降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★新聞を活版では、こう組んでいた(11)

2014年07月01日 | 新聞

【 6月17日付の続きです。写真はイメージです 】
新聞社で「つい最近」1990年代初頭まで行われていた、鉛活字を使った活版組み版( →いわゆる「ホット」。対して、コンピューター組み版編集CTSを「コールド」と呼んだ )。
活版大組みで、僕たち整理部はこう組んでいた、忘れないうちに書き遺しておこう、の第11回。
*CTS=シー・ティー・エス。Computerized Type-setting System。
1960~80年代、朝日新聞社、日本経済新聞社の2社がそれぞれ独自に研究、米IBMと日本IBMが技術協力して開発した。
日本経済新聞社東京本社は1978年にアネックスを、朝日新聞社東京本社は1980年にネルソンをそれぞれ全面稼動した。
その時つくられたソフトの一部は、パソコンの文字訂正などに転用された。
*お断り=新聞社によって、作業の名称やシステムは異なります。


▼降版時間まで12分@とある新聞社の製作局活版部大組み台
【主な登場人物】www
=とある新聞社整理部員(=゜ω゜)ノ
大組み・池さん=とある新聞社製作局活版部大組み工員。
元経済専門紙活版部にいて、最後のご奉公と僕の社に転社された組み版職人。
ド新人整理マンの僕に、組み方のポイントなど教えてくれた。

【前回までのあらすじ】
校閲さんの直しゲラがすべて、シューター故障によって、大組み中にもかかわらず赤字処理をしていなかった非常事態。
このままでは「未校」(みこう)となり、誤字だらけ&不完全な紙面になってしまう→訂正・おわび掲載必至じゃん→いくらなんでも、未校では降版できない!まずいじゃん!

製作局活版デスク「文選さん、悪りぃが手分けして拾ってくれっ(*1)
受け取ったら小ゲラ赤字直し(*2)は必要最低限なっ。改行なんかしなくていーぞ!」
と指示を飛ばした。
事態を重くみた校閲部長や校閲デスクも、あたふたと製作局に下りてきた(*3)

活版時代、赤字直し処理は下記の段階を経た。
❶校閲さんからの直しゲラに書いてある
赤字を活字棚(写真)から一本一本手拾いする「文選」グループ
❷文選さんが拾った鉛活字を、鋳植したばかりの記事ゲラに差す「植字」グループ(→専門グループではなく、小組み・大組みグループが交代で行っていた)
つまり、赤字活字を拾うセクションと、赤字を直す(差す)セクションは異なっていたのだ。

▼降版時間まで11分@騒然とする製作局

8割ほど組み上がった僕の大組みハンコ(→活版では鉛活字で組んだものをハンコと呼んだ。印鑑と同じだからかな……)に、校閲直し小ゲラを持った製作局工員が走ってきた。
同小ゲラには数本の鉛活字が乗っている。
工員「よぉ、◯◯ちゃん(←僕のことね)この記事、どこだい?
ほんと、今夜は何かありそうな気がしたんだよ」
「うわっ、こんなに赤字あんの!
趣味直しじゃないのかなぁ。モニター読んだけど、さほど(誤字は)無いはずだけどなぁ。
ちょっと小ゲラ見せてください!」
と、校閲さんの赤線が躍っている小ゲラをのぞいた。
あ、やっぱし!
……………長くなったので続く。


(*1)手分けして拾ってくれっ=てわけしてひろってくれっ
当時、製作局はセクションによって厳格に「休憩時間」が決まっていた。
だから、この場合は
「そちらのセクションの休憩時間は分かっているが、緊急かつ非常事態だから手伝ってほしい」
の意味。
だいたい
文選→小組み→大組みグループ
の順で休憩した。
製作局フロアの一部には休憩室があり、30~40分ぐらいずつ交代で作業を休んだり、地下の社員食堂で夜食をとったりしていた。
労組は、この協定厳守にはとてもうるさかった記憶がある。

(*2)小ゲラ赤字直し=こげらあかじなおし
鉛活字ゲラに黒インクをつけてローラーで刷った、A4判藁半紙を半分ほどにした紙。
新聞社特注の小ゲラ刷り機で刷った。

(*3)校閲部長や校閲デスクも製作局に下りてきた=こうえつぶちょうやこうえつですくもせいさくきょくにおりてきた
新聞社の編集局フロアはだいたい、製作局の上階にあった。
編集局と製作局フロアを結ぶ直通階段は螺旋状で(無理してつくったのか)かなりの急勾配。
大組みに慌てた、僕たち整理部員の何人かが螺旋階段を転げ落ちるのを数回見た……。