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教育カウンセラーの独り言

今起こっている日本の教育の諸問題と受験競争の低年齢化している実態を見据えます。

「あの大学出身者はNG」…採用の現場で「学歴フィルター」復活の予兆【キャリアのプロが解説】

2024年03月25日 14時47分47秒 | 社会・経済

「あの大学出身者はNG」…採用の現場で「学歴フィルター」復活の予兆【キャリアのプロが解説】

THE GOLD ONLINE3/25(月)7:15

「あの大学出身者はNG」…採用の現場で「学歴フィルター」復活の予兆【キャリアのプロが解説】

「あの大学出身者はNG」…採用の現場で「学歴フィルター」復活の予兆【キャリアのプロが解説】

 

かつて採用の現場では学歴が重視されていましたが、2000年頃にソニーが始めた革新的な採用方法を皮切りに、学歴ではなく「人物」を重視する採用にシフトしていました。ところが今になって、大企業を中心に「学歴重視」の採用が増加しているというのです。深刻な人手不足のなか、なぜ学歴重視へ回帰しているのか。東京エグゼクティブ・サーチの代表取締役社長・福留拓人氏が、その理由と懸念点を解説します。

大企業を中心に急速に「学歴重視」に回帰している

最近の採用市場を見ていると、新卒(定期)・中途にかかわらず、学歴偏重の傾向を感じるようになりました。学歴に応じて差別に近い対応をするのは、おおむね大企業です。雇う側が採用にあたって学歴を重視するのは自由ですが、行き過ぎた学歴偏重はいかがなものかと首をかしげたくなります。

そうした危惧の声は、筆者のような人材コンサルタントだけでなく、採用事情に詳しいジャーナリストからも聞こえてきます。どうやら大企業が最近になって急速に学歴重視に回帰しているというのは間違いなさそうです。

ご存じとは思いますが、かつて採用にあたって学歴が重視された時代がありました。まさに学歴偏重社会の入口でした。そこに風穴を開けたのは2000年ごろに展開されたソニーの革新的な採用手法でした。

たとえば、エントリーシートに大学名を書かせないことが注目されました。白紙1枚のエントリーシートには「この紙面にあなた自身を自由に表現してください」と書かれていました。ウォークマンなどの画期的な新製品を生み出し、“ジャパン・アズ・ナンバーワン”の勢いがあったソニーならではの革新的な採用手法であったと思います。

当時のソニーはスティーブ・ジョブズのアップル社が「会社を買ってくれ」と申し出るような存在でした。学歴で優秀な人材をはじいてしまうのはよくないというソニーのアーティスティックな立ち位置が生まれ、ここから「学歴で区別や差別をするのはやめよう、それは無意味なことだ」というトレンドが当然のように広がっていきました。

さて、それなのになぜ、21世紀の今になって採用の様相が学歴偏重に回帰しつつあるのでしょうか。これは、いろいろな局面で明らかになっている日本の凋落に原因があるように思います。とくに企業における採用では、日本経済の縮図ともいうべきマイナス環境が複合的に影響しています。では、その一端を具体的に拾い上げてみましょう。

将来的には「学士」という資格も無価値になる

まず日本に少子高齢社会が到来したこと。2023年のデータで、日本人の出生数は前年より約4万人減少して約72万人(マイナス約5.5%)となりました。これは過去最大の減少数とされています。高度経済成長期のベビーブームと比べると絶望的に思えるほど出生数の減少が続いています。

その結果どうなったかというと、大学が余りはじめました。つまり、学校をえり好みさえしなければ、「大学全入時代」になっているのです。少々厳しい言い方かもしれませんが、これからは「学士」という資格自体に価値がなくなってしまうでしょう。

その昔、大学進学率30%台という時代がありましたが、現状は60%台後半の数字になっています。50%台後半から60%台なかばくらいの数字を考えると、経済的な理由で進学を断念している学生は一定数いるものの、入試のマインドとしては、ほぼ全入状態といってよいと思います。

そして最も大きな問題だと思うのは、企業の動向と鋭く結びついている事象かもしれませんが、日本が格差社会になりはじめていることです。

残念ながら「生まれながらの家庭の経済力」が一生を左右してしまうような、教育格差を生み出す社会になりつつあります。裕福な家庭に生まれて潤沢な教育予算のもとでレベルの高い教育を受けられる子どもと、そうした恩恵に預かることができない子どもの間に大きな差ができてしまいます。

いろいろな社会情勢の変化で学校の教育現場も疲弊していますし、常識ではコミュニケーションが取れないような親御さんも増えてきているようです。そして、現在はいつの間にか中学受験が進学の前提になっています。地元の小学校からそのまま公立中学校へ進学させるのは、心もとないということでしょうか。

こうした時代背景が、以前とは違った受験戦争を誘発させています。かつては終身雇用の慣習が残る時代でしたから、よい会社に入って大過なく人生を送ることが目的となる受験戦争でした。生涯で最善の結果を得るために逆算して「よい会社に入るためには、よい学校に入らねばならない」ということになったわけです。

それが今では、よくない環境の教育現場に入ると子どもの成長に悪影響が及ぶので、そこから避難するかのように私学を受験するという風潮になっています。このように以前の受験戦争といまの受験戦争では、様相が違うことに注目しなければならないでしょう。

企業が求人票に「大学名」を記入し始めているという現実

結論としては、「一流大学に入っている学生は高い学力を保持している」という評価ではなく、家庭環境から推察して「人間性が偏っているリスクが低いであろう」という評価をされることになります。そのため、企業が大学を固有名詞で指定してフィルターを掛けてくる傾向が急速に強くなっているのです。

大学の名称などは、一般的には就職差別を誘発する要素ですから、求人票などには絶対に書いてはならない事項なのですが、残念ながら筆者の経営するエージェントには、「東大早慶一橋まで」とか「旧帝大以上に限る」とか「日東駒専はNG」といった、公言できない言葉がそのまま通達されることが多くなってきました。

残念なことですが現実はそこまで来ています。

学力について、昔こういう笑い話がありました。学歴差別はよくないのでエントリーシートに大学名を書かせずに入社試験を実施したところ、フタを開けてみると合格したのは一流大学の学生だけだったということです。基礎学力の測定を重視した試験を課せばもちろんそうなるわけですが、最近はそういう点をあまり重視しません。

入社試験で基礎学力を測るようなことはあまり行われなくなりましたが、先に述べたように人間性のリスクを回避する動きを学歴に頼っているところが増えているようです。

たとえば新卒で入社して半日で電撃退職してしまうとか、ある日突然出社しなくなるとか、退職手続きに親が現れるとか、家族や友人が会社に乗り込んでくるとか、ひと昔前の常識では考えられないようなことが起きているからです。

やや性急で浅はかな見解かもしれませんが、企業は「学力を以て一流大学に入った」というよりは「本人を介して親を見よう」としている面があります。

この大学なら精神疾患やモンスターペアレンツ的な動きをするような確率が低いであろうということで、そこを学歴に関連づけているわけです。非常によろしくない傾向だと思うのですが、我が国のいろいろな部分での凋落を表している現象だといえるのではないでしょうか。

