はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

危ないお仕事!

2008-07-31 19:12:12 | 小説
危ないお仕事! (新潮文庫)
北尾 トロ
新潮社

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「危ないお仕事!」北尾トロ

・万引きバスター
・私立探偵
・警察マニア
・超能力開発セミナー講師
・タイの日本人カモリ屋
・月収100万のメルマガライター
・フーゾク専門不動産
・主婦モデル
・ダッチワイフ製造業者
・汁男優
・新聞拡張団
 いつの世も、僕らの心を怪しく染める裏のお仕事。興味はあれど、怖くてなかなか足を踏み込めないあんな職業やこんな職業の実態、全部教えます。
 と、胡散臭い惹句で煽ってみたが、まあだいたいそんな内容。上に上げたお仕事に興味のない人は、この時点で回れ右。ホント、人によっては嫌悪感を覚える分野もあるので。
「裁判長! ここは懲役4年でどうすか」のライター・北尾らしく、題材への切り込み方がこなれている。読者の関心がどこにあるか、どこまで踏み込んで書くことができるのか。そのバランス感覚が絶妙。「僕の小規模な生活」の福満しげゆきの手による哀れげなイラストも、いい味出すのに一役かっている。
 ほとんどが取材をもとにした記事なのだが、最後に掲載されている新聞拡張団入団体験記は目新しかった。裏のお仕事潜入ルポ本が出たら面白いかもしれない。
 ところで、この手の本の常として、ネタかぶりやそもそも初出でないものが散見される。マニアの人は、よくよくチェックしていただきたい。

ホーリーランド(17)

2008-07-29 17:30:41 | マンガ
ホーリーランド 17 (17) (ジェッツコミックス)
森 恒二
白泉社

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 ……終わった……ごめん……イザワさん……ごめん……皆守れなかった……何も……何ひとつ……ごめん……みんな

「ホーリーランド(17)」森恒二

 マイを拉致され、八木・竜の愚連隊の軍門に降ったユウ。さんざんボコられ、頼みの両腕も竜に外され、あげくヤク漬けにされたマイを無事に返す気はないと嘲笑される。一方、伊沢・土屋の本隊も、キングの狡猾な罠に陥れられ、多勢に無勢の絶望的な戦いを強いられることに……。
 鬱展開を吹き飛ばしたのは、強力な助っ人の登場。ユウに関わったあの人たちが加勢してくれる。特に圧巻は緑川ショウゴ。空手家の真髄をまざまざと見せつけ、一気に形勢逆転と相成るのだった。

 痛快。
 会社の後輩に習っている程度の僕がいうのもなんだが、空手家は強い。先生(後輩)の強さがずば抜けているというのもあるが、完全に身についた技術と鍛え上げられた肉体を誇る空手家の前には、とてもじゃないが一般人のケンカ自慢ではたどり着けない壁がある。素手、そしてノールールという状況なら、他の格闘技に見劣りするところもない。それを表現してくれたのが良かった。
 ところでよくいわれる空手の一撃幻想だが、僕の目にした範囲でこれは実在する。一発失神とまではいかないが、確実に戦闘不能に追い込むことができる。また実際、多勢を想定している以上そうでなければいけないと先生はいっていた。怖いですね。

ジュリエットXプレス

2008-07-28 18:53:11 | 小説
ジュリエットXプレス (角川文庫 し 38-1)
上甲 宣之
角川グループパブリッシング

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「ジュリエットXプレス」上甲宣之

 大晦日23:45。3つの物語の幕が上がる……。
 バラバラの場所、バラバラの状況で新年を迎えようとしていた3人の少女(ジュリエット)達に、未曾有の災難が降りかかる。寝台列車の中で誘拐事件に巻き込まれた真夕子。高校の寮に伝わるスナッフフィルムの謎に巻き込まれる遙。弟と祖母と3人しかいない自宅を無慈悲な殺人鬼に襲われる智美。
 一見何の関係性もない3つの惨劇が実は巧妙に絡まっていて……。

