Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「太陽のパスタ、豆のスープ」宮下奈都著(集英社)

2010-02-11 | 日本の作家
「太陽のパスタ、豆のスープ」宮下奈都著(集英社)を読みました。
暗闇をさまよう明日羽(あすわ)に、叔母のロッカさんはリストを作るよう勧めます。溺れる者が掴むワラのごとき、「ドリフター(漂流者)ズリスト」。明日羽は岸辺にたどり着けるのか、そこで、何を見つけるのでしょうか。
宮下さんの最新作、内容について触れますので未読の方はご注意ください。

宮下さんの作品らしく、今回もおいしそうな食べ物がキーワードになっています。
郁ちゃんの豆のスープ、お兄ちゃんのホットケーキ。
六花さんのまずい料理でさえ、ちょっと味見してみたい。

自分のしたいこと、やりたいことをつづるドリフターズリスト。
リストをつくる過程で自分のいままで、これからを見つめなおす明日羽。
これだけだとちょっと「自己啓発本ぽいな」と感じていたのですが、「それって不可能リストじゃない?」と、途中でちゃーんと桜井さんが落としてくれます。

リストは自分を鼓舞しやる気にさせてくれる。
自分へのきっかけ、チャンス、希望。
でも逆にそれに囚われすぎると、自分自身を縛るものにもなりうる。
「宣言」は物事を成就させたいときに重要なものですが、それに届かないときには自分で自分にストレスをかけてしまう要因にもなり得る・・・なかなか難しいものです。
京の言うように、自分を「やわらかく」して自分の選びたい方向に行くというゆるやかさが長続きのコツなのかな。

明日羽にとってはとても悲しいできごとでしたが、逆に彼女にとって、今までの自分を見つめなおすきっかけとなりました。自分が変化すべき時が、初めはマイナスの顔をして現われたということですね。そのままマイナスの方向に進んでいかなかったのはもちろん明日羽の資質もあるでしょうが、まわりの人々がとても温かい素敵な人たちだからだったのだろうなと感じました。

余談ですが、年の近い姪と風変わりな叔母という設定が、吉本ばななさんの「哀しい予感」に似てるなと思って読んでいたのですが、叔母の六花さんが郁ちゃんに初めて会ってうろたえる場面・・・ふたりの続柄は、作品には描かれていませんがもしかして???

「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」万城目学著(筑摩書房)

2010-02-01 | 日本の作家
「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」万城目学著(筑摩書房)を読みました。
かのこちゃんは小学一年生の元気な女の子。
マドレーヌ夫人は犬語を話す優雅な猫。
その毎日は、思いがけない出来事の連続で、不思議や驚きに充ち満ちています。
万城目さんの最新作です。

「かのこ」ちゃんの名前は「岡本かのこ」からとったのかと思いきや、実は・・・。
万城目さんの既作品とのつながりが連想される素敵な命名です。

かのこちゃんとすずちゃんの「大人のお茶会」、男子女子の「難しい言葉勝負」など、子供らしさいっぱいでおかしくてとてもかわいらしかったです。私がもし勝負するなら?・・・「まこもたけ」かな。
「フンケーの友」もすごい。本当にあんなこと、トイレでできるの???

本作で描かれる「不思議」はホルモーや鹿男とは違って、いかにも日常にひそんでいそうな雰囲気があって、面白かったです。
別れの9月はもらいなきしてしまいました。

出版されてまだ間もないので、ネタバレはこれくらいにしておきます。
新書なのでお財布にも優しいのがうれしいところ。
装丁はクラフト・エヴィング商会です。


「美しき天然」田中聡著(バジリコ)

2010-01-18 | 日本の作家
「美(うるわ)しき天然」田中聡著(バジリコ)を読みました。
皇太子時代の大正天皇をめぐる、史実に基づく物語。
皇太子時代に大正天皇は、日本国内のみならず、朝鮮半島にまで視察旅行に出かけていました。厳重にスケジュールが決まっているにも関わらず、一人で散歩にでたり、人々に話しかけたり、かなり開放的な面を持たれていたといいます。
そのような史実を下敷きにし、皇太子、お伴をしていた有栖川宮、新聞記者だった「電通」の創始者・権藤震二、同じく新聞記者の山路愛山、ときの政治家・山県有朋、小説家・江見水蔭、人類学者・坪井正五郎、そして日本の山を守っているという謎の民・スクナ族(このスクナ族だけは架空の登場人物)、その巫女であるサワ、スクナ族から離れ今は都会に住んでいる笙吉(しょうきち)など多くの登場人物が、皇太子と共に旅を続けます。
高崎、軽井沢、長野、新潟、柏崎、高田、桐生、水戸など、近代化に揺れる明治の日本を描いた歴史伝記小説です。

