はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

ヴィンランド・サガ(6)

2008-06-29 17:56:35 | マンガ
ヴィンランド・サガ 6 (6) (アフタヌーンKC)
幸村 誠
講談社

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 EeePCより、テストを兼ねての更新。

「ヴィンランド・サガ(6)」幸村誠

 トルケル軍の圧倒的な暴力と裏切り者のせいで瓦解したアシェラッド軍。救いの神のトルフィンは来たものの、トルケルとの一騎打ちに勝つという開放の条件は当然困難を極める。
 着込んだ鎖帷子と強靭な肉体の前に、トルフィンの短剣はむなしくかすり傷をつけるのみ。さらにトルケルの語る父・トールズの思い出はトルフィンの心を乱し、それがもとで致命的なダメージを負ってしまう。
 窮地を救ったのは皮肉にもアシェラッドだった。裏切りに満ちた誇り高き一族の末裔・アシェラッドとの共同戦線は、難攻不落と思われたトルケルに、よもやの土をつけるのか?

 盛り上がり続けるハイパーバトルファンタジー。最新巻は、ついにあの人の真の能力が目覚める。
 もちろんあの人なんて1人しかいない。つまり今後のシリーズの方向性を決定づける重要なターニングポイント巻。先の熱い展開も予想しつつ、絶対に見逃せない一冊だ。

HIGHSCHOOL OF THE DEAD 4

2008-06-26 15:16:01 | マンガ
「学園黙示録HIGHSCHOOL OF THE DEAD(4)」原作:佐藤大輔 作画:佐藤ショウジ

 生ける屍に追い詰められた小室一行は、高城沙耶の両親が指揮をとる右翼団体の拠点にたどり着いた。武装を施した構成員とバリケードに覆われた要塞に立て籠もり、ようやく一息つけると思っていた矢先、各国の先制核攻撃による高高度核爆発が、すべての電子機器の機能を狂わせた。携帯、PCはもちろん自動車などコンピュータ制御を伴うすべの機械が死んだ。
 電動ゲートの停止がもとで壊滅した高城家から逃れた小室一行は、再び街に投げ出された。機械の作る音が途絶え、生存者の消えた街を闊歩する生ける屍の大群。夕日と火災の赤が彩る大パノラマを前に、小室と剣術の達人毒島は、2人だけで別行動をとることにする。音に反応する生ける屍を引き寄せ、一行の安全を図るのだ……。

 電磁パルス攻撃という変化球がきいて、俄然盛り上がってきた現代型エログロゾンビアクションの第4巻。
文明の利器である電子機器が使えないのが素晴らしすぎる。こういったけれん味あふれる展開は、まさに佐藤大輔の面目躍如といったところ。
 けれん味といえば、キャラ造形の偏向ぶりにもますます拍車がかかって、それがいちいち佐藤大輔らしくスパイスがきいている。主人公が正ヒロインよりも存在感のある毒島先輩と行動を共にするシチュエーションがあるのだが、この毒島先輩、凜として品行方正な剣術家……以外の裏の顔を持っている。合法的に他人を叩き潰したいという病的なリビドーを抱えている。隠してこなければならなかったもう一人の自分を、異常事態の中でついに開放できる。信頼できる人間に吐露できる。奇麗事も建前もぶっとぶような、その圧倒的なカタルシス。
加速を続ける人間世界の壊滅と、畳み掛けるようなストーリー展開の妙に酔うべし。今後に注目の作品だ。

DREAM4

2008-06-24 17:05:19 | 格闘技
DREAM4 6/15

 格闘イベントDREAM第4弾。解説陣は高阪、須藤のいつもの2人。ラインナップも上々で楽しめそう。

第1試合ライト級2回戦 ○青木真也VS永田克彦× 1R1本(フットチョーク)
 柔道とレスリング。それぞれバックボーンの違うグラップラー同士の対決。
1R 永田が打撃にくるところに、青木、片足タックルからのテイクダウン。サイドからすんなりマウントに移動し、じっくりねっとり攻め続ける。開始から5分経過したところで、青木、柔らかな体を駆使してなんと上からのフットチョーク。
 永田、成すすべなし。

第2試合ヘビー級ワンマッチ ○アリスター・オーフレイムVSイ・テヒョン× 1RKO
 選手層の薄いヘビー級の1戦。
1R ひさびさ日本上陸のダッチサイクロンが堂々の活躍を見せた。15キロ以上の体重差をものともせず、韓国シルムの横綱を左右のフックで片付けた。

