Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「白夜行」東野圭吾著(集英社)

2006-02-27 | 児童書・ヤングアダルト
「白夜行」東野圭吾著(集英社)を読みました。
始まりは1973年に起こった質屋殺し。容疑者の女性がガス中毒死し、事件は迷宮入りします。当時小学生だった被害者の息子と容疑者の娘、二人が成長していく様が描かれ、当時の世相も味わえるミステリー。
この後に書かれた「幻夜」を先に読んでしまったのですが、「幻夜」よりふたりの子供のときの傷、そしてその傷を抱えてゆがんで育っていくふたりが強く印象に残り、こちらのほうが好きな作品かも。
それにしても亮司が昔の傷を隠蔽するために動いたり、コンピューターを使った犯罪を企てたり、というのはなんとなく理解できる・・・のです。
しかし、雪穂の周囲の人を不幸にする冷徹さは本当にこわい!
同級生の江利子ちゃんなんて可愛くなっただけで雪穂に何もしてないのに。
再婚相手の娘・美佳ちゃんが雪穂に反抗することだって自然なことなのに。
相手に傷を負わせた張本人なのに、恩をうり、その引け目を利用してその人を思い通りにする。
でも外見上は美しく聡明で優しい女性に見せる・・・。こわすぎます!雪穂。



「停電の夜に」ジュンパ・ラヒリ著(小川高義訳)新潮社

2006-02-23 | 外国の作家
「停電の夜に」ジュンパ・ラヒリ著(小川高義訳)新潮クレスト・ブックスを読みました。
デビュー作にしてピュリツァー賞の受賞をはじめ、さまざまな賞を受賞したインド系作家・ラヒリの短編集です。見開きを見ると、その姿も美しくてびっくり。まさに才色兼備。2005年の新潮文庫夏の百冊にも選ばれていました。
どの作品も文句なしのできばえで、気に入った作品をひとつ選ぶのが難しい・・・。
表題作の「停電の夜に」は、停電の時間を打ち明け話に費やす夫婦。夫婦の絆が深まったか、と思いきや最後にぐさっと大きな一刺しが待っている展開が巧み。
「ピルザダさんが食事に来たころ」は、だんだんと人の心の痛みを理解していくようになる少女の心の変化がよくわかりました。
「病気の通訳」では、主人公カパーシの家は夫婦仲があまりよくなく、観光案内で出会ったダス夫人に心魅かれます。しかしダス婦人にも人にはいえない秘密があり、彼はそれをうちあけられることになります。空想(妄想)がしぼんでいく様が感じられる作品。
短編集最後の作品「3度目で最後の大陸」も印象的な作品でした。
下宿先の100歳を超える老婆。顔もよくわからないまま結婚した妻。ぎくしゃくした関係が「すごいです!」の言葉でほかっとあったかくなる瞬間。
全体にほろ苦い結末が多い短編集の中、この最後の作品はしみじみと、とても読後感のよい作品でした。
ラヒリはこの後に長編小説も書いているそうです。そちらもぜひ読んでみたいです。

「Don't Worry Boys 現代アメリカ少年小説集」柴田元幸編訳(大和書房)

2006-02-22 | 柴田元幸
「Don't Worry Boys 現代アメリカ少年小説集」柴田元幸編訳(大和書房)を読みました。
誤ってライフルで兄を殺してしまう少年、アヒルの血を探しに街をさまよう少年、花嫁を拉致する不埓な少年、アコーディオンの練習にいそしむ少年、さまざまな少年たちの物語を集めたアンソロジーです。
面白かったのがジーナ・ベリオーの「石の子」と、ダイベックの「血のスープ」です。
前者の作品は、少年の心の中と周囲(親も)から見る少年像がずれて、少年の心が冷たく石のようになる感じがしんしんと伝わってきました。
後者の作品は、兄弟がガチョウの血を求めて、埃っぽく薄汚い地獄めぐりのような街を探し歩きます。そのようなグレートーンの世界の中で、銀のクラリネットを吹く老人の頭の上に白い翼をひろげるガチョウの光景がきらりと美しく心に残りました。ガチョウの血の正体がわかるラストは少しせつないです。
あとがきに「「少年小説」というサブジャンル特有の魅力があるとすれば、それは少年の目に映っている世界と、大人たちが支配する現実世界との大きなずれが、いつ一気に解消されるかわからないという緊張をはらんでいるところだと思う」と語られています。このアンソロジーはその言葉に深く納得できる作品ばかり。
そしてそれに続いて「四十男の見ている世界が現実と大きくずれているとすれば、たいていの場合それは単に間抜けなだけである」とあり、笑えました・・。


「ポテトスープが大好きな猫」

2006-02-22 | 村上春樹
「ポテトスープが大好きな猫」T・ファリッシュ著 B・ルーツ絵 村上春樹訳(講談社)を読みました。
テキサスに生まれ育ったおじいさんは、1匹の年取った雌猫と住んでいます。その猫の好物は、おじいさんが作ってくれるポテト・スープ。文章もさりげなくて色合いも素敵な絵本です。
村上春樹さんはオールズバーグの絵本を多く翻訳されています。
オールズバーグはリアルで不思議で美しい絵本という印象ですが、この絵本はあったかくてやわらかな雰囲気の絵本です。
特に私が気に入ったのが、おじいさんがひとりで霧の中で釣りをする絵。
霧の中にたくさんの色が混ざっていてとてもきれいだなと思いました。
おいしいポテトスープ、心の通じ合った猫、あたたかい電気毛布・・・親密で満ち足りた空気の漂ってくる作品でした。




