はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

ブラッディ・マンデイ②

2007-11-29 21:20:48 | マンガ
BLOODY MONDAY 2 (2) (少年マガジンコミックス)
恵 広史,龍門 諒
講談社

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 いくら技術があっても所詮はコドモ……
 まだそんな気持ちを消しきれていなかった……

「ブラッディ・マンデイ②」龍門諒×恵広史

 ブラッディ・マンデイという謎のキーワードとともに暗躍する組織の手が藤丸の妹・遥に迫る。元SWATの殺し屋ジャック・デイモンが、遙のガードについていた「THIRD-i」の構成員・宝生の胸を至近距離から打ち抜いて排除し、主治医の富永ごと連れ去った。遙の携帯から届いたジャックの要求は、変電所のハッキング……。 
 敵の手に協力無比なウイルスがあるとわかっていても、まさかここで手をこまねいているわけにはいかない。藤丸のハッキング能力に加え和弓の使い手・九条と空手少女・朝田という実行部隊を擁する新聞部は、変電所のシステムへの侵入を企てる一方でジャックの居所を探す。
 GPS追跡に交通管制の掌握。かつてペンタゴンをもハックしたファルコンの真価発揮はまだまだといったところだが、銃も兵隊も持たない少年少女が凶悪な犯罪者を追う様は緊張感に溢れていて目が離せない。完全に相手をコントロールしきったと感じた瞬間の藤丸のトリップした表情に心魅かれつつ、先を楽しみに待ちたい。

床下仙人

2007-11-27 19:48:51 | 小説
床下仙人
原 宏一
祥伝社

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 最近ではそれほどでもなくなったが、ちょっと前までは常に残業100時間を超えていた。誰かに特別集中しているわけでもなく、職場の全員が満遍なく働きづめになっていた。平日も祝祭日もないワーキングデイを乗り越えながら思うのだ。自分は何のために働いているのか。答えはわかりきっているけど、考えずにはいられない。それはきっと当事者だけでなく……。

「床下仙人」原宏一

 この家には何かいる。
 深夜残業して打ち込んでいた報告書が、一瞬にしてパーになった。
 女に猟銃を突きつけられた。
「どうです、この際、社長をひとり置いてみませんか」
 渋谷駅前で信号待ちをしていたら、いきなり靴を磨かれた。

 いずれ劣らぬ魅惑的な出だしで始まるのは、原宏一の手による5本の短編集だ。
 表題作の「床下仙人」では郊外に無理して買ったマイホームに出没する仙人のような男の謎に迫り、「てんぷら社員」では密かに社内恋愛を営む男女が遭遇した50代の平社員の奇行に驚き、しばらくぶりに海外から帰宅してみたら自分のマンションが女ばかりの「戦争管理組合」によって武装制圧されていたり、月ごとに変わる「派遣社長」の営業方針に翻弄されるデザイナーの苦悩や、若い女とリストラサラリーマンの街角靴磨きゲリラ「シューシャイン・ギャング」の送る牧歌的な日常を味わっているうちに、あっという間に時は過ぎる。
「有り得ないだろ、それ」な意見も力ずくで納得させる文章力のおかげで、さほど違和感なく読める。仕事に追われ生活を失った主人公たちの苦悩は企業戦士ならずとも相槌を打てるものだし、各話ごとに築き上げる彼らだけのミニマムな世界にはどこか慕情を誘うものがある。そしてなんといってもコミカルなタッチが好印象。栄養ドリンクじゃないけれど、お疲れのあなたにファイト一発、心の栄養。ぜひお試しあれ。

「ツマヌダ格闘街(2) 」

2007-11-24 18:54:07 | マンガ
ツマヌダ格闘街 2 (2) (ヤングコミックコミックス)
上山 道郎
少年画報社

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 空手をやっている。
 最近、基本練習や型、ミット打ちだけでなく組み手の練習が増えてきた。素人の寄せ集めといえどもその中には先輩も後輩もある。序列がある。越えたいと願う者がいれば負けられるかと鼻息荒い者もいる。にわかに活気付いた武道館の中で、気づいたことがひとつある。
 攻撃を知るということは、防御を知るということでもあるのだ。突きと蹴りを覚えたことによって相手の攻撃がわかり、体で感じられるようになり、結果的に組み手が白熱する。どこから手が出てくるのか足が飛んでくるのか、間合いは、スピードは。誤差はもちろんあるけど、以前とは比べるべくもない上達した自分達がそこにいる。今まで気づかなかったこと。そういう武道の真理。

