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読売新聞
社説
大阪カジノ整備 万博準備への悪影響は必至だ
2023/10/07 05:00
万博の準備が遅れているのに、その会場の隣で新たな大型工事を始めるのは、さすがに無謀であろう。計画を再考しないと、万博の円滑な実施まで危うくしかねない。
日本初のカジノを含む統合型リゾート(IR)の整備に向け、大阪府は、正式契約にあたる実施協定を事業者と結んだ。
予定地は大阪市の人工島・夢洲の万博会場隣接地である。米カジノ大手とオリックスを中核とする事業者は、近く工事に着手する。万博が開幕する2025年春頃にカジノやホテルの建設を本格化させ、30年秋頃の開業を目指す。
この工程で問題なのは、ただでさえ遅れが目立つ万博の工事への悪影響が避けられないことだ。
大阪市中心部と夢洲を結ぶルートは、橋とトンネルの各1本しかない。二つの工事の車両で混雑する事態が想定される。万博工事の遅れの原因となっている建設業者の人手不足や資材の高騰にも、さらに拍車がかかるに違いない。
府や政府は建設業者に、万博工事を他の事業より優先するよう求めている。そのさなかに、IR工事を同時に進めさせるのは筋が通らない。万博の際、来場者を運ぶシャトルバスがIR工事の車両渋滞に巻き込まれる心配もある。
IRは1兆2700億円の投資が見込まれる。昨今の資材高騰を考慮し、当初想定からすでに1900億円増額した。事業者が出資や借り入れで全額を調達する。
一方、実施協定には、本格工事に入る前であれば、事業者が違約金なしで撤退できる「解除権」が盛り込まれた。資材高騰が続き、投資額がさらに上振れすることなどが、撤退の要件になる。
「現時点で事業実施の可否を最終判断できる状況にない」とする事業者側の要望を、府が受け入れた形だ。それだけ計画の不確実性が高いということだろう。
日本では賭博が刑法で禁止されている。一方、海外にはすでに多数のカジノがあり、また、国内では違法なオンラインカジノも広がっている。開業した場合、目算通り年2000万人が本当に来場するのかという問題もある。
大阪府の吉村洋文知事は「大阪成長の起爆剤に」と言うが、不確実で、まるで「賭け」のような振興策を、万博に便乗するような形で推し進めるのは危険すぎる。
カジノは、命や健康をテーマに掲げる万博の理念とも相いれない。万博の開催がカジノ推進の手段のようになれば、万博の機運もしぼみかねない。
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