Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「くわしっく名曲ガイド」茂木大輔著(講談社)

2006-11-28 | エッセイ・実用書・その他
「くわしっく名曲ガイド」茂木大輔著(講談社)を読みました。
N響オケで主席オーボエをつとめ指揮歴も10年という著者。最近はもぎぎの愛称で「のだめカンタービレ」の監修もしています。クラシックにくわしっくなるというダジャレがそのまま本になってしまった・・・という題名からもわかるとおり肩の力を抜いて面白く読める一冊。
初心者がTPOに合わせて聴ける音楽や、星座・血液型に合わせた作曲家の紹介。
茂木さんの好みで選んだ名曲のオススメ。
オーケストラの楽器別紹介、オケや指揮者についてのよくあるご質問への回答。
後半では「わかって聴けば感動100倍!」をモットーに、10年来繰り広げている解説コンサートの経験から、交響曲や教会音楽などの長い音楽の楽しみ方・聴き方のヒントになるようなくわしい解説を、「新世界交響曲」や「マタイ受難曲」を一例にして書かれています。
茂木さんの愛情あふれる偏見が楽しく、表現も面白くて笑いながら読んでしまいました。
打楽器奏者は楽譜が読めない? ヴィオラは二谷英明のような魅力?チューバのソロをいつ聞きたいのだろう・・・?などなど。
でも笑うだけではなくて、この曲聞いてみたいなあと思わせるツボもきちんとこころえている文章はさすが。

「中二階」ニコルソン・ベイカー著(岸本佐知子訳)白水社

2006-11-28 | 外国の作家
「中二階」ニコルソン・ベイカー著(岸本佐知子訳)白水社を読みました。
中二階のオフィスへエスカレーターで戻る途中のサラリーマンがめぐらす超ミクロ的考察を描いた作品。こんなことが小説になるのか?という新鮮な驚きとふふ・・・と共感してしまう笑いの数々。あまりに細かい注釈を読んでいるうちに本筋を忘れてしまう困った(楽しい)経験をしました。

* 靴紐が左右同時期に切れるのはなぜか。
くつひもを結ぶたびにひっぱるから?歩いているうちにこすれるから?
* 素足でスニーカーを履いたときの喜び。一日履いたあとで素足にハト目のマルが残っているさまはジュール・ベルヌの描く潜水艦のようだ。
* ほうきで家を掃除する楽しさ。ちりとりにゴミをはきこむ。でもホコリが一筋の線となって残る。それは完全にはなくならないが、できるだけ見えないくらい細く細くちりとりにはきこむのが快感。
* 牛乳の容器が瓶からカートンに変わったときの素敵な衝撃。
あの家のようなかわいらしい容器。厚紙を開いてひし形にあけると注ぎ口になってしかも牛乳が細く出て注ぎやすい!これを考えた人はすごい。
* ミシン目を発明した人間への熱狂的賛辞。
ミシン目はロケットの開発などよりすごいことではないか?点々とした模様をひっぱると返信用ハガキが簡単に切れる。これはすごいことだ。
* 女の子はなぜ服をきながらブラがはずせるのか?あの魅力的なもぞもぞした動き。
* 製氷皿の各マス目についている小さな溝はすごい工夫だ。あれがあることで水が均一にまわるんだから。

などなどひとつひとつはたわいもない、でもそれが全部集まるとたとえようもなく面白い小説になる・・・。
これまで誰も書こうとしなかった愉快ですごく細かい小説でした。
この小説を読んだ後は普段乗りなれているはずのエスカレーターに乗ることも楽しかった。世界の見方が変わります!

「巨匠に教わる絵画の見かた」視覚デザイン研究所編

2006-11-23 | エッセイ・実用書・その他
「巨匠に教わる絵画の見かた」視覚デザイン研究所編を読みました。
画家自身の作品に対する言葉のみならず、同時代、後世の画家がその画家についてどう思ったかがことばで楽しめます。賛辞もあれど、悪評もあり。
ルネッサンス前夜から現代美術まで時代を追って構成されています。
ほかにも、その画家が影響を受けた過去の画家や作品を並べられていたり、さまざまな工夫がこらされており、全面カラー印刷で楽しく読める美術解説本です。
私の好きなピサロとルソーがとりあげられていなかったのが残念。

一番面白かったのがルノアールの言葉。いわずとしれた美人画の巨匠ですが、
「もし婦人の乳房と尻がなかったら、私は絵を描かなかったかもしれない」
こんなあけすけな言葉を残しているとは知りませんでした。
ほかにもミケランジェロの「最後の審判」を見て。
「やわらかくふくよかなはずの婦人の体がまるで闘士のようではないかね」
レンブラントの「夜警」を見て。
「私はレンブラントが好きだ。しかし少しうっとうしい。「夜警」は少し暗すぎるとは思わんかね?少しましなのは雛鳥を持った女だけだ。女はここだけにしかいないし、明るいのもここだけだ。後はお払い箱だよ。私は壁にかけて人々に喜んでもらえる絵が好きなんだ。」
日本では神棚にまつりあげられている感もあるルノアールですが、「きれいな女性が好き。若い女の子が好き。」
もーほんとうにロマンチックおじさんだったんですね。
ブラボー、ルノアール。


