はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

巨娘(2)

2012-06-29 21:52:30 | マンガ
巨娘(2) (アフタヌーンKC)
クリエーター情報なし
講談社


「巨娘(2)」木村紺


 呑むときや食べるときに、他の美味しそうな画像を見ると食欲が増したり、そうでもない料理が美味しく感じたりすることがあるだろう。それが僕にとっては吉田健一の「酒・肴・酒」だったり、久住昌之の「孤独のグルメ」だったりする。今回挙げる「巨娘」も、その中のひとつだ。
 話は単純。サイズも器も桁違いなジョーさん(女)が、世の埒外な人々に力ずくの鉄槌を下すお話だ。
 だけど、僕にとって大事なのは、そんなことよりも呑み食いのシーンだ。木村紺の描く食事シーンは美味しそうだ。絵が綺麗でもリアルでもないけど、そのシーンまでのもっていきかたやシチュエーションが「たまらない」ので、非常においしそうに見える。
 今回は、ジョーさんがタケルと一緒にいったシガーバーでの飲み食いのシーンや、サチと恋敵との料理対決が美味しそうだった。シガーバーでは葉巻を吸い、ウイスキー(?)を飲むだけだった。料理対決では、創作日本料理と本格フレンチが鎬を削った。どちらも本当に旨そうだった。
 僕は漫画や小説を片手に晩酌をすることが多いが、この本はかなりのヘビーローテーションでそのお供になる。僕は何度も何時間も、この本と一緒に旅に出た。それは舌に優しく、まろやかな旅だった。味わい深く、幸せな旅だった。人生には、美味しい料理もまずい料理もあるけれど、この魔法のスパイスがあれば、その中の何割かは至上の美味に変わるはずだ。そういったことが可能な本だった。いつまでも、どこまでも、僕はその快楽の中に浸っていた。
 

げんしけん 二代目の参(12)

2012-06-23 22:46:57 | マンガ
げんしけん 二代目の参(12) (アフタヌーンKC)
クリエーター情報なし
講談社


「げんしけん 二代目の参(12)」木尾士目

 げんしけんメンバーが代替わりし、笹原らがほんのちょい役でしか出て来なくなって多少の違和感を感じていたものの、波戸・吉武・矢島ら新規の女子メンバーがそれぞれの個性を発揮して、2代目らしい新たな方向性での(主に腐女子的な)面白さを発揮している現在、楽しめてはいるけれど、どうしてか寂しさのほうが先だっている僕です。
 僕が大学時代に所属していたオタク系のTRPGサークルは、今は存在自体もなくなって、年2回の飲み会以外では会わない仲となりました。TRPGならセッションとかすればいいじゃんって話もあるし、実際に何割かのメンバーは今も継続してセッションしているらしいのですが、なんせ僕自身が不定休で、土日祝祭日がほとんど仕事をしているため、なかなかどうして参加することができません。セッションといえば基本はキャンペーンだし、そうなると、多数の人の日程に合わせた参加スケジュールになるのが必然ですからしょうがないんですけど、そう理性ではわかっていても、感情部分ではなんとも納得しかねる部分があります。ぶっちゃけていえば切ないです。
 今回は、斑目先輩があまりのげんしけんの変わり様にショックを受け、げんしけん離れをしようと心を揺らすシーンが胸を打ちました。もともと大学に近いからという理由だけで現職を選んだくらいのげんしけん好きな人が、です。実際には、仕事がうまくいってないとか様々な理由があるんだとは思うんですが、いざ自分の同級や直近の後輩が卒業し、サークルに顔を出しても新規の腐女子しかいないとなると、男オタ同士でなら話せたあれやこれやを封印せざるを得ず、それがきっかけで、いくら愛着のあるサークルだとはいえ、いつまでもそこにこだわっているわけにもいかないということにいまさらながらに気付かされたというわけです。
 まあほんと今さらなんですけど、この気持ち、僕にはよくわかるんです。僕も、大学時代に所属していたサークルが好きでした。大学生特有のモラトリアムな生活や、自分の好きなことを好きなだけ声高らかに語っていられる環境が大好きでした。できればずっとそこにいたいと思ってました。でも、もしそうしていたらどうなっていただろうかと思います。心地よい環境や人間関係が僕を腐らせ、あとから入ってくる後輩たちの勢いに押されて居場所をなくしていたのではないだろうか。職に関してはいわずもがなで、つまりは斑目先輩の立場は僕にとっては他人事ではないのです。好きだっただけに、その変貌にショックを受けるのです。
 本巻は、吉武さんの身内の印象的な登場や、波戸くん(さん)を狙う男の存在、矢島さんの乙女の恥じらい、いままでのげんしけんになかった恋話(ちょっと微妙な)の展開など、見どころはたくさんあるのですが、僕には斑目先輩の姿が目に焼き付いて離れませんでした。いま現役でその手のサークルに所属している人、もう卒業して疎遠になった人、いまも交流がある人、様々な人がいるでしょうが、多くの人が共感できる内容だったのではないでしょうか。
 でも……ね。
 どんな形であれ、距離や年月をおいたって、仲間は仲間なんです。顔さえ合わせれば昔のように話が弾む。あの日あの時と同じ空間が、魔法のように現出するんです。ソースは僕。
 斑目先輩のこのパートは、たぶんそうやって解決を見るんじゃないかな? そう思います。
 ちなみに僕も、今度の夏の飲み会でみんなに会ったら、ゲストでもいいのでセッションに参加させてくれるようにお願いしようかと思っています。

