はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

ふたたびの恋

2010-05-31 09:34:31 | 小説
ふたたびの恋 (文春文庫)
野沢 尚
文藝春秋

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「ふたたびの恋」野沢尚

「わたしを助けて」
 休暇で沖縄を訪れた脚本家の前に、かつての恋人が現れる。教え子でもあった彼女は、いまや「恋愛ドラマの教祖」と呼ばれて売れっこになっているはずなのだが、土曜ドラマのためのシナリオ作りに困っていて、知恵を貸してほしいと頼み込んでくる。彼女のためのシナリオ作りは、昔の自分たちの恋を踏襲するような辛く切ないもので……。
 というような「終わった恋」の萌芽や行く末にまつわる短編ばかりを揃えた短編集。遺作となった次回作のプロットも掲載されている。
 さすが脚本家が出自な作者だけに、いずれも単発ドラマにできそうなメリハリのきいた内容のものばかり。ただ、テーマがテーマなだけに、全体的にトーンが暗めで、そこが本書の評価を下げるかもしれない。実際、誰が読んでも明るい気分にはなれないだろう。かつての恋人や家族を思い出しながら飲む悲しい酒にはぴったり……?

ももんち

2010-05-30 18:38:21 | マンガ
ももんち (ビッグコミックススペシャル)
冬目 景
小学館

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「ももんち」冬目景

 自称芸術家のだめ父に振り回されてきた岡本家。3兄妹の末っ子・ももね(通称もも)は、現在美大を目指して浪人中。父からもっとも多く芸術的素養を受け継ぎながら、なかなか目が出ない。性格もおっとりのんびりマイペースすぎ。
 もも大好きな兄と姉は、東京で一人暮らしをしているももが心配で、事あるごとにアパートを訪ねてくる。友人たちも、このイノセントな友人が心配でならない。おかしな虫がつかないように、好きな男性ができたらその恋が成就するように、全力で応援してくれる。みんなの愛情を一身に受けるももは、しかしあくまでマイペース。もちろん恋はしたいけど、流されたくはない。いまはひたすら、絵の修行あるのみで ……?

 おおお、冬目景にしては珍しい、垂れ目でおっとり型のヒロインじゃないか。吊り目で勝ち気なヒロインのイメージが強い人なので、これは嬉しい誤算。
 うん、いいね。寝ることが好きで、絵が好きで、父が好きで、自己主張は少ないけど自分の中に揺るぎのない価値観がある。ももはいい娘だ。
 作品自体も完全にもも色に染まっていて、ほんわかのんびり、春の日差しのようなほけーっとした雰囲気に包まれていて、読むと心が落ち着いてくる。美術系の予備校の、浪人生とはいえそんなに殺伐としていない雰囲気も、そこに一役かっている。
 1巻で終わりのようだけど、変にぐだぐだ長引かせなくてかえって良かった。いや、まあ、冬目景に長編が書けるとは思ってないけど、さ。

やむなく覚醒! 邪神大沼

2010-05-28 10:02:48 | 小説
やむなく覚醒!! 邪神大沼 (ガガガ文庫)
川岸 殴魚
小学館

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「やむなく覚醒! 邪神大沼」川岸殴魚

 突如自宅に送られてきた「初心者らくらく邪神マニュアル+スターターキット」のせいで無理矢理邪神にさせられてしまった大沼。使い魔を名乗る少女・ナナの手引きで邪神としての道を歩み始めてはみたものの、あんまりいいことがない。
 学校では邪神ということでクラスメートから距離を置かれ、勇者たちに命を狙われ、家に帰ればグールや天狗幼女やデュラはんなどといった化け物に囲まれ、まったくこれっぽっちもいいことなどない。可愛いナナとの生活だけは、なかなか魅力的ではあるのだが、ラブな展開になる気配など微塵もない。もう真人間に戻りたい……え? 無理ですか……? そうですよね……。