「ツマヌダ格闘街(2)」上山道郎

 町おこしの一環で、路上での格闘技の試合と興業が合法化されている格闘技特区・妻沼田。文科系100%の温厚男・八重樫ミツルはイラストレーターを目指して上京したものの、メイド服の格闘美少女ドラエさんに鍛え上げられ、ストリートファイターになってしまう。戦いとは縁遠かったそれまでとは真逆の生活の中で、ミツルは戦うということの、強弱ということの意味を知りたいと感じる。それは人生初めての強さへの渇望であった……。
 んで、ミツルの妹のラミィが押しかけ上京してきたのが1巻までのあらすじ。 2巻は、新たにチアメイドになったラミィとドラエとともに連勝街道を驀進するミツルのサクセスストーリー……にはもちろんならない。陳式太極拳を操る王姉弟の弟に完膚なきまでに敗れたミツルが命がけの断食修行の末に突きを覚え、なぜか王姉弟と共同生活を行う中で人それぞれの戦う理由を模索するようになるまでを描いている。

 出てしまった中国拳法。「理詰めなら」立ち技最強だけに、王姉弟の弟・ジロー・王の強さは圧倒的だ。多少かじった程度のミツルの古武術はもちろん、テコンドーも柔道でもかなわない。
 腰を入れた突きを覚えたことによる防御力アップとか、ミツルの成長も著しいはずなのだが、ジロー王の背中は遠く果てない。しかしそこはいいところでもある。長い時間をかけて、じっくり着実に格闘技を身につけていく過程こそがこの漫画の醍醐味なのだから。

SAW3

2007-11-21 16:27:04 | 映画
ソウ3 DTSエディション

角川エンタテインメント

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 ホラー映画にはハードロックがよく似合う。暗くおどろおどろしい雰囲気と耳をつんざくギターの音が相性よく混ざり合って、物語に入りやすいよう気分を盛り上げてくれる。しかし中には入り込みすぎてしまうとやばい作品もあるわけで……。

「SAW3」監督:ダーレン・リン・バウズマン

 小学校を舞台にした猟奇殺人の現場に臨場した女刑事ケリー(ディナ・メイヤー)は、もう動けないはずの連続猟奇殺人犯・ジグソウ(トビン・ベル)の仕業ではないと直感する。だがそれでは誰の仕業かというと皆目検討もつかない。困惑しながらも帰宅し、その夜遺留品のビデオテープを見ていると、不思議なことに今現在の自分の部屋の状況が映っていて……。
 前作からの登場人物をあっさり退場させるツカミから入った大ヒットシリーズ「SAW」の3作目は、ジグソウとその弟子アマンダ(ショウニー・スミス)の本拠地が舞台。
 脳腫瘍によって余命幾ばくもないジグソウの手術をするため女医のリン・デンロン(バハー・スーメク)を捕らえ、「ジグソウが死ぬか逃げようとすると死ぬ」首輪をつける。彼女のゲームの内容は「ある男のゲームが終わるまでにジグソウの心拍数が0にならないようにする」こと。
 当のある男・ジェフ(アンガス・マクファーデン)には「脱出ゲーム」。彼の息子が轢き殺された事件の現場を目撃しながら逃亡した女、その事件を担当した判事、轢き殺した犯人、の3人が残酷な拷問器具に捕らわれ死亡寸前のところを赦し、救ってやりながら脱出できるか、という恐ろしいもの。
 冷凍庫で凍死、巨大なドラム缶の底で豚の体液に浸され溺死、体中の関節を逆に捻られる装置で首を捻られ即死。あまりにも凄まじい拷問を見るに耐えかね、束の間復讐心すら忘れて赦しを与えるジェフ。だがそこはジグソウお手製の拷問器具。当然うまくいくはずもなく……。
 
