厚生省事務次官や官房副長官を経験された古川貞二郎氏の
「霞が関半生記」(佐賀新聞社、2005年)を読みました。
地味な本で売れてなさそうですが、大変興味深い本でした。
官房副長官を目指す私(*)には必読の本であると同時に、
政権中枢に長くいた高級官僚が、時の内閣や政治・政策と、
どのように関わっていたかを知るには、とてもよい本です。
*2010年12月30日付ブログ「夢のない夢:官房副長官」
http://yamauchi-koichi.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/post-b23d.html
歴代の事務官房副長官の中で最長記録を持つのは、
古川貞二郎氏で、8年7ヶ月の在任期間でした。
古川氏の経歴は、きわめて異色です。
事務の官房副長官といえば「官僚の中の官僚」です。
当然ながら東大法学部卒のエリートを想像しますが、
古川氏は典型的なエリートではありません。
古川氏は、佐賀県の貧しい農家に生まれ、苦学します。
九州大学を受験するも不合格。佐賀大学に進学。
佐賀大学に通いながら、翌年九州大学を再受験して合格。
国家公務員試験を受けて、厚生省を目指すも不合格。
一度長崎県庁に就職して、翌年厚生省を再受験します。
さらに、厚生省から一度は不合格通知をもらいます。
しかし、あきらめずに人事課長に直談判したところ、
熱意を買われて厚生省に採用されることになります。
そして高齢者福祉、児童福祉、公害対策等の畑を歩み、
社会保障制度の基礎をつくり、政治とも深い関係を持ちます。
この本を読み進んでいくと、戦後の社会保障制度の多くが、
官僚の発案でつくられてきたことがよくわかります。
古川氏は持ち前の勤勉さと調整能力で難しい課題をこなし、
厚生省内の高い評価、政治家や他省庁の信頼を確立して、
着々と出世し、最後には事務の官房副長官に就任します。
東大優位の霞が関で九大出身かつ長崎県庁からの転職組が、
霞が関の最高位にまで至るのは並大抵ではありません。
能力も人柄も相当立派な人でないと務まりません。
海千山千の与野党の国会議員を相手にしながら、
大蔵省や外務省の超エリートとも利害を調整して、
予算や法案を通していくのは大仕事です。
本の全編を通じ、古川氏の行政官としての矜持を感じます。
行政官の鏡のような方だったのだろうと思います。
こういう行政官と真っ当な政治家がタッグを組めれば、
日本の政府はきちんと機能するのだと思います。
民主党政権は「政治主導」を謳いながら、官僚を使いこなせず、
単なる「政治家主導」の「素人主導」に陥っていきました。
そして段々と官僚への依存を深め、独自色を失いました。
昔からのテーマですが、「政」と「官」の関係は複雑です。
大きな方向性を決めるのは、「政」であるべきですが、
だからといって「官」を無視しては、政策は進みません。
政治の側が主導して、霞が関の官僚機構を使いこなすには、
政治の側に相当の責任感や見識・大局観が求められます。
古川氏も官僚は「政治主導」を支えるべきとお考えのようです。
古川氏も「政治主導」と「政治家主導」を区別していますが、
民主党にはこの差異を意識している人は少ないようです。
「政」と「官」の関係について考えるにもよい本でした。
|
引用元:http://yamauchi-koichi.cocolog-nifty.com/
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます