百条委員会での尋問日程が決まった斎藤元彦知事

 職員へのパワハラや「おねだり」などの疑惑が内部告発で浮上している兵庫県の斎藤元彦知事。自身は疑惑を否定し、辞職しない意向を示しているが、兵庫県庁には斎藤知事への苦情やクレームが殺到している。電話対応で県職員は疲弊しており、「形を変えた知事のパワハラでは」と指摘する声もある。

「いや、怒鳴られっぱなしで、おかしくなりそうです」
 と話すのは、クレーム電話を受けている県職員のAさん。

「斎藤を出せ。俺が辞めるように言ってやる」
「県民は税金を払っている、斎藤の給料を出しているんだ」
「斎藤知事がもらったワインを飲ませてくれ」
「毎日、2キロ歩いて通勤しているのに、たった20メートルも歩かないのはおかしい」

 いずれもAさんがこれまでに聞いた苦情だ。

「寄せられた電話に『はい』『そうですね』と答えていると、『お前は斎藤知事を擁護しているのか』などと叱られたり、『今から県庁に行くから、斎藤知事と話をさせろ』と言われたり。同じ話を繰り返しされることも多い。こんなことを言うと幹部から『マスコミにしゃべるな』『斎藤知事からにらまれたらどうする』と叱責されそうですが、職員はもう疲弊してくたくた。知事には、クレーム電話をご自分で取ってほしいものです」

■五輪選手へのメッセージを「消せ!」

 Aさんによると、とりわけ苦情が多かったのは、内部告発をした元県民局長が死亡したことがニュースで流れたときだったという。

「電話が殺到して、他の部署から応援に来てもらうほどでした。『斎藤知事は人殺しだ』『何人殺せば気が済むのか』などという過激な内容もありました」(Aさん)

 また、パリオリンピックで、神戸市出身で柔道男子66キロ級の阿部一二三選手が金メダルを獲得した際、県のホームページに斎藤知事が、

〈力強い闘いぶりで、見事、五輪連覇を達成されました。本当におめでとうございます〉

 とメッセージを寄せたときには、
「阿部選手は斎藤なんかに祝福されても嬉しくない。消せ!」
 などと電話で怒鳴られたという。

「ほんとに、ボロボロの斎藤知事から祝福されても、と同感でした」(Aさん)

選挙のときは腰が低かった斎藤知事(画像の一部を修正しています)

■電話は1日200〜300件

 県の担当部署では、次のように説明する。

「代表電話にかかってきた苦情などは、決まった部署で対応しています。(斎藤知事に関する苦情は)1日100件くらいですが、内容によっては他の部署にも転送されるので県庁全体ではそれ以上ではないでしょうか。県民、国民のご意見を聞き、県政に反映させるということで、とにかく拝聴をするばかりです。こちらから意見などを言うことはありません」

 県職員が苦情対応に追われる現状について、県議会の文書問題特別委員会(百条委員会)の委員でもある竹内英明県議は、こう指摘する。

「県庁全体ではクレームの電話が1日に200件から300件ほどと聞いています。職員の方々は仕事とはいえ心労負担はかなりのものです。すべて斎藤知事の責任であり、形を変えたパワハラかもしれません」

■消えていった取り巻きたち

 斎藤知事らへの内部告発について、百条委員会が8月2日に開かれ、知事本人への尋問を8月30日に行うことを決めた。

 これまで斎藤知事は、記者会見で疑惑について問われても、
「百条委員会にしっかり対応していく」
 などと回答を拒んできた。

 百条委員会は、正当な理由がない証言拒絶や虚偽証言は、禁固刑や罰金を科すことができる。知事はこれまでのように回答を拒むわけにはいかなくなる。

 知事周辺にも変化が起きている。

 死亡した元県民局長の告発には、斎藤知事だけでなく、当時の片山安孝副知事ら斎藤県政を支える幹部らの名前も記されていた。そして、元県民局長を調査し、処分を決めたのもこの幹部らだった。

「斎藤知事に取り入っていた、牛タン4人組と呼ばれる幹部です。東日本大震災のとき、被災地で牛タンを食べながら斎藤知事を囲んだものばかりが、イエスマンとして取り巻きとなっているので、そう揶揄されています」(Aさん)

7月末で副知事を辞職した片山安孝氏

 その幹部のうち、片山副知事は7月末で自ら辞職、総務部長は体調不良で7月30日から病欠中、理事は本人の希望によって8月1日付で総務部付の部長級に降格した。3人とも自分から、斎藤知事を支える立場から離れてしまった。残る経済産業部長は、県議会で県警から取り調べを受けたと認めている。

 斎藤知事の取り巻きは消えてしまった。ある県庁幹部によると、

「知事室を訪ねるのは、残った服部洋平副知事と記者会見の打ち合わせなどで用事がある幹部職員くらい。新たに訪れているのは、斎藤知事がポケットマネーで依頼している弁護士です。斎藤知事は何かあると弁護士に相談してアドバイスを求めている。記者会見で辞職を否定し、『県政を前に進める』と壊れたテープレコーダーのように知事が言っているのも、弁護士からの指導だと聞いた」

 という。この県庁幹部は、こうも話す。

「内部告発があるまで、副知事ら幹部がずっと陣取って斎藤知事を操り、側近たちによる県政だったのが嘘のようです」

■県職員3500人超がアンケートにすぐ回答

 百条委員会では、告発内容に関して調べるため、県の全職員約9700人を対象に、
〈元県民局長の文書に記載されている7項目に関するアンケート調査〉
 を7月31日から実施している。

 斎藤知事のパワハラや知事の業者などからの贈答品受け取りなどについて知っているかどうか、その具体的な内容などを尋ねるもの。2日の百条委員会では、1日までに3538人から回答があったことが報告された。

 当初、県は百条委員会で県職員が証言する場合や、アンケートに勤務時間中に回答する場合は、
「守秘義務があるため、事前に免除申請を出すこと」
 などと、「口止め工作」ともいえる方針を示していた。

 これに対して百条委員会が「これでは十分な調査ができない。調査妨害ではないか」と申し入れたところ、
「職員がアンケートを勤務時間中に書くときは、職務に専念する義務を免除すると県が方針を変えました。当然のことです」(竹内県議)

知事の追及を続ける丸尾県議

■「知事がブチ切れると半端じゃない」

 百条委員会に自らが「呼ばれるかもしれない」と語る県職員のBさんは、こう打ち明ける。

「斎藤知事のパワハラなど、言いたいことは山ほどある。口止めが外れたと聞いてホッとした。百条委員会に呼ばれなくとも、しっかりとアンケートは書きたい。ただし、多くの職員は今でも、斎藤知事が、証言した職員にパワハラや人事で報復しそうだとおそれて、口をつぐもうとしている。経験者しかわからないのですが、斎藤知事がブチ切れると半端じゃない恐怖なんです」

 個人でアンケート調査を実施するなど斎藤知事の疑惑を追及してきた、百条委員会委員の丸尾牧県議はこう話す。

「私が個人として県庁前で職員に手渡したアンケート用紙は約300枚で、21人から回答があり、うち7人が斎藤知事のパワハラを見た、聞いたと答えていた。現段階で、3500人を超す回答はすごいと思う。内部告発の内容がかなりの部分で当たっているのに、平然と居座る斎藤知事は確かに怖い。だが、県民のため、真相究明のために職員の皆さんには回答してほしい」

(AERA dot.編集部・今西憲之)