Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「モモ」ミヒャエル・エンデ著(大島かおり訳)岩波書店

2010-03-02 | 児童書・ヤングアダルト
「モモ」ミヒャエル・エンデ著(大島かおり訳)岩波書店を再読しました。
町はずれの円形劇場あとにまよいこんだ不思議な少女モモ。
町の人たちはモモに話を聞いてもらうと、幸福な気もちになるのでした。
そこへ、「時間どろぼう」の男たちの魔の手が忍び寄ります。

私がこの本を初めて読んだのは中学一年生のとき。
その当時「モモちゃんとアカネちゃん」という児童書のイメージが強かった「モモ」という名前。友人に薦められた本でしたが「(装丁からいっても)こどもの本でしょ・・・」とあまり気もすすまず読んだのですが、どかん!とやられました。

灰色の男たちは限りなく怖ろしく、時間の花は限りなく美しい。

それ以来大好きな本なのですが、今回の再読は久しぶり・・・大学の時以来?
社会人になって、母親になって。
毎日時間に追い立てられている自分にこの本はしみました。
子供の本だけれど、大人が読むと身につまされる。
やさしい言葉で深い真実が語られている。
本当にすばらしい本です。

「時間とはすなわち生活なのです。そして生活とは、人間の心の中にあるものなのです。人間が時間を節約すればするほど、生活はやせほそって、なくなってしまうのです。」

私は「今」に体はあるけれど、心は「今」にない。
今目の前にあるごはんを食べながら、こどもの話にもうわのそら。
今日人に言われた嫌な言葉(過去)を思い出している。
今目の前にあるごはんを食べながら、なまへんじ。
心はこの後のお風呂や、寝かしつけ(未来)を考えている。
過去に囚われ、未来を思い煩い、今目の前にあるこどもと食べるごはん(現在)を味わっていない。
そんなふうに「今」の時間を味わっていない生活をしている自分。
「効率的な段取り」ばかりを考えて、味わわないで過ごした時間は灰色の男にとられてもう私の元には戻ってきません。

時間の花は、自分でしっかりとつかまえていなきゃなぁ・・・。

「お日さま お月さま お星さま」カート・ヴォネガット文(国書刊行会)

2010-01-25 | 児童書・ヤングアダルト
「お日さま お月さま お星さま」カート・ヴォネガット文アイヴァン・チャマイエフ絵(浅倉久志訳)国書刊行会を読みました。
2007年に逝去したカート・ヴォネガットがアメリカ・デザイン界の重鎮アイヴァン・チャマイエフと共作したクリスマス絵本の邦訳です。(原書刊行は1980年だそうです)
無神論者だったヴォネガットが造物主生誕の奇跡を独特の文章で描いています。
ちなみにヴォネガットが書いた最初で最後の絵本。

切り絵のようなぱきっとした色調のアーティスティックなイラスト。
先にチャマイエフが何の説明もなくイラストを描き、ヴォネガットがそれに物語をつけたそうです。
イラストはぱっと見は、太陽、月、星で、多分私がこのイラストを受け取ったら、もちろんみっつの天体をめぐる空のおとぎ話にすると思います。
でもヴォネガットが語る物語では、それぞれの形の意味するものが実はそうではありません。
これから読む方は、最初に文章の部分を手で隠して絵だけ見て、ヴォネガットがどんな物語を作ったのか予想してみるのも面白いかも。
変化球的で面白い絵本でした。

「レッドデータガール2 はじめてのお化粧」荻原規子著(角川書店)

2009-11-21 | 児童書・ヤングアダルト
「レッドデータガール2 はじめてのお化粧」荻原規子著(角川書店)を読みました。
神霊の存在や自分の力と向き合うため、生まれ育った紀伊山地の玉倉神社を出て、東京・高尾の鳳城(ほうじょう)学園に入学した鈴原泉水子(いずみこ)。学園では、山伏修行中の相楽深行(みゆき)と再会しますが、二人の間には縮まらない距離がありました。弱気になる泉水子でしたが、寮で同室の宗田真響(まゆら)と、その弟の真夏と親しくなり、なんとか新生活を送り始めます。
しかし、泉水子が、クラスメイトの正体を見抜いたことから、事態は急転します。生徒たちはある特殊な理由から学園に集められていたのでした…。
酒井駒子さんの、夢を見ているような泉水子の装画が素敵です。
ネタバレありますので、未読の方はご注意ください。

