Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「笑う食卓」立石敏雄著(阪急コミュニケーションズ)

2009-08-29 | エッセイ・実用書・その他
「笑う食卓」立石敏雄著(阪急コミュニケーションズ)を読みました。
人呼んで「原稿も書く遊び人」。自称「理科少年的主夫」「深窓の貧乏人」。
夫人は女性誌編集長。同居人は猫のヒジカタクン。
「なんとなく」を座右の銘とする晩飯当番の著者の「生活と意見」。
雑誌「pen」に連載されていた同名の食エッセイの、1999年の第1回から2007年までの8年分全188本を完全収録した本です。

ところどころに出てくる簡単な料理がおいしそう。
うちで試しに作ってみて美味しかったのが乳酒、甘くないきんぴら、ごぼうだけの柳川鍋。

でも料理本ではないので、大半のエッセイはレシピではなく、日々の食について思うことの語りです。
似たようなテーマのエッセイも多く(加工食品を食べて奥さんに叱られる、若者の食生活を憂う、など。)、本も分厚いので完全収録ではなく抜粋にして、もう少し薄い本にした方が読みやすく手にもとりやすいだろうと思いました。

「煙か土か食い物」舞城王太郎著(講談社)

2009-08-29 | 日本の作家
「煙か土か食い物」舞城王太郎(まいじょう おうたろう)著(講談社)を読みました。
腕利きの救命外科医・奈津川四郎に届いた凶報。
それは自分の母が連続主婦殴打生き埋め事件の被害者になったというものでした。復讐は俺に任せろマザファッカー!
故郷に戻った四郎を待つ血と暴力に彩られた凄絶なドラマ。
著者のデビュー作で第19回メフィスト賞を受賞しています。
ネタバレありますので、未読の方はご注意ください。

舞城さんの著書を読んだのはこれが初めてです。
舞城さんの作品について語られる言葉「スピード感」「文圧」・・・確かに!

主人公四郎のモラルのない女性関係、不眠症ハイのような語り。
そしてそれをさらに上回る兄・二郎の暴力的な暴力。
そしてそれをさらに押さえつける父・丸雄の圧倒的な暴力。
そしてそれを生み出したのは・・・。

暴力が暴力を生む連鎖。
奈津川家の壮絶な事情なのですが、なぜかそこでどろり・みっしりと沈滞はせず、その生い立ちも含め、現在をどんどん高速で飛ばしていくようなドライブ感のある物語です。

筋書きとしては母親を殴打した犯人を捜すというミステリー仕立てになっているのですが、犯人の真の動機はあくまで推定で終わります。
ですからミステリーとして読むよりは、ひとつの一族の物語がメインになっていると思います。
ムチャクチャな展開を経て、最後は強引な大団円!
ムチャクチャだからこそ最後の四郎の行動に心をつかまれる?
この力技。
デビュー作なのに・・・すごすぎ。


「赤朽葉家の伝説」桜庭一樹著(東京創元社)

2009-08-27 | 日本の作家
「赤朽葉家の伝説」桜庭一樹著(東京創元社)を読みました。
中国山脈のおくに隠れ住む「山の民」サンカに置き去られた赤ん坊。
この子は村の若夫婦にひきとられ、のちにタタラで財を成した製鉄一族、赤朽葉家に輿入れします。不思議な千里眼を持ち、戦後の高度経済成長の時代を生きた祖母、万葉(まんよう)。
町で噂の不良少女となり、バブル崩壊を経たのちレディースを描く少女漫画家となって一世を風靡する母、毛毬(けまり)。
何者にもなれず、偉大な祖母と母の存在に脅える平成を生きるニートの娘、瞳子(とうこ)。
鳥取の旧家を舞台に、3世代の女性たちが生きる時代を描いた物語です。

とってもよかったです!
女性たちがそれぞれに独特の個性を持ちながら、でもやはり生きている時代が要求するものからは逃れられない。
三人の生きる道筋と、時代の流れがうねる面白い作品でした。

第1部の万葉が語る世界はまるでおとぎ話のよう。
山おろしが吹く天上界のようなお屋敷に輿入れした万葉。
水とともに生まれた長男・泪。母親の毛をすいとって生まれた次女・毛毬。
「たたり」「千里眼」が普通に信じられていた、周囲から隔絶された村。
しかしテレビの普及とともに神話の村は一地方都市に変わっていきます。

第2部の毛毬の世界はどこかドラマ風。漫画「ホットロード」を思い出しました。
しかし、毛毬は男らしくてかっこいいな。
「流行りはいつも都会から遅れてやってくる。しかし廃れるものは地方都市から先に訪れる」という言葉が印象的でした。

第3部は自分の人生に語るべき強いものをもたず、祖母・母の代の記憶をたどる瞳子の姿。
私個人的には、殺人の謎解きの場面は削って、祖母のせつない恋と罪の意識の核心にいきなり迫ってもよかったのではと思いましたが、そうすると第三部だけ分量が少なくなって、全体のバランスが悪くなってしまうかな?

