Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「ロートレック荘事件」筒井康隆著(新潮社)

2007-04-17 | 日本の作家
「ロートレック荘事件」筒井康隆著(新潮社)を読みました。
舞台は夏の終わり、ロートレックの作品に彩られ「ロートレック荘」と呼ばれる、郊外の瀟洒な洋館。
そこに将来を約束された青年たちと美貌の娘たちが集まりました。
優雅な数日間のバカンスが始まったかに見えたのですが、二発の銃声が惨劇の始まりを告げます。一人また一人、殺される美女たち。
読みすすんでいっても、なんだか違和感というか、居心地の悪さがあったのですが、もうとにかく気持ちいいくらいだまされた!というトリックでした。
面白かったです。



「孔雀の羽の目がみてる」蜂飼耳著(白水社)

2007-04-16 | エッセイ・実用書・その他
「孔雀の羽の目がみてる」蜂飼耳(はちかい みみ)著(白水社)を読みました。
中原中也賞も受賞した詩人の蜂飼さんがつづる、身の回りの情景や心に残った書物を語ったエッセイ集。
『図書新聞』『週刊朝日』に連載されたものを中心にまとめられています。

臆面もなくぺろっと目の前で友人に授乳されてまごつく話、友人がりんご飴のリンゴの品種を聞き、その意外な一面にびっくり、和菓子屋の店主が惜しそうな手つきで引っ張り出すビニール袋。
私たちも日常体験しているようなささやかなできごとが、蜂飼さんの目で丁寧にすくわれています。
本について語っている章は本当に楽しそうで、「あたまの漂流」「月ノ石」などは私も読んでみたくなりました。



「夢の国のリトル・ニモ」ウィンザー・マッケイ著(小野耕世訳)パルコ出版

2007-04-15 | 柴田元幸
「夢の国のリトル・ニモ」ウィンザー・マッケイ著(小野耕世訳)パルコ出版を読みました。
アメリカの新聞に連載されていたコミック。「リトル・ニモ」という題名でアニメ化もされています。
柴田元幸さんが雑誌「飛ぶ教室」でおすすめ本として紹介していました。

一読して絵の美しさにうっとり。
「マンガ」なのですが「マンガチック」ではないのです。絵がとにかくうまい!
「子供向け」だからといって背景などに決して手抜きしたりなどはありません。
そしてとにかくニモがかわいい。
毎回ニモが不思議な夢の世界を旅し、ベッドから落ち、目が覚めます。
コマが崩れたりニモたちが伸び縮みしたり、実験的な手法もたくさん。
「名作」といわれるゆえんがわかります。

「雪」オルハン・パムク著(和久井路子訳)藤原書店

2007-04-14 | 外国の作家
「雪」オルハン・パムク著(和久井路子訳)藤原書店を読みました。
ノーベル賞受賞作家、オルハン・パムクの描く政治小説です。

舞台は1990年代初頭。
主人公Kaは、政治亡命者としてドイツで暮らす詩人。
友人の記者のすすめで、最近トルコの北東部の都市で連続して起きている少女たちの自殺について記事を書くという名目で、カルスを訪れます。
しかし学生の時に恋していた美しいイペッキが離婚し、カルスに住むことを知り、彼女に会いたいことが本心でした。
カルスで自殺した少女たちの周囲の人物の話を聞いてまわるKa。
そして彼はたまたま教員養成所の校長の殺害現場にいあわせてしまいます。
その事件は政教分離を曲げない学校側に反発したイスラム主義者のしわざでした。

大雪のために道路はすべて遮断され、カルスが外界から完全に弧立した三日間。
その間に暴動を起こすイスラム主義者へ、トルコ軍隊は武力による鎮圧を行います。流される血、たかまるトルコ軍隊とイスラム主義者の対立。
そして演劇団の主催者・俳優スナイ・ザーイムは軍隊側の人間。
彼は「女性がスカーフをとる」ことを主眼とした演劇を企画します。

主人公Kaはカルスの町から無事に抜け出し、イペッキとの将来の幸せをつかむために、意に反してイスラム過激派のテロリスト「紺青」との仲介役をせざるを得なくなります。こうして、全く非政治的で、よい詩を書くことにしか関心のなかったKaは、政治と宗教の渦中に巻き込まれていくことになります。