人手不足を叫びながら「学歴フィルター」は緩和しない矛盾

もちろん一部の業界、特定の上級公務員などに一定の学歴フィルターが掛かっていることは衆目に一致しているところです。しかし、一般企業の大半まで学歴フィルターが浸透してきているのは問題であると思います。

かつ慢性的な人不足が叫ばれているにもかかわらず、この学歴の部分は緩和する傾向があまり見られません。すなわち、極めて少ない人を多くの企業が奪い合うというのは、こういうところからもいびつなかたちで発生しているのです。

今後とも状況の変化を注視しなければなりません。人不足が解決できないことで学歴フィルターが維持できなくなり、そのロジックが崩壊に向かうのか、それとも企業のさらに激しい人材争奪戦になるのか。それはやがて一般の社会にも浸透し、一層極端な受験戦争の復活に発展する可能性もあると思います。

学歴フィルターの復活については採用市場だけでなく、広く社会的な視点でよく観察していくことが必要なのではないでしょうか。

福留 拓人 東京エグゼクティブ・サーチ株式会社

代表取締役社長

著者:福留 拓人企業

 

 

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「新幹線を東京〜大阪以外に作れば大変なことになる」と新幹線の父は言った - JBpress

2024年03月19日 15時03分44秒 | 社会・経済
1 日前 — そんな西九州新幹線も、ここに至る道は決して平坦なものではなく、国、鉄道事業者、沿線自治体の間で、あるべき姿について協議が繰り返されてきた。そして ...
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「新幹線を東京〜大阪以外に作れば大変なことになる」と新幹線の父は言った
政治家の人気取りに使われ、地元の鉄道離れを引き起こす新幹線の「光と影」【JBpressセレクション】2024.3.18(月)池口 英司フォロー地域経済 地域振興 経済 物流・運輸 生活・趣味シェア39共有する

武雄温泉~長崎間で2022年9月に開業した西九州新幹線の「かもめ」は6両編成の「N700S」で運行する(写真:アフロ)
ギャラリーページへ
JBpressで掲載した人気記事から、もう一度読みたい記事を選びました。(初出:2022年11月21日)※内容は掲載当時のものです。
2022(令和4)年9月23日、西九州新幹線・武雄温泉~長崎間が開業した。九州新幹線長崎ルートの未開通分のほか、北海道新幹線の札幌延伸工事も進められている。さらなる新幹線の建設が、国政の場などで検討される日が来ることもあるだろう。だが、想定した需要がなく仮に赤字が生まれた時に誰が負担するのか。新幹線開通後に並行する在来線をどう維持するのか。日本が好景気にあった昭和40年代の発想から変わらないままでいいのか。(文中敬称略)
(池口 英司:鉄道ライター・カメラマン)
東海道本線の救済を目的に建設された新幹線
 開業した西九州新幹線・武雄温泉~長崎間69.6営業キロの間に設置された駅は5駅。6両編成の「N700S」で運転される「かもめ」は全線を最短23分で走破する。在来線特急との乗り継ぎによって博多~長崎間は最短1時間20分で結ばれ、従来からおよそ30分の短縮となる。
 新幹線の開業は相応の時間短縮効果をもたらしているが、今回開業した区間は整備新幹線として建設が進められてきた九州新幹線西九州ルート(長崎ルート)の部分開業に過ぎず、残されている新鳥栖~武雄温泉間の建設工事が引き続き進められてゆくことになる。ただし、この区間の開業予定時期はまだアナウンスされていない。
 そんな西九州新幹線も、ここに至る道は決して平坦なものではなく、国、鉄道事業者、沿線自治体の間で、あるべき姿について協議が繰り返されてきた。そして、方針が二転三転してきた経緯がある。
 在来の鉄道とは別の次元の高い規格を備える一方、建設費も維持費も相応のものとなる新幹線という交通機関。その運営について十分なコンセンサスが得られないままに進められたプロジェクトが、満足のいく結論を得られないままに、開業の日を迎えてしまった。そんな印象が拭いきれない、今回の開業であった。
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衝撃!2025年、中小企業127万社が後継者不在…大廃業時代へ

2024年02月15日 15時51分09秒 | 社会・経済
2021/03/17 — 2025年には、日本企業全体の1/3にあたる127万社が「後継者不在」になると予想されています。会社を継承する人が見つからない場合、選択肢の一つとして ...
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ジム・ロジャーズ氏「日経平均は近く史上最高値を更新するが、日本の未来を救うことにはならない」

2024年02月10日 06時29分20秒 | 社会・経済
23 時間前 — 日経平均株価はバブル期以来34年ぶりに高値を更新するなど、「失われた30年」と呼ばれ深く沈んでいた日本経済にようやく復調の兆しが見えてきました。
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音羽印刷、破産手続き開始

2023年12月14日 14時37分03秒 | 社会・経済
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https://www.shinbunka.co.jp › archi...

音羽印刷、破産手続き開始

  • 投稿日2023年12月14日
  • カテゴリー ニュースフラッシュ
音羽印刷㈱(資本金6000万円、東京都新宿区東榎町10-3、登記面=同千代田区内神田2-14-12、梅村直希代表)は12月5日、東京地裁より破産手続き開始決定を受けた。
破産管財人は、三好高文弁護士(同千代田区神田須田町1-21-3、桜の風法律事務所、電話03-3525-8725)。債権届出期間は来年1月4日まで、財産状況報告集会は同3月22日午後2時から。
同社は1964年創業、81年に法人改組された印刷業者。帝国データバンクによると、2020年1月期には年売上高約15億8200万円を計上していた。
しかし、23年1月期は約11億6900万円に減少。消耗資材の価格高騰が収益を圧迫した。消費税・社会保険料の滞納や決済難が生じ、今年11月6日に債務整理を弁護士に一任していた。負債は、債権者約179人に対し約20億5934万円
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「貧しい若者」から「豊かな高齢者」へおカネを仕送り…日本を滅ぼす「社会保険料」のヤバすぎる負担

2023年11月27日 15時47分06秒 | 社会・経済

「貧しい若者」から「豊かな高齢者」へおカネを仕送り…日本を滅ぼす「社会保険料」のヤバすぎる負担

現代ビジネス

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「貧しい若者」から「豊かな高齢者」へおカネを仕送り…日本を滅ぼす「社会保険料」のヤバすぎる負担
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 生活が苦しい。国の経済が危ない。そんな議論のたびに税金が悪者と言われる。だが実は、こっちこそが本丸なのだ。誰も異論を挟めず、膨らみ続ける社会保障という重荷―もはや、手遅れなのか。

【写真】「マクドナルドは贅沢」日本の若者が『結婚・出産』を諦めざるを得ないワケ

まるで戦時経済

「貧しい若者」から「豊かな高齢者」へおカネを仕送り…日本を滅ぼす「社会保険料」のヤバすぎる負担
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 埼玉県に住む中山浩之さん(37歳・仮名)は先日、74歳の父親と電話で口論になったという。

 「妻と相談して戸建てに住み替えようと考えたのですが、最近はとにかく不動産が高い。父に頭金をいくらか援助してくれないかと頼んだら、『うちだって懐が厳しいんだ。なんでお前はちゃんと貯金していないんだ』と怒り出してしまって……」

