Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「聖女チェレステ団の悪童」ステファノ・ベンニ著(中嶋浩郎訳)集英社

2007-03-30 | いしいしんじ
「聖女チェレステ団の悪童」ステファノ・ベンニ著(中嶋浩郎訳)集英社を読みました。
いしいしんじさんが雑誌「飛ぶ教室」で「私の選ぶ少年少女小説」で紹介していたのがこの本。読んでいる間いしいさんの頭の中をずっとサッカーボールがとびかっていたそう。

架空の国グラドニアの首都バネッサには聖女チェレステ孤児院がありました。
そこには伝説の予言がありました。
昔、院を寄贈した伯爵の娘・10歳のチェレステが、非道な父親が引き起こした惨事で昇天し、その時遺した予言です。
時は現代、孤児院のキリスト像がある日突然倒れ、預言の一つが現実となります。さらに孤児が三人、忽然と姿を消します。
次々と実現する予言。それと同時進行して、謎の人物が各国の悪童を集め、普通の反則なら何でもOKという摩訶不思議なストリートサッカー世界選手権を開こうとしていました…。

ボールはできるだけでこぼこなもの、競技場は一部が砂利、樹木や岩、勾配、泥水のたまった水溜りを有していること。
足払い、あご殴り、踏みつけ、引掻き、ズボンおろし、エビ固めなどは許可。
こんなストリートサッカー、見てみたい!

また作中には風変わりな人物たちが沢山登場します。
冒頭に登場するのはパンで彫刻する芸術家。ほかにも他人の肌に触れただけで興奮する修道士、肉を一切使わないハンバーガーチェーンの青髭オーナー、ハイテク扇子で会話するテレビ界の大物ムッソラルディ。
そして何より魅力的な子供たち!

話はギャグマンガのような展開も多く、自分の足を切られたので人の足とつけかえて鷺みたいになった男の話や、 独裁者になった男が島民を一人残らず殺してしまうレモン島の話など。
サッカーの場面はサーカスのようで、ラストシーンはしんとした印象を残す・・・。
昔と今、聖と俗、崇高と野卑がからみあってうごめく不思議な作品世界。

「マウス」アート・スピーゲルマン著(小野耕世訳)晶文社

2007-03-30 | 柴田元幸
「マウス」「マウスⅡ」アート・スピーゲルマン著(小野耕世訳)晶文社を読みました。
父親のアウシュビッツ体験を描いたコミック。二巻完結でピュリツアー賞を受賞しています。
作者は現在の父親に話を聞きながら、記憶をさかのぼっていきます。
ポーランドの町々にカギ十字の旗が翻り、ごくふつうの暮らしをしていたユダヤ人たちは、その日からナチスの脅威にさらされていきます。
ゲットー。隠れ家。闇市。裏切り。アウシュビッツ収容所。死の恐怖。脱出行。
日々の営みの細部を丁寧に掘り起こし、奇跡的に生きのびた父のライフ・ストーリーが描きだされています。

物語は、戦時下のヨーロッパと現在のニューヨークを行き来しながら展開。
老いた父と、その息子である作者自身の葛藤を同時進行で織りこみ、ホロコーストの時代と自分たちの時代を互いに照らしだしています。

登場人物はドイツ人はネコ、ユダヤ人はネズミ、ポーランド人はブタとして描かれています。
そのおかげで残虐な事実もなんとかマンガとして読める・・・のですが、読み終わったあとはその過酷さゆえになかなか寝付けませんでした。

首をつられ見せしめになった友人、親戚であっても助けてもらうにはすべて金次第。小さな箱に押し込められて生きる3人の家族。心中の道連れになった子供。
面白半分に人間を銃殺するドイツ人、生きながら焼かれる人々、戦争終結後もポーランド人に殺されるユダヤ人・・・。
自分が生き延びるために友人を裏切る、ふざけて人間を殺す・・・すさまじい現実の数々。
よく「人間くさくていい」とか「この小説は人間が書けていてすばらしい」とかほめ言葉に使いますが、この本を読むと「人間である」という言葉がすさまじく恐ろしいものに感じます。

柴田元幸さん著の「ナイン・インタビューズ」にスピーゲルマンさんのインタビューも収められています。
そこに映画「ライフ・イズ・ビューティフル」を批判する言葉がのっています。
「「マウス」はメタファーを使って歴史的な問題にたどりつこうという試みだった。一方ベニーニの映画は、歴史をメタファーに変えてしまおうという試みだ。そこでは「アウシュビッツ」は単に「嫌な体験」「悪い時代」の同義語であり、そうやってすべてを一般化することによって、歴史は心底些細なものに変えられてしまっている。」