第3試合ヘビー級ワンマッチ ○ハレック・グレイシーVSガジエフ・アワウディン× 1R1本(腕ひしぎ逆十字)
 グレイシーの血族対ロシア軍特殊部隊スペツナズのガジエフ。打極の典型的な1戦。
1R 開始早々にテイクダウンすると、あとはグレイシー劇場の開幕。ガジエフに何もさせずに腕を極めた。

第4試合フェザー級ワンマッチ ○所英男VSダレン・ウエノヤマ× 判定3-0
 山本KIDと戦うために階級を落として参戦の所。対するはグレイシー門下の日系人。練習中にタップしない相手の腕を折ったことからボーンクラッシャーと呼ばれるダレン。容赦はないかもしれんが強い弱いは別だと思うが。まあそれはそれとして。
1R ダレン、上中下に蹴りを打ち分け、所の隙を窺う。
 対する所はローを放ちながら出足側の左フックを放っていく。グレイシー戦でも見せた膝を炸裂させ、グラウンドへ。
 目まぐるしい攻防の中、所は思い切りよく攻めるが、なかなか決定的なチャンスを作れない。
 途中、イノキアリ状態で下になった所へ、パスガードすると見せかけたダレンのパウンドが効く。さらに膝をもらいいきなりピンチになったが、所なんとか立ち上がり、足をかけてダレンを倒してしのぐ。あとにして思えば今日最大のピンチだった。
2R 打撃はリーチ差のある所が終始優勢で、たびたびチャンスを作る。グラウンドに関しても、過去2戦あったグレイシーとの対戦同様、鋭く変転する所を捕らえることはできなかった。
 判定3-0。
 
第5試合ミドル級グランプリ2回戦 ○ゲガール・ムサシVSユン・ドンシク× 判定3-0
 デニス・カーンを倒していきなり優勝候補に躍り出たムサシ対、目覚めた韓流柔道家ユン。
1R ムサシは対角線のジャブとローで攻める。
 打撃に付き合いたくないユンはぶん回す左右のフックから片足タックルでテイクダウン。
 グラウンドテクニックはほぼ互角。ムサシあっさりとユンの攻めをしのいで立ち上がる。
 ムサシ、得意の膝にローを織り交ぜた攻め。これが効き、ユンの動きが鈍る。
 後半にユンの腕ひしぎが極まりかけたシーンがあったがそれ以外は地力に勝るムサシが全局面で優勢。
2R ムサシ、グラウンドでバックマウントをとると、四の字ロックをキープし、ごつごつ殴る。1R終盤の攻防でスタミナの切れたユンは脱出できず、むごい状態のまま延々終了まで殴り続けられた。
 判定3-0。

第6試合ミドル級グランプリ2回戦 ○ゼルグ・弁慶・ガレシックVS金泰永× 1Rレフェリーストップ
1R 打撃噛み合わずに組み付いた金。倒れた拍子についた腕がおかしな方向へ曲がり、レフェリーストップ。前回の対戦でも開始早々にいきなりまぶたをカットしていたっけ。悔しい連敗。

第7試合ミドル級グランプリ2回戦 ○ホナウド・ジャカレイVSジェイソン・メイヘム・ミラー× 判定3-0
 超実力派の柔術家・ジャカレイに対するは、柴田勝頼戦で見せた余裕のピースが印象深い悪魔・ミラー。
1R ジャカレイ、組みついてあっさりテイクダウンを奪う。あら、これにて終了かと思いきや、ミラーここからがすごかった。ヒールホールド×2、チョーク×2、マウントにバックマウントとさんざんに攻め立てられながらも笑顔で切り抜け続ける。完全に極まったように見えたヒールホールドの最中に親指立てたシーンには会場騒然。「時々、ヒールが極まらない選手っているんですよね」コメントする須藤も半笑い。
 テクニックプラス脅威の柔軟性でエスケープされ続け、盛り上がる会場とは裏腹に、ジャカレイ困惑しきり。
2R 攻めているのに、圧倒的に優勢なはずなのにどうして……。苛立ちを隠せないジャカレイ、いきなり攻めが雑になる。というかスタミナ切れ。
 スタンド打撃はミラー優勢だが、こっちもスタミナ切れで膠着状態が目立つ中試合終了。
 2Rはあれだが、なかなか面白い試合だった。敗れはしたものの、ミラーの今後い注目。
 判定3-0。