 大手メーカーに勤める中山さんは年収700万円と、決して薄給というわけではない。ただ、同じ年収700万円でも、手取り額が平成中期までは約600万円だったところ、令和のいまは約550万円と、50万円も減っている。これではなかなか貯金もはかどらないが、中山さんの父が、そのような現状を知るはずもない。

 なぜサラリーマンの手取りはこれほど減っているのか。「主犯」が、給料から天引きされる社会保険料だ。

 中山さんの父が40代でバリバリ働いていた'90年代には、社会保険料率は20%足らずで、ボーナスもほぼまるまる懐に入っていた。ところが'00年に介護保険法が施行され、'04年には厚生年金保険の料率引き上げが始まった。いまや給与所得の約30%、つまり3分の1近くが強制的に召し上げられている。

 言うまでもなく、その使い道の大部分は医療、年金、そして介護―大半が高齢者向けの社会保障である。国の財政に詳しい、関東学院大学教授の島澤諭氏が言う。

 「いまの日本の財政は、まさに『戦時中』というべき状態です。太平洋戦争の開戦前夜、1940年には国の予算の50・3%が軍事費に使われていました。それが、いまでは歳出の3割+国債費の約6割+地方交付税交付金の3割、あわせて国家予算の50%以上が社会保障費に充てられている。私たちは国の存亡をかけて『社会保障と戦争している』と言っても過言ではありません」

財務省が「Xデー」を警告

「貧しい若者」から「豊かな高齢者」へおカネを仕送り…日本を滅ぼす「社会保険料」のヤバすぎる負担
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 折からの物価高騰と円安で、国民の不満は最高潮だ。各社の世論調査では、岸田政権に「物価対策」「経済対策」を求める人の割合がこれまでで最多となっている。

 そうした中、この11月7日に財務省が公表した一編の文書が、永田町、霞が関、そして医療界に激震をもたらした。

 【資料 社会保障】

 そんな素っ気ないタイトルに似ず、その中身は強烈だ。

 〈医療介護の保険料率上昇を抑制する取組みを強化しないと(中略)保険制度が持続できない〉

 政府がこれまで口が裂けても言わなかった「このままでは、本当に社会保障制度そのものがつぶれてしまう」という危惧を、国家予算を取り仕切る「最強官庁」財務省が堂々と書いたのである。

 加えて彼らは、政治家たちが失脚をおそれて決して口にしない「高齢者の負担増」についても、このような「改革案」をストレートに提言する。

 〈年齢ではなく能力に応じた負担〉〈金融資産を勘案した公平な負担〉〈後期高齢者の窓口負担の原則2割負担〉〈薬剤の自己負担の引上げ〉

 これまで長らく、日本人は「いつか、この手厚い医療や年金の制度も維持できなくなるかもしれない。でも、自分が死ぬまではなんとかもつだろう」と思ってきた。

 しかし、コロナ禍、戦争、それらがもたらした世界経済の混乱は、時計の針を進めてしまった。このままでは、まもなく「Xデー」が訪れる―財務省がそう考えていることを、この資料の存在は示しているのだ。

 お上はしばしば嘘をつく。財務省の文書は、失策から国民の目をそらすための目くらましではないかと指摘する向きもあるし、それは一面で事実かもしれない。ただ、日本の財政を虚心坦懐に見ると、社会保障費の負担が重すぎることは残念ながら否定しがたい。

社会保険の負担は40年で4倍に

「貧しい若者」から「豊かな高齢者」へおカネを仕送り…日本を滅ぼす「社会保険料」のヤバすぎる負担
写真:現代ビジネス

 周知のとおり、いま日本では年金に加えて、医療費・介護費の大半を、国民が薄く広く負担する「社会保険」でまかなっている。そして下図のように、その額は40年前の4倍を超え、なお膨らみ続けている。

 国民健康保険制度が制定されたのは岸信介内閣の'58年。それから25年後の'83年時点では、社会保障費は総額およそ32兆円、GDPの10分の1にすぎなかった。

 それが'91年に50兆円を超え、'10年に100兆円を突破。いまでは年間134兆円、実にGDPの4分の1が社会保障に費やされるほどになった。

 問題は、その担い手が「現役世代」(15~64歳)にあまりに集中していることだ。なぜそのようなしくみになっているのか。前出の島澤氏が言う。

 「戦後日本の社会保障制度の根っこには『お年寄りの負担を軽くしよう』という発想があります。

 いまのような年金・医療の制度が整備されたのは'61年の池田勇人内閣で、さらに'73年、70歳以上の医療費をタダにする法改正を田中角栄内閣が行いました。高度成長期には『若者が豊かになっているのに、戦争で苦労したお年寄りは経済発展から取り残されて貧しいままだ。若者がお年寄りの医療費や年金を負担すべきだ』という考えかたが常識だったわけです。

 しかし、このような社会保障のしくみは、支えられる側の高齢者の数が少なく、かつ『豊かな若者がどんどん加入する』ことで初めて成立します。令和のいまでは、高度成長期に『豊かな若者』だった世代が高齢者となり、逆に若者は貧しくなって、人数も減っている。時代の変化に制度の改正が追いつかず、『貧しい若者から豊かな高齢者へ仕送りする』しくみになってしまっているのです」

 『週刊現代』〈この国を滅ぼす「社会保険料」の不都合な現実ーー病院に行きすぎの高齢者、「一律3割負担」ではダメなのか〉では、喫緊の課題となった社会保険料の負担増について、「一律3割負担」「終末期医療の見直し」など、さまざまな角度からの解決策の是非を検証している。

 「週刊現代」2023年11月25日号より

週刊現代(講談社)

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職務給・ジョブ型人事 指針策定へ(新しい資本主義実現会議分科会)

2023年11月19日 16時13分21秒 | 社会・経済

職務給・ジョブ型人事 指針策定へ(新しい資本主義実現会議分科会)

 
新しい資本主義実現会議(議長:岸田首相)の第2回「三位一体労働市場改革分科会」が昨日(2023年11月16日)に開催された。

三位一体労働市場改革分科会(新しい資本主義実現会議)
新しい資本主義実現会議では、リ・スキリングによる能力向上支援、個々の企業の実態に応じた職務給の導入および成長分野への労働移動の円滑化という「三位一体の労働市場改革の指針」(2023年5月16日、新しい資本主義実現会議決定)および「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」(2023年6月16日、閣議決定)を取りまとめている。

これらの指針などを踏まえて新しい資本主義実現会議の下に三位一体労働市場改革分科会が設置されたもので、三位一体労働市場改革分科会は職務給・ジョブ型人事の導入の参考とするため、導入企業の事例を整理し、指針を策定することとされている。

三位一体労働市場改革分科会の構成員名簿
<分科会長>
内閣官房副長官(衆)
<有識者構成員>
井口 譲二 ニッセイアセットマネジメント株式会社執行役員、運用本部副本部長、チーフ・コーポレートガバナンス・オフィサー
伊藤 邦雄  一橋大学 CFO 教育研究センター長
大浦 征也 パーソルイノベーション株式会社代表取締役社長
三瓶 裕喜 アストナリング・アドバイザー合同会社代表
柴田  彰 コーン・フェリー・ジャパン株式会社コンサルティング部門責任者
神保 政史 日本労働組合総連合会副会長、全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会中央執行委員長
田中 順太郎 株式会社資生堂人財本部人財企画室室長
谷口 岩昭 中外製薬株式会社上席執行役員
中畑 英信 株式会社日立製作所 代表執行役 執行役専務 CHRO
平松 浩樹 富士通株式会社執行役員 EVP CHRO
水町 勇一郎 東京大学社会科学研究所教授
山内 博雄 マーサージャパン株式会社組織・人事変革コンサルティング 部門代表