「そのケータイはXXで」、「コスプレ幽霊紅蓮女」で知られる上甲宣之作品。という時点で一定以上の出来はすでに保証されたようなもの。序盤でちょっともたつく感はあるが、智美が登場する85ページから一気呵成のギアチェンジがあるのでご安心。年越し前後の44分間に起こった3つの事件の収束させぶりがなんとも強烈。
 心残りは食いたりなさ。火請愛子やレイカ様はもちろん、お家芸のキレた登場人物がいないのが寂しい。残念ながら、上甲作品の中ではもっとも落ちるといわざるをえない。面白いのは面白いのだが……。

格闘する者に○

2008-07-26 21:00:57 | 小説
格闘する者に○ (新潮文庫)
三浦 しをん
新潮社

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 そろそろここを出ねばならぬ。
 今日は5時間で18冊の漫画を読んだ。まずまずのペースと言えよう。

「格闘する者に○」三浦しをん

 およそ就活中とは思えぬモノローグとともに登場するのは、漫画と小説が何より好きな女子大生・藤崎可南子。一流の大学に入り一流の家格の出自の彼女は、しかし社会人への第一歩を踏み出せぬまま、今日も満喫に入り浸る。
 公園で時間を潰すリストラサラリーマンのような日々を送る彼女の周りには、これまたおかしな人々ばかりが集う。ホモ、アーパー女子大生、お見合い連敗記録更新中の喫茶のマスター、脚フェチの老書道家、わけアリの家族たち。
「まっとう」とはほど遠い、妄想全開のモラトリアム少女は、人情の機微の混沌の中で、行き先も定めぬままに、えっちらおっちらスタートを切ったのだが……。
 
 三浦しをんのデビュー作。青春就活小説。
 もちろんまともではない(褒めてる)。
 美脚ぐらいしか取り柄のない少女が脚フェチの老人と恋愛したり、メインのくせに就活がいまいち盛り上がらなかったり、とある問題の解決方法が唐突すぎたり、問題は山積みなのだが、不思議と最後までつっかからずに読めた。
 それは機知に富んだ一人称のおかげでもあるが、一番はキャラクター性の勝利だろう。本が大好きでひきこもり気味の藤崎可南子が、狭く偏った人間関係の中で溺れるようにもがきながら成長していく様が魅力的で、一気に読みきってしまった。
 ダメ人間なりの社会人への第一歩。背中をどやしつけるのではなく、そっと見守ってあげてください。

DREAM5

2008-07-24 22:19:12 | 格闘技
DREAM5

 7/21に行われた第5回興行のテレビ放映分。解説はいつもどおり、高阪&元気。

○アリスター・オーフレイムVSマーク・ハント× 1R1本(アームロック)
 現役バリバリのダッチサイクロンに対するは、外貨稼ぎ見え見えのサモアの怪人。重い階級の選手層の薄いDREAMにおいて、希少なヘビー級ワンマッチだが……。
1R 打撃の交錯する中、テイクダウンしたのはハント。パスガードまで決めたが、下からオーフレイムにアームロックを極められてあっさりタップ。なんだこの試合……。

○青木真也VS宇野薫× 判定3-0
 食い倒れ人形をイメージした赤と白のロングスパッツで入場した青木。万能型の宇野は組みし易い相手か。
1R ミドルで距離を測ると、打撃の届かない距離から飛びついてテイクダウンする青木。
 ヒールホールド→アームロック→チョーク→フェイスロックと畳み掛ける青木。圧巻は、罠を張っての電光石火の三角。これが99%極まったと思われたのだが、宇野、なんと逃げ切る。会場は興奮の坩堝。
2R 早々、宇野の打撃に合わせてのタックルでテイクダウンする青木。それからずっとグラウンド。
 元気いわく「軟体動物みたい」な動きと執拗さで判定勝利。

○エディ・アルバレスVS川尻達也× 1RTKO
 日米ストライカー対決。
1R 川尻はローから、アルバレスはワンツーから入る。
 打撃応酬の中、アルバレス右目から出血。しかし距離をとって傷口叩くなんて真似はしない川尻とのガチンコ殴り合いは続く。
 まず最初に川尻の腰が落ちた。クリンチで回復を図るも、ボディへパンチをもらう。
 次に川尻の左がアルバレスの顔面をとらえた。崩れたところへ一気に攻勢かける川尻だが、不発。パウンドの嵐で、一時はマウントまでとったのだが、タイミングよくかわされ、スタンドへ。
 ものすごい殴り合いの末に、アルバレスの右のストレートとアッパーが一発ずつ顔面とらえ、これが致命傷。川尻の抵抗がなくなったところでレフェリーストップ。

