はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

白い家の殺人

2007-04-15 09:17:30 | 小説
少女には息がなかった。
紫色に膨れ上がった頬、こぼれ落ちそうな瞳。苦しげに開いた唇の間から流れ落ちる吐瀉物が、美しかった顔を、髪を汚している。

「白い家の殺人」歌野晶午

麻薬を好み、警察を嫌う。謎解きパートにいたっても犯罪の確証を犯人にぶつけるのみで、けっして捕らえたりはしない異形異能の探偵、信濃譲二の「家」シリーズ第2弾。
前作「長い家の殺人」から少し経ち、大学院に進んだ市之瀬徹は、家庭教師のバイトの教え子でもある猪狩静香の別荘に来ていた。猪狩産興の裕福な財政状況のもと建てられた別荘は大層立派なもので、社長猪狩昇介の家族、親族、主治医などの富裕層が優雅な夜を過ごしていた。そんな中、事件は起こる。昇介の一人娘静香が、自分の部屋でシャンデリアに吊り下げられる形で殺されていたのだ。しかも窓、ドアには鍵がかかり、犯行時刻とされる時間にはほとんどの者にアリバイがあって……。
娘の死を病死にしてしまおうという親や、猪狩家に恨みを持つ女、ゾロアスター教を信奉する跡継ぎ息子など、個性的だけどどこか無茶なキャラクターが入り乱れて話をかき回していく様がよくない。全体的にいびつで無理矢理な感覚が拭えない。長編2作目ということもあるのか、まだまだ素人臭さが残る本作。
しかし悪いところばかりではない。冷笑され、罵声を浴びせられ、四面楚歌のまま周囲からのプレッシャーに押し潰されそうになりながらも、あくまで犯人を探し断罪しようとする市之瀬徹の姿勢には考えさせられるものがあった。それは多分、前作の影響なのだ。愛すべき友人達を失った古傷が痛むのだ。自分勝手な理屈で誰かの命を奪おうとする人間を憎み、世の中に無駄なことなんて何もないと信じ、ただひたむきに謎解きに取り組むことで、市之瀬徹は戦っていた。不定形の、この世の悪意そのものと。

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