レスラー

2012-06-15 19:22:48 | 映画
レスラー スペシャル・エディション [DVD]
クリエーター情報なし
NIKKATSU CORPORATION(NK)(D)


「レスラー」

 花形レスラーランディも今は老いた。過去の栄光のおかげで弱小団体の地方巡業のトリを飾り、スーパーのバイトで食いつなぎながらなんとか生き延びている。プロレスにしがみつけている。妻子とは別れ、男やもめの一人暮らし。体のほうにはとっくにガタがきていて、あちこち故障や古傷だらけ。肌にハリがないのは、ステロイド中毒のせい。中身もボロボロなのだ。
 そんな折、試合後のロッカールームでアンディは突然倒れる。心臓が悲鳴を上げた。一命はとりとめたが、もう、リングには上がれない。ジョギングすることすらできはしない。
 そうなってみると、ランディの寄る辺は家族しかなかった。勇気を出して娘に会ってみたものの、彼女の心は冷たい氷で閉ざされていた。
 行きつけのバーのダンサーのアドバイスでもって娘に何度なくアタックし、なんとか仲直りに成功。スーパーのバイトをフルタイムにして生計を建て直し、第二の人生、再始動。
 と、思ったものの、そこから彼の転落は再び始まった……。
 ……おや? 再帰の話じゃなかったのか?
 脳裏に疑問符を浮かべながら見続けたものの、どうにもおかしい。
 約束を破ったことから再び娘と不仲になり、勢いでスーパーを辞め、マネージャーを騙して上がったリングの上で、彼の視界は急速に赤くなり……。

 プロレスに賭ける情熱やファンの盛り上がり。アングルだらけの舞台裏。ロートルレスラーの悲哀……様々な理由をつけてはいるものの、「リングの上でしか生きられなかったバカが死んだ」だけ。
 それが腹立たしくてしょうがない。
 どうして娘ともう一度やり直そうと思わないのか。スーパーで頑張ろうと思わないのか。昔のようなパフォーマンスを期待できない体でなんでリングの上に上がったのか。
 見ていてこんなにイライラする映画はひさしぶりだった。
 でも、このランディへの腹立たしさは、たぶん僕が彼のレスラー生活を知らないからだ。
 必殺技も、かつての戦友たちとの思い出も。彼を形成する様々な物事を知らないからだ。
 僕自身はプロレスが好きだ。とくに三沢が好きだった。社長であり、現役レスラーでもあった彼がリングの上で死んだときは、もちろん悲しかったのだけど、ぶっちゃけ泣いたのだけど、でも不思議と腑に落ちた。僕は三沢に社長なんかやってほしくなかった。リングの上の英雄は、やはりリングの上にいてほしかった。死んでほしいなんて思ったことはないけど、老いていく彼を見たいとも思わなかった。
 もしランディが三沢だったら。
 そんなことを思う。
 再びリングの上に上がる彼を止められただろうか。死に行く後ろ姿をあざ笑うことができただろうか。家庭関係や生活基盤がボロボロになって自棄になる彼をバカにできただろうか。
 ランディへの感情移入度。
 それが、この映画の出来不出来の分岐点なのだと思う。
 あとはそうだな、男子であること。差別をするわけではないけれど、これはアメリカの男の子の映画なのだ。