○秋山成勲VS柴田勝頼× 1R1本(袖車)
 久々登場の秋山に、会場中がブーイング。すさまじいヒールぶり。
1R 秋山、右のローが重い。圧力が強い。
 対する柴田はフットワークもなく無策で単発の打撃を繰り返すのみ。秋山の袖を掴んで打ち下ろすストレートは面白かったが、見せ場はそれだけ。
 秋山にテイクダウンされると、抵抗らしい抵抗もできずに袖車を極められ落とされた。タップしない根性は買うが……。

○中村大介VSアンディ・オロゴン× 1R1本(腕ひしぎ逆十字)
 U直系の腕十字職人中村対痴漢を捕まえ話題のアンディ。
1R 飛びつき腕十字が極まりました。それだけ。
 アンディ、K-1ファイターとしては才能があるのかもしれないが、総合ではどうか。準備期間がなさすぎるのだからしょうがないといえばそうなのだが……。

○所英男VS山崎剛 判定3-0
1R 所の右ストレートで崩れる山崎。追い込みは成就せず。
 その後もスタンド打撃は所。ストレート系のパンチがよく当たる。バネを生かした早い膝もいい味出してる。
 山崎スタンドを嫌ってテイクダウン。しかしグラウンドも得意な所を攻めきれない。
2R 山崎テイクダウン狙うもそうはさせない所。グラウンドに入っても有利に動けるようぎりぎりまで粘ってポジションを作る。その「とっかかり」のせいで山崎攻め切れず、判定は当然所。

○ヨアキム・ハンセンVSブラック・マンバ× 1R1本(腕ひしぎ逆十字)
 北欧の処刑人対インドの毒蛇。キャラクター性マックス対決。
1R 打撃はほぼ互角。マンバの打点の高い膝が面白い。
 しかしグラウンドに入るとさすがに差がある。コンプリートファイター・ハンセンがあっさり腕ひしぎを極めた。

○ヨアキム・ハンセンVS青木真也× 1RTKO
 右目の角膜(?)を損傷したエディ・アルバレスのリザーブで出てきたハンセンの大金星。
 阪神カラーの黒と黄色のロングスパッツで入場した青木。一度勝っているハンセン相手ということもあってか(その時は圧勝だった)、表情に余裕がある。
1R ハンセンの初撃のパンチをかいくぐってタックル極める青木。迷いのなさが凄い。
 青木、ラバーガードからフットチョークを狙うと見せ掛けて腕極めにいく。これは成就しないが、ハンセンの腕を離さずグリップしたまま、次の攻め手を模索する。
 しかしハンセンも黙ってはいない。リーチを生かして上からパンチを打ち下ろす。
 と、そのうちの一発がクリーンヒット。左の打ち下ろしがもろに青木の顎をとらえ、追撃のパウンドの最中にレフェリーが割って入った。
 まさかの殊勲。誰もが青木の勝利を疑わなかった中での価値ある勝利だった。

(有)椎名大百貨店

2008-07-23 10:52:52 | マンガ
椎名大百貨店 (サンデーGXコミックス) (サンデーGXコミックス)
椎名 高志
小学館

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「(有)椎名大百貨店」椎名高志

 ・名作「GS美神極楽大作戦」の外伝、「GSホームズ極楽大作戦」(申し訳程度にピートが出てくる)。
 ・灰色の青春を送る二浪の青年・海老名のもとにいきなり降って湧いた美少女・パンドラにまつわる愛と煩悩の日々「パンドラ」。
 ・たまたま人命救助した代わりに自分の命を落とした青年と、時を操る少女のお話「TIME SLIPPING BEAUTY」。
 ・懸想した武士の死体を操り思うままにしようとする蜘蛛の化身の物語「蜘蛛巣姫」。
 ひさしぶりに読んだ椎名作品だが、どうもぱっとしない。短編にGS美神レベルのギャグを求めるのが間違っているのかもしれないが、なんだろうこの違和感は。
 個々の作品ごとに見てみれば、それなりに粒だっているのはたしかなのだ。男は煩悩に溢れパワフルだし、女の子は気が強くて健気で可愛い。身も蓋もない特有のギャグの切れ味も鋭く、面白くないわけでは決してない。
 ないのだが……でも、やっぱり「彼」の不在は大きい。クリープを入れないコーヒー(EX)じゃないけど、横島くんがいてこその椎名高志なのだ。貧乏で小者で神も引くほどの煩悩の化身の彼がいないと、どうしてもしっくりこない。「絶対可憐チルドレン」なんて知らない。横島くん、カムバーック。