山に住むスクナ一族は「ウラうつし」などの独特の術を身につけ、治山治水をなりわいとしています。
彼らは近代化とともに荒れていく山河を守るために、皇太子の心に働きかけ、山のシラベを守ろうとします。しかし、スクナ一族自身も時代の変化からは逃れられない運命にありました。

大正天皇については諸説ありますが、この小説ではのびやかな感性をもった、きまじめな皇太子として描かれています。
しかし、近過去の天皇を作品として扱うということや、実在の人物に隠し子がいたという設定は、小説だけれど問題ないのかしら?と老婆心ながら作者に異議申し立てがいったりしないのかなとちょっと気になってしまいました。

実在の事件や人物も絡み合わせた面白い小説でした。
皇太子の言葉や長岡の方言、スクナの言葉などの描き分けも巧み。
でもスクナの思いに背き、その後の日本がたどった道を重ね合わせると、心が重くなります・・・。


「銀河鉄道の夜」宮澤賢治著(新潮社)

2009-12-22 | 日本の作家
「銀河鉄道の夜」宮澤賢治著(新潮社)を再読しました。
大好きな作品で何度も再読しているのですが、寒くなり空が澄んでくると読みたくなります。この作品の舞台自体は夏の夜なのですが。
今回の再読では、ジョバンニのセリフに対する解釈が少し変わりました。

ジョバンニが何度もカンパネルラに語りかける言葉。
「どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んでいこう」

以前はこの言葉を、ジョバンニの死者に対する片思い、かなえられない独占欲、乗り越えるべき想い、と私は感じていました。

列車に乗っている時点ではジョバンニははっきりとカンパネルラを死者とは認識していませんが、ほかの乗客たちは死者であり、カンパネルラも彼らと同じ切符を持っていたことで、ジョバンニも心の底ではうすうすと察していたのではないかと思います。

でもこのセリフは、カンパネルラが「本当はどこまでも生きてすすんでいきたかったけれど」という、口には出せない想いを、ジョバンニが代わりに言葉にしてあげたのではないかと。
たくさんの未来が待っていたはずの、幼い少年のカンパネルラが命を落とす。
ジョバンニの心の底には、カンパネルラの心の痛みを引き受け、「僕は君がいつまでも隣に一緒に生きていると思って、進んでいくよ」という思いがあったのではないでしょうか。

そう思うと、この言葉がジョバンニのエゴではなく、決して死者を忘れないという、彼の覚悟の言葉に思えてきました。

今まではこの作品を「ジョバンニの心の旅」と捉え、カンパネルラは善行を成して死んだのだから自身の死を納得している、と受け止めていました。
でも・・・再読するとまた別の読み方もできるのですから不思議です。
ひとつの扉の奥にいくつもの扉が隠れているのが「読み継がれていく本」なのでしょうね。

もし死者にもう一度だけ会えるとしたら、多くの人は何を伝えるでしょうか。
多分「ありがとう」。
もしくは、「ごめんね」。

宮澤賢治は「銀河鉄道の夜」の中で、彼にしか描けない美しく透明な空を走る幻想の列車を走らせることで、死者に想いを伝えようとしたのではないかと思います。


ブログに掲載した画像は新潮社文庫版ですが、私の読んだものは昔の角川文庫版、ブルカロニ博士が登場する版です。
でも個人的には博士が登場しない最終形の方がういろいろな解釈ができるので、私は好きです。次にこの本を開くのはいつかな。楽しみです。

「のぼうの城」和田竜著(小学館)

2009-12-21 | 日本の作家
「のぼうの城」和田竜(わだ りょう)著(小学館)を読みました。
時は乱世。天下統一を目指す秀吉の軍勢、石田三成が戦いに向かったのは武州・忍城(おしじょう)。周囲を湖で囲まれ、「浮城」と呼ばれていた城。
城主・成田長親は、領民から「(でく)のぼう様」と呼ばれ、泰然としている男。智も仁も勇もない。しかし、誰も及ばぬ「人気」がありました。
著者は城戸賞を受賞した新人脚本家であり、脚本を自ら小説化したものがこの作品だそうです。本作は直木賞候補にもなり、今年の本屋大賞第二位を獲得しています。ネタバレありますので、未読の方はご注意ください。