 突如邪神になってしまった大沼くんが七転八倒させられる話。ラブ展開なし。ギャグのみ。
 うーん、さすがガガガ文庫の特別賞受賞作。イロモノだ。面白くないこともないのだけど、実際、ギャグ漫画としてならそれなりにいけるとは思うのだけど。どうかなあ。椎名高志あたりに描かせればけっこう面白くなるんじゃないか? 小説としては……まあ、次巻に期待ってことでひとつ。

ラ・のべつまくなし(1)ブンガクくんと腐思議の国

2010-05-26 18:27:01 | 小説
ラ・のべつまくなし (ガガガ文庫)
壱月 龍一
小学館

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「ラ・のべつまくなし(1)ブンガクくんと腐思議の国」壱月龍一

 小説家の父の影響で、文学をこよなく愛するブンガクくんこと矢文学。純文学の道を志すも、一冊スマッシュヒットを出したきりで、その後は泣かず飛ばず。担当編集者にもおもいっきりだめ出しをくってばかり。ぼろアパートで酒浸り、中学時代からの親友・圭介にグチをこぼすも、それで腹がくちくなるわけではない。このまま俺は終わってしまうのか……。
 捨てる神あれば拾う神あり、ひょんなことから書いたライトノベルが大ヒット。増刷につぐ増刷で、メディアミックスも決まり順風満帆……しかしいいのか? 本当にそれで。
 軽薄な文章を書くことに限界を感じたブンガクが、気晴らしに行きつけの図書館を訪れたところ、そこには「聖地巡礼」中の少女・明日葉がいた。
 自分の小説のファンだという明日葉に一目惚れしたブンガク。しかし彼女は重度の「腐」女子。しかもブンガクは二次元アレルギー持ちときては、この恋愛、無事で終わるはずもなく……。

 面白い。
 明日葉の、腐女子としての不思議な生態がコミカルに描けていた。ブンガクと圭介の友情も熱いし、それをネタに興奮している明日葉も良い。最後の展開もとても今風で、それでいて無理がなく、全体的にチャレンジと創意工夫のあとが見て取れた。
 次巻も当然の買いだ。

月光条例(8)

2010-05-25 19:22:41 | マンガ
月光条例 8 (少年サンデーコミックス)
藤田 和日郎
小学館

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「私を使ってどなたかの、無念を晴らしたいのですか……?」
「……ああ、友達だったんだよ……」
「その涙に、いつわりはないと……誓えますか?」
「……うん」

「月光条例(8)」藤田和日郎
 
「浦島太郎」と「フランダースの犬」をダブル解決した月光。「人魚姫」を瞬殺した彼への次なるお題は「桃太郎」。
 圧倒的な強さを誇る桃太郎は、対ムーンストラックの特務機関「月神(つくよみ)」のエージェント、金太郎とラプンツェルを一蹴。その勢いはとどまるところを知らず、我らがヒロイン・エンゲキブまでもが殺されてしまう。
 そんなこととは露知らない月光を後目に、長靴を履いた猫・イデヤは、伝説の武器・呑舟を手に、桃太郎へと立ち向かう……。

 後半はイデヤが主役。いままでどうにもいけ好かなかったイデヤが、親友である金太郎の死に接して動揺する姿にじーんときた。友を思う気持ちと、無念を晴らせぬ弱い自分を呪う気持ちがしっかり伝わってきた。さすがは藤田和日郎。こういうの書かせたらうまいねえ。

コップクラフト

2010-05-23 08:58:55 | 小説
コップクラフト (ガガガ文庫)
賀東 招二
小学館

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 Two World.
Two Justices.