 シリーズも3作目までくるとさすがに新鮮味に欠ける。「最初から犯人が出ずっぱり」という弱点も相まってか、1、2作目で感じたような恐怖はなかった。
 しかし痛みの表現にはさらに磨きがかかり、シリーズ最高の痛さに顔を背けたくなるシーンが盛り沢山で、心臓の弱い人には絶対おすすめしない。正直、考えた人の正気を疑う。
 ストーリー的にはシリーズ通しての謎がジグソウとアマンダの視点から見る事でようやく明らかに。1作目の被害者のエリック・マシューズ(ドニー・ウォールバーグ)のその後とか、知りたいような知りたくなかったようなことまで教えてくれて、初見のお客を置き去りにして、ここに関してはほめていいんだかけなしていいんだかわからない。
 だが一方で良心的な作りである事はたしか。どの謎ひとつとったってきちっと伏線が張られているし、なるほどと唸らされる場面も多い。ラスト10分切ってからの一気呵成のどんでん返しもキレがよく、シリーズ通して見ている人なら是非に、というところ。え、3から? それはちょっと……。

大江戸ロケット①

2007-11-21 11:32:18 | マンガ
大江戸ロケット 1 (1) (アフタヌーンKC)
浜名 海
講談社

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 落下傘が好きだった。
 空中でパンッと弾けていくつかの落下傘に分離する花火。子供会の花火大会でよく打ち上げられた。
 着地地点を追う皆の顔は、一様に輝いていた。光の照り返しを受けてきらきらした目で、一心に落下傘を追っていた。
 花火には夢がある。無数の夢を投影する懐の深さがある。つまりは人それぞれに見かたがあり、だからこそ人は足を止め天を仰ぐ。自らの夢を追って。

「大江戸ロケット①」漫画:浜名海 原作:中島かずき

 天保13年5月(西暦1842年)、時の老中水野忠邦は、悪名高き天保の改革において華美・奢侈の取締りを定めた。庶民の生活にまで踏み込んだ実行力を伴う改革のせいで、その夜もひとつの祭りが壊されそうになった。祭りの中止を求める奉行所の役人たちが、立ちはだかる町奴たちを力ずくで制圧したのだ。やはりお役人には勝てないのだと意気消沈する町民たち。彼らの目の前で、夜空に大輪の花が咲いた。華美・奢侈の権化である花火の連発は役人たちを嘲笑い、町民たちの顔に光を取り戻した。
 玉屋の屋号を関する花火師・清吉は相棒・駿平と共に川の中州から船に乗り込んで川面を急いだ。奉行所の追手を振り切るためだ。だが船内に闖入者が現れる。飛び移れる橋も岸もない、まったくの中空から現れた少女は、ソラと名乗った。
 月に帰れなくなったかぐや姫を自称するソラを、いきがかり上月に帰さなければならなくなった清吉は、ともかくも長屋に引き帰し、大家の許可を得て人別帳に妻としてソラの名を加え、善後策を練るのだった。
 時を同じくして、鳥居甲斐守忠耀の元には配下の隠密同心が集っていた。出没が噂される浅茅ヶ原の妖怪を退治するためだった。最近空に流れた二つの流れ星・天狗星の化身ではないか。この国に滅びをもたらすのではないかと懸念されるからであった。
 一方、清吉たち一行は遠く紀州まで旅に出ていた。花火師の里・星降り村で、月まで届く龍星(ロケット状の花火)の協力を頼むためだった。そうでなければ村の広告塔を辞めるぞと脅しを含め、しかしあまりにも荒唐無稽の話すぎてこじれにこじれ、結局村一番の龍星の達人・鉄十との飛距離勝負をすることになるのだが、清吉に近づきすぎるソラを追い出したい一心の駿平が敵に回ってしまい、こちらもこじれにこじれるのだった。

「劇団☆新感線」の同名舞台を漫画化したもの。アニメ化もしているらしいが、正直どちらも知らない。しかし面白そうな話であることはこの一巻を読んだだけで十分わかった。なんといっても題材がいい。天保年間の、厳格な掟に縛られ鬱積した人々の思いを晴らす花火師なんてかっこいいじゃないか。かぐや姫との恋はさすがに古典的だけど、ステロゆえのよさがある。
 浜名海もこの漫画が初単行本らしいが、相当いい。「マップス」の長谷川祐一を思わせる柔らかく伸びのある描写に加え、風景や様々な小物に感じられる厳密な時代考証。キャラクターの生活感もばっちりある。江戸の風景の美しさに関しては、なかなかこれほど書ける人はいないだろう。先が楽しみな作品だ。

