザイアタックを顔面に受けて以来、もう全般がだめ。寄生虫ももちろんだめで、写真にだって触れないくらい。でも、怖いもの見たさだよね。その手の映画や漫画は大好物。
 この漫画は、久しぶりに見た正統派バイオホラー。寄生虫に操られゾンビのようになった村人と、まっとうな人間との攻防を描いた作品。
 主人公の真壁のニヒルさや、引き立て役の鶴田との軽妙なやり取りや、なかなか現実を見ようとしない数学少女(もはやテンプレ)ハクレイとのやり合いなど、キャラ相関がうまいこと成立していて楽しく読めた。
 なんといっても「売り」な寄生虫パラダイスは、サナダムシ、フィラリアと段階を経て、人間をも操る「それ」の奇怪さや恐ろしさや恐怖がにじみ出るように描けていた。
 人は選ぶけど、その手の趣味の人には文句なしの良作。

君はフィクション

2009-08-29 20:10:26 | 小説
君はフィクション (集英社文庫)
中島 らも
集英社

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「君はフィクション」中島らも

 中年小説家「おれ」の創作パワーの源・香織には、性格のまったく正反対な双子の妹・詩織がいる。ある日、デートの約束に来れなくなった香織の代理で来た詩織と、「おれ」は抜き差しならぬ関係になってしまうのだが、そこには驚愕の事実が待っていて……表題作他11作からなる故・中島らもの短編集。
「今夜、すべてのバーで」、「ガダラの豚」などの長編以外はエッセイ本しか読んだことのない身としては、どの話もあっさりしすぎていて、肩すかしの感がある。といって、あっさりしてない話はグロいか狂ってるかどっちかで肌に合わない。
 しかし軽妙な文体はさすがの旨さと独特のリズムで、他に比肩するもののない中島流。表題作の他に、決して最後まで見ることのできないホラー映画「コルトナの亡霊」。奔放すぎる女と神経質な調律士の恋愛「バッド・チューニング」など気の利いた話も混じっている。中島らも入門編としては厳しいような気もするが……。 

とらドラ!(2)

2009-08-28 12:36:12 | 小説
とらドラ〈2!〉 (電撃文庫)
竹宮 ゆゆこ
アスキー・メディアワークス

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「とらドラ(2)!」竹宮ゆゆこ

 異常に目つきが悪い、けど超清潔几帳面で炊事掃除洗濯が大好きで喧嘩なんてまるでだめな高須竜児。わがまま傲慢唯我独尊、けどフランス人形のように小さく美しい逢坂大河。互いの親友に片思いする2人は、不器用で自分の気持ちが素直に出せないため損ばかり。立場を生かした共闘計画もうまくいかない。心の隙間を埋め合い慰めあうように、いつも寄り添って暮らしている。隣のマンションとアパートに住まう気安さから、食卓洗濯まで共にし、竜児の母親・やっちゃんと合わせて、まるで3人家族のよう……。

 どこか屈折した、もどかしい日々に波紋を投げ込んできたのは、竜児の親友にして大河の想い人・北村の幼なじみの川嶋亜美。竜児たちのクラスに転校してきたスーパー女子高生モデルの彼女は、素直で天然な愛嬌を振りまき、たちまちクラスの人気者になるのだが、実は愛らしい外面とは裏腹のダークな一面があって……。
 竜児と大河の弁当の中身が同じ理由を聞いたり、好きでもないのに竜児を落とそうとモーションをかけたり、腹黒あーみん大暴れの回。優しくも強くもない(まったくってわけでもないが)、ヒロイン属性の少ない黒い女の子。ギャルゲーなんかでも絶対に一番にはなれないタイプ。でも個人的に一番のお気に入りです。
 竜児はどこまでもいいやつだし、大河も変わらず唯我独尊だし、北村みのりんの賑やか士コンビもいい味出してる。アニメも良かったけど、小説でも彼らはやっぱり面白いです。恋愛小説が苦手な人にもハードル高くないし、おすすめのシリーズ。

バクマン。 (3)