「コップクラフト」賀東招二

 人類と、突如顕現した第四世界との交流の進むいつかの未来。サンテレサ市警の敏腕刑事・ケイ・マトバは困り果てていた。異世界人のおかしな術で殺された同僚の仇を一刻も早くとりたいのに、上司のロス主任から、異世界人の要人の面倒を見るようにという無理無体な命令を下されたのだ。しかもその要人ティラナ・エクセディリカは、年端もいかない美少女に見えるくせに実年齢は27歳で、あげくに長剣の扱いに長ける準騎士で……。

「フルメタル・パニック」の作者が、かつてゼータ文庫から出していた「ドラグネット・ミラージュ」を改稿した作品。
 などという裏事情はともかく、内容はけっこう面白かった。むくつけきおっさん刑事と可憐な少女の異文化間交流が上手いこと描けていて、用語やその他の設定も分かりやすくて、すんなり世界に入り込むことができた。
 イメージとして、作者はアメリカの連続ドラマシリーズを挙げていたけど、個人的には映画「ブラックレイン」を思い起こした。マイケル・ダグラスがケイで、高倉健がティラナ。異論は承知。
「フルメタル・パニック」ほどの萌え要素やギャグ成分はないが、ひさしく見ない本格派異世界ファンタジーとして、一読の価値はある。あと、村田蓮爾のイラストが綺麗。 

駿河城御前試合

2010-05-21 20:07:21 | 小説
駿河城御前試合 (徳間文庫)
南條 範夫
徳間書店

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「駿河城御前試合」南條範夫

 駿河大納言忠長のお召しによって行われた、真剣をもって行われる11番勝負。世にいう寛永御前試合。その凄まじさは想像を絶するものだった。22名の対戦者のうち、14名が対戦中に死亡。2名が試合後に殺され、生き残りのうち2名が重傷。勝負の外でも多くの血が流された一連の戦いの起こりと終わりのもの凄まじさを、南條範夫が溢れんばかりの執心で描いた傑作。
 しかし、万人向けではない。
 時代小説が好きな僕でも、本書の登場人物たちが抱える心の闇の奥深さと、肉欲や名誉欲のなさせる行為のえげつなさの前には一歩も二歩も引くところがあった。
 漫画「シグルイ」で描かれた藤木源之助と伊良子清玄の戦いに勝るとも劣らぬ内容の戦いが、実に11編も描かれているのだから凄い。本気でゲップが出そうになった。
 なので、おすすめはできない。興味のある方は覚悟を決めてどうぞ、といったところか。

シオンの血族(1)魔王ミコトと千の花嫁

2010-05-20 19:44:34 | 小説
シオンの血族 1 魔王ミコトと千の花嫁 (一迅社文庫 す 1-5)
杉井 光
一迅社

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「なに言ってるんだ。おまえ。おまえ、自分の罪をわかってないのか? おまえはその薄汚い右手で姉様を押し倒してひん剥いたんだぞ、僕そっくりの男の子と姉様そっくりの女の子を何人も産んでくれるはずの、いっとう大切な妻だぞ? つまり」
 
「シオンの血族(1)魔王ミコトと千の花嫁」杉井光

 AD2016年。長く続く戦乱の渦中にある帝都東京。皇統を異形の敵から守る紫恩寺の家系は、古来より忌み嫌われてきた吸血鬼の家系だ。その若き当主、現役女子高生の有葉のもとに、ヴァチカンによって長く封印されてきた弟・ミコトが帰ってきた。
 あんなに可愛かったミコトが、まさかこんなに凶暴で残忍で……そして好色になってしまっているなんて。有葉は驚愕した。ミコトは女と見れば、たとえ家族だろうと手当たり次第に手を出す舌を出す好色魔王へと変貌していたのだ。
 ピンク色の日常は、しかしもちろん長くは続かない。ヴァチカンはじめ、あらゆる国、あらゆる機関の敵である紫恩寺に、敵対組織の手が迫っていた……。