第8試合ミドル級グランプリ2回戦 ○メルヴィン・マヌーフVS桜庭和志× 1RKO
 難敵、マヌーフを前にした桜庭の背に郷愁が漂う。
1R 様子見の膠着状態を、マヌーフの右ハイがいきなりぶち破る。必死にディフェンスしようとする桜庭の抵抗むなしく、パウンドの嵐がリングの上を吹き荒れた。

鹿男あをによし

2008-06-21 17:15:26 | ドラマ
「鹿男あをによし」脚本:相沢友子

 神経衰弱とライバルの成功により大学の研究室を追い出された小川(玉木宏)は、教授の薦めにより奈良にある奈良女学館の教師となる。初めての土地、慣れない教師業に加えて小川を目の仇にする生徒・堀田(多部未華子)のいじめにあい、早くも挫折しかけた小川を救ってくれたのは、下宿先の同僚・藤原(綾瀬はるか)だった。不器用ながらも一生懸命に慰めてくれようとする藤原の真心に触れた小川は、福原(佐々木蔵之介)や小治田(児玉清)といった優しい人々の手助けも受けつつ、教師業を続行する。
 そんな折、奈良公園で出会った鹿が小川に話しかけてきた。鹿は告げる。最近頻発していた地震の原因は、地の底深くに眠る大なまずの仕業であること。なまずを鎮めるためには狐の使い番の女から目と呼ばれる鎮めの道具を受け取らなければならないこと。その運び番として小川が選ばれたこと。鼠が邪魔をしようとしていること。
 荒唐無稽な話と鹿が喋るというダブルインパクトにさらされた小川は、半信半疑ながらも鹿のために働く。奈良、京都、大阪の姉妹校の運動部顧問が集まった親睦会の夜。小川は京都女学館の剣道部顧問・長岡(柴本幸)から謎の箱を手渡される。帰宅してからどきどきして開けてみると、中身は普通の八つ橋だった。事実を知った鹿は、「鼠に騙された」と決めつけると、小川の顔に印をつける。それは、鏡を見ると自分の顔が鹿になっている呪いだった。
 顔を元に戻すために目を探さなければならない小川は、藤原に秘密を打ち明け協力を得る。どうやらその目が三校の剣道部に伝わる優勝プレート「サンカク」であることを突き止めた2人は、剣道部を率いて三校の交流戦・大和杯に優勝するため奔走する。だが弱小を極める奈良女学館剣道部には、まっとうにやっても勝ち目がない。途方に暮れているところへ、堀田が現れる。彼女は剣道部には所属していないが町の道場の娘で、どういう風の吹き回しか剣道部に力を貸してくれるという……。

 万城目学の同名小説をドラマ化したもの。小川が不運の塊であったり、男だった藤原を女にしたりと微妙に手を加えている。らしい。
 原作は読んでいないのでわからないが、綾瀬はるかの起用は大正解。古代史好きで話し出すと止まらなくて、お酒好きで絡み酒で、小川に負けず劣らず不運だけど前向きで……と完全にツボを突かれた。特別綾瀬はるか好きではなかったのだけれど、藤原はいいキャラ。これだけでも見る価値がある。
 小川=玉木宏もかなりいい。二枚目アピールは一切なく、不運で神経衰弱で、小心者だけど楽天家で、自分勝手な妄想野郎とあまりいいところはないのだが、それが逆に存在感を増す要因になっている。藤原を異性として意識せず、長岡一辺倒だったくせに最後はおいしいところをもっていくのも変にリアルだった。
 ストーリーはトンデモだし、謎解きの出来も微妙。原作はどうか知らないが、ドラマでは素直に登場人物同士の掛け合いを楽しむのが吉。

