Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「七姫幻想」森谷明子著(双葉社)

2007-12-28 | 日本の作家
「七姫幻想」森谷明子著(双葉社)を読みました。
七夕の織女伝説をモチーフに、和歌を絡めながら描かれた七編の連作ミステリー(ファンタジー)です。
水辺に住み、日ごと機を織っていた美しい女たち(織女)をめぐって古代から江戸まで、さまざまな時代の物語が語られます。

蜘蛛のように糸をつむぐ女、おそろしく美しい。
私が面白かったのは「朝顔斎王」。器量も良くなく、歌の読み方も知らない元斎王と、荒くれ者の年下の公達との恋物語が不器用でいいです。「少納言」の正体も楽しい。
古の時代を舞台にした森谷さんのこのシリーズ、もっと読みたいな~。

「奇想遺産」鈴木博之ほか(新潮社)

2007-12-26 | エッセイ・実用書・その他
「奇想遺産」鈴木博之ほか(新潮社)を読みました。
朝日新聞の日曜版に連載中の変な建築を集めたコラムを2005年3月から2006年12月までの中から77作品を集めたもの。
見開きで片面に簡単な説明、片面に大きく建築の写真が掲載されています。
文章は短いためそんなにつっこんだ言及はありませんが、とにかく写真のインパクトがすごい!思わず息をのむ奇想の数々。

構成は全7章。
1章 (時には風景までをも歪める)「奇景・奇観」
2章 (都市の奇怪な象徴を意図した)「奇塔・奇門」
3章 (不思議な形をきわめた)「奇態」
4章 (知的研鑽を提起する)「奇智」
5章 (自己流の風流をここまでやるかと思わせる)「数奇」
6章 (神仏の霊験を表現した)「神奇」
7章 (既成概念に確信犯的に叛く)「新奇・叛奇」

私の印象に残ったのは
イギリス、マレ=ベルニエ村の芝棟。(屋根にアヤメが咲いてる)
スペイン、ビルバオのグッゲンハイム美術館。(金属が鯉のようにうねうね)
韓国、屏山書院(屋根のゆるやかな丸みが宇宙をのせているという発想がすごい)

この本の第二弾も楽しみ。



「落日のボスフォラス」澁澤幸子著(集英社)

2007-12-26 | 日本の作家
「落日のボスフォラス」澁澤幸子著(集英社)を読みました。
かつては3つの大陸に君臨し、世界最強と謳われたオスマン帝国も19世紀には終焉のときを迎えようとしていました。華麗な宮殿で、帝国の明日を想い苦悩するスルタン。帝国最後の100年間に、ボスフォラス沿いの華麗な宮殿でくりひろげられた苦悩と最後の華やぎのドラマです。

小説自体はスルタンと各宮殿の歴史のおさらいという感じ。
でもなかなかとりあげられない時代なので、(きっと小説家としては繁栄した時代や、ムスタファ・ケマルの活躍などを書く方が面白いですよね。)なかなか興味深かったです。
ドルマバフチェ、ベイレルベイ、チュラーンなどの各宮殿にこんなこんな物語があったのかあ。
西欧の文化と自国の宗教とのせめぎあい、相次ぐ民族紛争など、オスマン帝国が20世紀に向けて加速度的に自国領土をせばめていったのは、スルタンの力量や国の制度といったことだけでなく、やっぱり時代がそれを求めていたせいかなと思いました。

「イスタンブールの目」新藤悦子著(主婦の友社)

2007-12-24 | エッセイ・実用書・その他
「イスタンブールの目」新藤悦子著(主婦の友社)を読みました。
トルコの人々の暮らし、トルコ料理のレシピ、キリムや絨毬の魅力などが語られた、写真満載のエッセイです。
ピクルスジュースや、髪をかくすスカーフのふちどりをするかわいらしい「オヤ」という手芸、トルコのちゃぶだい「ソフラ」など、ガイドブックにはのっていないトルコミニ知識が面白いです。
トルコ語ミニコラムも旅行者には役に立ちそう。