2009-08-26 14:24:17 | マンガ
バクマン。 3 (ジャンプコミックス)
大場 つぐみ
集英社

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「バクマン。 (3)」作:大場つぐみ 画:小畑健

 高校時代にジャンプ本誌デビューと作品アニメ化を目指す亜城木夢叶の2人は、「この世は金と知恵」での小ヒットを捨て、王道バトルものでの真っ向勝負を計画する。サイコーは人気漫画のバトルシーンの名場面模写100本ノック。シュージンは空手少女の彼女・見吉とのリアルスパー……。努力の方向性は間違っていないのだが、なにせ幾多の先人が歩んだジャンプの王道。生半なことでは連載までたどり着けない。担当編集・服部からはダメ出しの嵐。新妻エイジの天才を実際に目にし、亜豆の声優デビューの報に接し、2人は徐々に焦りを募らせていく……。
 あざとさと熱さの混在する平成まんが道。まったくマンネリに陥ることなく巻を追うごとに面白くなっていくのは正直にすごい。
 亜豆との恋愛パートが減ってきたのは、やり取り自体が少ないのだからしょうがない。というか亜豆はどうでもいい子なので。シュージンと見吉の仲が進展していくほうが嬉しいし楽しい。
 新妻エイジとそのアシスタンツのパートは個人的にかなり当たり。新妻エイジは天然に嫌な奴なのかと思ったら幼くて漫画に純粋な、イノセントな少年だった。アシスタントをしながらデビューを目指す福田・中井もただの背景ではなくそれぞれに持ち味も厚みもあるキャラだし、サイコーと4人で新妻エイジの連載を盛り上げようと知恵を出し合うシーンにはワクワクさせられた。同じ夢を持つ者同士の語り合いって、やっぱいいよね。

イース・ミュージックヒストリー & 英雄伝説 7 極秘設定画集付き

2009-08-24 21:55:27 | ゲーム
イース 7(通常版) 特典 イース・ミュージックヒストリー & 英雄伝説 7 極秘設定画集付き

日本ファルコム

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 えー、予約しました。本気でひさしぶりのイースシリーズ。PCゲー初体験は友達の家でやった「イース2」からなんで、思い入れは深いです。8801FE(5インチフロッピーの時代ですな)で1・2・3。SFCで4とクリアして、んで、その4が面白くなかったので以後ぱったりとやめていたんですが、最近「イース6ナピシュテムの匣」の実況動画なんぞを見てまして、そのあまりの変貌ぶりに火がついたというわけ。
 漂泊の旅、華々しい女性遍歴、と男のロマンを体現するかのような赤毛の冒険者・アドル・クリスティン。1987年の初代発売から実に22年(!)も経ってるのに、いまだにこいつは浜辺に打ち上げられたりしていて、変わらないです。小学校の同窓会で消息だけ伝え聞く「あれな友人」のような懐かしさが募って、再び一緒に旅をしたくなりました。フィーナもリリアもいないけど、23歳に成長した赤毛のあいつは、今日も元気に生死の境を潜っているみたいです。ゼルダと並ぶ? 単一主人公のシリーズものの最新作。発売日が待ち遠しい。

鋼殻のレギオス(2) サイレント・トーク

2009-08-23 14:04:18 | 小説
鋼殻のレギオス(2) サイレント・トーク (富士見ファンタジア文庫)
雨木 シュウスケ
富士見書房

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「鋼殻のレギオス(2) サイレント・トーク 」雨木シュウスケ

 汚染物質の嵐吹き荒れる地上で、人は自律型移動都市(レギオス)の殻に守られて生きていた。一歩外へ踏み出せばたちどころに死の待つ無情なる世界で、最強生物「汚染獣」の襲来に備え、あるいは各都市との争いに勝つために、戦士の育成はいついかなる時でも急務であった。
 主人公・レイフォンは、武芸の本場・槍殻都市グレンダンでも12人しかいない天剣授受者の、最年少記録を持つ達人。しかしある事件から剣を捨て、普通の人間として生きようと学園都市・ツェルニへ流れ着いた。
 もう二度と戦いたくない。だが運命はそんな彼を放してはくれない。汚染獣の幼生体の群れをほぼ独力で追い払ったレイフォンは、嫌でもツェルニの行く末を負わされることになる……。

 前回の戦いの真相は、ツェルニの一部の人間しか知らない孤独な戦いだった。ために、レイフォンは英雄扱いされるわけでもなくただのいけ好かない新入生として辛いポジションに立たされている。
 第十七小隊はレイフォンが強すぎることでバランスを崩し、さらに連携がとれなくなった。シャーニッドは相変わらずすかしてるし、フェリはやる気がない。ニーナにいたっては、レイフォンへの嫉妬と焦りから、自分を追い込むように無茶な鍛錬を繰り返し、全体練習を行わなくなってしまった。
 レイフォンは鬱系主人公らしくうじうじと悩んだり独白を繰り返すのみ。基本的に人との関わり方がわからないのだろうが、こいつは本当に面倒くさい。ナルキ、ミィフィ、メイシェンら3人娘や、フェリとは交流を深めつつあって、そこがかなり救いになっている。レイフォンにも読者にも。
 グレンダンに残った幼馴染・リーリンとの手紙のやり取りが漏出する件は……うーん、ちょっと作為的すぎるかなあ。そんな紛れ込み方あり得ないだろ。
 本巻は、汚染獣も大してインパクトなかったし、ストーリーはあまり進まなかったけど、大事な人間関係の底上げが出来た、かな。次巻からはもう少しマシになるでしょう。

