Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「アメリカの鱒釣り」ブローティガン著(藤本和子訳)新潮社

2006-05-31 | 柴田元幸
「アメリカの鱒釣り」ブローティガン著(藤本和子訳)新潮社を読みました。
2005年の文庫化にあたって訳者の藤本さんの文庫あとがきと柴田元幸さんの解説が追加されています。
47の短い、アメリカの鱒釣りをめぐる物語。
軽やかなことばづかいで新しい翻訳として話題になった作品でもあります。
マヨネーズで終わる作品を書きたい、など全体にユーモラスで自由な文章。
そしてどこかかげりを感じるアメリカの空気。
印象的だったのは「<アメリカの鱒釣りホテル> 208号室」。
ろくでなしの売春斡旋屋につかまった黒人の女性、そして彼女を身請けしたアート。彼らは売春斡旋屋が腹いせに彼女の名前でつけで購入した多額の商品の返済を今もつづけています。208という名前の猫。
せつないような気持ちがふっと最後に感じられます。
訳者解説で藤田さんがブローティガンを「現実を表現するために幻想という迂回を通った」と表現していますが、納得。
夢見る幻想のようなふわふわとした空気、あるいは純文学的な重厚な空気はないのですが、この作品にはなんともいえない悲しみが感じられました。

「バレンタイン」柴田元幸著(新書館)

2006-05-30 | 柴田元幸
「バレンタイン」柴田元幸著(新書館)を読みました。
柴田元幸さん初の短篇小説集です!!(大興奮)
5/27に青山ブックセンター本店で行われた、藤田和子さんと柴田さんのトークショーの際の先行発売されていたものを購入しました。


(ここからネタバレあります。)


題名をみて「スウィートな恋の話?でも柴田さんだもん、そんなに単純じゃないよね」と予想し、でもその予想を上回る、奇妙で面白くて不思議な話が集められていました。
本の帯に「エッセイがいつのまにか小説になってしまった」と書かれていますが、短編集の主人公は限りなく柴田さんに近い「僕」(あるいは君)。
柴田さんのいつもの楽しい語り口に、単純に「あはは」と笑って読み進むうちに、僕が出刃包丁に刺されたり、ダンプにひかれたり、ゲートボールのクラブで殴られたり、最後にひやっとする終わり方がする短篇が多いです。
不思議と主人公がかわいそうという感じはないんですけど・・・(それもひどいか)ぶつっと太いもので切られるような独特の読後感があります。
一番すきなのは「妻を直す」。
実は壊れているのは自分なのかもしれませんが、ロバ、いいですよね。
散歩させたい。
最後の作品「ホワイトデー」は心にぐーーーときました。
「失ってみて初めてわかる幸せ」と私がまとめてしまうと陳腐ですが、作品を読むとしみじみそのことが実感されました。

今は読んだばかりで興奮しているので、また日をおいてゆっくり再読してみたいです。


雑誌「すばる」2006年3月号

2006-05-29 | 柴田元幸
雑誌「すばる」2006年3月号を読みました。
2005年12月に青山ブックセンター本店で行われた古川日出男さんと柴田元幸さんの対談が「イッツ・オンリー・ロックンロール文学」という表題で掲載されています。
古川さんの小説は読んだことがないのですが、「小説家は母、編集者は父」とか、「そのときに書いていた自分を尊重したい」という推敲へのこだわりとか、ロックを語りつつ小説を語る、ふたつがぴったりくっついている感じがしました。
なにか古川さんの作品、読んでみたいなあ。

「アメリカ文学のレッスン」柴田元幸著(講談社)

2006-05-25 | 柴田元幸
「アメリカ文学のレッスン」柴田元幸著(講談社)を読みました。
ポーやメルヴィルからオースター、パワーズまで著書自らが訳し、語るアメリカ文学。雑誌に連載されていたものをまとめたもので、論文というよりはアメリカ文学のエッセンスを集めた感じ。
それぞれのテーマを掲げて、いくつかの文学作品に触れています。
「アメリカ文学における外で自分を確立させる手段とは家とたてること、しかしHouseが必ずしもhomeにはならない」など、興味深い指摘がいくつもあります。
東京出版会から出版されている「アメリカン・ナルシス」とも重なる部分があります。
古典から現代文学まで幅広く語る柴田さんの頭の中を一度のぞいてみたい!

「ネクロポリス(下)」恩田陸著(朝日新聞社)

2006-05-25 | 児童書・ヤングアダルト
「ネクロポリス(下)」恩田陸著(朝日新聞社)を読みました。
下巻では双子のジミーとテリーの秘密、連続殺人事件の真相、行方不明の叔父の正体が明かされます。そして変質しはじめるアナザー・ヒル。
死者たちの共同会見や、ヤタガラス、原始のアナザーヒルへの冒険などさまざまな要素がつまっています。
舞台設定が興味深く面白いだけに、ラストをもう少し丁寧に紙数を費やして描いてほしかったなあ・・・とちょっと残念な点も。
殺人犯の正体も「むむ」とちょっと、ちょっと・・・う~ん。なんかちょっとな感じです。


「どこにいても、誰といても」藤本和子著(筑摩書房)

2006-05-18 | 児童書・ヤングアダルト
「どこにいても、誰といても」藤本和子著(筑摩書房)を読みました。
ブローティガンの翻訳などで知られる著者のエッセイ集です。
著者はアメリカ、イリノイ州のシャンパンという街で、アメリカ人の夫とふたりの養子(ペルー人の長女と韓国人の長男)と暮らしています。
テーマは子育ての悩みや考え、庭づくりの話、アメリカでの女性保護シェルターを手伝う話や、南西部に旅行した際のネイティブ・アメリカンの織物や陶器の話などいろいろ。
藤本さんのエッセイはどれも弱いもの、しいたげられている者への視点がこまやかで優しい。
「上から見ている」感じではなく、共感して自分にとりこんで社会的問題を考えている著者の生きる姿勢を、とても素晴らしいと感じました。