「アウステルリッツ」W・G・ゼーバルト著(鈴木仁子訳)白水社

2007-12-23 | 外国の作家
「アウステルリッツ」W・G・ゼーバルト著(鈴木仁子訳)白水社を読みました。
イギリスからベルギーへ、数度の旅を繰り返していた語り手(私)。
語り手がベルギーの中央駅の待合室で偶然出会ったのは建築史家の男性、アウステルリッツ。アウステルリッツは駅舎や要塞など建物に興味をひかれてヨーロッパ諸都市を巡っており、語り手にむかって博識を開陳します。建築の歴史は近代における暴力と権力の歴史とも重なり合っていくもの。そしてアウステルリッツ自身の生い立ちも近代の歴史(ナチスによるユダヤ人迫害)と密接にかかわりあうものでした。自らの過去を探す旅を続けるアウステルリッツ。建物や風景を目にした瞬間に、突然封印された記憶がよみがえります。
多くのモノクロ写真が挿まれ、小説ともエッセイとも旅行記とも回想録ともつかない、独自の世界が表現されている作品です。
起承転結があるというストーリーではないのですが、とにかく文章がとても美しいです。翻訳もすばらしいからでしょうね。

たとえばアウステルリッツがプラハに自分の身内を探しに行き、母の友人兼幼い彼の子守役だったヴェラに会う場面。
「ヴェラはついと立っていくと、内窓と外窓の両方を開け放ち、窓下に広がる隣家の庭を見せました。おりしもライラックが真っ白な花房をたわわにつけて咲き誇り、立ち込めてきた薄闇のなかで、春のさなかに降り積もった雪のようなけしきでした。壁に囲まれた庭から立ち上ってくる甘やかな香り、家並みの空はるかに懸かる三日月、ふもとの街にとよもす教会の鐘、仕立て屋の家の緑のバルコニーと黄色いファサード、そんな光景、あんな光景がつぎつぎと連なって浮かび上がりました。」

冒頭から本書の中ばくらいまでは語り手とアウステルリッツの親交、アウステルリッツ自身の幼少からの生い立ちの話が続くのですが、彼の両親がナチスの迫害を受けていたことがわかる中盤から一気に読んでしまいます。
ゼーバルトはノーベル文学賞候補とも言われていた作家だそうですが、残念ながら2001年に不慮の事故でお亡くなりになっているそうです。もう新作が読めないのは残念。

「ハーレムの女たち」澁澤幸子著(集英社)

2007-12-21 | 日本の作家
「ハーレムの女たち」澁澤幸子著(集英社)を読みました。
オスマン帝国がゆるやかな凋落と混乱にさしかかった、セリム二世(壮麗王スレイマン大帝の息子)の没後。
16世紀後期、オスマン宮廷内には陰謀が渦巻き、やがてカドゥンラール・スルタナトゥ〈女人政治〉と呼ばれる時代が幕を開けます。スルタンの母后、寵姫、皇女たちが権力を握り、幼帝や無気力、凡庸なスルタンを操って政治に介入していきます。帝国盛衰の陰に生きた美女たちの闘いを描いた歴史の物語です。

幼帝や無能な帝をたて、権力をもった貴族(または武士)が政治を自分の意のままに操るという構図は日本の歴史にも見られますが、それがオスマン帝国ではハレムに生きた女たちだったというのが興味深いです。
自分以外のスルタンの血筋は、自身がスルタン即位後即刻殺す(異母兄弟ではなく、同母兄弟であっても・・・)という血の掟、恐ろしい。
しかしその掟がなくなった後も「鳥籠」という名称で同じように自分以外のスルタン継承者を何十年も監禁し、発狂させていた、というのも生殺し・・・同じように恐ろしい。
女性が政治に介入することによってオスマン帝国はゆるやかに凋落していったということですが、もし私も皇子の母親だったとしたら、同じように「スルタンとしての力量」よりは「とにかく自分の子供たちを殺さないこと」を一番に考えてしまうだろうなあ。
さまざまな権力と思惑がいきかうハレム・・・怖いです。
個人的には一作目「寵妃ロクセラーナ」よりおすすめ。

「千年の黙(しじま)」森谷明子著(東京創元社)