誰もわたしを倒せない

2007-11-17 22:30:05 | 小説
誰もわたしを倒せない (創元推理文庫)
伯方 雪日
東京創元社

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「プロレスってショーでしょ?」
 そういわれるとムカつく。
「なんでロープに振ったら跳ね返ってくるの?」
 とか、
「16文キックって(笑)」
 などもっての他。全力でプロレスの面白さをアピールするものの、伝わったためしは一度もない。徒労と屈辱のみが残る。
 だけど信じている。かつて夢を見させてくれた人たちの、不屈の闘争本能。彼らの立ち上がる姿を思い出せるかぎり、俺はプロレスを愛し続ける。 

「誰もわたしを倒せない」伯方雪日

 凍てつくような寒い日、警視庁5方面富坂署刑事課の刑事・三瓶はその男と出会った。後楽園ゆうえんちのゴミ捨て場に遺棄された身元不明の死体は、筋肉質の素晴らしい肉体をしていた。ナイフ状の刃物で左胸を一突きされたのが直接の死因だが、他にも襟足から後頭部にかけての髪が切り取られるという不思議な痕跡が残されていた。
 格闘技マニアの新米・城島の指摘で被害者の身元が新東京革命プロレスのマスクマン・カタナと判明。勢い込んで本社ビルに乗り込んだ二人だが、社長の寿には軽くあしらわれ、部下の犬飼には催眠術のような人心掌握術で翻弄される。孤児院出身というところまでは掴んだものの、素顔に迫れば迫るほどカタナという人物の謎は深まる一方で……。
 
 かつて、プロレスラーこそ地上最強だった時代があった。鋼のような肉体とど派手なパフォーマンスに子供たちが熱く酔いしれた時代があった。金的・目潰し・急所攻撃以外はなんでもありのヴァーリ・トゥードがこの世に姿を現すまで、それは続いた。
 ショーに偏向し、アングラなコミュニティのひとつに成り下がった今のプロレスに忸怩たる思いがある人は多い。この作者もその一人。プロレス黄金時代からヴァーリ・トゥードの黎明、過渡期を経て現在に至る流れを描ききった。城島や犬飼その他のレスラーたちの視点から、アングルとシュートの違いというタブーにも触れた。
 ミステリ短編集という形式だが、ミステリ要素はそれほど濃くない。密室殺人もアリバイ崩しもあっさりたんぱく。だがそこに「妄執」、「覆面」、「プロレス業界の常識」などのエッセンスを加えることによって、独特の風味を出すことに成功している。プロレスの栄光と落日。血と汗と欲得にまみれた歴史。行間に滲み出すスープの量は読者によって違う。プロレスに割いた時間の多い人ほど、この本は味わい深いものになるはずだ。

スポーツドクター

2007-11-14 19:59:32 | 小説
スポーツドクター (集英社文庫)
松樹 剛史
集英社

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 中学、高校とソフトテニスをやっていた。当時特別流行っていたスポーツではなかったが好きだった。勝ち星に恵まれなくたって続けられた。楽しかった。
 先輩や後輩や仲間たちと築く閉じた空間が、共に流した汗の匂いが、今も脳裏をよぎる。

「スポーツドクター」松樹剛史

 主人公・夏希はバスケットボール部のキャプテン。高校生活最後の大会を仲間たちと一緒に勝ち抜くために、前十字靭帯の損傷を隠して練習に励んでいた。しかし膝をかばうためにつけた筋肉のせいで逆にアスリート専門医の靫矢(うつぼや)にバレ、大会への出場を断念することを余儀なくされる。
「すごくね、楽しかったの。部活がさ。よく大人の人が言うじゃない。学生のころが一番楽しかったって。わたしは現役の高校生だけど、そう思えちゃったのよ。みんなと騒げる今が、一番楽しいんだろうなって。それを大切にしたいと思うのは、先生、間違っているのかな」
 みんなと一緒にいられなくなることを泣く夏希のあまりの落胆ぶりが可哀想になった靫矢は、魔法のテーピングを巻くことと、後半の残り5分だけの時間制限を設けることを条件に夏希の大会出場を許可する。
 5分間だけのヒロインの活躍でトーナメントをいいところまで勝ち進んだものの、地力の差でチームは負けた。
 最後の夏が終わり、夏希の中に残ったものは靫矢への感謝の念と、アスリート専門医という職業への好奇心だった。靫矢のスポーツクリニックでバイトすることになった夏希は、自分と同じように大好きなスポーツで傷ついたりその道を断念せざるをえなくなった人たちの心を癒すことを夢想した。損得でなく純粋な善意を原動力に走り回る少女の心が奇跡を……。
 起こしたりはしない。野球肘、摂食障害、ドーピング。様々なアスリートたちの怪我や症状に夏希は全力でぶつかっていくものの、劇的に癒したり事態を解決に導くことはできない。でも、もしかしたらなんとかなるかもしれない。体はダメでも心は快方に向かうかもしれない。わずかなIFに希望を託し、彼女は今日も行くのだ。悩みながら戸惑いながら、前を向くことをやめないのだ。
 
