Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「タール・ベイビー」トニ・モリスン著(藤本和子訳)早川書房

2010-02-19 | 外国の作家
「タール・ベイビー」トニ・モリスン著(藤本和子訳)早川書房を読みました。
カリブ海に浮かぶ雨林の生い茂る小島で、二人は偶然に知り合う。
白人の大富豪の庇護を受けて育ちソルボンヌ大学を卒業した娘・ジャディーンと、黒人だけに囲まれてフロリダの小さな町エローで育った青年・サン。
異なるがゆえに惹かれあいはげしい恋におちていくふたり。
そして異なるがゆえにすれちがい相手を深く傷つけていく。
黒人同士でありながら決定的なちがいを持ち合せた二人の恋の行方。
藤本和子さんの訳ならばはずれはないだろうと手に取ったのですが、著者はノーベル賞作家だったのですね・・・シラナカッタ。

ハイチ、閉ざされた「騎士の島」の濃密な空気。島をおおいかくす霧を独身の叔母の髪の毛にたとえるなど、自然を描くにもさまざまなイメージがかさねあわされている読み応えのある文章です。
初めは文章に慣れないとちょっと読みにくいのですが、4章のサンが登場するあたりから作品の世界にはまってきます。

サンとジャディーンのふたりの空間はとても官能的。

「彼女は答えず、彼も脈拍が数打する間、もう何もいわなかった。そして、それから彼はやった。足裏に人差し指を置いて、そのまま、そのまま、そのままにした。
「やめてちょうだい」と彼女が言うと、彼はやめたが、それまで指のあった足の谷間に、人差し指の印象は残った。布製の靴の紐を結んだあとでさえ。」

ふたりが触れている場所はわずか指一本なのに、とてもエロティックな場面です。

それからもうひとつ印象的なのは、サンがジャディーンに目をつぶらせるところ。

「何が見える」
「何も見えない」
「想像してみるんだ。暗闇にふさわしいものを。闇は夜の空だと考えてごらん。そこにある何かを想像してみる。」
「星ひとつ?だめ。見えない。」
「そうか、見ようとしなくてもいい。それになろうとしてみるんだ。なったらどういう気持ちか知りたいか?」

こんな風に話をされたら女性はおちます!

しかしふたりの燃え上がる想いは、ふたりの生い立ち、価値観の違いから次第に齟齬をきたしていきます。

ジャディーンの育ての親であるシドニーとオンディーン夫妻、その主人のヴァレリアンとマーガレット夫妻、ヴァレリアン夫妻の息子で、実家によりつかない息子のマイケル。
さまざまな年代、職業、人種の人物がそれぞれの立場でものを考え、十字架館につどっています。その屋敷がアメリカという多人種の国を表しているひとつのもののようにも思えてきます。

あとがきでは訳者の藤本さんが表題の「タール・ベイビー」の話(民話のようなもの)を紹介しています。



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