トルコは国の法律で政教分離をうたっています。
公的な場(会社や学校)でイスラム教徒であることを示す、女性が髪を隠すスカーフや男性のトルコ帽は禁止になっています。
つまり、ムスリムでない私たちからみれば保守的に見える女性のスカーフ姿は、逆にトルコの公的な場においては、国への反抗の証でもあるわけです。
この本ではそのスカーフについて立場の違うものが争います。

前半はちょっと内容が難しく、ほとんど場面展開もないので正直途中で読むのをやめようかと思いましたが、後半スナイ・ザーイムの劇が進むあたりからその後の展開が気になり一気に読んでしまいました。

イスラム教徒であることはその人の生き方のすべてであるわけだし、学校では髪を出して、外に出たら髪を隠して、なんて使い分けられるものじゃないだろうなあとも思いました。
でもトルコは建国の父アタチュルクが、宗教関係者が政治に口を出させないように政教分離をとることにより、実際に近代化をとげてきたわけだしなー。
トルコの、特に地方部に多いという敬虔なイスラム教徒たちのジレンマの深さを思いました。



「ファンタジーのDNA」荻原規子著(理論社)

2007-04-14 | エッセイ・実用書・その他
「ファンタジーのDNA」荻原規子著(理論社)を読みました。
ファンタジー作家、荻原さんの初エッセイ。
子供のときから好きな本、ナルニア物語や、指輪物語。
大好きな宮崎アニメから学生の時に読んだSFなど、読書のさまざまな楽しみをつづった本です。

「本は現実の経験にはかなわない。でも現実の経験を考え、統合するときに支えになってくれるものだと思う」
「ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんはあえてファンタジーの王道をはずすことをするので、後になってラストがどうなったか思い出せずわやわやになる」
など、面白い指摘がいろいろあって楽しかったです。
「赤毛のアン」の作者モンゴメリが後年うつ病の夫と3人の子供を抱えて自身も抑うつ状態になっていたことは初めて知りました。

「私的ファンタジーの書き方」の章では、
「ファンタジーという創作は、作者自身の無意識に多くの経路をつくります。われわれは意外に自分自身を知らないという認識がないと、ふたを開けてはいけなかったもののふたを開ける行為になるかもしれません。
ほかの誰の害にもならないけれど、作者自身を傷つける象徴というものが、どこかには眠っているものです。無自覚になんでも引っ張りあげて書くと、作品を書く行為が本人にとって破壊的にもなり得ます。」
という文章は、いくつもの優れた長編小説を書きつづけているプロの作家ならではの示唆だなあと思いました。

「わたしたちが孤児だったころ」カズオ・イシグロ著(入江真佐子訳)早川書房

2007-04-11 | 外国の作家
「わたしたちが孤児だったころ」カズオ・イシグロ著(入江真佐子訳)早川書房を読みました。
アヘン取り引きに絡んでいたイギリス人ビジネスマンの父親が上海の自宅から突然姿を消しました。
当時9歳のクリストファー・バンクスは友だちのアキラと父親を探す探偵ごっこに夢中になります。次いで母親までもが行方不明となり、クリストファーは、イギリスへ送られることになります。
2つの世界大戦に挟まれた時代を彼はそこで過ごし、やがて本物の探偵になります。そしてついに上海に戻ったクリストファーは懸命に記憶をたどり、両親の失踪の調査に乗り出します。

クリストファーが子供の時に思い描いていた夢(アキラと一緒に父親と母親を苦労して助け、表彰される)が見当違いのものでありながら、周囲が否応なく巻き込まれていく様子が丹念に描かれています。
子供の時に見て(見せられて?)、描いていた世界と現実の世界は違う。
父母の失踪の真相を知ったときのクリストファーの苦い思い。

自分の夢は憧れていたほどいいものではないらしい
自分の父、母も未熟な人間なのだ
世界は暴力に満ちあふれている

誰もが大人になる過程で感じる思い。
子供のときもっていた明るい世界観が崩れる時、私たちはみんな世界を(親を)失い、切実に追い求める孤児なのだと思いました。

「村上かるた うさぎおいしーフランス人」村上春樹著(文藝春秋)

2007-04-11 | 村上春樹
「村上かるた うさぎおいしーフランス人」村上春樹著(文藝春秋)を読みました。
「あ」から「わ」までぐるり脱力かるた一周、さらに二周。
「飼い犬に手を握られた」など笑える108篇とミニエッセイ。
安西水丸さんのカラーイラスト、4コマ漫画付き。
「またたび浴びたタマ」「夜のくもざる」のような「へんてこな何か」シリーズ。