面白かったです!
「時代小説を普段読まない人にこそおすすめ」と帯にありましたが納得。
出だしは地名や人名の漢字が多く、舞台設定を飲み込むまで少し時間がかかりましたが、話にのめりこんでからは一気読みでした。
のぼう様が、今までにない武将像で面白かったです。装丁ののぼう様の顔もイメージぴったり。(表紙の鼻が切れてしまっているのもおもしろいです。鼻の先は折り返しに。

でも、帯にある「石田三成二万の軍勢に、たった二千で立ち向かった男が、いた。」の一文は余計かな。
日本史通の人なら忍城の戦の話は有名なのかもしれませんが、授業で日本史を学んだ程度の私には「秀吉が北条に勝った」話しか知らなかったので、城の人間のほとんどが非戦派だったのに、「え、のぼう様、戦するの!!??」と、とても驚きました。帯を読まず、まったくまっさらな状態で驚きたかった。

この作品はもともと脚本でもあるため、小説がとてもビジュアル的です。
甲斐姫が酒巻に口づけする場面や、のぼう様が「わしは悪人になる」と言う場面。
三成とのぼう様の対面など映像栄えするだろうなーというドラマチックな場面がめじろおし。

なかでもやっぱり田楽の場面が作品の一番のキモでしょうね。
本当にこんなことがあったのですね。のぼう様、豪気!

この作品は現在映画化企画も進行中だそうです。
私も勝手に配役妄想。

のぼう様 ナイツの塙さん。
     顔がのぼう様ぽい。俳優として未知数なところものぼう様ぽい。
     あえて俳優から選ぶなら山本耕史さんなど。

石田三成 上川隆也さん
     三成のまじめな感じを上手く演じてくれそう。

和泉  照英さん。
    豪傑といえば思い浮かぶのはこの人。

酒巻  KAT-TUNの亀梨さん
    アイドル枠。

甲斐姫 柴崎コウさん
    雰囲気があいます。

秀吉  市川亀治郎さん
    最近注目しています。

メインの登場人物で配役が難しいのが丹波です。
小説の中で私が一番好きな人物でもあります!
かっこよくて武力に秀でているというイメージの俳優さんがなかなかいない。
伊原剛志さんとかいいかも。もう少し佐藤浩一さんが若ければイメージが近いかなぁ。ギャラも考えずあれこれ考えられる夢の配役。楽しいです。

*********************************

2010.6.23追記

「のぼうの城」のキャストが発表されました!

http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=100&id=1251935

万斎さん私、大好きです♪楽しみ~。
ほかの方もかなりイメージにぴったり。三成は誰がやるのでしょうね。

「よろこびの歌」宮下奈都著(実業之日本社)

2009-12-11 | 日本の作家
「よろこびの歌」宮下奈都著(実業之日本社)を読みました。
御木元玲(みきもとれい)は著名なヴァイオリニストを母に持ち、声楽を志していましたが、受かると思い込んでいた音大附属高校の受験に失敗。
明泉女子高の普通科に進みます。
挫折感から同級生との交わりを拒み、母親へのコンプレックスからも抜け出せない玲。しかし、校内合唱コンクールを機に、頑なだった玲の心に変化が生まれます。
あきらめ、孤独、嫉妬、みえない未来に惑う少女たちの願いが重なりあいます。
同じクラスのそれぞれの少女たちが主人公となる連作短篇集。
歌が背中の羽になっている装丁が素敵です。
各表題はザ・ハイロウズの歌の題名からとられています。(作中にも登場します。)

面白かったです!
「よろこびの歌」だから第九の話かと思ったら、彼女たちが歌うのはイタリアの歌曲「麗しのマドンナ」。この歌、私は聞いたことがありませんが、題名そのものが高校生の彼女たちを表しているようでいいなと思いました。

「第一志望ではない」新設女子高に通い始めた彼女たち。
美少女の玲、うどん屋の娘千夏、ソフトボールをやっていた早希、霊感のある史香、絵が好きな佳子、まとめ役のひかり。
キラキラの青春にはつきものの、それぞれの、ぐるぐるどろどろがつがつ。

