はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

しゃべれどもしゃべれども

2007-06-02 23:15:20 | 映画
「しゃべれどもしゃべれども」監督:平山秀幸

 今昔亭三つ葉(国分太一)は、古典落語に打ち込む若者。他の若者のように新作を作らず、普段着も着物で通す頑固一徹の若者。しかし情熱のわりに目は出ず、寄席の最中に客に席を立たれるなど屈辱に満ちた日々を送っていた。ある日師匠の小三文(伊東四朗)の仕事で同行したカルチャースクールの話し方セミナーで、最後まで話を聞かずに教室を出る女・十河(香里奈)を目にする。自分の話を聞いてくれない観客と十河の姿をだぶらせた三つ葉は、あとを追いかけ分のない説教をする。「俺の寄席を見に来い」とはいえず、小三文の落語を聞きに来るよういうが、当日三つ葉の目の前に座っていたのは来るはずのないと思っていた十河で、三つ葉は動揺のあまりボロボロの芸を披露してしまう。さぞや嘲笑われるだろうと思っていた三つ葉だが、案に相違して十河は話し方を教えてほしいといってくる。他に、関西弁をクラスでバカにされ、いまいち馴染めないでいる村林(森永悠希)。技術はあるが弁の立たない元野球選手で現役解説者の湯河原(松重豊)の二人を加えた三人の生徒が集まり、三つ葉の落語教室はスタートするのだった。
 根っから頑固で不器用な三つ葉と、わがまま放題の生徒達だ。流れのままにとりあえず開いただけの教室がうまくいくはずもない。言い争い、喧嘩、指導放棄。何度も崩壊の危機を迎えながらも、生徒ひとりひとりがひとつの落語をマスターするところまでなんとかこぎつけた。だが三つ葉が想いを寄せていた女性にフラれて自暴自棄になり、村林がクラスの番長との野球対決に敗れて家出し、十河が三つ葉と喧嘩して教室に来なくなり……。
「一瞬の風になれ」で有名な佐藤多佳子の原作をもとにした人情映画。個性豊かな登場人物たちがそれぞれに挫折の苦悩を味わいながら、落語と他人との濃い接触関係により自分を見出していく様が情感豊かに描かれている。下町の夏、というどこか郷愁を思い起こさせる背景も手伝い、ほのぼのと心に染みる佳作に仕上がっている。
 松重豊の落語はまったうまくならないものの(役回り上)、国分太一、香里奈のそれは上達のあとがうかがえる。お手本通りにやってるなー、という感は拭えないものの、見ていて不安がないのはすごい。しかしなにより森永悠希だ。この映画最大のめっけものは彼。関西弁を使い倒し、話すように落語をする彼の表情には、作り物か素か見分けのつかない天真爛漫な笑顔が浮かんでいる。「落語好き! むっちゃ楽しい!」全身からあふれる喜びのオーラが観客の笑いを誘う。関西オーディション上がりの新鋭が、素晴らしい演技を見せてくれた。