恋愛結婚ができず、女性は外で仕事を持てず、男らしくない男は生きてゆけなかった祖母の時代。
しかし人々は意識を変え、時代を変えてきました。
今は祖母の時代に比べると格段に「選択の自由」があります。
しかしそれはいつまでも決断ができず、自分の生き方に腹を括れない時代でもあります。

そんな現代を瞳子は(私は)、どのように生きていくのか。
これから来る「第四部」の時代に何を受け継ぎ、または変えるべきだと伝えていきたいのか。

・・・日本の過去と未来が一気に押し寄せてくるような、読み応えのある作品でした。





「昨日のように遠い日」柴田元幸編(文藝春秋)

2009-08-25 | 柴田元幸
「昨日のように遠い日」柴田元幸編(文藝春秋)を読みました。
レベッカ・ブラウン、ユアグローなど柴田さんの訳でおなじみの作家のほか、
20年代ソ連のアヴァンギャルド作家の愉快で恐ろしい世界、
サラエボ出身の新鋭に、本邦初登場のアイルランドの女性作家など、
少女少年小説を15編集めたアンソロジー。
特別付録にアメリカン・コミックの「眠りの国のリトル・ニモ」、「ガソリン・アレー」のカラー・リーフレットが付いています。
「少年少女」のための小説と区別するため?か、「少女」が先の「少女」少年小説集です。実際に私の印象に残った作品も少女小説が多かったかも。

収録作品は以下の通り。

●大洋      バリー・ユアグロー
●ホルボーン亭   アルトゥーロ・ヴィヴァンテ(西田英恵訳)
●灯台      アルトゥーロ・ヴィヴァンテ(西田英恵訳)
●トルボチュキン教授 
      ダニイル・ハルムス(増本浩子/ヴァレリー・グレチュコ訳)
●アマデイ・ファラドン  著者・訳者同上
●うそつき        著者・訳者同上
●おとぎ話        著者・訳者同上
●ある男の子に尋ねました 著者・訳者同上
●猫と鼠 スティーヴン・ミルハウザー
●修道者   マリリン・マクラフリン(小澤英実訳)
●パン    レベッカ・ブラウン
●島     アレクサンダル・ヘモン
●謎   ウォルター・デ・ラ・メア

訳者の表示がないのはすべて柴田さんの訳によるもの。
雑誌&HPのモンキービジネスに掲載されていたものもいくつかあります。

私がいいと思った作品。

『修道者』

女の子がいやおうなく大人になっていく。
子供に戻りたいわけではない。でも「女」にはなりたくない。

「あたしは人から見られたりしない。ただ自分のやりたいことをやって、人からあれこれ見定められたりはしない。」

これから花開く若い女の子である、という周囲からの求めと、
かまわないでほしい、自分らしくいたいのだからと感じる自分との差異。
女の子の体が大きく変わる時期。
吹き荒れる心の中の嵐が、おばあちゃんの海辺の家で過ごすうちにだんだんと変化していきます。

『パン』
あなたがいつもとるホイートロール。
柔らかいパンの描写から、あなたのはく靴、あなたのしぐさ、あなたの・・・
片思いの「私」の熱い目線をそのままたどるように、丹念に語られる女子寮での日常。美しくカリスマ性のある「あなた」。
パンをめぐる苦い結末は恋の終わりなのか、
それとも悪魔的な「あなた」への恋を強めることになるのか。

あとがきで柴田さんは「いまさら子供の無垢だの純真さだのを謳いあげた作品を並べたって仕方ない。」と語っていますが、単純に「少女か少年を主人公にした作品」だけではない、バラエティにとんだ作品が選ばれています。

「ユニコーン・ソナタ」ピーター・S・ビーグル著(井辻朱美訳)早川書房

2009-08-20 | 外国の作家
「ユニコーン・ソナタ」ピーター・S・ビーグル著(井辻朱美訳)早川書房を読みました。
ロサンゼルスに暮らす13歳の少女ジョーイは音楽好き。毎日、学校帰りにパパス楽器店に立ち寄り、ギリシア人のパパスさんと音楽についておしゃべりしている。
そんなある日、食事に出かけるパパスさんにジョーイは店番を頼まれます。
そこへひとりの見慣れぬ少年が訪れ、角笛を売りたいと言います。
30センチくらいの長さの、巻き貝のようにねじられた銀青色の角笛から流れるのはこの世のものとは思えない妙なる調べ。
じつはこの少年は、人間に姿を変えたユニコーンでした。
やがて角笛の音に導かれ、ジョーイはユニコーンの住む幻想郷「シェイラ」へと赴きます。

美しい・・・お話でした。
ユニコーンは出てきますが、「最後のユニコーン」の続編ではありません。
インディゴに出会い、その角笛の音楽に魅了され、音をたどってアメリカの郊外の街角から突然「境」を越えてシェイラにたどりついたジョーイ。

「ここはいったいなんて場所なの。なんでもこわくて死にそうになるか、美しすぎて胸がつぶれそうになるか、どっちかしかない。いったい、ここは、どういう場所なの?」

見上げた天空の深みに落ちて行きそうな真っ青な空。
草からも土からも石からも絶え間なく聞こえる美しい音楽。
フォーン、ドラゴン、川に住むイタズラ者のジャラ。
そして色とりどりの美しいユニコーンたち・・・。

本のカバーにスピルバーグ監督のドリームワークスでアニメ化と書かれていましたが、もう実現したのでしょうか?この美しいシェイラがどのように表現されているのか見てみたいです。そしてインディゴがアメリカのハイウェイを駆け抜ける場面は、読んでいていかにも映画ばえする場面だろうなと思いました。著者がシナリオライターをしていることもあるのかも。

そして一番の核であるシェイラの音楽。
これを誰がどのような曲に仕上げるのか、とても興味があります。
私のイメージではバッハの教会音楽。でもそうすると「今まで誰も聞いたことがない」という描写と相反してしまいますが。

境を越えられる、あるいは夢の世界でシェイラと接する人間がいる。
境を越えて私たちの世界で貧しい暮らしを営んでいるユニコーンもいる。
でももちろんそれが見えない、聞こえない人が大半。
シェイラとは夢、芸術、美しさ、それが感じられるほんの一握りの人の見える世界を体現したものなのでしょうか。

著者は飛びぬけた早熟な才能で「心地よく秘密めいたところ」「最後のユニコーン」で注目を浴びて以来目立った小説の発表がなかったので、どうされているのかと思っていました。(脚光を浴びすぎて書けなくなった?なんて想像していました)
でも訳者あとがきを見るとノンフィクションやシナリオライターとしてコンスタントにお仕事されていたのですね。知らなかったです。
御年70歳、まだまだがんばっていただきたい小説家です!

「菊地君の本屋 ヴィレッジヴァンガード物語」永江朗著(アルメディア)

2009-08-19 | エッセイ・実用書・その他
「菊地君の本屋 ヴィレッジヴァンガード物語」永江朗著(アルメディア)を読みました。
最近「本屋」本を集中して読んでおります。
世の中にはいろいろな専門書店がありますが、その中でも個性的で楽しい本屋がビレッジヴァンガード。

あえて「専門書店」の「なんでも揃ってます」の啓蒙感をなくし、新刊にこだわらず、書誌番号にこだわらず、「この本の隣にこの本を並べるんだ!?」という驚きと楽しさを大事にする。
本の隣に服も雑貨もCDもお菓子もおく。平台はビリヤードの台。店の上には本物の飛行機。
こういう複合型書店も最近は増えてきましたし、書店のPOPも注目されるようになってきましたが、ヴィレッジヴァンガードが始めた頃は、お客さんもとても新鮮な驚きで通いつめたんでしょうね。

「お客には親切にしたい。でもお客との距離は確かに難しい。特定のお客からの甘えを他の客が見ると、なんだあれはっていうことになる。友達になったら買ってくれなくなる。お客はみんな平等だ。特定の客への特別待遇は、他の客から見ると不愉快だ。」