私もこの本を読んだ体験を自分のつたない経験にすりかえて考えることなく、ただ人間とその歴史のおそろしい事実として、繰り返してはいけない出来事としてありのままに受け止めたいと思います。

「三銃士(中)」A・デュマ著(竹村猛訳)偕成社

2007-03-27 | 児童書・ヤングアダルト
「三銃士(中)」A・デュマ著(竹村猛訳)偕成社を読みました。
実力者、リシュリュー宰相を敵にまわして、フランス王妃の危機を救ったダルタニャン。彼は危険と知りつつ、貴婦人の顔と悪魔の心を持つ謎の女性ミラディーに、魅せられていきます。

中巻はコミカルな場面がいっぱい。
ポルトスが恋人の代訴人の妻の家(夫が超がつくケチ!)に食事に行く場面。
ポタージュは色のうすい汁、老衰で死にそうになっていたであろう鶏のゆで肉、そら豆。安酒。ねとねとしたお菓子。
ポルトスは「食事が少なすぎる・・・」夫は「食事が豪華すぎる!」と心の中で憤慨。
アトスが宿の酒蔵にこもって酒と食べ物を食べ荒ししまい、非難する主人に「ネズミが食べたんじゃないか」ととぼける場面。
アラミスが僧門に入ると心に決めていた直後にアラミスあてのラブレターを受け取り、あっさり前言をくつがえす場面。

でも今回一番のみどころはダルタニャンがミラディーにどう近づき、入り込んでいったか。そして今巻ではミラディーの過去もあきらかに!
以下、下巻につづく。




「月の森に、カミよ眠れ」上橋菜穂子著(偕成社)

2007-03-26 | 日本の作家
「月の森に、カミよ眠れ」上橋菜穂子著(偕成社)を読みました。
月の森の蛇ガミをひたすら愛し、一生を森で送ったホウズキノヒメ。
その息子である蛇ガミのタヤタに愛されながらも、カミとの契りを素直に受けいれられない娘、キシメ。
神と人、自然と文明との関わりあいを描く古代ファンタジーです。

月の森をまつる小さな隼人の村を訪れた、都から神封じに来た男・ナガタチ。
ナガタチは村のカミンマ(巫女)・キシメと語りあい、ナガタチの過去、キシメがカミンマになったいきさつ、月の森を守る親子ホウズキヒメとタヤタのことが明らかになっていきます。
蛍火色に輝く沼の描写、恐ろしいけれど美しい・・・。
後半はいよいよ村人と月の森のカミとの戦い。
そしてキシメの心の変化も見所。大迫力です。
人が森を、すなわち神の領域を侵食していった歴史が感じられる物語。
作者は九州祖母山に伝わる「あかぎれ多弥太伝説」から着想を得てこの物語を描いたそうです。読後になんともいえないやりきれなさが残る、厚みのある作品。

「自負と偏見」J・オースティン著(中野好夫訳)新潮社

2007-03-24 | 外国の作家
「自負と偏見」J・オースティン著(中野好夫訳)新潮社を読みました。
イギリスの田舎町、五人姉妹のベネット家の隣に、青年紳士ビングリーが引越して来ます。温和で美しい長女ジェーンと才気溢れる次女エリザベス、そして快活なビングリーとその親友で気難し屋のダーシー。
ところが、エリザベスが高慢で鼻持ちならぬ男と考えていたダーシーが、実は誠実で賢明な紳士だったのでした…。
二組の恋の行方と日常を描写した19世紀初頭に描かれた名作。

とっても面白かったです!!
主人公たちが魅力的で、脇の戯画化された人間たちは面白い。

長女ジェーンの優しさ、次女、主人公エリザベスの快活と利発さ。

父親のとぼけたところ、母親が娘たちの結婚に燃やすみっともないほどの熱意。
コリンズの慇懃でお金にしっぽをふる態度、ミス・ビングリーのあからさまな意地悪。軽薄なリディア、裏表のあるウィカム。

どの人間も個性があって面白いですが、やはり一番魅力的なのはダーシー。
富も地位も容姿も恵まれた男性が不器用にエリザベスを愛する姿。
自分の尽力を隠しながらエリザベスを陰で支える包容力。
かっこいいー!・・・うっとり。
ダーシーの告白のシーンは、私が今まで読んできた数々の本の中でも三本の指に入る名シーンかも。

読み進むうちに、頭の中で映画「ブリジット・ジョーンズの日記」の弁護士役の俳優コリン・ファースが連想され、ずっとその顔を思い浮かべながら読んでいました。
そうしたらそれもそのはず。作者はコリン・ファースが主演したイギリスのテレビドラマ「高慢と偏見」の大ファンで、現代版「PRIDE AND PREJUDICE」として「ブリジット・ジョーンズ」を書いたそうです。無口で愛想がないけれどあたたかい心をもったダーシーにコリン・ファースはぴったり。
今度はぜひそのドラマ版もDVDで見てみたいです。