第1回 三位一体労働市場改革分科会議事要旨
2023年4月26日に開催された第1回「三位一体労働市場改革分科会」議事要旨が内閣官房公式サイトに公開されている。

その議事要旨によると、水町勇一郎教授(労働法学者)は「リスキリングによる能力向上支援。企業経営の支援から、個人の直接支援
にシフトさせていこうという政策の方向性は妥当と考える」と発言したが、「今、雇用保険は、要は、雇用労働者が対象になっているが、今後、業務委託等でフリーランスの方々が増えていって、フリーランスの方々も、どうやって生産性を上げていくか、技能を高めていくかということが同じように重要になっていくので、その場合、雇用保険の教育訓練給付だけではなくて、求職者支援法に基づく職業訓練は、一般のフリーランスの方にも開かれた制度ではあるので、この接合を図りつつ、いろいろなタイプの方々に柔軟で多様な訓練のメニューを提供していくことを政策的に考えることが重要」と付け加えた。

また、水町教授は個々の企業の実態に応じた職務給の導入について「今後、専門的なスキルの相対的な重要性が日本では大きくなるとは思うが、併せて職務があまり狭くなり過ぎないようにして、変化に対応できるようにすることと、さらには、日本が本来強みとして持っていた組織力とかマネジメントも部分的にどう組み入れていくのか」「企業や労使がニーズやパーパスに合ったモデルを選択していくという選択肢を提示することが制度設計として重要」と発言。

そして、水町教授は成長分野への労働移動の円滑化について「現行制度では、雇用保険の失業給付について、自己都合離職、自分で辞めた人については、いわゆる2か月ないし3か月の給付制限がついている。会社都合離職にはない給付制限がついているが、制度創設時に、どのような認識があったかというと、自己都合で離職する人は、労働意思がないのではないかと推定される。働く意欲がないから辞めたのではないか。2か月間求職活動をして、それでも休職しているのであれば、働く意欲があったのではないかと認定して、2か月後からあげようという制度設計だったが、今はその当時と比較して、自己都合で離職したことで、労働意欲がないと皆さん認識しているかというところは、相対化してきていると思う。ただし、これを廃止してしまうと、モラルハザード、もらいたいから就職して、辞めて、就職してというリスクが生じる可能性があるので、その制度設計に当たっては、濫用的な給付を受けようとするケースをどうやって制度的に排除するかということに注意を払いながら、会社都合で辞めた人と自分の都合・意思で辞めた人が不利益に取り扱われない、相対的に、中立的に取り扱われるような制度設計をして、転職したからサンクション、不利益を受けることにならないように制度設計をする視点も重要」と述べている。

さらに、水町教授は同一労働同一賃金の徹底について「これは、職務給の具体的な制度設計にもつながっていくところだが、そこの中では、労働基準監督署による調査など、執行強化が言われている。執行強化ももちろん大切だが、中身をどうするか、さらに中身を明確化し、その周知を図っていくことが必要ではないか」と発言。

また「現在の同一労働同一賃金のガイドラインは、正社員といわゆる非正社員の間の比較で、非正規労働者の待遇改善のための法律であり、ガイドラインだと位置づけられているが、その考え方をさらに広く、要は正社員の給与制度、例えば職務限定であったり、勤務地限定で転勤がない人とか、残業なしで時間限定という働き方が無期フルタイムの働き方でも出てくるので、そういう働き方を例えば基本給とか手当でどのように考えることがリーズナブルかということも視野に入れながら検討していくことによって、職務給制度の具体的な中身について、制度的にサポートできるのではないか」と述べている。

資料「三位⼀体労働市場改⾰の論点案へのコメント」東京⼤学社会科学研究所 ⽔町 勇⼀郎(PDF)

第1回「三位一体労働市場改革分科会」議事要旨(PDF)

新しい資本主義実現会議 分科会等開催状況(内閣官房公式サイト)
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結婚できるのは高学歴・大都市在住・大企業勤務だけ…『大独身時代』到来で日本に待ち受ける「ヤバすぎる未来」〈地方都市崩壊〉〈孤独死急増〉

2023年11月14日 11時41分24秒 | 社会・経済
6 時間前 — かつてあたり前だった結婚も、いまや若者には「重荷」でしかない。2040年、人口の半分が独身者になり、そのほとんどを高齢者が占める―「大独身時代
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深刻すぎるトラック運転手不足!もし稲盛和夫が物流企業の経営者だったら…どう解決する?

2023年11月12日 13時22分39秒 | 社会・経済
深刻すぎるトラック運転手不足!もし稲盛和夫が物流企業の経営者だったら…どう解決する?Photo:PIXTA

「経営の神様」と称された稲盛和夫氏の経営哲学を、自らの経営に生かしていた物流企業の経営者がいた。その人物の経営手腕を振り返ると、「稲盛氏だったら『物流の2024年問題』をどう解決するか?」という問いの答えも見えてくる。(イトモス研究所所長 小倉健一)

「経営の神様」稲盛和夫氏にほれ込んだ
物流業界の名経営者がいた

 全国区の知名度があるというわけではないが、かつて衆議院議長だった綿貫民輔氏の息子で、綿貫勝介氏という人物がいた。トラック輸送の会社であるトナミホールディングスを率いる名経営者だったのだが、2022年12月23日に63歳で若くして亡くなってしまった。

 綿貫氏は、「和の経営」と労使協調路線を重んじ、持続的成長を求め、利益が出せる筋肉質な経営にこだわり続けた経営者だった《時代のニーズを企業の先見力で読み取ることを大切にし、1980年代前半に独自開発した「システム物流」や国際物流にも尽力。特積みをはじめとする実運送と倉庫運営、情報システムを強みにした3PLを主力事業に押し上げた。安定的な事業基盤の構築へ、業界内の協調も鍵とし、第一貨物、久留米運送をはじめ他社との協業を推進。攻めの姿勢でM&Aにも取り組んだ》(「輸送経済」23年1月17日)という。

 22年3月期には燃料高で運輸各社の業績が伸び悩む中、過去最高の営業利益をたたき出している。

 そんな綿貫氏は、「経営の神様」と呼ばれた稲盛和夫氏にほれ込み、経営哲学を徹底的に自分の経営に生かしている。経営者の後進への推薦図書では稲盛和夫著『生き方』を挙げ、「人間としての本質が書かれており、経営をしていく上で、参考とさせていただいております」(「富山経済同友会会報」15年3月)と推薦の言葉を残している。

 そんな綿貫氏の経営を振り返ると、「稲盛経営」が至る所で実践されていることがうかがえた。そして、「日本全体の課題となっている『物流の2024年問題』を稲盛氏だったらどう解決するだろうか?」という問いの答えも見えてくるのだ。

 