ザ・マジックアワー

2008-06-19 21:46:58 | 映画
 マジックアワー:日没後の、残光が空に淡いグラデーションを描く美しい時間帯。

「ザ・マジックアワー」監督:三谷幸喜

 昭和の風情を今も残す港町・守加護のギャング「天塩商会」のボス(西田敏行)の愛人のマリ(深津絵里)に手を出した備後(妻夫木聡)は、コンクリを抱かせて沈められる代わりに伝説の殺し屋「デラ富樫」を連れてくることを命ぜられる。
 知り合いだとタンカを切った手前、表面上は余裕のそぶりをみせたものの、デラ富樫が何者であるかも知らなかった備後には、顔すらも謎の殺し屋を連れて来ることは難しい。捜索の期限が迫る中、いよいよ切羽詰った備後のとった手は、俳優・村田大樹(佐藤浩市)をデラ富樫に仕立てあげることだった。
 一方、クドい演技のせいでいつまで経っても売れない村田は、自分が主役のしかもギャング映画と聞いて胸を躍らせる。しかし監督が素人の備後であること、台本がなくスタッフも極少人数であることに不安も覚える。マネージャーの長谷川(小日向文世)にせっつかれるとそのふり幅はいよいよ大きくなるが、かつて憧れた銀幕のスター・高瀬允(柳澤愼一)のような名台詞を吐く夢を捨てられず、ぎこちないギャング映画の撮影の日々に没入していくのだ……。

 三谷幸喜の勘違いコメディ。十八番の分野ということもあり、脚本の完成度はさすがに高い。
 人間関係が淡白すぎてちょっと入り込みにくいが、そうそうたる顔ぶれのキャストの個々の演技力が、弱点をものともせずにぐいぐい魅せる。
 とくにデラ富樫兼村田大樹役の佐藤浩市の、夢見ることに疲れた三流俳優ぶりはお見事。天塩商会ボス役の西田敏行とのシュールなやり取りは、本作最大の見せ場。
 表題のマジックアワーは映画用語らしいが、この言葉が映画の随所に効果的に響いていて印象的だった。人生のマジックアワー。毎日のマジックアワー。優しくて儚い言葉だ。

それでも町は廻っている(2)

2008-06-19 00:33:26 | マンガ
「それでも町は廻っている(2)」石黒正数

 人情味豊かな下町の丸子商店街に、場違いにも存在するメイド喫茶・シーサイド。従業員はマスター兼メイド長の磯端ウキと、よく笑いよく泣くドジっ娘・嵐山歩鳥。しっかり者を鼻にかけるメガネっ娘・辰野俊子。主な客は商店街の魚屋とその息子、八百屋、クリーニング屋の親父のみという超零細だが、個性あふれる人々に支えられて、店はいつも賑やかだ。
 歩鳥に惚れている魚屋の息子・真田と、その真田に惚れている辰野、真田の気持ちに気づかぬ鈍感魔王・歩鳥の三角になりきらぬ三角関係が築くごたごたが生み出す町内会の温泉旅行先の旅館での一夜を描いた「乙女の誘いは奈落の罠!?」。
 歩鳥とツーカーの仲の紺双葉との緩い日常から一転、ギャグ漫画に似合わぬあの世の世界を描いた表題作「それでも町は廻っている」。
 出来のいい弟・猛と歩鳥の夜更かしの冒険「ナイトウォーカー」。
 などなど、各話、意義も面白みも目白押しの傑作揃いで、第2巻もやっぱりおすすめだ。とくに「ナイトウォーカー」は、子供の頃に誰もが体験したであろう夜更かしや夜歩きの持つ魅力が描けている。
「……それよりあんたの荷物、なに?」
「旅の装備。夜は敵が強いんだ」
 なんてことのない姉弟のやり取りが微笑ましくて良い。

名残り火 てのひらの闇2

2008-06-15 18:01:05 | 小説
 頭を傾けた。大原が私の脇で横たわっていた。彼女もスーツを着たままだった。覚えのある麻のサマースーツ。なんだ、おまえさん、まだいたのか。私は笑ったように思う。そして、すまんな、もう一度そういったようにも思う。大原は泣き笑いのような表情を浮かべた。とたんにその目に大粒の涙がふくれあがり、直後、表面張力をなくして崩れていった。

