僕が彼女のことを知った時、彼女はすでに死んでいた。
1957年。実に今から50年近くも前のお話。
悲しいとか。
切ないとか。
哀れだとか。
そんな感情を抱いてはならない。
ただ宇宙を見上げ、死を思え。
地球の軌道上を回った最初の生き物は、犬だった。
名前はクドリャフカ(巻き毛)。サモエド系の雑種で、モスクワの通りをさ迷っているところを拾われた。
高高度からパラシュートで落下したり、気密室の中で数週間生存したり、そういった訓練の成績が、他の何十頭もの雌犬たちの中で抜群によかった。
だから、生物初の栄誉は彼女に送られた。回収可能の設計がなされていないロケットに乗せられることによって。
彼女の死に様には、諸説ある。
加熱とGによるストレスで死んだとか。
チューブによって送られる食事に毒物が含まれていたとか。
政府筋の公式発表では前者だが、実際のところはわからない。
苦しんで死んだのか。
苦しまずに死んだのか。
それすらも。
ただひとつの事実として、スプートニク2号は打ち上げ翌年の1958年4月に大気圏突入した際、破壊、消失した。
人が生きるために奪ってきた命の数は、どれほどだろう。
今だって、地球上の様々な場所で、数多の命が奪われている。
命の重さは等しく同価値で……だから、特別なことじゃない。
他のあらゆる死と何も変わらないはずなのに、不思議と彼女の名が胸に残る。
クドリャフカ。
今から約50年前。そんな名前の犬が、一匹死んだ。
1957年。実に今から50年近くも前のお話。
悲しいとか。
切ないとか。
哀れだとか。
そんな感情を抱いてはならない。
ただ宇宙を見上げ、死を思え。
地球の軌道上を回った最初の生き物は、犬だった。
名前はクドリャフカ(巻き毛)。サモエド系の雑種で、モスクワの通りをさ迷っているところを拾われた。
高高度からパラシュートで落下したり、気密室の中で数週間生存したり、そういった訓練の成績が、他の何十頭もの雌犬たちの中で抜群によかった。
だから、生物初の栄誉は彼女に送られた。回収可能の設計がなされていないロケットに乗せられることによって。
彼女の死に様には、諸説ある。
加熱とGによるストレスで死んだとか。
チューブによって送られる食事に毒物が含まれていたとか。
政府筋の公式発表では前者だが、実際のところはわからない。
苦しんで死んだのか。
苦しまずに死んだのか。
それすらも。
ただひとつの事実として、スプートニク2号は打ち上げ翌年の1958年4月に大気圏突入した際、破壊、消失した。
人が生きるために奪ってきた命の数は、どれほどだろう。
今だって、地球上の様々な場所で、数多の命が奪われている。
命の重さは等しく同価値で……だから、特別なことじゃない。
他のあらゆる死と何も変わらないはずなのに、不思議と彼女の名が胸に残る。
クドリャフカ。
今から約50年前。そんな名前の犬が、一匹死んだ。