「麦ふみクーツェ」いしいしんじ著(新潮社)

2006-11-22 | いしいしんじ
「麦ふみクーツェ」いしいしんじ著(新潮社)を再読しました。
ある日聞こえてきた不思議な足音。音の主は麦ふみをするクーツェ。ほかの人には聞こえないその音を聞ける「ぼく」が主人公。「ぼく」はパーカッショニストの祖父、数学教師の父の3人家族。「ぼく」が指揮者をめざすなか、「ぼく」自身に、街に、さまざまなできごとがふりかかります。
文庫版では栗田有起さんが解説を書かれています。

読んでいて一番印象的だったのは盲目のボクサー、ちょうちょおじさんの言葉です。

「きみはこの世が実際どんなひどい音をたてているのか、耳をそらさずききとらなけりゃならないんだ。ぼくがおもうに、一流の音楽家っていうのは、音の先にひろがるひどい風景のなかから、たったひとつでもいい、かすかに鳴ってるきれいな音をひろいあげ、ぼくたちの耳におおきく、とてつもなくおおきくひびかせてくれる、そういう技術をもったひとのことだよ」

これは「音楽家」の部分をそのまま「小説家」にうつしかえてもぴったりの言葉だと思います。
そしていしいさんの書く物語はその「一流の小説家」の作品だ、とも。
この小説は文字で書かれているのに、実際に音が聞こえてくるような不思議な小説です。
クーツェの踏む「とん たたん とん」のリズム。
打楽器が主役の「なぐりあうこどものためのファンファーレ」
流れ星が流れる音。
売春宿で先生が弾くチェロの響き。

さまざまな小さなエピソードが寄り集まって大きな物語がつむがれていく。
いしいさんの長編小説の中で一番好きな作品です。










「なきむしヒロコちゃんはかもしれない病かもしれない」いしいしんじ著(講談社)

2006-11-21 | いしいしんじ
「なきむしヒロコちゃんはかもしれない病かもしれない」いしいしんじ著(講談社)を読みました。
ヒロコちゃんはものすごーい泣き虫。どこでもかまわず突然ビービー泣いて皆のヒンシュクをかう。ヒロコちゃんはユータくんに打ち明けた。「かも知れないって思っちゃうもんだから…」
大阪弁の台詞つきイラストがとても楽しい絵本です。
子供の絵のようなのだけれど、百いく羽もの鳩のイラストなど丁寧に描かれていてプロの絵だと思うところもあり不思議な絵です。
ちなみに「ヒロコ」という名前はこの本の担当編集者さんからとったそうですよ。

「グレート・ギャッツビー」フィッツジェラルド著(村上春樹訳)中央公論新社

2006-11-20 | 村上春樹
「グレート・ギャッツビー」フィッツジェラルド著(村上春樹訳)中央公論新社を読みました。
村上春樹さんが人生で巡り会った最も大切な小説と語る「グレート・ギャッツビー」。村上さん本人による待望の新訳です!
この小説を私が初めて読んだのは大学生のとき。訳のせい?とは思わないですが、まだ自分が幼いせいもあって「これが名作?なんだか良さがわからないなあ」というのが感想でした。なぜ村上春樹さんはこんなにもこの小説にいれこむのかなあと。
今回改めて村上さんの訳で読んでみて、本を閉じてはぁーーーとため息をつきました。
・・・すごくすごくすごくいい作品でした!

あんなにも集まっていたギャッツビーの周囲の人々が、いっせいに背を向ける後半が読んでいて一番つらかった。
ピンクのスーツを着て上流階級の言葉を使うスマートなギャッツビー。
でもその心の中には激しい上昇嗜好、そしてそれを体現しているようなデイジーへの強い想い(空想)が隠されていた。
ギャッツビーの父親が見せてくれた本の落書きがとてもせつなかった。
そしてその子供時代からの願いを実現させるために違法な手段で金を稼ぐギャッツビー・・・。
この物語のあと、デイジーがどうなったのかも気になります。
すべてをなかったことにして、よき母・妻をつとめているのかなあ。

かなえられた思い、かなえられなかった願い、もうとにかく胸がいっぱいになる物語です。
村上さん、すばらしい翻訳でこの作品の良さを教えてくれてどうもありがとう!