 身近な現場で活躍するスポーツドクターと、それを補佐する女子高生の話だ。ドラマチックな展開も驚異の真実もなく、スポーツによって起こる日常の小さな悲しみを淡々と描いている。
 主人公の夏希は、天使でも妖精でもない、運動神経と柔軟性以外なんの取り柄も無い女子高生。だから被害者には何もできない。ただ靫矢の仕事を少しでもやりやすいようにするというくらいの役割で、無力なことこの上ない。それがとてもリアルだ。
 作中登場する、「体育至上主義、勝利至上主義」に偏った日本というモチーフにも重みがある。純粋に楽しむためにスポーツを与えられない子供たちは可哀想だ。辛いことも苦しいことも耐え抜けるのは、必ずしも栄冠のためではないだろう。誰かと一緒にスポーツをすることそのものの中にこそ、きっとモチベーションがある。

大東京トイボックス②

2007-11-11 16:18:17 | マンガ
大東京トイボックス 2 (2) (バーズコミックス)
うめ
幻冬舎コミックス

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 過日、同窓会があった。
 学生時代何度も待ち合わせた池袋駅のいけふくろう。ひさしぶりの人ごみの中、いつの間にか迷っていた。案内所に聞いてようやくたどりついた先に、サークルの仲間たちが昔と変わらぬ陽気な態様で待っていた。
 酒に酔い、昔話に花を咲かせているうちに、8年間という空白はすぐに埋まった。いろんな話をした。出席しなかったメンバーの消息。サークルがもう存在しないこと。今現在と今後の身の振り方。
 漫画家を目指していた後輩がいた。苔の一念でデビューを果たした彼が、巻頭カラーを飾る雑誌を読ませてもらった。
 ……黒と白のコントラストが鮮やかな劇画調の作品を描く人間だった。当時は。

「大東京トイボックス②」うめ

 社長に月山チーフに天川、新人百田モモを加えて人材の揃ったゲーム製作会社スタジオG3。ヒット作「サムライ☆キッチン」の商標権売却の利益を元手に目指すはDS用ソフトの開発……と思いきや、なぜだか次世代ゲーム機での大作ゲーム製作コンペに打って出ることに。
 ゲーセン育ちの硬派ゲーマー天川率いるスタジオG3と組むことになるのは、同人美少女ゲーム製作で名を上げた根性曲がりのメガネっ子・半田花子率いる電算花組。燃えと萌えの対極にある者同士の才能のぶつかり合いが生み出したのは、「世界で最も長い三分間」がキーワードの、よもやのシューティング……。
 まさかこの手の漫画でJV(ジョイント・ベンチャーの略。建築土木の世界でいわれるところの共同企業体)なんて単語を聞くことになるとは思わなかった。しかもそれがストーリーを動かす起爆剤になろうとは。
「売れるゲーム」と「面白いゲーム」の折り合い方。天川を巡る月山と百田の恋の鞘当。「ゼビウス」、「ドルアーガの塔」などが置いてあった当時のゲーセンを覚えている大人たちの感傷など、見所豊富で目が離せない作品なのだ。

ヘアスプレー

2007-11-09 21:50:06 | 映画
ヘアスプレー DTSスペシャル★エディション (初回限定生産2枚組)

角川エンタテインメント

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 人生に疲れた?
 どうするか迷っている?
 そんなあなたにこの映画。暗い歴史をノリと笑顔で吹き飛ばす、ポジティブミュージカル。