リスクマネジメントから、考えて2024年問題は予測出来たことです。

身近な所から最近感じた事は、生協の個別配達をして貰っていますが、今年の10月で7年目でドライバーが3人変わりました今の人は、ベテランですが迫って来た2024年問題は、4月迄持たないと言いました。

本田技研創業者故本田宗一郎の実践された会社経営の基本、現場で怪我された手と機械油で汚れた手で働らかれてていたことを考えれば答は既に出ている思います。

日本の流通と産業の大切な動脈を支え、時間に追われる厳しい労働状況と環境下で、働くトラックドライバーの事を思います。

 

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「ビジネスと人権」の視点(厚生労働省有識者会議報告書

2023年10月12日 12時48分44秒 | 社会・経済

「ビジネスと人権」の視点(厚生労働省有識者会議報告書)

 
厚生労働省の有識者会議「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書(案)には「ビジネスと人権」についても記載されている。

新しい時代の働き方に関する研究会 報告書
厚生労働省有識者会議「新しい時代の働き方に関する研究会」の第14回会合が先月(2023年9月29日)開催されたが、議題は「報告書に向けた議論」。

また、第15回会合が明日(2023年10月13日)に開催されるが、議題は「とりまとめ」となっており、「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書が取りまとめられることになる。

新しい時代の働き方に関する研究会(厚生労働省)

報告書(案)に記載された「ビジネスと人権」
第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」の資料1は「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書(案)だが、そこには「ビジネスと人権」という言葉がで見受けられる(「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書(案)23頁<第4 未来を担う全ての方へ、1 企業に期待すること、(1)ビジネスと人権の視点>)。

ビジネスと人権の視点
〇経営活動のネットワーク化や国際化が進む中で、企業は自社内はもちろん のこと、企業グループ全体やサプライチェーン全体で働く人の人権尊重や健康確保を図っていくという視点(いわゆる「ビジネスと人権」の視点)を持 って、企業活動を行っていくことが重要になっている。

〇そのため、最近では、自社・グループ会社及びサプライヤー等における人 権侵害等を特定した上で、それらを防止・軽減し、その取組の実効性を評価 し、どのように対処したのかを説明、情報開示していく人権デュー・ディリジェンスに取り組む企業も見られる。(厚生労働省「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書(案)より)

「ビジネスと人権」とは
今回の厚生労働省有識者会議「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書(案)には、「ビジネスと人権」の視点を「企業は自社内はもちろん のこと、企業グループ全体やサプライチェーン全体で働く人の人権尊重や健康確保を図っていくという視点」と記載されているが、外務省が2020年3月に発効した小冊子『ビジネスと人権とは?ービジネスと人権の指導原則』には、2011年に国連人権理事会で全会一致で支持された文書『ビジネスと人権に関する指導原則』について説明されている。

つまり、『ビジネスと人権に関する指導原則』の3つの柱が「人権を保護する国家の義務」、「人権を尊重する企業の責任」、「救済へのアクセス」となっているが、今回の厚生労働省「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書(案)は「人権を尊重する企業の責任」に関連するものとなる。

そして、国連の『ビジネスと人権に関する指導原則』では、企業は人権を尊重する責任を果たすため、 「人権方針の策定」「人権デュー・ディリジェンスの実施」「救済メカニズムの構築」といった企業方針と手続を持つべきとされている。

なお、人権デュー・ディリジェンスとは、外務省の冊子には「企業は、人権への影響を特定し、予防し、軽減し、そしてどのように対処するかについて 説明するために、人権への悪影響の評価、調査結果への対処、対応の追跡調査、対処方 法に関する情報発信を実施することを求められています。この一連の流れのことを『人 権デュー・ディリジェンス』と呼んでいます」と書かれている。

ビジネスと人権
企業活動のグローバル化が進む中、企業活動における人権の尊重が注目されてくるようになりました。

国際社会では、1999年、当時の国連事務総長であったコフィー・ アナンが「国連グローバル・コンパクト」を提唱しました。グローバ ル・コンパクトは、企業に対し、「人権」、「労働」、「環境」、「腐敗防止」 に関する10原則を実践するよう要請しています。

国際社会の様々な動向を受け、2011年には、国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」が作られ、企業活動における人権尊重の指針として用いられています。

また、「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成と人権の保護・促進 は表裏一体の関係にあるとされており、企業がSDGsに取り組む上でも、人権の尊重は重要になってきます。

一部の欧米諸国では、各企業に対し、人権配慮を求める法律を導入する動きもあります。また、投資家、市民社会、消費者において企業に人権尊重を求める意識が高まってきており、企業は、人権を 尊重した行動をとることが求められています。

国連の「ビジネスと人権の指導原則」
「ビジネスと人権に関する指導原則:国連『保護、尊重及び救済』 枠組み」は、2011年に国連の人権理事会で全会一致で支持された文書。「人権を保護する国家の義務」、「人権を尊重する企業の責任」、「救済へのアクセス」の3つの柱から構成されています。<以下略>(外務省『ビジネスと人権とは?ービジネスと人権の指導原則』より)

ビジネスと人権とは?ービジネスと人権の指導原則(PDF)

また、2022年(令和4年)に「ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議」が取りまとめた『責任あるサプライチェーン等における 人権尊重のためのガイドライン』が、日本政府のガイドラインとして決定されている。

責任あるサプライチェーン等における 人権尊重のためのガイドライン(PDF)
 

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"“関西最高額”のタワマン 最上階の25億円の部屋公開 「うめきた2期」エリア コンセプトは王宮 (2023/10/12 11:47)" を

2023年10月12日 12時40分48秒 | 社会・経済

https://youtu.be/WB6T5ngxzQ4?si=Ej9iBn2u_0ESG3ai
"“関西最高額”のタワマン 最上階の25億円の部屋公開 「うめきた2期」エリア コンセプトは王宮 (2023/10/12 11:47)" を

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運転手高齢化に加え2024年問題も 「路線バスの減便・廃止」が日本社会に及ぼす致命的な影響

2023年10月12日 10時06分36秒 | 社会・経済

運転手高齢化に加え2024年問題も 「路線バスの減便・廃止」が日本社会に及ぼす致命的な影響

マネーポストWEB

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運転手高齢化に加え2024年問題も 「路線バスの減便・廃止」が日本社会に及ぼす致命的な影響
大阪府富田林市などで運行する金剛自動車は12月に全路線のバス事業を廃止すると発表している(時事通信フォト)

 来年4月からの制度改正でトラックやバス、タクシーの運転手不足が懸念されている「2024年問題」。だが、すでに人手不足の影響は深刻化している。とりわけ地域住民にとって一番身近な交通手段である路線バスの廃止・減便は、日々の生活にも直結する大問題だ。課題解決の糸口はどこにあるのか──。『未来の年表』シリーズ著者で、人口減少や経済活性化などの問題に詳しい河合雅司氏が解説する。

【データで一目瞭然】バス運転手不足が顕在化している

 * * *
 地域の足として最も身近な存在である路線バスが崩壊し始めている。路線の廃止や減便が広がってきているのだ。

 路線バスの縮小は今に始まった話ではない。国土交通省の資料によれば、2008年度から2022年度までに2万733キロが廃止となった。

 これまでは過疎エリアが中心で、人口減少やマイカーの普及に伴って利用者が減り、慢性的な赤字に陥って持続できなくなるというのが主たる理由だったが、近年は事情が変わってきた。東京23区を含む大都市圏でも路線の廃止や減便、始発時刻の繰り下げ、終バス時刻の繰り上げが目立つ。