「真夏の航海」カポーティ著(安西水丸訳)講談社

2006-11-19 | 外国の作家
「真夏の航海」カポーティ著(安西水丸訳)講談社を読みました。
カポーティ幻の処女作です。主人公は上流階級で育った17歳のグレディ。彼女は両親ふたりのヨーロッパ旅行をきっかけに、初めてひとりでニューヨークの夏を経験することになります。
駐車場で働くクライドとの恋。生い立ちも現在の生活もまったく違うふたり。
グレディにとっては初めてつきあった男性であっても、クライドにとっては何人かいる女性の中のひとりでしかなかった・・・。ふたりの恋に対するひたむきさの違いにせつなくなりました。後半の酩酊からドライブまでのくだりは読んでいてくらくら・・・。「若いことはすばらしい」とはよく聞くせりふだけど、それだけではなく、「世界は自分の考えているようなところとは違う」ということをひりひりしながら感じる痛い時代でもあるのだと思いました。


「シーラカンス」いしいしんじ著(金の星社)

2006-11-16 | 児童書・ヤングアダルト
「シーラカンス」いしいしんじ著(金の星社)を読みました。
「シーラカンスの肉ってかたいんかなあ?」 思いついた3日後にはシーラカンスを刺身にすべく包丁持って、世界で唯一「生きた化石」が出現するアフリカ、モーリシャスのコモロ島へ!金なし、考えなし、勢いだけで突っ走る酒まみれのシロート釣り師の旅日記です。シーラカンスの挿絵に脱力・・・。

いかさまパール売りとの会話、スコールの日の各国の観光客が集まっただらだらバー 、そしてなによりコモロ島での体験!あびるような星空の下で飲み踊るコモロの人々。おとぎの国のできごとのような不思議な紀行文です。

「世界は村上春樹をどう読むか」柴田元幸ほか編(文藝春秋)

2006-11-15 | 村上春樹
「世界は村上春樹をどう読むか」柴田元幸ほか編(文藝春秋)を読みました。
17カ国・23人の翻訳者、出版者、作家が一堂に会し、熱く語り合った画期的なシンポジウムの全記録です。
どの項もよみ応えたっぷりでとっっっても面白かったです。
第一章はリチャード・パワーズさんの基調講演。
脳の働きと村上春樹さんの作品との驚くべき共通点について語っています。
脳とはインプット、アウトプットという一方的なフローではなく、ひとつの単語を口にする営みですら100人の演奏者によるシンフォニーの演奏になぞらえてもおかしくない。私は誰なのか?という自己感覚についても騒々しい議会であって、ゆるやかにつながった議員たちが互いにアップデートしあい、模倣し、修正しあいそのつど作り上げている自己に過ぎない。村上の作品には自分が自分だけの記憶でつくられているものではないということが見事に描かれている。
・・・うーんなるほど・・・すごく難しいことを私たちにわかりやすく伝えてくれるパワーズさんの知性、言葉、すごい・・・。ほかにもいろいろと深くうなずいてしまう指摘がたくさんありますよ。
第二章はフランス・韓国・ロシア・台湾・アメリカの翻訳者が語る村上春樹の魅力。NHKBSでも放送されました。ジェイ・ルービンさんの「かえるくん、東京を救う」の翻訳のくだりは柴田元幸さん著の「翻訳教室」でも詳しく読めます。
第三章は各国翻訳本表紙カバー比べ。
この章はかなり面白かったです。かっこいー!日本のよりむしろ素敵!と思う表紙があれば、なんで「ノルウェイの森」が「トーキョーブルース」?なんで浮世絵?と思う珍妙な表紙も。
第四章は四方田犬彦さんが語る村上春樹と映画。
第五章は翻訳ワークショップ。
「夜のくもざる」の中から「スパナ」と「夜のくもざる」を各国翻訳者が訳します。時制や擬音、固有名詞など翻訳が抱える限界、逆にそこを工夫する面白さなど翻訳のさまざまな側面が知れて楽しかったです。
これらのシンポジウムのあとみんなで山中湖で慰労会をしたそうです。
それものぞいてみたかったなー。



「うなぎのダンス」いしいしんじ著(アスペクト)

2006-11-15 | 児童書・ヤングアダルト
「うなぎのダンス」いしいしんじ著(アスペクト)を読みました。
きんさん・ぎんさんに始まり、作家の町田康さん、柳美里さん、トランプマンから赤塚不二夫さん、指圧師の浪越徳治郎から、凸版CPL(印刷機との架空対談)まで、さまざまな22組の人物(物)といしいしんじさんが語った対談集です。
対談する人物は誰もが知る有名人から一部の人は知る・・というド宇宙ロックバンド・ジョニーや浅草ストリッパーの初代姿乃さんなどさまざま。
全体的に占い師や催眠術師などオカルトティックな分野の人が多いような・・・いしいさんも疑い半分面白半分って感じで対談しています。
「特攻の拓」原作者の左木さんのゴルフ談義が面白かった。