教育カウンセラーの独り言

今起こっている日本の教育の諸問題と受験競争の低年齢化している実態を見据えます。

安易な議論:大学の無償化。山内康一 の「蟷螂(とうろう)の斧」

2012年02月29日 13時25分21秒 | 国際・政治

予算委員会の議論を聴いているといろんなテーマがあります。
最近何度か耳にしたのが、大学の授業料無償化の議論です。
一見すると良さそうな議論の典型と言えるかもしれません。

民主党政権になってから高校授業料無償化が実現したこともあり、
次は大学の授業料無償化が注目されつつあるのかもしれません。
進学率が9割台後半の高校無償化と、約5割の大学無償化では、
意味合いが異なり、高校の方がまだ納得を得やすいです。

大学院で「教育経済学」のコースを履修した者としては、
大学授業料無償化には、簡単にはうなずけません。
大学の無償化を推進する理由と背景に納得がいきません。

大学の授業料無償化を主張する人は「貧しい家庭の子どもでも、
大学教育を受けられるようにすべきだ」という理由を挙げます。

「貧しい家庭の子どもでも大学教育を受けられるようにすべき」
という点に関しては、私もまったく異論はありません。

私も母校の奨学金基金に募金したことがあります。
学生時代には学生寮の仲間と「あしなが育英会」の街頭募金に参加し、
さらにフィリピンのフォスターチルドレンのために寄付していました。

学生時代の友人のフィリピン人がアメリカの大学院に留学するときに、
銀行の残高証明を提出して、身元保証人になったこともあります。
それくらい「貧しい家庭の子どもが大学教育を受けられるようにすべき」
という意見には心から賛同しています。

しかし、貧しい家庭の子どもが大学教育を受けられるようにするには、
大学の授業料無償化以外にも、いろんなやり方があります。

例えば「低所得の家庭の子どもに奨学金をあげる」というのが、
もっともシンプルでわかりやすい解決策だと思います。

奨学金にしても貸与と給付(渡し切り)の2種類が考えられます。
貸与にした方が、同じ金額でより多くの学生を支援できます。

また、将来、外資系企業でバリバリ稼ぎそうな学生には貸与にして、
僻地医療に従事したい学生には給付にする、といった手もあります。
例えば、看護学部の学生には、奨学金を優先的に提供するのも一案です。

それから、夜間の大学や通信課程の大学の教育内容を充実させて、
働きながら学べる環境を整えることもひとつの解決策です。
あわせて夜間の学部への私学助成額を上げることも考えられます。
名門の国立大学の夜間学部を整備することも有効でしょう。

日本は先進国の中で社会人入学の割合がダントツで低い国です。
海外では25歳以上で大学に入学する人が2~3割います。
そういう人たちは、学費を稼いだ上で大学に進学しています。

社会人入学の条件を緩和し、それを受け入れる社会環境を整えれば、
貧しい家庭の子どもが高校卒業後にいったん働いて学費を貯金し、
そのあとで奨学金をもらいつつ大学に通う人も増えるでしょう。

自分の学費を稼ぐような苦労人のまじめな社会人入学生は、
企業だって評価するでしょう。そういうケースを増やすべきです。
さらに社会人入学生は、動機づけ・目的意識がはっきりしているので、
よく勉強する人が多く、周囲の学生にも良い影響を与えます。

大学に行く人も行かない人もいますが、税金は全員から徴収します。
大学に行かない人の税金で、大学授業料を無償化するということは、
「所得の移転」という側面が出てきます。

大卒の方が平均所得が高く、大卒以外の方が平均所得は低いです。
そうすると「低所得層から高所得層への所得移転」という側面が、
大学の授業料無償化に付いて回ります。

イギリスでは、裕福な家庭の子どもが名門大学に入る可能性は、
貧しい家庭の子どもが名門大学に入る可能性の55倍だそうです。
もしイギリスの大学の授業料が無料だと、お金持ちの子どもの方が、
貧しい家庭の子どもより利益を受ける可能性が格段に高くなります。

またヨーロッパで大学の授業料が無償の国に多いパターンは、
大学進学率が低く、かつ、税金が高い「大きな政府」の国で、
大卒エリートは社会的に重要という認識が強い国です。

大学進学率が高くて、かつ、授業料が無償の国は、税金が高く、
国民が納得した上で高い税金を払っている国です。
「大きな政府」の国では大学無償化も成り立つということです。

「大きな政府」という考え方を支持しない人は、
大学無償化を支持しない方が自然です。

日本のように、大学進学率が5割ほどもある国で、
大学無償化を実現するには相当な予算が必要です。

そうなると「まともに授業に出てないような学生まで、
授業料を無償にしてもよいのか」という議論が出てきます。
日本の大学は、勉強しなくても卒業できることが多いです。

そういう学生の授業料を税金で全額まかなうのが正しいのか。
あるいは「大学教育」といえるレベルではない大学まで、
税金で授業料をまかなうのが正しいのか、という疑問もあります。

しばしば、「アメリカの大学は入るのはやさしいが、出るのは難しく、
相当まじめに勉強しないと卒業できない」と言われます。
日本の大学もそうなら、大学無償化も意義があるかもしれません。

しかし、あんまり勉強していない大学生が多いのが実情でしょう。
きちんと知識や技能を身に着けた学生の学費を税金で払うのであれば、
社会的なリターンから正当化できる可能性は高くなります。
他方、勉強していない大学生の授業料無償化には、私は反対です。
若者を甘やかすのに税金を投入するわけにはいきません。

仮に大学無償化を実現するなら、その前提条件として、
大学卒業資格の厳格化が必要だと思います。
大学卒業時の学士号の認定要件をいまより格段に厳しくして、
知識や技能の習得を条件に授業料を無償化すべきです。

小中学校は義務教育ですが、大学は任意で行く教育機関です。
その学費まで全額税金でまかなうことには、慎重であるべきです。
もし仮に税金でまかなうなら、それに伴う義務を課すべきです。
義務とは、社会に有用な知識や技能を学生が習得することです。

さらに国内の大学に進学する人には無償化は魅力的ですが、
海外の大学に留学する人にはメリットがありません。
海外留学に行く人が、いま以上に減るでしょう。

おそらく海外と国内の大学のどちらに行くか迷ったら、
国内の大学を選ぶでしょう。だってタダですから。
大学無償化は、若者の内向き化に拍車をかけるでしょう。

いろんな要素を考えると、安易な全面的大学無償化よりも、
さまざまな政策をミックスするのがベターだと思います。
奨学金拡充、社会人入学拡大、特定の学科の授業料無償化、
留学用奨学金の充実など、いろんな手があります。

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引用元http://yamauchi-koichi.cocolog-nifty.com

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