 大阪府富田林市などで運行する金剛自動車に至っては、12月20日をもって路線バス事業そのものを廃止すると発表した。大都市の近郊でも事業として成り立たなくなってきている。

深刻化した原因は「労働時間」「所得」にあり

 大都市圏も含めて路線バス事業が行き詰まりを見せ始めた背景には、深刻な運転手不足がある。

 厚生労働省によれば、2022年9月時点のバス運転手の有効求人倍率は2.06で、全職業平均の1.20と比べると2倍近い。東京都内で運行するバス会社であっても、思うように新規採用ができなくなっているのである。金剛自動車がバス事業からの撤退を決めたのも運転手を確保できる見込みが立たないことが主要因である。

 なぜバス運転手は不足するのか。最大の理由は少子高齢化で若い世代が減り、成り手が少なくなったためだ。バス運転手だけでなく多くの産業・業種で人手不足が顕在化しているが、そうした中でもバス運転手の不足が深刻化したのは労働時間が長く、所得が低いためだ。

 国交省の資料によれば2022年の労働時間(所定内実労働時間数および超過実労働時間数)は193時間(全産業平均177時間)、年間所得額は399万円(同497万円)だ。人手不足の慢性化は、各運転手に過重労働としてしわ寄せが行く。それが理由で辞める人も少なくない。

 人手不足なのに賃金が低いのは、バス事業におけるコストの大部分が人件費であるためだ。運転手の待遇改善をしようにも赤字経営続きではままならない。加えてコロナ禍で企業の体力がかなり消耗した。最近はガソリン代などの高騰が追い打ちをかけている。

2030年代には現行の半数以下に激減?

 長時間労働で所得が少ないとなれば、若い人から敬遠されて平均年齢は高くなる。厚労省の調査では、バス運転手の平均年齢(2021年)は53.0歳で、全産業の43.4歳とは10歳ほどの差がある。日本バス協会の資料によれば、全バス運転手に占める60歳以上の割合は23.3%(2022年7月末時点)となっている。

 人手不足に輪をかけそうなのが、「2024年問題」である。働き方改革の一環として2024年4月から自動車運転業務にも時間外労働に規制がかけられる。

 大型二種免許が必要なバス運転手の育成は簡単ではないが、日本バス協会の資料によると2020年の免許保有者は84万7769人で、2006年の113万4485人の4分の3でしかない。

 2020年を年齢別に見ると、39歳以下は4万2864人でわずか5%ほどである。これに対して60代は20万2094人、70代以上は28万1281人で、両者で全体の57.3%を占める。近年の出生数の急落を踏まえれば39歳以下の保有者が劇的に改善することは考えにくい。

 仮に、現在60代以上の運転手の大半が70代半ばまでに引退したとするならば、2030年代半ばには現行の半数以下となる。2030年度にはバス運転手が3万6000人不足するとの試算がある。大型二種免許保有者がすべてバス運転手というわけではないが、不足数は試算よりも厳しくなる可能性がある。

公共交通機関が止まると「外出率」も低下

 路線バスの廃止・減便が社会に及ぼす影響というと「買い物難民」や「通院難民」に目が向きがちだが、そんな単純な話ではない。

 住民に一番身近な路線バスというのは、人間に例えるならば血液を隅々にまで行き渡らせる「毛細血管」だ。血が通わなくなれば壊死が始まる。路線バスは鉄道や飛行機とも密接に結びつき一体的な交通網を築いているので、いずれ日本全体の動脈が壊れていくこととなる。ただでさえ人口が減少していくというのに、人々の動きが滞るようになれば日本経済にとって致命傷となりかねない。

 例えば、鉄道だ。駅の利用者の多くは、路線バスに乗り継いで自宅などへ向かう。もしバスの便数が減ったり、廃止になったりすれば鉄道利用者は減少する。そうしたエリアの地価はやがて下がり、宅地開発計画も見直しを迫られよう。沿線価値の向上にも水を差す。

 東京都市圏交通計画協議会の資料が、交通利便性が損なわれたならば人々が外出を控えるようになるとの分析を紹介している。とりわけ高齢者が影響を受けやすい。65歳以上の場合、公共交通が便利なところの外出率は67.1%だが、不便なところでは60.2%である。不便なところでマイカーなども使えないとなると39.6%にまで落ち込む。

 今後増える高齢者の6割は東京圏とされる。75歳以上の激増が予測される東京圏の郊外でバス路線が廃止・大幅減便となり外出率が下落したならば、東京圏の鉄道各社の経営に大きな打撃となる。バス運賃だけでなく鉄道も値上げせざるを得ない方向へと進むだろう。そうなれば年金生活の高齢者の外出率をさらに下げる。

 路線バスの縮小は、赤字ローカル線の廃止スケジュールにも影響を及ぼす。鉄道会社と沿線自治体、観光業者などが国の関与のもとで話し合う「再構築協議会」制度が10月からスタートしたが、鉄道を廃止した後の代替輸送手段として考えられてきたのが路線バスだからだ。赤字ローカル鉄道の廃線にむけた話し合いは暗礁に乗り上げかねない。

 そうなれば、大都市圏の住民も無関係とは行かなくなる。JR各社のローカル線の赤字分は、新幹線や大都市圏を走る通勤電車などの利益で補充されているためだ。大都市の通勤電車運賃のさらなる値上げとなりかねない。

地方空港に着いても…バスがなければ足止め

 路線バスの廃止・減便の影響は航空各社にも及ぶ。北海道の中標津空港と根室市を結ぶ中標津空港線バスは10月1日から飛行機の到着を待たず、定時運行を優先した。

 その理由について、中標津町のホームページは「当バスは生活交通路線として国・道から補助を受けて運行しており、定時運行が基本であること、他停留所の乗降客も居られますことから、航空機の大幅な遅延には対応しかねます」と説明している。

 同バスの時刻表を確認すると最終バスが空港を発車するのは17時45分発だ。他方、飛行機の到着時刻は17時15分なので飛行機の着陸が30分遅れたら、バスに乗り遅れる。マイカーやタクシーなどで移動できる人は別として、多くの人は標津空港に足止めされることになる。

 午前中や13時台、14時台に到着する飛行機も、バスの発車時間まで余裕があるわけではない。

 天候に左右されやすい航空機の遅れは日常茶飯事だ。バスに乗り継げないリスクが強まれば、中標津空港を敬遠する人も増えるだろう。結果として、飛行機の運行そのものがなくなるかもしれない。そうでなくとも、航空各社は今後10年ほどで大量退職期を迎え、パイロットや整備士などの深刻な不足が懸念されている。これを中標津空港独自の問題として片づけられないだろう。

外国人活用、消防職員採用…対策の効果は?