春期限定いちごタルト事件

2009-08-21 12:29:04 | 小説
春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社

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「春期限定いちごタルト事件」米澤穂信

 小鳩くんと小佐内さんの間には、ある協定がある。それは、目立たず波風を立てない小市民として生きるために、互いを際立たせるような現象が起きた時は盾にし合おうというもの。恋愛感情ではなく依存関係でもない、互恵関係。
 空気でいたい、と切に願う2人の前にはしかし、消えたポシェット、意味不明の二枚絵、おいしいココアの謎、テスト中に割られた瓶などなど興味深い事件が立て続く。謎解き好きな小鳩くんは、協定破りの後ろめたさや小佐内さんの冷たい目線に耐えながら、事件を解決していくのだ……。

 謎を解いたら解いたで、今度はいかに目立たずに解を示すかという思考に忙殺されなきゃならない。そもそもヒロインが褒めてくれない。ここまで控えめなミステリは見たことがない。斬新過ぎる設定がとても良かった。
 主役2人のキャラも良い。実は探偵体質で、知識をひけらかしたい衝動に葛藤する小鳩くん。甘いものに目がないミニマムヒロイン小佐内さんは、いつのまにか後ろに忍び寄っていたり、事あるごとにスイーツをおねだりしたり、と行動がいちいち可愛い反面、執念深くひとつのことで恨みをもち続ける粘着タイプで、心に狼を飼っているし。2人がどうして小市民を目指すに至ったのか、過去もあわせて大変興味深い一冊。

ちぇんじ123(7)~(10)

2009-08-19 18:33:35 | マンガ
ちぇんじ123 10 (チャンピオンREDコミックス)
坂口 いく
秋田書店

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ちぇんじ123 9 (チャンピオンREDコミックス)
坂口 いく
秋田書店

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ちぇんじ123 8 (チャンピオンREDコミックス)
坂口 いく
秋田書店

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ちぇんじ123 7 (チャンピオンREDコミックス)
坂口 いく
秋田書店

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「ちぇんじ123(7)~(10)」原作:坂口いく 画:岩澤紫麗

 特撮ヒーローの好きなアキバ系高校生・小介川は、ある夏の日、1人の少女のピンチに遭遇する。月斗素子という名のそのメガネ女子は、か弱くて儚げで、守ってあげたくなるような女の子なのだが、実は内に3つの人格を飼う多重人格者で……。
 虎を素手で倒した伝説の格闘家に育てられた人格・ひびき。
 剣聖と呼ばれる達人で、傭兵の経験もある銃火器のエキスパートに育てられた人格・ふじこ。
 古式柔術の伝承者に育てられた人格・みきり。
 3人の女の子(頭文字を合わせて「ひふみ」)は素子がピンチの時に現れ、乱暴な方法でもめ事を解決して去っていく。
 ヘタレながらも素子の身の安全を常に大事に思い、時に体を張ってくれる小介川に4人ともが恋をし、1人の体で4度おいしいハーレム状態となる。
 
 4冊分まとめてどん。別につまんないとかそういうわけではないけど、アクションものだからどうしても薄くなるので。
 修学旅行先での米軍特殊部隊との私闘。素子の3人の父親の最後の1人・流河との出会い。素子と小介川が許婚に? 素子の母親・浅葱が抜けた組織の刺客が登場。と各巻とも重大なトピックスが目白押し。
 もっとも大事なのは素子が本人格ではなくひふみ達と同じような交代人格ではないかという疑いが出てきた一連の流れ。もしそれが事実で、ゼロが本人格だったとしたら、記憶喪失なんて生易しい真の別離が待っているわけで。結果は10巻のラストあたりに出るのだけど、なかなか緊迫感があって面白い。すっかり婚約者気取りで「ダーリン」やら「婿殿」呼ばわりのひびきのデレっぷりも、その幸せが薄氷の上に立つようなものであることを理解すると、違った意味を持って見えてきて切ない。いやあほんと、どうなるんだろ。終わりの形は想像つかなくもないけど、誰もが幸せになれるラストかというと……。 

俺の妹がこんなに可愛いわけがない

2009-08-18 17:19:45 | 小説
俺の妹がこんなに可愛いわけがない (電撃文庫)
伏見 つかさ
アスキーメディアワークス

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「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」伏見つかさ

「私の兄貴がこんなに頼りになるわけがない」と読み変えていただいても結構。平凡な兄貴・京介とツン妹・桐乃の交流を描いたオタク系ラノベだ。
 勉強させれば県内指折り、陸上部では何度も表彰台に登り、ティーンズモデルとして中学生(14歳)にあるまじき大金を稼ぎ、社交性もあって周囲の評判も良い、という完璧超人・桐乃は、しかし京介に対しては悪魔のように振る舞う。名前ではなく「キモ」と呼び、時に親の敵のように睨みつける。京介だってそんなことされたら面白くはないから、自然と交流しなくなった。そんな2人の関係に変化が生じたのは、ある日京介が桐乃の落としたDVDを拾ってから。そこには「星くず☆うぃっちメルル」や「妹と恋しよっ♪」という、桐乃のキャラにあるまじき変態的なタイトルが刻まれていて……。
 優等生な外面とは裏腹の濃ゆ~い趣味のある桐乃は、それゆえに腹を割って話せる友達がいない。唯一の秘密の共有者・京介に自分の趣味を理解し、共に楽しむように要求してくるのだが……いやいや、実の妹の目の前で妹を口説くエロゲーとかできないでしょ、と常識人間京介は苦しむ。オフ会に参加するなどして桐乃に自分の代わりに同好の士をあてがおうとするのだが、なかなかうまくいかない。それでもなんとか2人ばかり趣味の友達が出来て、桐乃も楽しそうにしていて、これで俺もお役御免だな、などと軽く考えていたら、いきなり人生最大のイベントが待ち受けていて……。

 冒頭で述べたように、京介かっこいい。常識的な頼れる兄貴で、理不尽女王・桐乃のわがままにつき合ってあげられる大人ぶりが大変よろしい。麻奈美という恋人未満のメガネっ娘幼なじみもいるせいか、妹に虐げられても悲愴感がないし、最後まで安定して読めた。良作。

高校球児ザワさん(2)

2009-08-16 08:25:54 | マンガ
高校球児 ザワさん 2 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
三島 衛里子
小学館

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 ……俺は、大学に入ってから酒の席じゃないと人とうまく絡めなくなった。酔っ払わないと、皆のノリに合わせられなくなってた。
 無言のままでいられる仲間なんて、俺にはもういないのかなあ。

「高校球児ザワさん(2)」三島衛理子

 右投げ左打ち。授業中はメガネを着用。愛読書は横山光輝の「三国志」。日践学院高校1年都澤理紗・通称ザワさんは、野球部唯一の「女子選手」だ。同級生の女の子が男だ化粧だ買い物だと青春にうつつを抜かしている間にも、野球の腕を磨くことに余念がない変人だ。
 早朝練習、自主トレ、プロテインを愛飲、筋肉自慢、と偏ったスキルしかないザワさんは、女子なので当然の如く公式大会には出られない。にも関わらず、彼女は努力を続ける。野球が好きだから、そんなシンプルな理由だけで、彼女は周囲の好奇の視線にも、女性蔑視にも耐えられる。夢の舞台には立てなくても、わたしはただ、野球が好きだから。
 そんな純粋なザワさんを見て、しかし男どもは不埒な妄想ばかり。無防備かつ天然な彼女の一挙一動に悶えながら、彼らの季節も過ぎていく。

 甲子園のシーズンですね。残念ながら我が郷土の代表は負けてしまいましたが、試合はまだまだ続いています。
 僕は昔から、野球を見るのが好きでした。自分自身でやろうとはまったく思わないけど、キレのあるストレートや変化球がミットにおさまる姿が好きで、野球の試合となると、テレビ画面に釘付けになってしまいます。社会人になって、休憩の合間ぐらいしか見れなくなったのがすごく悔しい。
 冒頭に掲げたのは、作中に登場するとある大学生のつぶやき。徹夜の飲み会明け。始発に乗った彼が見たザワさんたちの有り様が印象深い。皆てんでばらばらにシートに座って、喋るわけでもなく勝手に寝て、駅に着いたら言葉少なに降りて、同じ目的地を目指す。おそらく朝練に行くとこなのでしょうが、その姿がうらやましいって気持ちはよくわかります。彼が失ったものも。事は野球だけに関わらず。
 本書の特徴として、試合や勝ち負けをまったくといっていいほど描きません。野球漫画なのに。それはもちろん、作者が勝敗以外のところに価値を見出しているから。ザワさんと共に過ごした高校生活の、なんでもない1シーン1シーンが、それ自体が強烈なメッセージとなって、読者の心におさまるから。