楽屋裏(1)

2008-07-21 19:58:22 | マンガ
楽屋裏 1 (1) (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)
魔神 ぐり子
一迅社

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「いよいよ単行本発売ですよ、おめでとう。何か一言どうぞ」
「え。あー……連載当初はまさか単行本になるとは思いませんでした」
「うんうん」
「これもひとえに……編集長と一夜を共にした功績でございます」
「つっこんでやらんからな」

「楽屋裏(1)」魔神ぐり子

 この顔に、ピンときたら……じゃないけれど、この冒頭のやり取りに感じるものがあったら即買い間違いなし。金髪縦ロールの漫画家ぐり子と、剣道の面をかぶった編集者小柳が、「黙れ三段腹」とか「真人間ぶりやがって」とか、情け容赦のない言葉を応酬する様がとてつもなく楽しい。
 問題があるとすれば構成で、表題作の「楽屋裏」が80ページ。ひょんなことから同居することとなった河童との日々を描いた「かわたろう。」と、河童とえりんぎ(?)のフリートーク「きのことかっぱ」が合わせて65ページというのは抱き合わせ販売にも程があると思う。しかもこの2作がつまんないし。ゼロサムという雑誌は読んだことがないが、本当に良識を疑う。
 とはいえ、表題作の面白さは特筆もの。最近2巻が出たということなので、そちらも要チェックなのだ。

かげふみさん(1)

2008-07-18 19:56:20 | マンガ
かげふみさん 1 (1) (バーズコミックス)
小路 啓之
幻冬舎コミックス

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「かげふみさん(1)」小路 啓之

 影を踏めるほどの距離に近づいても気づかれないほどに存在感の薄い女・めぐみのメグ、通称かげふみさん。自らの特殊能力を生かした彼女の職業は、ズバリ尾行屋。一定期間ターゲットに密着し、生活のリズムや隙を余すところなく依頼人の選んだ殺し屋に伝える闇のお仕事だ。
 なんせ店員にすら気づかれず注文を聞きに来てくれないくらいなのだから、彼女の生活はとても孤独だ。依頼人とターゲットと殺し屋と元締めくらいしか人間との接触がない。ミニマムな人間関係の中に生きる死に神は、たった一つの願いをかなえるために、今日も血塗られた道を歩むのだ……。

 人を選ぶ。
 アイデアは面白いのだが、いかんせん下ネタが多すぎる。おとなしく影が薄いネタで引っ張ればいいのに、やれ手淫だ、オナホールだ、打ち止めの赤玉だと、こうして書くのすら恥ずかしいような卑猥な単語の雨あられ。
 だが、いいところもある。強迫神経症のくせにあっさり軽い性格のかげふみさん。東京プリンそっくりの元締め・がじゅ丸。2人のぽんぽんとテンポの早いやり取りが心地よい。堤幸彦のドラマを思わせるようなシュールギャグメインの構成も好印象。
 お世辞にも、おすすめのとは言いがたいのだが、見放してしまうには惜しい気もする。判断の難しい作品なのだ。

FLIP-FLAP

2008-07-16 09:05:57 | マンガ
FLIP-FLAP (アフタヌーンKC)
とよ田 みのる
講談社

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 昔からあるもので
 アナログで
 ゲームが持つ本質的な意味での楽しさにあふれたアメリカ産まれの遊戯機械
 直径1インチの鉄球が混沌の中を跳ね回るエキサイティングなゲーム
 それはつまり……