山伏に陰陽師、神霊に式神、忍者に歌舞伎。
「普通の高校生じゃない」人たちてんこもりの第二巻の学園編。
バラエティに富みすぎて、ちょっとライトノベル的・・・?
まぁ楽しいので良しとします。
自分が可愛がっているペットを殺して使役する、という話は怖かった。

深行が生徒会に入るあたり、「樹上のゆりかご」や、才色兼備な女子が出てくるあたりが「西の善き魔女」シリーズ、和宮が話すカラスになって現われるあたり、現代にまでつながる「勾玉」シリーズ?など、荻原さんの既作品をいろいろと連想させる要素も盛りだくさんです。
本編では表題「レッドデータガール」の意味も明かされます。

泉水子の深行への思い、本人が自覚しないうちにほのかに終わってどきどき。
次巻を楽しみに待ちます。

「長い長いお医者さんの話」カレル・チャペック著(中野好夫訳)岩波書店

2009-11-13 | 児童書・ヤングアダルト
「長い長いお医者さんの話」カレル・チャペック著(中野好夫訳)岩波書店を読みました。
チャペックの代表作のひとつ、楽しい童話集。
しんせつな町のお医者さんたちや、はたらき者の郵便屋さん、警察官が語る長い長いお話。挿絵は兄ヨセフによるものです。

カッパや犬の妖精、魔法使いに郵便小人。楽しいお話(「作品」というよりやっぱり「おはなし」と呼びたいです。)がいっぱいです。
いちばん好きな話はあて先不明のラブレターの話。
郵便小人のトランプも楽しいし、最後はかわいらしいハッピーエンド。
スズメが屋根から卵が落ちるまでの間にヒヨコになって大きくなっておよめさんをもらって、子供を産んで、年をとってよぼよぼになってようやく地面に落ちて死ぬ、というむちゃくちゃな話も面白い。

学生時代にこの本を初めて読んだとき、とても楽しくて「子供ができたら絶対読んであげよう」と心に決めていました。
しかし。
実際に4歳の娘に読んであげたらさほど反応なし・・・。
絵本でない本はまだ早いのかも?もう少し年齢があがったらリベンジしてみます!

「天山の巫女ソニン 5 大地の翼」菅野雪虫著(講談社)

2009-10-07 | 児童書・ヤングアダルト
「天山の巫女ソニン 5 大地の翼」菅野雪虫著(講談社)を読みました。
三つの国が、それぞれの思惑を秘めて動き出します。
三人の王子・王女と、ソニンの運命は?
シリーズ完結編です。ネタバレありますのでご注意ください。

巨山の王が、江南と協定を結び、沙維に戦争を仕掛けます。
うつろいやすい人々の心にとまどいと不快を覚えるソニン。
イウォル王子、クワン王子、イェラ王女も平和を願いながらも、戦争に加わらざるを得ません。
戦争で対峙するのは敵国の兵士たちだけではない、戦争で利殖を得る人、自分の家族だけは助かると思っている人、戦争に賛成する人々すべてなのだという意のソニンの言葉が印象的です。

イウォル王子が「もし戦で私の手がなくなってしまったとしたら・・・」とソニンの手を自分の頬に触らせる場面、じーんとしました。

最終章は春の祭りの前夜で終わります。もしかして表紙は春の祭り当日の絵なのでしょうか?蝶の飾りをひろめかせながら踊る人々の姿が素敵です。

どのような国のありかたが「良き国」なのか?
既巻と同じくもちろんこの巻でも決着はつきません。
というか、著者が意図してそういう書き方をしているのでしょう。
メインキャラクターの王位継承もありません。
でも5巻も続いた最終巻なので、終わり方にもう少しカタルシスがあってもよかったのかなーとも感じました。