「バスタード」のダーク・シュナイダー/ルーシェ・レンレンに「ヘルシング」のノリを足して2で割るとこうなるかな。という、ぶっちゃけそのまんまなお話。
 人はそれぞれに魔名と呼ばれ名前を持っていて、ミコトは他人のそれを吸い取ることで魔法を使える。その吸い取る方法がごにょごにょ……な感じで、非常にいやらしい。
 吸血鬼は死者の血液を吸うたびに血が汚れていき、汚れすぎると死んでしまう。なので、吸血鬼同士で交血と呼ばれる儀式を行い、血を交換する必要がある。血を吸うということは……ってなわけで、これまたまっことけしからん。
 ここまでエロいライトノベルは初めて見たので非常に新鮮だった。また、主人公のミコトが近年希に見る鬼畜っぷりで素晴らしい。昔の「バスタード」を見ているような気分で、どこか懐かしさすら覚えた。鬱系男子や鈍感男子ばかりが幅をきかせる昨今、とても貴重な存在。どうか長いこと続いてほしい。

深紅

2010-05-18 07:43:09 | 小説
深紅 (講談社文庫)
野沢 尚
講談社

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「深紅」野沢尚

 修学旅行先の旅館で楽しい小学生時代のひとときを過ごしていた奏子は、父母に弟2人、一家丸ごとが凶漢に惨殺されたことを知らされる。
 親戚に引き取られ、無難に中学高校を卒業し、大学まで進んで優しい恋人も出来た奏子。しかし心には癒しがたい大きな傷が刻まれたままだった。凶漢の死刑が確定しても、なんの慰めにもならない。家族はもう戻ってこない。
 そんな折、ふとしたことから凶漢の娘・未歩の存在を知った奏子は、衝動につき動かされるままに未歩に会う。
 自分の本当の名を隠したまま未歩と友人になる奏子。彼女の本当の狙いは? 心の奥底に秘められた願望の正体は?

 ヒットメーカー、野沢尚渾身の一作。
 一家殺人の被害者の娘が加害者の娘に出会う。なんというインパクトだろう。本当に、それだけで読む価値はあるのだが、主人公の心理描写や、中盤からラストまでの怒濤の大展開が素晴らしい。とくにラストシーンの描写の切なさと悲しさは、ちょっとここまでのものは他に思いつかない。小説で泣いたのもひさびさのことだ。実に深い一冊だった。

聖剣の刀鍛冶(5)

2010-05-17 13:52:03 | 小説
聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス) 5 (MF文庫J)
三浦 勇雄
メディアファクトリー

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「聖剣の刀鍛冶(5)」三浦勇雄

 帝国と群集列国の合併、戦闘兵器として作り上げられた人外のモノの脅威という重なる凶報を携えて独立交易都市へと戻ったルークとセシリー。今回は束の間の休息、な巻。
 不在だった三番街の自衛騎士団の副団長の座を賭けた騎士団同士の死闘に挑むセシリー。
 いつまで経っても煮え切らないルークとセシリーに胸のうちを聞く人々。
 魔剣嫌いなユーインに心惹かれつつ、魔剣である己が身を呪うアリア。
 リーザの墓掃除をしながらより一層の覚悟を固めるリサ。
 聖剣の鞘としての呪われた身の上を知ったセシリーと、セシリーを守る決意を固めたルーク。
 以上4編からなる短編集で、きたるべき大規模戦闘への地固め的お話だ。いやまあ、もともとショートストーリーをくみ上げてひとつのストーリーラインを形作る話だったので、全然違和感が無いというかいつも通りな気がするんだけども。
 閑話休題のくせに、いままでさんざん話に出てきてはいたけども謎だったセシリーの秘密が暴露され、魔剣製造でぼろぼろになったルークの死期は迫り、とけっこう展開は急。どう考えても不幸しか待っていなさそうな2人の恋の行く末はどうなるのか。哀しい結末を期待する僕は腐っているのだろうか。でもなあ、ライトノベル的超展開でハッピーエンド、とかは嫌なんだよなあ……。