「魔術師アブドゥル・ガサツィの庭園」C・V・オールズバーグ著(村上春樹訳)あすなろ書房

2006-02-17 | 村上春樹
「魔術師アブドゥル・ガサツィの庭園」C・V・オールズバーグ著(村上春樹訳)あすなろ書房を読みました。
引退した魔術師ガサツィは犬嫌い。そんな彼の庭園に犬が駆け込んでしまいます。彼の庭で少年は不思議な体験をします。1980年度コルデコット賞銀賞、ニューヨークタイムズ最優秀絵本賞を受賞した作品です。
読み終わったあとは、表紙の植木も生きているような感覚におちいってしまいます。
素直なフリッツ少年の言動がかわいい。



「空腹の技法」ポール・オースター著(柴田元幸・畔柳和代訳)新潮社

2006-02-17 | 柴田元幸
「空腹の技法」ポール・オースター著(柴田元幸・畔柳和代訳)新潮社を読みました。
オースターが作家としてデビューする前のエッセイや、カフカやさまざまな詩人を論じた文章、オースターのロングインタビューなどが収録されています。
惹かれたのはチャールズ・レズニコフ。すごくいい詩を書く詩人なのだなあと初めて知りました。
オースターのインタビューも、書くことに対する姿勢がストレートに伝わってきて興味深いです。「ある作品をいいと思うことと、そのよさを語ることとは違う」とか、「以前は小説を書く才能というものについて、一作か二作書ければいいだろうと思っていた。ところが書けば書くほど書きたいものがでてくることに驚いた」とか、「たとえば本の表紙には「トルストイ」と作家の名前が書いてある。しかしひとたびページを開けばトルストイなどどこにもいない。このことがひどく魅力的だ」とか。
オースターの創作の秘密に触れられるエッセイでした。

「アメリカン・ナルシス」柴田元幸著(東京大学出版会)

2006-02-13 | 柴田元幸
「アメリカン・ナルシス」柴田元幸著(東京大学出版会)を読みました。
柴田さんのアメリカ文学の論文を「自意識」の観点からまとめたもの。メルヴィルやポーなど、19世紀アメリカ文学を論じた章と、アメリカ論的な章、エリクソンやミルハウザーなど柴田さんが翻訳している作家を主にとりあげた現代アメリカの作家を論じた章の3部で構成されています。
柴田さんのエッセイなどを読みなれているかたには少し固めに感じると思いますが、実際の文章を挙げながらわかりやすく論じられており、論文のお手本のよう。
この本は朝日新聞で高橋源一郎さんが「2005年私が選ぶ3冊」の中の一冊に選ばれており、興味をもって読みました。
私が一番面白かったのは「ジャメイカ・キンケイドの『小さな場所』第一章を教えることについて」の論文です。
「差別している人のことを考えるとき、その人が「痛み」を抱えているのだということ」「文学の教師もたまには道徳の教師にもならねばならないこと」
文学論以上に教師としての柴田さんのありかた、考えかたに触れられました。
論文中に触れられている、池澤夏樹さんの沖縄を訪問した学生の幼いコメントについての考察も感じ入るものがありました。

「にぎやかな湾に背負われた船」小野正嗣著(朝日新聞社)

2006-02-08 | 柴田元幸
「にぎやかな湾に背負われた船」小野正嗣著(朝日新聞社)を読みました。
舞台はとある海辺の集落「浦」。
語り手は浦に赴任してきた警察官の娘、美希。
美希と交際している教師、昔語りにふける四人組の「じん肺」老人たち、泥酔するミツグアザムイ、不思議な縁で結ばれているタケオとハツエ。義理の兄弟同士で仲たがいするはち兄とよし兄・・・たくさんの人々がおりなす土着の匂いを感じる物語です。三島由紀夫賞を受賞。文庫版では大学の恩師・柴田元幸さんが解説を書いているそうです。(未読。)
あとがきで著者が語っている「土地の力」を感じた一冊。
その土地と、その土地を守る人々、そして戦争をからめたそれらの人々の血に流れる長い時間。
一応ひとつのストーリーの時間軸はあるのですが、メインはいろいろな挿話が並列で並んでおり、暮らしている人々の生活や歴史がふくらみをもって感じられること。
語り手であり、新参者である駐在所の家族が浦になじみ、つつまれていると感じられるラストシーンがいいです。

「容疑者Xの献身」東野圭吾著(文藝春秋)

2006-02-08 | 児童書・ヤングアダルト
「容疑者Xの献身」東野圭吾著(文藝春秋)を読みました。
直木賞を受賞した作品。ガリレオ、湯川助教授のシリーズです。
天才数学者でありながら、さえない高校教師に甘んじる石神。
彼は愛した女を守るために完全犯罪を目論みます。
湯川助教授は果たして真実に迫れるか?という純愛をからめたミステリーです。
湯川助教授のシリーズは初めて読んだのですが、理系の知識があったらところどころの会話はもっとふくらみを感じて面白いのかも、と思いました。
結局どうやって犯罪を隠蔽したのかな・・・と思いながら読みすすめるうちに「おぉ!こういうことだったのか」という驚きがありました。
大きなクライマックスを一番最後にもってくる筋立ても見事。
さすが東野圭吾さんですね~。

「僕の恋、僕の傘」柴田元幸編訳(角川書店)

2006-02-08 | 柴田元幸
「僕の恋、僕の傘」柴田元幸編訳(角川書店)を読みました。
雑誌「月刊カドカワ」に掲載された短篇8本をまとめたものです。
「比較的まとも」な青春・恋愛の作品を選んだとありますが、そこは柴田さん。
ひとくせもふたくせもある風変わりな作品が並びます。
私が面白いと思ったのはプリチェットの「床屋の話」。
親友が自分の彼女を好きになるとか、自殺未遂するとか、かなりヘビーな話をさらりと語る床屋。そして最後のせつないようなほのあたたかいような締めくくりが印象的でした。