「ヘアスプレー」監督:アダム・シャンクマン
 
 1988年公開の同名映画のリメイク。ブロードウェイでミュージカル化され、好評を博したもの。
 60年代のボルチモア。トレイシー・ターンブラッド(ニッキー・ブロンスキー)はヘアスプレーでガチガチに固めた髪の毛と、コロコロよく太った体がトレードマークの元気少女。親友・ペニー・ピングルトン(アマンダ・バインズ)と一緒にダンスの練習をして、いつかローカルダンス番組「コーニー・コリンズショー」に出演し、リンク・ラーキン(ザック・エフロン)と踊るという夢を持っていた。
 巨漢の母・エドナ(ジョン・トラボルタ)が無理だと止めるのも構わず番組のオーディションに出場したトレイシーだが、プロデューサーのベルマ・フォン・タッスル(ミシェル・ファイファー)に体型を理由に一方的にハネられる。しかし後日行われた黒人白人混合のダンスパーティーの会場で司会のコーニー・コリンズ(ジェームズ・マースデン)の目に止まり、番組レギュラーの座を獲得する。
 初めは否定的だったエドナも、ブラウン管の中を所狭しと跳ね回る娘の愛らしさに胸を射抜かれ、いたずらおもちゃ店を経営する夫・ウィルバー(クリストファー・ウォーケン)と共に全力で応援を開始する。
 持ち前の屈託のなさと自由なステップでたちまちお茶の間の人気者になったトレイシー。もし番組の女王の座を奪うことになったら何がしたいか、とのコーニーの問いに「ブラックデー(黒人のみが出演する日)を増やしたい」と答えて差別主義者のベルマを敵に回してしまう。折しも黒人解放運動真っ盛りのボルチモアに、暗雲が迫っていた……。

 白人? 黒人? デブ? SKN!
 SKNとは「そんなの関係ねえっ」の略だそうで……。
 外見差も能力差もSKN、と豪快に笑い飛ばすのが信条のこの映画、ニッキー・ブロンスキーを主役に据えた時点でその成功が約束されたといっても過言ではない。トラボルタの変貌ぶりもクリストファー・ウォーケンの怪演もSKN。メタボリックガールのサクセスストーリーと見せかけてのカラーピープル(有色人種)と白人種の交流と共闘、という裏テーマもSKN。 
 ダンス大好き。人生楽しい。だから前へ。もっと前へ。さあ一緒に踊ろう! 
 シンプルな理念に裏打ちされた彼女の行動は純粋で凛として美しく、曲がった背中やひねくれた根性を強引にまっすぐにしてくれる。世界は善意で成り立っているという嘘っぱちを束の間信じさせてくれる、素晴らしい映画だ。

映画に毛が3本!

2007-11-07 09:49:58 | マンガ
映画に毛が3本! (KCピース)
黒田 硫黄
講談社

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 映画好きの友達に恵まれてきた。学校で、帰り道で、熱く語らいぶつかり合った。打算も表裏もなかった。大人になって失ったものは多くあれど、これほど残念に思うものもない。

「映画に毛が3本!」黒田硫黄

「セクシーボイスアンドロボ」の黒田硫黄がヤングマガジンアッパーズに連載していた映画コラム。ページの右半分が文章のみのあらすじで、左半分がマンガによるちょっとした、それこそ毛が3本生えた程度の感想という構成になっている。漫画家の批評本としてはちょっと絵が足りない。
 あまりマニアックな映画は載っていない。メジャーなハリウッド映画と内容が重めの邦画、その他の外国映画もちらほらあるが、変な偏りはない。黒田硫黄という人のイメージからするともう少し踏み込んだ映画を見ていそうなのだが、雑誌掲載コラムだからしょうがないのか。まあその分、独特のタッチで描かれるメジャーな映画俳優が見れるので結果オーライ。
 で、肝心の毛が3本のほうはというと、これがなかなかユニーク。説明しづらい映画になると「とにかく見ろ」とか「なんだかすごい」でかわしてしまうのがあれだが、ダメなコのいいところを見つける黒田硫黄の視点は、趣味:映画鑑賞の人には是非持って欲しいものだ。「あの映画はクズだ」とか「バカ野郎。お前は全然わかってねえ」なんていう居酒屋での恒例のやり取りにも深みが出ること請け合い。
 ……なに? ○○○○○がつまらねえ? てめえ表に出ろ!