「名残り美 てのひらの闇2」藤原伊織

 今はなきケイタイ飲料宣伝部の敏腕課長だった堀江雅之は、単身企画会社を経営していた。零細だがわずらわしい人間関係もなく心地のよい環境に満足していた堀江のもとに、かつての上司にして無二の親友・柿島隆志の危急の報せが届く。
 病院であえなく死亡した柿島の死因が夜の街での集団暴行にあると聞いた堀江は、事件の背景にきな臭いものを感じる。美貌の未亡人・奈穂子の制止も振り切り真相解明に乗り出した彼の前に広がるのは、コンビニ業界の深い闇……。
 元部下・大原、取引先の社長・三上、バーの経営者・ナミちゃん、柿島の死を悼む者の力を借りて、堀江は再び動き出す。胸の内にあるのは暗く淀んだ炎。かつてあった、そして忘却のうちに葬り去ろうとしていたある種の衝動。
 柿島はなぜ死ななければならなかったのか。奈穂子との過去に何があったのか。40男の仇討ちはやがて意外な方向へと転がっていくのだった……。

 去年逝去されたハードボイルドの旗手・藤原伊織の遺作2編のうち1編。文藝春秋誌に掲載されたものに改稿を加えている最中に本人が亡くなったので、文字通りの最後の作品となる。
 サブタイトルからもわかる通り、内容は「てのひらの闇」の続編で、堀江や大原など懐かしい人物が登場する。あえてバックボーンに触れてはいないが、堀江の身の振り方に決着をつけたかったように思われる。ラストが藤原伊織らしくない終わり方になっていることに、時期的にも穿った見方をしたくなるが、野暮になるのでいわない。
 出来は悪くない。広告業界やコンビニ業界という藤原伊織得意の路線は、さすがの知識量と説得力で、見る者を納得させる力がある。文章も独自のエスプリが聞いていて、それ自体読んでいるだけで日本語の面白さを感じる。
 でも、それは今までの藤原伊織にもできたことなのだ。こういっちゃなんだが、作業として書ける程度のもの。「蚊トンボ白鬚の冒険」や「ダックスフントのワープ」を書けた藤原伊織なんだから、もっと斬新な着想のものを書いてほしかった。こんなおとなしい話じゃなくて。
 このブログを書いている時点で、もう片方の遺作「遊戯」は読んでいない。願わくば、ファンだからこそのわがままをかなえてほしい。もう一度、渾身の藤原伊織が読みたい。

あしたの喜多善男

2008-06-13 09:07:20 | ドラマ
「あしたの喜多善男」脚本:飯田譲治

 頭も薄く、小柄で貧相な四十男・喜多善男(小日向文世)は、ひとつのことを心に決めていた。11日後に自ら命を絶つこと。親友を失い、最愛の妻に逃げられ、会社をクビになり、多額の借金を負った、名前負けした喜びの少ない人生の終止符を、自分の手で打つことに決めていた。
 借金取りから逃げ、数少ない財産を処分し、現金100万円とバッグひとつの身軽な体になった喜多は、タクシー待ちの行列に割り込もうとしたチンピラ・平太(松田龍平)と運命的な出会いをする。
 喜多の決意を知った平太の、残りの11日間でやりたい事はないかとの質問に、喜多は悩む。自分のやり残したことはなんだろう? 中村屋のカリーを食う。母親・静子(加藤治子)に会う。アイドルの宵町しのぶ(吉高由里子)に会う。最愛の元妻・みずほ(小西真奈美)に会う……。
 平太に導かれ、喜多は様々なことを体験していく。縁のなかった夜の社会、高級なブランドもののスーツ。カリーもうまかった。アーパー娘だけど宵町しのぶとも会えた。予想も出来なかった刺激的な日々は、一瞬喜多に人生の楽しさを思い出させる。だが、やはり現実は厳しいのだ。死の間際ですらも優しく回転してはくれない。母はボケ、みずほは喜多に消えてくれと願い、平太の優しさにも裏があって……。

 島田雅彦の「自由死刑」に飯田譲治が手を加えた本作は、個性派俳優小日向文世を主人公にしたユニークな作品だ。
 何がユニークって、主人公に冷たすぎる。かつてここまで主人公をひどい目に合わせる作品が他にあっただろうかと思えるほど、毎回手を変え品を変えて小日向の、喜多の精神を痛めつける。本当、毎回目を覆いたくなるようなシーンの連続だった。「あちゃー」、「そこまでやるか」、「もういいだろ」。声にならない悲鳴を上げ続けた。ラストはハッピーエンドではないけれど、余韻があってよかった。
 どれだけ人に裏切られても信じ続ける「いい人」を演じる小日向は、まさにこの人あってこそ、というくらい作品にマッチしている。平太役の松田龍平とのコンビも対照的で良かった。小西真奈美、栗山千明、要潤、生瀬勝久、今井雅之、吉高由里子、みな役柄をわきまえた小気味のよい演技で、非常に楽しい作品だった。美男美女を取り揃えるだけが芸じゃないことを見せ付ける良作。でもあまりにもむごすぎて子供には見せたくないな。