 バス運転手の不足に対してはさまざまな対策が始まっているが、いずれも決め手に欠く。政府内では外国人の活用を検討しているが、日本のような左側通行の国ばかりではない。慣れるには時間がかかるだろう。バス運転手は接客も必要だが、言葉の壁も問題となる。

 一方、三重県桑名市と三重交通は、定年を迎えた消防職員をバス運転手として採用することを盛り込んだ協定を締結した。これはユニークなアイデアだが、畑違いの分野からの転職では即戦力とはならないだろう。バス運転手の減少数の大きさを考えると、穴埋め効果としても限定的だと言わざるを得ない。

 東京23区などでは、利用者の事前予約に基づいて運行やルートやダイヤを決める「デマンド交通」の導入に向けた動きが広がっている。

 路線バスが通れないような狭い道を走行するため車種はタクシーやワゴン車を使用するのが一般的だが、これでは路線バスのように大量に運べず、運賃を少し高めに設定したとしても黒字化は難しい。実験段階で断念するケースは少なくない。

税金投入で維持できる時代は終わった

 現在浮上している対策の中で一番期待できそうなのが自動運転だ。東京都は西新宿エリアで期間限定の試行運転を始めた。岐阜市は11月25日から岐阜駅から市役所までのルートなど中心市街地で5年間の継続運行をするという。

 だが、人が運転するバスと遜色ない存在となるには、まだ乗り越えなければならない技術的課題がたくさん残っている。空飛ぶクルマはさらに時間がかかりそうである。

 仮に、自動運転の技術が短期間で飛躍的に向上することがあったとしても、過疎化が急加速で進行する地域にまで普及させるには膨大な予算とマンパワーを要する。それを誰が負担するのかといった具体的な仕組みづくりはこれからだ。

 そもそも運転手不足の解消を図るだけでは路線バスをめぐる問題は根本解決とはならない。少子高齢化しながら総人口が減少していく日本では、先に働き手の不足が起こり、消費者の不足(国内マーケットの縮小)が遅れてやってくるためだ。

 今後は、大都市圏を含めて乗客が減っていく。バスのみならずあらゆる交通機関で運賃収入の減少が避けられないだろう。事業者の経営は相当厳しくなり、中小事業者には事業継続が困難となるところが相次ぐことも予想される。

 目先の対策として、自治体にはバス会社への補助金額を増やしたり、自前でコミュニティーバスの運行を始めたりするところが少なくないが、利用者は長期に下落していくことを考えるとこうした手法もずっと続くわけではない。税金投入で公共交通網を何とか維持してきた時代は終わった。

 もはや「毛細血管」である路線バスをすべて残すことは難しい。政策を講じるにしても、メリハリをつけるしかないだろう。

 人口が激減していく社会において路線バスをどこまで走らせればよいのか、コンパクトな街づくりとセットで考えるしかない。社会の根幹部分から再設計する必要がありそうだ。

【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。主な著書に、ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)のほか、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)などがある。

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ローカル鉄道をバスへ転換…そう簡単ではない事情

2023年10月09日 17時44分44秒 | 社会・経済

ローカル鉄道をバスへ転換…そう簡単ではない事情

産経新聞

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ローカル鉄道をバスへ転換…そう簡単ではない事情
輸送密度の推移

利用者減に苦しむ地方の公共交通を持続可能なものにするための「改正地域公共交通活性化再生法」が1日に施行され、鉄道事業者や自治体の要請を受けて国が設置し、ローカル線の存廃を議論する「再構築協議会」制度の運用が始まった。存廃を巡る議論が各地で加速する可能性があり、住民の「生活の足」を担ってきた日本の鉄道が転機を迎えている。バスへの転換も選択肢の一つだが、運転手の残業規制が強化される「2024年問題」を控えバス業界も人手不足が深刻化しており、解決すべき課題は少なくない。

「鉄道で空気を運ぶのか。同じ費用でやるならバスへ移行した方が高頻度の運転で利便性が高まるのでは」。あるJR幹部の率直な感想だ。

昭和62年の旧国鉄分割民営化の際は、輸送密度(1キロ当たりの1日の平均乗客数)は4千人未満の83路線のうち、38路線が第三セクターなどの鉄道に、45路線がバスに転換された。再構築協議会では輸送密度1千人未満の区間を優先して議論し、バス転換にするかなどを決めるが、現実は分割民営化当時よりも厳しい。

千葉県の房総半島を走る久留里線の久留里-上総亀山間の輸送密度は新型コロナウイルス禍前の令和元年度の時点でJR発足時から90%減の85人。4年度には54人にまで落ち込んだ。100円の収入を得るために必要な費用は1万7074円(2年度)にも上った。

JR各社は、大都市圏や新幹線の利益を「内部補助」として不採算路線に回すことで維持してきた。だがコロナ禍で経営の余力を失い「過度に内部補助に頼るのは問題がある」(JR関係者)との見方も強まっている。

JR西日本は広島、岡山両県にまたがる芸備線の一部区間について、協議会の設置を国に要請する意向をすでに示している。関西大の安部誠治名誉教授(交通政策論)は「鉄道事業者だけで輸送密度が低い路線を維持することは困難」と指摘。「鉄道を残すのなら、税金投入もやむを得ない」との見方を示す。

自治体などが出資する第三セクター方式の別会社を設立し鉄路を存続させたり、鉄道の廃線跡を活用した専用道を活用し、バス高速輸送システム(BRT)に転換したりする方法もある。平成23年の豪雨災害で一部が不通となったJR只見線は、福島県が鉄道施設を保有しJR東が運行を担う「上下分離方式」に移行することで復活した。

一方、車が生活の足となっている地方では、バス会社も厳しい経営環境にある。人口減少が続く過疎地では、鉄道から転換されたバス路線が廃止されるケースも相次ぐ。

「このままではヤバいです」。京浜急行バス(横浜市)は衝撃的な文言が目を引く職員募集のポスターを作成した。同社人事労務課の玉井純課長補佐は「本当に人が足らない」と訴える。旭川電気軌道(北海道旭川市)はバスの利用状況を見ながら半年ごとにダイヤ改正を実施し、減便など効率化を図ってきた。

解決の糸口はあるのか。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏は鉄道やバスで完全自動の無人運転の実現を挙げる。「鉄道は無人運転を実現しやすく、その技術の応用でBRTでも無人運転は可能だ」とみる。実際、JR東は気仙沼線(宮城県)のBRTの一部区間で、一定の条件下で無人運転が可能な「レベル4」の実用化を目指している。

岐路に立つローカル線の地元は鉄路の存続を望んでいる。安部氏は「高齢者などマイカーに依存できない人もいる。鉄道事業者が自治体と連携し、地域の実情に即した枠組みを構築していかなければならない」と強調する。人口減少社会を迎えた今、地域の将来像を見据えた議論が必要だ。

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新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(案

2023年10月01日 11時56分07秒 | 社会・経済

新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(案)

 
新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(案)
第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」(厚生労働省の有識者会議)が本日(2023年9月29日)開催され、資料が公開された。

公開された第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」資料は、「資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(案)」と「参考資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書骨子案に対する御意見」「参考資料2 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書 参考資料」。

なお、「参考資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書骨子案に対する御意見」の5の「(略)報告書(骨子案)には『テレワーク』といった言葉が消されてしまい、『多様な働 き方・場所』に変えられてしまった。なぜ『テレワーク』などを『多様な働き方・場所』にし て曖昧にしたのか理解できない。「テレワーク」などにもどしてください」といった意見は、私の意見。

資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(案)(PDF)

参考資料1 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書骨子案に対する御意見(PDF)

参考資料2 新しい時代の働き方に関する研究会 報告書 参考資料(PDF)

新しい時代の働き方に関する研究会(厚生労働省サイト)

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富田林市の金剛バスが12月で廃止に

2023年09月27日 02時10分13秒 | 社会・経済

大阪「金剛バス」全路線廃止は誰の責任だ? 体力ないバス会社か、それとも無策な政府か 地方を蝕む「運転士不足」という圧倒的リアリティ

Merkmal

 

富田林市の金剛バスが12月で廃止に.

