この一滑は絶対無二の一滑なり

シーズン終了。それにしても雪不足で大変なシーズンでしたね!

スキー板を「踏んでずらしてたわませる」技術

2012-09-19 21:02:10 | スキーの話題一般
前回の記事で、なぜスキーではターンできるのかという疑問からスタートして、スキーの回転技術をずらして回すスキッディングと、たわませて回すカービングに分類しました。本日は、これらの技術について少し掘り下げて考えてみることにします。

実際はこれら二つの技術はどちらか一方しか用いないといった排他的なものではなく、融合して用いられます。それを表現していうと「ずらしてたわませる」あるいは「たわませてずらす」という技術になると思います。

これをマスターすると状況に応じてズレ量を増やしてスピードをコントロールしたり、逆にカービング量を増やして板を走らせたりできるようになります。急斜面小回りではズレ量は大きくしてスピードをコントロールし、高速大回りではズレを少なくして板を走らせて高速ターンを楽しんだりできます。カービングターンの最中でも板を外側へ踏んでずらすテクニックを用いたり、ターン前半でスキッディング的で後半ではカービング的という使い方もできるようになります。

カービング板の時代に目標となってくるのは、この「ずらしてたわませる」技術だと僕は最近考えるようになりました。

そのことがよく分かる例を紹介します。下の画像はある「めっちゃ上手い」スキーヤーの小回りターンの場面です。切り替え後は雪煙がほとんど上がっておらず、いわゆる谷回り場面では板への働きかけがまだなされていないということが分かります。


そこからスタートして、下写真のように板を踏みにいくことにより板をたわませていく様子がよくわかります。その際は外スキーを踏む力の方が大きいので、両スキーがハの字型になっています。これは「上手いスキーヤー」に典型的に見られる特徴の一つです。参考までに右ターンも同様です。



以上のような滑りで描かれた雪面上の軌跡はこんな感じになります。外スキーの大きなずれとたわみがよく分かります。



(上が雪面に描かれた軌跡。下は分かりやすく線を引いたもの)

これらの画像から、「踏んでずらし」「それによってたわんだ板のアーチで回旋している」ことがよく分かると思います。

上記では分かりやすさのために小回りを例に挙げましたが、ビデオをよく解析してみると大回りやGSでも同様の技術が「めちゃ上手い」スキーヤーの間では広く用いられています。このような「踏んでずらしてたわませる」「そのたわみを利用してターンする」という技術こそが、今時のスキーヤーに目標とされるべき技術だと僕は考えるのです。

今後もこのテーマについてはさらに考察を深めてゆきたいと思います。

スキーはなぜターンすることができるのだろうか?

2012-09-09 22:06:07 | スキーの話題一般

少し前の話題になりますが、自転車が倒れないで走れる仕組みは、フロントフォークの傾き具合と車輪が回るジャイロ効果であると定説が覆されたという話がありました。

自転車が倒れない仕組み…実は「キャスター角」と「ジャイロ効果」では説明できないことが判明

これが科学的に真面目な研究成果であるところが面白いのですが、未だに自転車が何故走るのかということは完全には分かっていないという点もとても興味深い話だと思いました。

振り返って、スキーはなぜ滑るのでしょうか? 雪面とスキー面との間の摩擦抵抗が小さいので重力に従って斜面下に滑り落ちるからですよね。子供用のソリで滑り降りるときを思い出すと簡単に理解できます。

それではスキーはなぜターンできるのでしょうか? スキー板にサイドカーブがついているから曲がれるのでしょうか? 昔の2メートル超のサイドが真っ直ぐなノーマル板でもターンできていたことを考えるとサイドカーブのあるなしは直接の関係はなさそうです。

スキーで雪面を外側に踏み出したときの抵抗をもらって曲がる? 半分正解です。ズレの多い「スキッディングターン」はその方法で曲がっています。ハンネス・シュナイダーの有名なプルークボーゲンの写真が分かりやすいですね。ほとんどたわまない真っ直ぐな当時の板で、両スキーに掛かる除雪抵抗を調節して巧みにターンしている様子が見て取れます。このようにスキッディングターンでは雪面抵抗を利用して滑る方向をコントロールすると同時に、抵抗を利用してスピードのコントロールも容易であるので、スキー初心者や子供はこの滑り方から修得したと思います。



(ハンネス・シュナイダーのプルークボーゲン。スキー板がズレて描いた軌跡に注目)


それではスキー板の角付けを強めたズレの少ないターン(ここではカービングターンと呼んでおきます)ではなぜ進行方向が曲がるのでしょうか? 正解は「板がたわむ(撓む)から」です。「たわみ」によりターンしているという感覚を感じにくいかもしれませんが、実際にカービングターンしている様子(下の写真)を見るとはっきりと板のたわみが出ている様子が分かります。



(板のたわみによりアーチができ、それに沿ってターンしていることがよく分かる画像。
板にたわみをもたらす力を矢印で示した。)


板を傾けて角付けするとスキー板はたわみます。昔のノーマル板はスキーヤーが能動的に板に荷重することによってたわませていました。これは難しい技術なので2メーター超のノーマル板で自在に滑ることができるのは上級者の証でした。それに対し、現在のカービング板ではサイドカーブがついているために板を傾けただけで簡単にたわみを引き出すことができるようになりました。

カービング板はトップとテールが広いので、板を傾けるとそこは雪面に引っかかってズレにくいのに対し、板の中央は細くなっているので外側に踏み込まれ、結果として自動的に板がたわみ、それにより作られたアーチに沿ってスキーは回旋するのです。このようにカービング板では誰でも簡単に板のたわみを引き出せるようになり、上級者でなくてもカービングターンによる高速滑走が手軽にできるようになりました。

以上のように、スキーはなぜ曲がるかという疑問からスタートして、スキー回転技術をスキッディング技術とカービング技術とに大別しました。前者は雪面からの抵抗を活用する技術であり、後者は板のたわみを活用する技術。両者で曲がるメカニズムや活用している箇所が全く異なることが分かって頂けると思います。

従って、スキー指導においてスキッディング技術(例えばプルークボーゲン)の延長にカービング技術(例えばパラレルターン)があるという教え方には少し無理があるということになります。かといってプルークボーゲンに代表されるスキッディング技術はもはや不要であり、最初からパラレルに代表されるカービング技術で教えるというのも、スキー技術習得をわざわざ難しくしているとしか言いようがありません。スキー上達のためには、どちらも不可欠な技術であり、両方を修得することが望ましいと考えます。

具体的には、まずスキッディング技術を習得し、斜度に対する恐怖心を克服してスピード感に馴れたのちに、カービング技術を「新たに」修得するという順序が、スキー上達への早道であり、王道であるべきだと僕は考えます。

次回は「板のたわみを活用して滑る」ということをもう少し掘り下げて考えていきたいと思います。

(追記: 板のたわみをもたらす力を分かりやすくするために、2番目の画像に矢印を付けてみました)