落下傘が好きだった。
空中でパンッと弾けていくつかの落下傘に分離する花火。子供会の花火大会でよく打ち上げられた。
着地地点を追う皆の顔は、一様に輝いていた。光の照り返しを受けてきらきらした目で、一心に落下傘を追っていた。
花火には夢がある。無数の夢を投影する懐の深さがある。つまりは人それぞれに見かたがあり、だからこそ人は足を止め天を仰ぐ。自らの夢を追って。
「大江戸ロケット①」漫画:浜名海 原作:中島かずき
天保13年5月(西暦1842年)、時の老中水野忠邦は、悪名高き天保の改革において華美・奢侈の取締りを定めた。庶民の生活にまで踏み込んだ実行力を伴う改革のせいで、その夜もひとつの祭りが壊されそうになった。祭りの中止を求める奉行所の役人たちが、立ちはだかる町奴たちを力ずくで制圧したのだ。やはりお役人には勝てないのだと意気消沈する町民たち。彼らの目の前で、夜空に大輪の花が咲いた。華美・奢侈の権化である花火の連発は役人たちを嘲笑い、町民たちの顔に光を取り戻した。
玉屋の屋号を関する花火師・清吉は相棒・駿平と共に川の中州から船に乗り込んで川面を急いだ。奉行所の追手を振り切るためだ。だが船内に闖入者が現れる。飛び移れる橋も岸もない、まったくの中空から現れた少女は、ソラと名乗った。
月に帰れなくなったかぐや姫を自称するソラを、いきがかり上月に帰さなければならなくなった清吉は、ともかくも長屋に引き帰し、大家の許可を得て人別帳に妻としてソラの名を加え、善後策を練るのだった。
時を同じくして、鳥居甲斐守忠耀の元には配下の隠密同心が集っていた。出没が噂される浅茅ヶ原の妖怪を退治するためだった。最近空に流れた二つの流れ星・天狗星の化身ではないか。この国に滅びをもたらすのではないかと懸念されるからであった。
一方、清吉たち一行は遠く紀州まで旅に出ていた。花火師の里・星降り村で、月まで届く龍星(ロケット状の花火)の協力を頼むためだった。そうでなければ村の広告塔を辞めるぞと脅しを含め、しかしあまりにも荒唐無稽の話すぎてこじれにこじれ、結局村一番の龍星の達人・鉄十との飛距離勝負をすることになるのだが、清吉に近づきすぎるソラを追い出したい一心の駿平が敵に回ってしまい、こちらもこじれにこじれるのだった。
「劇団☆新感線」の同名舞台を漫画化したもの。アニメ化もしているらしいが、正直どちらも知らない。しかし面白そうな話であることはこの一巻を読んだだけで十分わかった。なんといっても題材がいい。天保年間の、厳格な掟に縛られ鬱積した人々の思いを晴らす花火師なんてかっこいいじゃないか。かぐや姫との恋はさすがに古典的だけど、ステロゆえのよさがある。
浜名海もこの漫画が初単行本らしいが、相当いい。「マップス」の長谷川祐一を思わせる柔らかく伸びのある描写に加え、風景や様々な小物に感じられる厳密な時代考証。キャラクターの生活感もばっちりある。江戸の風景の美しさに関しては、なかなかこれほど書ける人はいないだろう。先が楽しみな作品だ。