「変態王子と笑わない猫(5 )」

2012-06-09 03:42:33 | 小説
変態王子と笑わない猫。5 (MF文庫J)
クリエーター情報なし
メディアファクトリー



「変態王子と笑わない猫(5)」さがら総

色々あって自分の気持ちを全力でもって投げつけていくことに決めた小豆あずさのフルパワー空回りから始まる第5巻は、しかし小豆あずさ回ではなく月子回だった。
いつものように猫神様が荒ぶられられ、10年前の過去に飛ばされた横寺と月子は、存命中の母ツカサと、なぜか彼女と共にあったチビ横寺と遭遇する。
それは、つくしの記憶と実際の情報の矛盾に関する驚愕の真実の姿だった……。

なんて大げさな話ではないんですけどね。このお話の特性を考えるならさもありなんという感じの。
でもいい話だった。過去5巻の中で一番筋が通っていた。美しく、ちょっと悲しいお話だった。タイムトラベルモノに外れなしだね。感動させられた。
結果、横寺への月子の気持ちも固まったようなので、次回はいよいよ泥沼回だ。横寺を巡る、月子、小豆あずさ、時々つくしの愛憎劇になる……はず。
個人的には小豆あずさ押しなのだけど、敗色濃厚……かな。当て馬が勝つ展開なら神なんだがなあ。

のりりん(4)

2012-06-01 19:43:29 | マンガ
のりりん(4) (イブニングKC)
クリエーター情報なし
講談社


「のりりん(4)」鬼頭莫宏

 轟との勝負もひと段落ついて、オヅちゃん(?)の件も片付いて、ようやく自転車に打ち込める環境が整った丸子。いつまでも借りてるわけにはいかないからと、自前の自転車を借りることにしたのだが、そこには意外なトラブルが待ち構えていて……。

 というだけのことに1巻かける、なかなか大胆な構成の4巻。
 自転車の仕組み、価格帯、ホイールの違い等々、一般人にもわかるような問題提起から始まって、最終的には法的に「軽車両」である自転車と、日本での自転車と公道の実態の違いという難しいところにまで触れていて、痒いところに手が届く仕様になっていたのに感心した(自動車で走っていて、もしくはジョギングしていて自転車が邪魔だと思うことはたびたびあったし、たとえ万人が納得できる解決策ではなかったにせよ)。
 まあでもなにより感銘を受けたのは、「男は30過ぎたら自転車」という一文だろうか。僕自身が30過ぎているからというのもあるが、そして自転車ではないけどジョギングをしているからというのもあるが。ともあれ自分自身の体のマネジメントをしっかり考えるようになったのはここ最近のことだ。筋肉、体力、精神力、社会人ならではの明日の勤務体制。もろもろの材料に日々の天候を掛け合わせて走る距離やルートやペースを考えて、自分の年齢と、自分の真実と向き合って走る。
 必要に迫られたからだ。昔のように動けない自分。にもかかわらず昔のように走れると思っている自分。歯がゆく切ない自分の年齢の真実と、僕は向き合う必要に迫られた。
 多くの若い人は知らないと思う。自分自身に衰えが迫ってきていることを。いやでもおとずれるその日のことを。

 それは愕然とする差異だった。
 思ったように動かぬ軌道。
 続かぬ心臓の拍動。
 あざ笑うように流れる汗。
 僕はもう若くない。





 でも、希望はあるのだ。自分が足を動かし続ける限り、体は必ず前へ進むのだから。
 この作品は、きっとそういう作品だ。
 身の丈に合った努力と人間関係の中で、ともかく最上と最高を目指す。ヒーローではなく、ヒロインでもなく、世界を救わぬまま、等身大の自分自身のままで、ただ一歩でも先へ。
 
 どんな終わり方を迎えるにせよ、最後まで読む価値のある作品だと思う。
 だからもっと多くの人へ。
 読んでください。いまはわからなくても、伝わらなくても、いつかきっと、自分が衰えを感じ始めたときに、胸に響く言葉が詰まった作品だから。