あ、これ。よくわかります。
常連が増えるのはその店が愛されている証だけれど、店員と常連がずっとしゃべているような店は、あまりいい感じを受けません。
店員として「親切」と「馴れ合い」の線引きは難しいところだと思いますが。

そして印象的だったのはこの言葉。
「ぼくはやっぱり本屋の日常業務が好きだ。棚の整理が終わって、店内を見回すと、本の背がきれいに並んでいる時のあの感じ。他の仕事では味わえないものがこの仕事にはある。」

ヴィレッジヴァンガードのような、今までの「書店」の常識を破った本屋をつくった菊地さん。アクが強い人なんだろうなぁ、なんて勝手に思い込んで読んだらこういうシンプルな言葉を目にしてちょっと驚いたりしました・・・。

専門用語が多くて「?」な部分もありましたが、逆にそれが菊地さんの肉声を聞いている感覚で面白かったです。

「だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ」都築響一著(晶文社)

2009-08-18 | エッセイ・実用書・その他
「だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ」都築響一著(晶文社)を読みました。
東京では出会えない個性派書店を求めて、人口2200人の山村から奄美大島、はてはタイ・バンコクにまで足をのばす。台湾の知られざるビジュアル・ブックの美しさに息を呑み、「今やらなければ間に合わない」と語る出版社主のことばに深くうなづく。「スキャナーのように」表面を完璧に写しとる写真家・篠山紀信や、「希有なジャーナリスト」でもあったデザイナー・堀内誠一ら、その時々に出会った人たちの仕事に心打たれる。
気になる本と本屋を追いかけた、15年間170冊の書志貫徹。
個性的な本屋紹介と、あまり人がとりあげない本を意識して都築さんが書評としてとりあげたものを、まとめた本です。

一年のうち2/3は旅暮らし、これから作りたい本が2~300はあるという都築さんのバイタリティに圧倒されます!
本屋のオリジナル文庫帯があるという盛岡のさわや書店にびっくり。
バンコクの紀伊国屋書店では、日本では絶版になった「アジアを舞台にした日本の文庫」が復刊されていて買えるらしいです。
レディース雑誌「ティーンズロード」の書評も面白かった。

著者あとがきより。
「本書に再録した中には、とうに絶版になったり、出版社が消滅したりして、手に入りにくい本もずいぶんある。でも、これは自分の体験からつくづく思うのだが、自分にとって絶対に必要な本なら、いつの日か、かならず手に入る。出会うべき運命の本ならば、いつかかならず出会う。
だからもし、この中に一冊でも気になる本が見つかったら、あきらめずに探し続けて欲しい。その一冊が、どこか埃にまみれた本棚の暗がりで、ずっと君を待っていると信じて。
だって、ほんとうに、だれも買わない本は、だれかが買ってあげなきゃならないのだ。」

「場末」に面白さを見出し、「名所も何もないただの田舎」めぐりに惹かれる。
毎月何千冊と発行されるピカピカの新刊の並んだ平台ではなく、店の角の棚にひっそりと並んだ本に光をあてる。
世間の大多数とは違うところに価値観を見出す。
そしてそれを楽しく私たちに伝えてくれる都築さんの視点に、私も「新しい目」が開かれる思いです。

「すごい本屋!」井原万見子著(朝日新聞出版)

2009-08-09 | エッセイ・実用書・その他
「すごい本屋!」井原万見子著(朝日新聞出版)を読みました。
イハラ・ハートショップは和歌山県の山奥にある、住人約100人の村の小さな本屋。地域には店がないため、食品や日用雑貨も一緒に売っています。
そんな本屋が『怪傑ゾロリ』の原ゆたかさんのサイン会、
写真家・今森光彦さんとの交流会、都築響一さんのトーク・イベントなど、
村の子どもたちと次々と楽しい「事件」を起こしていきます。
過疎や出版不況のなか、「田舎の子どもたちにもたくさんの本との出会いを」という思いで動き続ける井原店長の挑戦の日々がつづられた本です。

私の住むマンションが10部屋×10階建てで100世帯、住人400人弱・・・と考えると、うちのマンションより、ハートショップのある村全体の人口の方が少ない!
そんななかで子供たちにもっと本を読む機会を与えようと努力し、店長ひとりで店が休めない中、旅費を算段して東京の出版社まで出向き、著名な作家の方々を呼ぶ熱意、バイタリティ。
本当に「すごい本屋!」です。
当時アリス館の編集長をしていらした後路さんがハートショップを訪れた際の言葉が印象的でした。

「こんなお店、はじめてみたぞ!そうか、本はラーメンやパンや醤油と同じ日用品なのだ!としごく納得させられる。」

この言葉、とても素敵です。

実用書は別として、本に即時的な実利を求める考え方(恋愛のノウハウや、悲しみを癒す方法を本に教えてもらうこと)は、私はあまり好きではないのです。
だから本を「実用品」と考えることにはなじめません。
けれど「日用品」と考えることは好き!
微妙・・・な違い?