表題はこのあと「うさぎおいしーフランス人 子豚釣り師 かの川」と続きます?
私が一番おかしかったのは、裸踊りのジュリア・ロバーツ。
「♪右出してほい、ほーら、左で隠して、見えません。」とか、村上さんいまやアメリカでも大人気の小説家なのにこんなこと書いてだいじょぶなんか~?
しかしこれはやっぱりジュリアしかないでしょう。
キャメロン・ディアスやアンジョリーナ・ジョリーじゃはまらないもの。

あと「ゾンビだぞん」もなんかおかしくて好きだなー。

「はと麦畑でつかまえて」のホールデンや「ねこマーロウ」も登場します!

「「村上春樹」を聴く。」小西慶太著(阪急コミュニケーションズ)

2007-04-11 | 村上春樹
「「村上春樹」を聴く。」小西慶太著(阪急コミュニケーションズ)を読みました。
村上春樹さんの作品に登場する全楽曲とアーティストを解説した辞書のような本。作中に登場する印象的な12曲をオリジナルのギターアレンジしたCDも収録。

【CD収録曲】
1.カリフォルニア・ガールズ (風の歌を聴け)
2.ホワイト・クリスマス (羊をめぐる冒険)
3.オン・ア・スロウ・ボート・トゥ・チャイナ(中国行きのスローボート)
4.イパネマの娘(カンガルー日和)
5.激しい雨 (世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド)
6.ノルウェイの森 (ノルウェイの森)
7.ダンス・ダンス・ダンス(ダンス・ダンス・ダンス)
8.国境の南(国境の南、太陽の西)
9.泥棒かささぎ序曲(ねじまき鳥クロニクル)
10.K.476 歌曲「すみれ」(スプートニクの恋人)
11.ピアノ三重奏曲第7番 変ロ長調「大公」(海辺のカフカ)
12.ファイブスポット・アフターダーク (アフターダーク)

実はこういう「村上春樹さんの関連本」というのは好きではないのだけれど、CDにつられて買ってしまいました。
でもギター曲にアレンジされているので歌詞もないし原曲とはだいぶ雰囲気が違うなあと思いました・・・。

「はじめての文学 村上春樹」村上春樹著(文藝春秋)

2007-04-09 | 村上春樹
「はじめての文学 村上春樹」村上春樹著(文藝春秋)を読みました。
村上さんの本を手にしたことがない人(主に若い人)向けの全17編を収録した村上さん自選の短編集。
今回のアンソロジーにあたって、作品の細部にはいくつか手がいれられているそう。最後に村上さん自身がひとつひとつの作品について簡単にコメントしています。
「シドニーのグリーン・ストリート」は初めて読みました。文庫には収録されていたっけな?暴れ羊博士が面白かった。
「とんがり焼きの盛衰」は村上さんデビュー当時の文壇の反応などを考えて書かれたというコメントにはびっくり。とんがり様は文芸評論家ですかね・・・。
渡辺昇二連発は楽しかった。
「沈黙」は何度読んでも深く重いものが心に残ります。

このアンソロジーで久しぶりに読み返した作品が多くて楽しかったです。

「パルムの僧院(下)」スタンダール著(大岡昇平訳)新潮社

2007-04-07 | 外国の作家
「パルムの僧院(下)」スタンダール著(大岡昇平訳)新潮社を読みました。
城の牢に幽閉されたファブリスをめぐって、パルム宮廷の政争はさらに激しく展開。ファブリスは叔母とムスカ伯爵の政敵でもあるコンチ将軍の娘クレリアに恋をします。
牢の看守であるコンチ将軍の娘クレリアとファブリスが目やしぐさで恋を育てていく様子がロマンチック。上巻よりもテンポよく一気に読んでしまいました。
サンセヴェリーナ夫人が自身の老いを感じ、でもファブリスとクレリアとの恋は許せなくて無理矢理引き離そうと画策するのが辛かった。
才気あふれる女性でもやっぱり嫉妬には勝てないんだなあと。
脱獄やファブリスの裁判に至るまでのムスカとラシとのやりとり、サンセヴェリーナと新大公とのやりとりなど、言葉を選んでうまくことを転んでいく状況、どきどきして読みました。
でもファブリスとクレリアが結婚できていたら違うラストが待っていたのですね。 ちょっとラストせつなかった。