今後、まだまだ続シリーズや外伝がありそうな感じがします。



「九年目の魔法(上・下)」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著(浅羽莢子訳)東京創元社

2009-04-25 | 児童書・ヤングアダルト
「九年目の魔法(上・下)」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著(浅羽莢子訳)東京創元社を読みました。
何か、おかしい。
壁にかかった懐かしい「火と毒人参」という写真も、愛読したベッドの上のこの本も、おぼえてるのとはちがってる。まるで記憶が二重になってるよう。
ことの起こりはポーリィが十歳のとき。ハロウィーンの日に近くのお屋敷で葬式があり、そこに迷い込んだ彼女は、リンさんという背の高い男の人に出会います。ずっと年上なのになぜか仲良くなるふたり。
それからふたりは英雄の空想ごっこの文通をはじめますが、そのおとぎ話がどんどん現実になります。

英雄が乗る馬が欲しいといえば、ロンドンの街中で脱走した馬に出会う。
空想のなかの英雄タン・クールが仕事をしている雑貨やストウ・オン・ザ・ウォーターが実在する。
英雄に3人の友がいるといえば、リンさんがちょうどカルテットを始めようとした時期で、そのメンバーをポーリィが写真を見ただけで当てる。
そしてリンさんが前妻ローレルの母から遺贈された絵(実はポーリィが遺贈の指示がなかった絵も混ぜ込んだもの)もおとぎ話にからんできます。
中国の馬、ピエロ、遊園地。

偶然なのか?
それとも、本当にふたりが作ったお話が現実世界に影響を及ぼしたのか・・・?

そしてあることをきっかけにポーリィはリンさんのことを忘れてしまいます。
おばあちゃんも、親友だったニーナも、だれも彼をおぼえていない。
母アイビーと父が別居しおばあちゃんの家に預けられ、現実世界に居場所を感じられないポーリィ。
彼女は自分の記憶を追い求めます。
自分は孤独から話をでっちあげたのだろうか?自分の頭はおかしいのではないだろうか?ポーリィの不安。
童話仕立てになっているのに、・・・こわいです!

「now here(いま、ここ)」と「no where(どこでもないところ)」。

ここからラストのネタバレ(考察)ありますので、未読の方はご遠慮ください。

ラストが・・・私にはどうもよくわからず・・・。

「でっち上げた話が真実になり、あとで我が身にはね返る」ローレルの呪い。
でもリンさん自身は真実(モートンの生餌であること)を語ることができない。
だからポーリィに同じような内容の本を贈って、ほのめかそうとした。
でもなぜ「つくり話が真実になる」力があるのに、モートンを倒したり、自分が自由になるという物語はつくれなかったのでしょう?
「わが身にはね返る」とは、自分に都合のいいような物語を作っても、必ず自分に都合が悪くなるような要因となって戻ってくる、という意味?
その呪いを、ポーリィもあの葬式の場にいたことでリンさんと共有している?
ポーリィの放った言葉。
「もう顔も見たくない!」
それが逆にはねかえって、「ずっと顔を見れることに」なった?
・・・う~ん・・・よくわからない。もやもや。
本自体は面白かったのですが、理屈が難しかったです。

「ジャングル・ブック Ⅱ オオカミ少年モウグリの物語」キップリング著(金原瑞人訳)偕成社

2009-04-18 | 児童書・ヤングアダルト
「ジャングル・ブック Ⅱ オオカミ少年モウグリの物語」キップリング著(金原瑞人訳)偕成社を読みました。
最後に訳者の解説がついていますが、もともと「ジャングル・ブック」とは動物物語やインドの話を含む短篇集で、この本ではそのなかでモウグリの物語だけを選んで訳したのだそうです。私は「ジャングル・ブック」とは、モウグリという少年を主人公にした長編小説なのだと思ってました。
以下、ネタバレありますのでご注意ください。

この第二部でもモウグリの数々の活躍が楽しめます。
今は無き都の王の宝を守る白いコブラとの対峙、エキゾチック。
面白かったのは赤犬の群れとの戦い。
さすがジャングルのすべてを知る大蛇カーの知略はみごと。
カーのとぐろのベッドで眠るモウグリの姿がなんだかほほえましかったです。
やがて17歳になり、春を迎えたモウグリは自分の内なる熱と憂愁にかられ、ジャングルを走り回ります。そして人間の村に戻ることに。

