近未来を思わせる夢洲駅

 大阪メトロ中央線が1月19日、大阪・関西万博会場となる夢洲(大阪市此花区)に延伸した。しかし、肝心の万博は前売り入場券の販売が低調なままで、関係者は頭を痛めている。車体の前面が8角形、4隅にヘッドライトを備えた宇宙船のような列車が、大阪メトロコスモスクエア駅(大阪市住之江区)をゆっくり動きだす。向かうは4月13日の開幕を控え、万博の会場整備が急ピッチで進む大阪湾の人工島・夢洲。大勢の鉄道ファンを乗せた列車は夢咲トンネルを抜け、約5分で夢洲駅へ乗り入れた。

 夢洲駅では前日、中野洋昌(ひろまさ)国土交通相らが出席して式典が催されたのに続き、この日早朝には1番列車を見送る出発式があり、カメラを構えた鉄道ファンがホームを埋めた。京都府京田辺市からやってきた大学生(19歳)は

「駅の雰囲気は悪くない。万博が始まったら、また来たい」

と笑顔を見せる。1面2線の地下ホーム内は照度を落としたなか、緑のライトが列車を照らす宇宙空間のような雰囲気。ホームを出るとコンコースは一転して明るさいっぱい。長さ約55m、高さ約3mの巨大なデジタルサイネージが設置され、夢洲の歴史を紹介している。近未来か異世界の駅舎にいるような不思議な感覚を覚えた。

 外へ出ると目の前が万博の東ゲート。少し前まで雑草が茂っていた埋立地は、1周約2km、世界最大級の木造建築「大屋根リング」が完成し、工事用フェンスの向こう側でパビリオン整備が急ピッチで進んでいる。午後には万博名誉会長に就任した石破茂首相が会場を視察した。

フェンスの向こう側にそびえ立つ大屋根リング(画像:高田泰)

負の遺産を払拭、新たな一歩

 中央線のコスモスクエア〜夢洲間3.2kmはもともと、大阪市が1980年代に打ち出した「テクノポート大阪計画」で夢洲へのアクセス路線として浮上した。夢洲を隣接する人工島の咲洲や舞洲とともに新都心として開発することを目指した計画だ。

 1990年代に入ると、大阪市が夏季五輪招致を計画、夢洲に選手村を整備する方針を打ち上げた。大阪メトロの前身に当たる大阪市営地下鉄は2008(平成20)年の五輪開催に向けて夢洲延伸工事に入ったが、五輪招致の失敗で工事を途中で打ち切っている。テクノポート大阪計画もストップし、多額の公金をつぎ込んだ夢洲は大阪市の

「負の遺産」

と呼ばれた。しかし、2010年代になって夢洲が万博会場やIR(統合型リゾート)施設予定地となり、再び残っていた地下鉄工事が動きだした。そして延伸開業の日を迎えたわけだが、関係者の間では万博と夢洲の将来に対する期待と不安が入り混じる。

大阪・関西万博の入場券(画像:Merkmal編集部)

万博の前売り入場券は苦戦中

 万博は前売り入場券の販売が低迷している。日本博覧会協会は入場券2300万枚のうち、前売りで1400万枚を販売する計画だが、8日現在の販売実績は約750万枚(前売り分の54%、全体の33%)。三菱総合研究所が2024年秋に実施した来場意向調査では、「行きたい」と答えた人が全国で

「24%」

にとどまった。しかも、春の調査より数字が下がっている。販売済み入場券の大半は企業の購入。大阪市中央区の会社員(27歳)は

「会社が半額負担する形やったが、買わなかった。目玉が空飛ぶ車や南極で見つけた火星の石ではパッとせん。実物のネッシーでも展示してくれたら、行くけど」

と手厳しい。開幕前から

「失敗確定」

の声が上がる異常事態だ。赤字を出さないためには、全体の8割に当たる1840万枚を販売する必要がある。関西経済連合会の松本正義会長(住友電気工業会長)は関西経済人らの新年の集いで「赤字になったらどうにもならん」と危機感をあらわにした。兵庫県姫路市であった万博の参加者国際会議では、ポルトガルの担当者から販売不振を問題視する声が上がっている。

 石破首相は会場視察で「成功に向けて努力する。売れ行きは心配していない」、ディミトリ・ケルケンツェス博覧会国際事務局長は参加者国際会議で「(売れ行きは)延びると確信している」と述べた。大阪府の吉村洋文知事は記者会見で

「目標達成は簡単ではないが、各国パビリオンの展示内容が明らかになれば次第に盛り上がるのでないか」

と開幕後の口コミに期待した。しかし、この会見で質問が集中したのは赤字となった場合の処理方法だった。このほか、

・日本博覧会協会が多い日で1日当たり13万3000人が利用すると見込む中央線の混雑対策
・完了が3か国にとどまる参加国が自前で整備するタイプのパビリオン建設の遅れ
・工事中に発生したメタンガスによる爆発事故

など不安要素ばかりが目立ち、関係者をイライラさせている。

夢洲駅の西側に整備された万博の東ゲート(画像:高田泰)

跡地開発の完成時期は未定

 夢洲の将来にも課題が残る。IRの開業目標は2030年。それまでは住民のいない夢洲に人を集める目玉施設がない状態が続く。大阪府市は2024年度末までに万博跡地開発のマスタープランを策定する方針だが、施設の完成時期は見通せない。

 マスタープランは民間から提案を募り、2件を優秀提案に採択した。ひとつは大林組大阪本店を代表とする企業グループが提案したサーキットコースやアリーナ、車のテーマパークなどの整備構想。もうひとつは関電不動産開発を代表とする企業グループのラグジュアリーホテルや水辺のリゾート施設計画だ。

 大阪府市は民間提案を踏まえてマスタープランを策定したあと、2025年度後半にマスタープランに基づいて事業を進める開発事業者を募る予定。ただ、大阪府市で構成する大阪都市計画局は

「事業者の決定時期以降のスケジュールはまだ決まっていない」

としている。万博は国際的な大イベントだが、あくまで半年の期間限定。夢洲が関西に新たなにぎわいと活力を生む場所になるかどうかは、IRとともに万博跡地開発の行方が大きなウエートを占める。大阪府市の力が試されるのはこれからだ。