「FLIP-FLAP」とよ田みのる

 世界初? ピンボールをテーマにした青春ラブコメ。
 自分でもうんざりするほど「普通」の高校生・深町くんは、卒業式の当日、自己変革の為に、同級生だった山田さんに告白する。どうせダメだろうと半ば諦めモードの深町くんに返ってきた答えはイエス。しかしそこにはやっかいな条件がついていて……。
 トワイライトプレイスという台で、UFOと名乗る正体不明のプレイヤーが弾き出した最高得点3123670320を超えれば付き合ってくれるという山田さんの試練に挑むことになった深町くん。ゲームは得意なほうだと自負していた彼の自信は、ピンボールの奥深さの前に粉々に打ち砕かれる。
 諦めるのは嫌だ。でもゲームは娯楽じゃないか。娯楽は余暇でやるものであって、本気になるのは恥ずかしいよ。
 なのに山田さんは世の中で最も大切なものだという。事実彼女は本気でピンボールに打ち込んでいて、負ければ歯軋りするほど悔しがって……。
 下心と理性の狭間で悩みながら、深町くんは着実に上手くなっていく。山田さんと、彼女を囲む男どもにもまれながら一年が過ぎ、
「俺が楽しんでいなかったのは、ピンボールにじゃない。俺の人生にだ!」 
 ようやく彼は気づく。気づいてからの表情の変化が良い。
 大好きなピンボールを忘我の境地に達するまでひたすら打ち続けること。遊びといえど本気で打ち込むこと。ピンボールだけでなく人生にも向き合えるようになった彼の成長がびんびんと伝わってきて、読んでる方まで気持ち良い。

 ギャラリーを背負う快感。プレイヤーと心重ねる一体感。なんだか懐かしいこの感覚は、昔ゲームセンターに通っていた時分に味わったものだ。マジック・ザ・ギャザリングをやっていた時にも感じたことがあったっけ。
 ある種の勝負事に共通する、飛行機でも車でも、超特急の列車でも辿り着くことのできない「その場所」の存在を綺麗に描ききった佳作。独特な絵のタッチは好みの別れるところだろうが、ゲーム好きなら一度は読んでほしい作品だ。

今夜、すべてのバーで

2008-07-13 12:15:51 | 小説
今夜、すべてのバーで (講談社文庫)
中島 らも
講談社

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 よく、「酒の好きな人がアル中になる」といった見方をする人がいるが、これは当を得ていない。アル中の問題は、基本的には「好き嫌い」の問題ではない。

「今夜、すべてのバーで」中島らも

 ではどういう問題なのかというと、肉体と精神の鎮痛、麻痺、酩酊等、アルコールの薬理効果を渇望する人にアル中は多い。らしい。
 なるほど、と唸らされた。さすが実体験をもとにしているだけに説得力のある言葉だ。
 本作は、アルコール依存症の中島らもが、自身にだぶらせたかのような男・小島容(いるる)を主人公にした長編小説だ。売文業で口を糊する不良中年が、ふと迷い込んでしまった混沌の世界。何年もの間続いた連続飲酒の果てにたどり着いたアルコール病棟での日々を描いている。
 特異な場所だけに、登場人物の奇行が目立つ。夜泣き爺、浪花のふぐ職人、下ネタばかり話す三婆、そしてなにくれとなく小島の面倒を見てくれるかつての親友の妹・天童寺さやか。おかしな人たちのおかしな行動の中に、アル中に関するリアルな知識が入り混じって、作品自体が酩酊の度を深めていき、ついには……。

 吉川栄治文学賞にも輝いた、中島らも渾身の快作。らしい。
 らしい、というのは、恥ずかしながらこれが中島らも初見だからだ。ネームバリューはあれど、作家業以外のミュージシャンや劇団長などの活躍が目覚しい作者のことを心の中で侮っていた。本当に後悔している。
 作品のほうは、もちろん素晴らしい出来。これほどクールな視線でアル中を描いた小説は、ちょっと他に思いつかない。唯一無二の人だったのだなと、故人を偲ぶとともに、目下絶賛乱読中だ。どれもこれも面白くて、嬉しい。組めど尽きせぬ源泉を掘り当てたようで、これがまさに本読みの楽しみというものだろう。