宮下さんの著作を読むと、「メイドインジャパン」といつも感じます。
細かいところまでしっかり作ってある、という感じがするのです。
感情の本当に細かいひだまで、しっかり過不足なく言葉にしようという感じを受けます。

たとえば最終章の一節。

「私の歌で誰かのどこかを揺さぶる、つまり誰かのどこかに揺さぶられるものがある、ということに希望を感じる。胸が震える。うれしいとか、楽しいとか、悲しいとか、さびしいとか、いろんな気持ちをみんなが抱えている。歌によって共有することができる。」

共鳴。

宮下さんも、小説を歌うように、同じような思いで書いているのでしょうか。

1月まで出版社の企画で、作中の登場人物あての手紙を受付中だそうです。誰に書いてみようかな。けなげで可愛い千夏ちゃんがいいかな?

*************************

2010.2月追記

上記の企画で宮下さんあてにメールを送ったところ、出版社経由で返事がきました。うれし~い!
しかも1月下旬以降私の送ったメールの一部が帯に印刷されて書店に並ぶとのことで、昨日早速書店で見てきました。帯の後ろ、内側ですが確かに「読者の声」ということで紹介されていました。
好きな作家の本に少しでも携われたみたいでとってもうれしいできごと。
早くも、今年の我が家の10大ニュースのひとつに決定です。

「遠くの声に耳を澄ませて」宮下奈都著(新潮社)

2009-11-04 | 日本の作家
「遠くの声に耳を澄ませて」宮下奈都著(新潮社)を読みました。
くすんでいた毎日が少し色づいて回りはじめる。
錆びついた缶の中に、おじいちゃんの宝物を見つけた。
幼馴染の結婚式の日、泥だらけの道を走った。
大好きなただひとりの人と別れた。
看護婦、OL、大学生、母親。普通の人たちがひっそりと語りだす。
雑誌「旅」に連載されていた連作短篇集です。
どれも「旅」がモチーフになっており、登場人物たちがさりげなくリンクしています。

北海道の朱鞠内湖に旅行した女性の話。
「その名前の響きの美しさに吸い寄せられた。しゅまりないこ。そう発音した途端に唇からこぼれる小さな踊り子たちがお辞儀をするような感じ。」

相変わらず宮下さんの比喩の卓抜なこと。

一番よかった作品は冒頭の「アンデスの声」です。
田舎の単調な暮らしと思っていた祖父母の生活に聞こえていたアンデスの声。
キトからの風が吹いてくるかのようです。

この本で惜しむらくは、ほぼどの作品も「誰かとの会話+主人公女性の内省」が続く文章で、しかもどの女性も職業は違えど内省の「声」のトーンが似ていることです。 ひとつひとつの作品はよいのですが、続けて読むとちょっと単調に感じられます。全体的に「じわんとくる」ラストばかりでバラエティに欠けるというか。
『白い足袋』など「走れメロス」のパロディ的でもっと軽やかな書き方が合う気がするし、宮下さんの既作を読んでいて、コミカルな話を書いたらきっと上手いだろうなーと思うのですが。宮下さんのはっとさせられるような比喩は大好きなのですが、まさに登場人物のみのりのように
「細くてトビウオみたいな子だった。この子はいつか跳ねるだろう。その予感にどきどきしたのかもしれない。」という感じです。

宮下さんもいつか跳ぶ!と私には予感させられているだけに、早く「注目の新人」の段階をトビウオのように跳び越してほしい。
宮下さんの作品が「女性一人称の日常を丁寧にすくいとった話」がすばらしいのはもちろんとして、そこだけにとどまらず、「宮下さんの繊細な筆遣いを生かしたまま物語は骨太」というような、そんな話が読みたい!
・・・一読者としての願望です。

新刊「よろこびの歌」も、これから読みます。楽しみです。

「ホルモー六景」万城目学著(角川書店)

2009-10-23 | 日本の作家
「ホルモー六景」万城目学著(角川書店)を読みました。
このごろ都にはやるもの。恋文、凡ちゃん、二人静。
このごろ都にはやるもの。元カレ、合コン、古長持。
挑むは御存知、是れ「ホルモー」。負けたら御存知、其れ「ホルモー」。
「鴨川ホルモー」のスピンオフドラマとでもいうべき作品。
「鴨川ホルモー」に出てきたあの人が、あの場面が、あの店が!という感じで楽しめますので、「鴨川ホルモー」の方をまず先に読むのをおすすめします。