「スローターハウス5」カート・ヴォネガット・ジュニア著(伊藤典夫訳)早川書房

2006-05-17 | 柴田元幸
「スローターハウス5」カート・ヴォネガット・ジュニア著(伊藤典夫訳)早川書房を読みました。
柴田元幸さんが卒業(修士?)論文に選んだ作品がこちらだそうです。
主人公はビリー・ピルグリム。彼はUFOに誘拐され、自分の生涯の時間を行き来する旅人になります。舞台はトラファマドール星の動物園(有名女優とひとつ檻の中)、大富豪の娘との結婚生活から第二次世界大戦下のドレスデンまで・・・。

トラファマドール星人は時間は順番に流れるものではなく、その瞬間、瞬間は同時に存在すると考えています。私はあるときは死んでいるが、あるときには生きている。
「今日は平和だ。ほかの日には、君が見たり読んだりした戦争に負けないくらいおそろしい戦争がある。それをどうこうすることは、われわれにはできない。ただ見ないようにするだけだ。無視するのだ。楽しい瞬間をながめながら、われわれは永遠をついやす ちょうど今日のこの動物園のように。これをすてきな瞬間だと思わないかね?」
「いやな時は無視し、楽しいときに心を集中するのだ」

作中に頻繁に挿入される「So it goes (そういうものだ)」を読むたびにひんやりとした風が足元を吹きすぎていくような気持ちになります。
どうして人間は飽くことなく戦争をするのか?
荒唐無稽なSFの形をとりながら、最後にしんとした痛みを残す作品です。


「キャッチャー・イン・ザ・ライ」サリンジャー著(村上春樹訳)白水社

2006-05-08 | 村上春樹
「キャッチャー・イン・ザ・ライ」サリンジャー著(村上春樹訳)白水社を再読しました。
1951年発行『ライ麦畑でつかまえて』の村上春樹さんの再訳版です。
村上さんが同作品について語った、柴田元幸さんと共著「サリンジャー戦記」も必読。
読んでいて、ホールデンがたえまなくこちらに語りかけてくる様子、あまりの雄弁さに、逆にこちらに隠したいものがある、ホールデンは大切なものは何も語っていないような気持ちになりました。
語り手ホールデンの見ている世界を、私が見たらずいぶん違った解釈になるだろうなあと思いました。ホールデンはうそといわないまでも、ずいぶん過大・過小評価が多いように思ったからです。
でも、読んでいて「めんどくさい」「うそばっかり」「ほっといて」・・・
私の学生時代のもやあ~としたイライラ感がよみがえってくるようでした。
舞台はNYだし、時代も違うし主人公は男の子、それでもこんなにシンパシーを感じるなんて、やっぱり「ライ麦」ってすごい。


「日本文学ふいんき語り」麻野一哉・飯田和敏・米光一成著(双葉社)

2006-05-08 | 児童書・ヤングアダルト
「日本文学ふいんき語り」麻野一哉・飯田和敏・米光一成 著(双葉社)を読みました。
ゲームクリエーター3人の座談会をまとめたもの。
日本文学をゲーム化(具体的にはゲームソフトだけでなく、テーマパークやデコトラなどいろいろ)すべく語り合います。内容は以下のとおり。
文豪の部
『こころ』(夏目漱石)
『羅生門』ほか(芥川龍之介)
『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)
『痴人の愛』(谷崎潤一郎)
『人間椅子』(江戸川乱歩)
『山椒魚』(井伏鱒二)
『人間失格』(太宰治)
『金閣寺』(三島由紀夫)
ベストセラーの部
『世界の中心で、愛をさけぶ』(片山恭一)
『電車男』(中野独人)
『アフターダーク』(村上春樹)
『半島を出よ』(村上龍)

『人間失格』はダメ人間ブログ、三島由紀夫はたまごっちならぬ三島っちなど、発想の面白さが笑えます。
ちゃかす内容が多いので、その作家・作品に心酔している人にはちょっと腹の立つ本かも・・・。でも、作品を「お文学」として神棚にあげず、読んで感じて考えて楽しもう!という3人には共感を覚えます。
これから私がとりあげてみてほしいのはカフカの「城」かな。
不条理で面白いゲームになりそう。

「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」英語版

2006-05-01 | 村上春樹
村上春樹さんの「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」の英語版を読み始めました。英訳はアルフレッド・バーンバウムさん。
きっかけは柴田元幸さんの「翻訳教室」でとりあげていた村上春樹さんの短篇「かえるくん、東京を救う」の英語版。(英訳はジェイ・ルービンさん)
日本語の文化を英語に訳すのって面白いなあ・・・と思ったのがきっかけで、村上さんの作品の中でも一番好きな「世界の終わりと~」にチャレンジしてみようと思いました。
英語版では原作の重複する表現などがところどころ削除されています。
一行一行ゆっくり読み進めていますが、改めて村上さんの作品はストーリーの面白さだけではなくて、文章がとても美しいなあ・・・と実感、一気に読んでしまう楽しさもあるけれど、ゆっくりとちびりちびりと楽しむ読書もとても素敵なものだと思いました。
残念だったのが、私が原作で大好きな「彼女の体には、まるで夜のあいだに大量の無音の雪が降ったみたいに、たっぷりと肉がついていた」の比喩が削除されていたこと。すごく素敵な表現なのに、英語圏の人はこの部分知らないのだな~。
また、単語力のない私は「太った」の表現をfat以外にchubbyとかplumpとか、いろいろあることも初めて知りました。
これから読み進んでいくのが楽しみ。