林檎の木の道 (創元推理文庫)樋口 有介東京創元社このアイテムの詳細を見る |
それでも由美子は殺されたのだと、ぼくは声に出して、一人ごとを言った。
「林檎の木の道」樋口有介
広田悦至17歳の夏。元彼女の由美子からの呼び出しを蹴って家で土いじりをしていた彼は、後に由美子が千葉の御宿で自殺したことを知る。しかも事件が起こったのは悦至が由美子につれなくしたその夜……。
悦至と由美子の旧友・涼子は、由美子の死の真相を知るため聞き込みを始めた。探偵ごっこと揶揄されながら、でも彼らには確信があった。由美子は自殺なんかする奴じゃない。殺される必然もなかった。
死の理不尽と元彼女の死。主人公は斜に構えた少年で、相棒はエキセントリックな少女。
樋口有介の代名詞ともいえるセンチメンタルなボーイミーツガールに加え、今回はキャラ配置にひねりがある。バナナで世界を救えると信じる植物学者の片親の母。その母を狙って家に出入りする新聞記者。いい歳こいてヒモの祖父。その恋人の元女子プロレスラー。悦至と同じ高校の元同級生など、「お」と思わせる人物が揃っている。彼らのやり取りはユニークかつ魅力的だ。
だが、メインはやっぱり悦至と涼子だ。冒頭に抜粋したように、悦至は厭世主義を装いつつも熱いものをもった少年だ。世間へも自分へも真っ向から立ち向かう涼子との共闘には、若い世代に特有の清潔感があふれていて非常に気持ちがいい。
舞台は夏。誰もが持っている、誰にだって還元できる、「あの時の、あの時代の空気」を思い出しながら読んでいただきたい。
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