田舎だからこそネット書店で本を買う人が多いと思いますが、書店で手にとって本を見、書店の方と言葉を交わす喜びはネットでは味わえないもの。
これからもイハラ・ハートショップにはがんばってほしいです!

「小川洋子の偏愛短篇箱」小川洋子編著(河出書房新社)

2009-08-06 | 日本の作家
「小川洋子の偏愛短篇箱」小川洋子編著(河出書房新社)を読みました。
「この箱を開くことは、片手に顕微鏡、片手に望遠鏡を携え、短篇という王国を旅するのに等しい」
「奇」「幻」「凄」「彗」のこだわりで選んだ短篇作品集です。
各作品ごとに小川さんの短いエッセイが付いています。

収録作品は以下の通り。

件(くだん)   内田百間
押絵と旅する男  江戸川乱歩
こおろぎ嬢    尾崎翠
兎        金井美恵子
風媒結婚     牧野信一
過酸化マンガン水の夢 谷崎潤一郎
花ある写真    川端康成
春は馬車に乗って 横光利一
二人の天使    森茉莉
藪塚ヘビセンター 武田百合子
彼の父は私の父の父 島尾伸三
耳        向田邦子
みのむし     三浦哲郎
力道山の弟    宮本輝
雪の降るまで   田辺聖子
お供え      吉田知子

いかにも小川さんの好きそうな、小川さんの小説のエッセンスを感じる作品ばかり。「名作」というよりは、風変わりなもの、不気味でじわじわ~とくるものが多いです。
谷崎潤一郎の「過酸化マンガン水」って自分の赤い便が水につかった時の色がそんな感じって!・・・見立てがすごい。
牧野信一さんの作品は初めて読みました。「風媒結婚」の主人公はなんとなくミルハウザーが描く主人公を連想させます。
川端康成の現像すると浮かび上がってくる花の写真も不思議な話でした。
「春は馬車に乗って」。
病の妻を看病しながらの進まぬ執筆、貯まってくる体の疲労、日々を生きるための金の苦労。どんどんいきづまる生活の最後に現れるスイトピーの香り。
なんだか胸が苦しくなりました。 

文豪と呼ばれる人たちの小篇を読むのは、代表作を読むのとはまた違った味わいで面白いです。

「柴田元幸ハイブ・リット」柴田元幸編訳(アルク)

2009-08-04 | 柴田元幸
「柴田元幸ハイブ・リット」柴田元幸編訳(アルク)を読み(聞き)ました。
「ハイブ・リット」とは、hybrid(混成の)とliterature(文学)の合成語で、文学を楽しみながら多面的にすぐれた英語に親しめるCD-BOOK の呼称。
村上春樹さんバージョンも出版されています。

収録作品は以下の通り。朗読はすべて作者自身!豪華です。

ハッピー・バースデイ/バリー・ユアグロー
私たちがやったこと/レベッカ・ブラウン
大いなる離婚/ケリー・リンク
ペット・ミルク/スチュアート・ダイベック
雪人間/スティーヴン・ミルハウザー
オーギー・レンのクリスマス・ストーリー/ポール・オースター

どの作品もすべて既に出版されているものですが、改めて作者の声で聞き、読み返してみるとまた違った味わいです。
朗読の技術や英語の文章表現については、残念ながら私の英語力が足りなくて批評できるほどの違いはわかりません。
でも著者自身の声を聞ける、というのはとても貴重な体験。

ダイベックさんの温かみのある声は作品にぴったり。
ミルハウザーさんの声は、イギリスの知的紳士といった趣。(アメリカ人だけど。)
日本にはこういうリーディングのイベントってないですね。
「朗読」といえば江守徹さんのような声のいい人がやるもの、という固定概念があるような気がします。
朗読の上手下手にかかわらず、「耳で聞く物語」も私は大好きですけどね。