おたくの娘さん(2)~(4)

2008-06-09 20:16:50 | マンガ
「……おとーさん寝ちゃった? わたしおとーさんが望むんなら、オタクになっても良いよ」 

「おたくの娘さん(2)~(4)」すたひろ

 守崎耕太。職業漫画アシスタント。おたくばかりが住まうアパート、彼岸荘の住人。恋人も扶養家族もいない独身貴族の生活は、フィギュアと漫画とアニメグッズに囲まれたはらいそだった。そんな耕太のもとを、一人の少女が訪れる。幸村叶、9歳。高校時代、美術部の先輩に逆レイプされてできた、耕太の娘である。
 じりじりと親子愛を育みつつある耕太と叶。そんな2人の願いは、相手を自分の領域に取り込むこと。耕太は叶と一緒にアニメを見たい。叶は耕太と一緒に平凡な父娘の関係になりたい。でも耕太は真正のオタクだから、ラインの外側には行けそうにない。自然、叶がアニメを見て、冒頭に掲げた台詞からもわかる通り、ラインの内側に飛び込むことになる。娘にそこまでいわせて恥ずかしくないのかといえば、当然恥ずかしいのだが、そこは真正の悲しさ。耕太のオタク度はいっこうに薄まらない。もっとも、薄まったら漫画として成立しないという話もあるが。
 耕太と叶の関係性の影に隠れて目立たないが、耕太とヒロインとの恋愛(?)模様もなかなか楽しい。かつての憧れの人・幸村先輩。彼岸荘の管理人・妙子。彼岸荘の愉快な住人の1人、ひきこもり腐女子の遙。とくに4巻での遙の躍進は目覚しい。それまでは耕太と口喧嘩するだけのダークホース的存在であったのに、いきなりそのツンデレ才能を開花させ、メインヒロインの座に躍り出た。といっても、なんとなく意識し合って赤くなるくらいではあるのだけど。まあ、女の子と手すら繋いだことのないヘタレ耕太が相手では、結ばれるなんて夢のまた夢なのだが。

サイコスタッフ

2008-06-08 12:39:56 | マンガ
 柊光一くんへ。放課後体育館裏で待ってます。          桜木梅子

「サイコスタッフ」水上悟志

 生まれて初めてのラブレターだと喜び勇んで駆けつけてみると、その女子高生はこういった。
「Bクラスサイキッカー柊光一くん。あなたを惑星ルルイエ宇宙軍超能力部隊へスカウトしに来ました」
 高校3年の最後の冬の、受験生にとっては追い込みシーズン。辛く冷たい現実を吹き飛ばしてくれそうな出来事の前触れを、しかし光一は一蹴した。
「断る! 宇宙より大学へ行きたいので! それじゃ! 黙って勉強しなきゃ」
 人材不足のルルイエへなんとか光一を招聘しようとあの手この手で迫る梅子。しかし光一は断固として首を縦に振らない。甘い言葉も実力行使も、彼の決意を曲げる手段にはなりえない。
 超能力? 巨大な才能? 努力に勝る才能なんかない。
 と言い切る光一と、光一に手を焼く梅子の前に、教師・姫萩姫子の皮をかぶった梅子の敵国・惑星ヤディスの研究者が現れ、地球へと迫る巨大隕石の存在も明らかにされ、事態はますます混沌の度合いを深めていく……。

「惑星のさみだれ」の水上悟志が贈るSFボーイミーツガール。
 人の身に余る力を持っていながら、過信も依存もしない、ぶれない心の持ち主が主人公、というのがいかにも水上流。
 宇宙への憧れも現実離れした世界への逃避も、一切ふわふわしたところのない光一が主人公のおかげで、話の中心はあくまで彼らの周辺のみ。登場人物もわずかしかいないミニマムな宇宙戦争になった。
 それはけっして悪いことじゃない。むしろテーマ性が効果的に読み手に伝わってきて好感が持てた。最終話を読む前にカバー裏のあとがきを読んでしまったので感動は薄れてしまったものの、きれいにまとまった作品だった。
 ……つーか、ぶっちゃけあのあとがきは無粋だろ。