大阪「金剛バス」全路線廃止は誰の責任だ? 体力ないバス会社か、それとも無策な政府か 地方を蝕む「運転士不足」という圧倒的リアリティ
大阪府富田林市の近鉄富田林駅南口にやってきた金剛バス(画像:高田泰)

 路線バスの運転士不足が深刻さを増す一方で、三大都市圏の大阪府でバス事業を廃止する会社が出てきた。このままでは全国の路線バス網が寸断されそうだ。

【画像】えっ…! これがバス運転手の「年収」です(計7枚)
 駅前ロータリーに緑色の路線バスが次々に入ってくる。バスを降りた乗客は駅へ向かい、大阪市行きの電車に乗り込んでいく。大阪府富田林市の近鉄長野線富田林駅。富田林市などの住民にとってバスと電車を乗り継ぐ交通結節点だが、異変が起きた。富田林市と河南町、太子町、千早赤阪村を走る金剛バスが運転士不足により12月20日で廃止されることだ。

 金剛バスは富田林駅などを拠点に運休中の1路線を含めた15路線を持つが、富田林市東部から河南町、太子町にかけては金剛バスしか路線バスがない。

「バスが廃止されたら、通勤できない」

富田林市美山台から大阪市阿倍野区へ通う店員の女性は困惑した表情を見せた。

 金剛バスを運行する金剛自動車(大阪府富田林市)は運転士の退職が続いた。全路線の運行には運転士約30人が必要なのに、自社の17人と他社からの派遣3人で運行している。4市町村は補助金交付を申し出て運行継続を求めたが、金剛自動車は

「補助金をもらっても運転士が集まらない」

として廃止を決めた。

 4市町村は富田林市西部に路線を持つ近鉄バスと南海バスに運行を求め、国土交通省近畿運輸局や大阪府も参加する法定協議会で10月から対応を協議する。近鉄バス、南海バスとも運行に前向きだが、運転士不足に苦しんでいることに変わりない。

 今後は4市町村が事業主体となってバス会社と運行契約を結ぶコミュニティーバス方式が有力だ。ただ、便数や路線の削減は避けられそうにない。富田林市道路交通課は

「公共交通の空白地域が生まれるのは避けたい」

太子町秘書政策課は

「できるだけ便数を残せる方法はないものか」

と対応に苦慮している。

 4市町村は大阪都市圏の南東端に位置する三大都市圏の一角。運転士不足は地方で大問題になっているが、その影響が急拡大し、三大都市圏にも押し寄せてきた格好だ。

2030年には全国で3万6000人が不足

大阪「金剛バス」全路線廃止は誰の責任だ? 体力ないバス会社か、それとも無策な政府か 地方を蝕む「運転士不足」という圧倒的リアリティ
十勝バス(画像:写真AC)

 地方は既に路線廃止と減便のラッシュ状態に陥っている。高知県高知市のとさでん交通は10月から路線バスの運行本数を平日76便削減する。北海道帯広市を中心に走る十勝バスは8月から6路線16便を廃止し、12路線37便を減便した。

 島根県では、一畑バスが8月、松江市と雲南市の5路線で平日20便を削減したのをはじめ、松江市交通局が市営バス4路線で平日16便の減便を10月から実施する。長崎県の島原鉄道は有家-小浜-諫早線の直通バスを10月から廃止する。

 赤字が続く石川県金沢市などの北陸鉄道石川線は、沿線の地方自治体が将来像を検討したが、運転士不足でバス転換を選択肢に入れられずに鉄道の存続を決めた。金沢市交通政策課は

「バス転換すれば他の路線に影響が出る」

と説明している。

 全国のバス会社は大型二種免許の取得支援など運転士確保に躍起になっている。しかし、運転士は集まらない。とさでん交通はバス路線維持に20人以上の新規雇用が必要なのに、2023年度に採用できたのはわずかひとり。バス会社間の運転士引き抜き合戦や残業規制が適用される“2024年問題”対応で先行するトラック業界への転職も目立ってきた。

 各社は定年延長や再雇用でしのいでいるものの、厚生労働省によると、運転士の平均年齢は2021年で53歳に達し、今後も大量退職が続く見通し。日本バス協会は現在の路線が維持された場合、2030年で全国約3万6000人の運転士が不足すると試算し、

「運転士不足がさらに深刻化する」

と述べた。

自動運転や外国人運転士に期待

大阪「金剛バス」全路線廃止は誰の責任だ? 体力ないバス会社か、それとも無策な政府か 地方を蝕む「運転士不足」という圧倒的リアリティ
福井県永平寺町を運行するレベル4自動運転車(画像:経済産業省)

 日本はかつてない急ペースで少子高齢化が進行し、バス運転士だけでなく、建設作業員、介護士、ホテル従業員など多くの職種で人手不足が慢性化している。バス会社の多くはコロナ禍で深刻な打撃を受け、運転士の待遇改善に限界がある。従来の手法で運転士を確保するのはもはや難しい。

 業界が期待するのは自動運転の社会実装だ。福井県永平寺町では5月、国内で初めて運転士がいないレベル4の自動運転移動サービスがスタートした。京福電鉄の永平寺線跡を遊歩道に整備した「永平寺参ロード」を休日限定で13往復運航している。

 しかし、一般車両が侵入しない2kmの遊歩道を10分かけて走るノロノロ運転。永平寺町総合政策課は

「運行は順調」

というが、レベル4の自動運転で人も車も多い一般道路を路線バスが走るとなると、もう少し時間がかかりそうだ。

 大都市圏では連節バスに期待する動きがある。横浜市では西区と中区にまたがるみなとみらい地区で市交通局が連節バスを走らせているが、2024年度から神奈川中央交通が戸塚区、東急バスが青葉区で運行を始める計画だ。

 連節バスは通常の路線バスの約2倍の乗客を運べる。神奈川中央交通と東急バスで計12台が導入される予定。横浜市都市交通課は

「運行本数を抑えることで運転士不足の影響を緩和できる」

とみている。

 国交省と出入国在留管理庁は外国人在留資格の特定技能に自動車運送業を追加する方向で協議している。バス運転士は日本語で行われる試験に合格して大型二種免許を取得しなければならないが、言葉の壁を乗り越えて外国人を働きやすくするためだ。

 だが、これらの対策をすべて実施しても、路線が維持できる保証はない。少子高齢化で人手不足が起きることはかなり前から予測されていたが、政府は先手を取った対策に乗り出さず、いたずらに事態を深刻化させた。そのつけが今、バス会社や利用者に回ろうとしている。

高田泰(フリージャーナリスト)

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