この本には番外編として「ラクにて」という短編も収められています。
このなかでモウグリは森林管理人となり、妻をめとっています。
「ハッピーエンドだけれど、なんだかちょっとモウグリらしくないな?」と感じたのですが、案の定この作品は「モウグリと兄弟たち」を書く前に書かれたものなのだそうです。
キップリングがオオカミ少年を書こうとしたときの習作ではないかとのこと。
うん・・・。モウグリが政府に使え、年金をもらうなんてピンとこないです。
オオカミ少年であるモウグリが人間の村で生きるためにはこういう役割で生きるしかないのかもしれないけど。
やっぱりモウグリには、いつまでもジャングルの子でいて欲しいなー。

「ジャングル・ブック Ⅰ オオカミ少年モウグリの物語」キップリング著(金原瑞人訳)偕成社

2009-04-05 | 児童書・ヤングアダルト
「ジャングル・ブック(第一部)オオカミ少年モウグリの物語」キップリング著(金原瑞人(かねはら みずひと)訳)偕成社を読みました。
狼に育てられた少年モウグリ。彼は厳しいジャングルの掟にきたえられて逞しく成長していきます。

登場する動物たちがみな個性的で面白いです。
自由に生きるために狼のおきてを守る、群れの長アケイラ。
大胆に獲物を狩る賢い黒豹・バギーラ。
ジャングルに住むあらゆる動物たちの言葉をモウグリに教える、情け深いクマのバールー。
巨大なニシキヘビのカー。
そしてモーグリの宿敵で、人間を戯れに殺す、虎のシーア・カーン。

「人間」であることから狼の群れに追われるモウグリ。
しかし人間の村でも「狼少年」「悪魔の子」として追われることに。

この物語を読んでいると、単純に「自然のすばらしさ礼賛」ではなく、動物たちの中にもジャングルのおきてを守る筋の通った動物と、自分の欲求だけを主張して、群れの迷惑をかえりみない動物といろいろいるのだなと感じます。

そして人間が一番獣の心をもった生き物だということも。
おきて破りで裏切り者で狡猾で二枚舌で妄信的で・・・。

頭のよさとジャングルで生き抜く賢さ、強さをもったモウグリは、知略をめぐらし猿たちをやりこめ、シーア・カーンを倒し、人間の村に復讐します。
第二部もモウグリのエピソードを読むのが楽しみ。

「おとなを休もう」石川文子編(フロネーシス桜蔭社)

2009-03-31 | 児童書・ヤングアダルト
「おとなを休もう」石川文子編(フロネーシス桜蔭社)を読みました。
1965年から2004年度までの40年間に出版された、小学3、4年生の「こくご」の教科書(全300冊)のなかから、採用頻度の高いベスト10の童話を調査して収録したアンソロジー。さらに、編者の選出10作品が掲載されています。
ちなみに、この40年間で最も頻繁に採用された作品は『ごんぎつね』だそうです。エチオピアの民話や、中国少数民族の民話なども収録。

収録作品は以下のとおり。
おおきな木   シルヴァスタイン著 
モチモチの木  斎藤 隆介著
白いぼうし  あまん きみこ著
おにたのぼうし あまん きみこ著
ワニのおじいさんのたからもの  川崎 洋著 洋
ソメコとオニ 斎藤 隆介著
島ひきおに 山下 明生著
一つの花 今西 祐行著
アディ・ニハァスの英雄  渡辺 茂男訳
つりばしわたれ 長崎 源之助著
花さき山 斎藤 隆介著
やまんばのにしき 松谷 みよ子著
チワンのにしき 君島 久子訳
サーカスのライオン 川村 たかし著
青銅のライオン 瀬尾 七重著
月の輪グマ 椋 鳩十著
はまひるがおの小さな海 今西 祐行著
うぐいすの宿 光村図書出版株式会社編
手ぶくろを買いに 新美 南吉著
ごんぎつね 新美 南吉著

私がなつかしかったのは「白い帽子」(確か教科書の一番最初にのってた)と、「手ぶくろを買いに」。
白い帽子の中に夏みかんをいれた、までは覚えていたのですが、その後の展開は覚えてなかった。
「手ぶくろを買いに」はとにかくこぎつねがかわいい。
雪に反射する光を見て「母ちゃん、目になにかささった、ぬいてちょうだい。」
「おかあちゃん、お手々が冷たい、お手々がちんちんする」
これも手袋を買いにいった後、もう一軒の家の描写があるのは忘れていました。

それから初読でしたが胸に残ったのは椋鳩十さんの「月の輪グマ」。

毎年国語の教科書をもらうたびに先まで全部読んでしまって、一年間手持ち無沙汰にしてた授業中を思い出します。

「龍使いのキアス」浜たかや著(偕成社)

2009-03-24 | 児童書・ヤングアダルト
「龍使いのキアス」浜たかや著(偕成社)を読みました。
アギオン帝国は、初代神皇帝アグトシャルの夢の呪縛にもう三百年もの間、くるしめられていました。
一方巫女見習いのキアスは、その出生の秘密を知らず、大巫女マシアンさまを探しに旅に出ます。
巫女がいる神殿と、戦士のいる大都市という組み合わせ、どことなくゲド戦記の「失われた腕輪」を思い出します。ほかにも日本神話のイザナギ・イザナミとその三人の子の話を思い浮かべたり。海へ、山へ、都市へ、辺境の地へと旅する壮大な物語です。

物語の舞台はロールという架空世界。
主人公キアスは女神ノアナンに仕えるモールの神殿の巫女見習い。
ある日モール林に捨てられていたのを巫女ナイヤが拾い育てた赤い髪の少女、キアス。
モールマイ族は女児が生まれるとモールの苗木を植えます。それがその子の「根」となり、その子が死ねば「根」も枯れます。
キアスは三百年前に生きていた大巫女マシアンの木がまだ生きていることから、まだマシアンさまが生きていると確信し、マシアンさまを探すたびに出ます

一方この世界で強い力を持っているのが戦神アーグを掲げ、武勇にすぐれたアギオン族でした。
自分たちの宗教と法を他民族に押し付けるアギオン族。
そんなアギオン族の頂点は三人。皇帝アグトシャトル、大神官キーオ。「内の外の賢者」、竪琴を背負う放浪詩人のイリット。
この三人は初代神皇帝(しんこうてい)アグトシャトルの三人の子からずっと同じ名前をひきついでいる一族です。

アーグ神殿では、「近く帝国を崩壊させるほどの力をもった巫女があらわれるだろう」と神託がくだり、巫女狩りが始まります。
生まれてから一度も夢をみたことがないという皇帝の秘密とは?
そして皇帝の前で弾いてはいけないと語り継がれているイリットの竪琴と皇帝との結びつきとは?

この物語はメインの物語の面白さもさることながら、脇を固める人々の個性も魅力です。
特に私が好きなのはダグニ族のフル。
悪口大会で一等賞をとった「おろかな賢者」。でも彼に悪口を言われると作物は見事に実り、人は生き生きとしてくるのです。

それからオーラーの神殿に仕える巫女の長ジルさま。
鳥に姿を変えた恋人の巫女マヌを追い、軍を脱走したゴア。
「若者の無謀なふるまいをいましめるのが、年長者の義務だとこころえますが」といさめるイリットに、
「そういって、年長者はいつも若者の牙をぬいてきました。」とひややかに答えるジルさま。かっこいい・・・。
若者の無謀をとめるのは思いやり?結局自分が面倒をさけたいだけなのかも。

「なにより大事なのは、もしマヌを助ければこの若者はとても貴重なものを手に入れたことになるということです。その貴重なものとは、もちろんマヌのことではありません。そして、もし助けに行かなければ、その貴重なものをうしなうことになるのです。」
貴重なもの・・・恋人に対する誠意、闘いにひるまない勇気、自分の気持ちを自分は裏切らなかったという誇り・・・かな。

それから「好き」ではないですが、印象的なのが闇を抱える男、大神官キーオに仕えるオゴス。
「アグトシャトルの血をひくなら、捨て子の血をひきたかった。」と語るキオスに、
「おろかだな、キアス。外にいるものは、中の世界にあこがれるものだぞ。」と返すオゴス。
なんだか「カラマーゾフの兄弟」のスメルジャコフを思い出します。

キアスの出生の秘密、マシアンさまの行方・・・
最後の最後まで読みどころたっぷりのおすすめファンタジーです。