2007-12-21 | 日本の作家
「千年の黙(しじま)」森谷明子著(東京創元社)を読みました。
紫式部が解き明かす、平安の世を舞台に描かれた推理小説。
第一部は「上にさぶらふ御猫」。忽然と消えた帝の愛猫。
闇夜に襲われた中納言、消え失せた文箱の中身。女童あてきの視点から、あてきの御主の紫式部が謎を解き明かします。
第二部は「かかやく日の宮」。
「源氏物語」が千年もの間抱え続ける謎のひとつ、幻の巻「かかやく日の宮」。
この巻はなぜ消え去ったのか?
学術的でもある問題を小説として解き明かします。
この作品は著者のデビュー作。第13回鮎川哲也賞を受賞しています。

謎解き自体は少し読みすすめば推理マニアでない私にもなんとなく察することができる程度の謎なのですが、王宮内の権力闘争、道長の人となりが良くでていて面白いです。「かかやく日の宮」、もしこの小説のような真相だったら・・・と思わせる説得力があります。幻の巻、私も読んでみたいなー。


「レンゲ畑のまんなかで」富安陽子著(あかね書房)

2007-12-19 | 児童書・ヤングアダルト
「レンゲ畑のまんなかで」富安陽子著(あかね書房)を読みました。
広いレンゲ畑の真ん中にたつ空色のアパートに住む悦子。悦子はある日レンゲ畑でひとりの少女に出会います。
少女が打ち明けた秘密。「あのね、あたしたち、いま、魔女の家につかまってるんだ。」日常を魔法のような目で見つめる子どもたちの物語です。

知らない路地、秘密基地、宝探し・・・世の中の仕組みを「知らない」からこそ夢とどきどきがたくさん詰まっている子供の時。
読んでいて子供時代の遊びの感覚がよみがえってくる、なつかしい感じがしました。

「トルコ 風の旅」新藤悦子著(東京書籍)

2007-12-18 | エッセイ・実用書・その他
「トルコ 風の旅」新藤悦子著(東京書籍)を読みました。
グランドバザールで働く少年と友達になるイスタンブル、トルクメンの祭りを見るカズ山、草木染のじゅうたんを求めて訪れたミラス、静かに雨のふる地中海カシュ、奇岩に雪が積もるカッパドキア、肌を焼く真夏のメソポタミア・マルディン、クルド人問題を抱えたドーバヤジット、村の結婚式を見に行くアニ、場所も訪れた季節もさまざまなトルコの旅の記録。

通常のトルコツアーでは訪れない小さな村や町の風景が印象深いです。
あとがきで著者は「なぜトルコに行くのか。うまく説明できない理由がある。アナトリアの大地を渡っていく風の中に立つだけで、こころもからだも深く満たされていく。」と書いていますが、同じくトルコに惹かれ、渡土したのは一度だけですが、ぜひ再訪したいと思っている私にも共感できる言葉です。
トルコはリピーター旅客が多い国なんだそう。私の友人の知り合いにもそういうご夫婦がいます。人?食?文化?歴史?
全部ひっくるめて「はまる」要素が多い国なんでしょうね。



「パイロットの妻」アニータ・シュリーヴ著(高見浩訳)新潮社

2007-12-18 | 外国の作家
「パイロットの妻」アニータ・シュリーヴ著(高見浩訳)新潮クレスト・ブックスを読みました。
深夜に届いた、夫ジャックの突然の死の知らせ。それはキャスリンを絶望の淵へと追いやる序奏でした。夫が操縦する旅客機の墜落。ひとり娘マティ、祖母ジュリアと悲嘆に暮れる間もなく、不穏な情報が次々と彼女を苛みます。さらに、夫が遺したメモからは耐えがたい現実が浮き彫りにされていきます。
平凡な暮らしを営んできた妻に襲い掛かる、「家族の秘密」を知る痛みを描いた長編小説です。

私は夫の何を知っていたのだろうか?
夫が営んできたもうひとつの顔、今まで当たり前に過ごしてきた過去の日々のもつすべての意味が塗り換わる。
夫に何の疑いも持たず安穏と暮らしてきた自分、そして「妻」の座を譲る場面は胸が冷たくなります。

毎日が平凡に過ぎていくと、人は往々にして何か自分に秘密を、スリリングな面を持ちたくなるもの。でも自分を信頼してくれている人を結果として裏切ることにもなり得る・・・キャスリンの負った傷は本当にかわいそうだけれど、ジャックの心理もわかるだけになんだか・・・本当にせつなかったです。