面白かったのは平安時代を思わせる定子と彰子(ていしとしょうしではなく、さだことしょうこ)、「中身はおやじ」の女子大生ふたりを描いた「鴨川(小)ホルモー」。

由緒ある長持をめぐる時間を越えたラブストーリー「長持の恋」。
この作品のラストシーン、情景を思い浮かべるとすごく笑える絵なのだけれど、心にじ~んときてしまいました。ヤラレタ。

三国志ネタ、円(まどか)広志、ミスター味っ子、よろしくメカドックなど楽しい描写もいっぱいです。

「時計館の殺人」綾辻行人著(双葉社)

2009-10-14 | 日本の作家
「時計館の殺人」綾辻行人(あやつじ ゆきと)著(双葉社)を読みました。
鎌倉の森の暗がりに建つ古い館、通称時計館。
そこで10年前に死んだ1人の少女。
館に関わる人々に次々起こる自殺、事故、病死。
そして10年後に時計館を訪れた9人の男女に、無差別殺人の恐怖が襲います。
第45回日本推理作家協会賞を受賞している作品です。
ラストについて少し触れますのでご注意ください。

綾辻さんの作品を読んだのはこれが初めて。
異形の建築を作り続けた建築家・中村青司が設計した独特な屋敷がまず、すごい。
時計の針の位置通りに部屋がある円い家、振り子の部屋まであって凝っていてとても面白いです。
館を埋めるのは108個の古時計のコレクション。
そのほかにも巨大な時計塔から小さな懐中時計まで。
屋敷の机も時計、天蓋も時計、庭の植え込みは日時計!

そして隔離された空間で続々と殺される人々。
こわい・・・。
推理作家・鹿谷門実こと島田清が謎に挑みます。
おどろおどろしい館で起こる連続殺人の謎、推理小説の王道ともいうべき作品。

私にはアリバイのトリック、見抜けませんでした。やられた。
最後の砂時計のシーンは、絵画的で圧巻でした。

自分の頭の中の願望を、その財力によって目に見える形にする。
そしてその歪んだ幻想の中で娘を育て、暮らしていく・・・。
それは本当に「娘のことを想って」の行為ではなく、古峨倫典の強迫観念がさせたこと。それに館中の人々が加担していた。
世にも奇妙なのは誠に、人の心なり。


「プリンセス・トヨトミ」万城目学著(文藝春秋)

2009-10-12 | 日本の作家
「プリンセス・トヨトミ」万城目学著(文藝春秋)を読みました。
五月末日の木曜日、午後四時。大阪全停止。
長く閉ざされた扉を開ける鍵となったのは、東京から来た会計検査院の三人の調査官と、大阪の空堀商店街に生まれ育った大輔、幼馴染の茶子でした。
内容について触れますので、未読の方はご注意ください。

万城目さんの最新作。京都、奈良につづき舞台は大阪です。
前二作が式神・言葉を解する鹿のように、精霊のような存在と現代の交差だとすれば、今回の話は「人間」が営んできた裏の歴史と現代の歴史との交差。
そして相変わらず、思いっきり「けったいな話」です。

大阪城の下にある大阪国議事堂。
大阪の男のふたりにひとりは大阪国の人間。
でも独自の文化を持つ町だから、ありえる・・・?ありえる!と思わず信じかけてしまうような空気、大阪ならでは。
同じように日本国内に独立国を樹立、という設定の井上ひさしさんの小説「吉里吉里人」では村の中に独自の財源がありましたが、大阪国では年間5億のお金が国から補助されているのです。ほら話もここまで来るとすごいスケール!

豊臣家の末裔を守る、という設定は「ダ・ヴィンチ・コード」に出てくる、キリストの末裔を守る秘密結社を思わせました。
旭は女性なのに大阪国と松平の対決の場面に同席していたし、プリンセスというあだ名もあったので、実は徳川側についたどこかの武家の末裔という設定で、プリンセス・トヨトミと対決!?なのかと思ったのですが、それは私の深読みしすぎで、なかったです。

坂道にある空堀商店街は面白い名前だし、フィクションなのだろうと思ったら実在するのですね。行ってみたいです。
登場人物の名前も万城目作品らしく凝っていて面白かったです。
「鹿男」に登場した南場先生も登場。