映画「カポーティ」

2007-03-22 | エッセイ・実用書・その他
DVD映画「カポーティ」を見ました。
主演のフィリップ・シーモア・ホフマンがオスカーをとったことでも有名。
作家トルーマン・カポーティがカンザスでの一家惨殺事件に興味を持ち、服役中の犯人に取材を試み、「冷血」として小説に書き上げるまでを描いています。

フィリップ・シーモア・ホフマンの演技力、すごい。
カポーティの写真と見比べても「のりうつった?」というくらいのそっくりぶり。
高めの声と独特のしゃべり方。ソファーにお姉さんすわりしたり、ゲイだったカポーティの女性らしさもよく表現されているなーと思いました。
死刑囚に共感し、作品を書き上げる。
すこしさじ加減を変えればいくらでも「感動ドラマ」になりそうですが、そこを外して淡々と描かれている自伝映画。

「私は彼に死んで欲しくない」
「結末がわからないと小説が書けない。控訴が棄却されてほしい」
カポーティの矛盾した感情。

脇を固める俳優たちも名演技なので、映画が本当に事実にのっとったものなのだと感じられます。特に犯人役のスミスが話の中核に触れられると目を細かくパチパチさせるところなんてとてもリアル。

カポーティは小説「冷血」の中で「私は犯人が処刑されればすべては終わるのだと思っていた。しかし彼が処刑されても私の心にはやりきれない想いが残ったままだった」という意味の言葉を書いています。
私自身も映画の処刑の場面を見て、カポーティの「やりきれない想い」に共感・・・。

「さあ、犬になるんだ!」オールズバーグ著(村上春樹訳)河出書房新社

2007-03-21 | 村上春樹
「さあ、犬になるんだ!」オールズバーグ著(村上春樹訳)河出書房新社を読みました。
セピア色の絵がなつかしさをかもしだす絵本。
主人公はいたずら少年カルヴィン。彼は仲良しのロドニーと誕生日にもらったチケットで催眠術師「偉大なロマックス」のショーを見に行きます。
自宅に帰ってから、さっそく妹のトゥルーディーに催眠術をかけてみたのですが…。
原題は呪文の言葉なのですが、この邦題はいいですね。中身が気になる。
話は一番最後のオチがいいです。妹かしこい。



「パルムの僧院(上)」スタンダール著(大岡昇平訳)新潮社

2007-03-21 | 外国の作家
「パルムの僧院(上)」スタンダール著(大岡昇平訳)新潮社を読みました。
舞台は北イタリア。主人公は美しく無垢な青年貴族ファブリス。
彼はナポレオン崇拝のあまり、ワァテルローの戦いに衝動的に飛び出していきます。この出来事から物語は始まり、波瀾万丈の展開をみせていきます。

天文学者ブラネス師の予言が意味深い。
「どんな富や地位をもつよりも魂の平安をもって死ぬこと」
上巻までのファブリスのなりゆきを見てるとそれも危ういけれど・・・。
たいして好きでもないマリエッタがらみで人を殺めたり、面白半分でファウスタに恋を仕掛けたり、そして何かというとすぐ「決闘だ!」
なんでそんなに簡単に武器を手に人を傷つけたり自分の命を賭けたりするのかな?
この時代の若者ってみんなこんななの?

それに比べて警察長官モスカの慧眼やサンヴェリーナ公爵夫人の優しさのほうが
魅力的に映りました。
特にモスカが「新聞にいくらでたらめを書かせたって二年もたてば誰も覚えていません。でも誰かひとりでも人を殺せばその家族や親戚は死ぬまで私を許さないでしょう。人を殺さないことの方が私には大事なのです」の言葉。
いつ自分の立場が覆されるか常にさいなみ、恐怖政治を敷く大公につかえながら、できるだけ穏健にパルムの国を支えていこうという、モスカの苦しい立場を表している言葉に思えました。

あちらこちらの警察から追われているファブリスがどうなるか?下巻につづく。

「三銃士(上)」A・デュマ著(竹村猛訳)偕成社

2007-03-19 | 児童書・ヤングアダルト
「三銃士(上)」A・デュマ著(竹村猛訳)偕成社を読みました。
「モンテ・クリスト伯爵」と同じ訳者、竹村猛さんの縮訳版「三銃士」。
舞台は十七世紀、ルイ十三世の治世。
主人公はガスコーニュからパリに出てきた、まだ十代の青年剣士ダルタニャン。
パリでは国王直属の「銃士隊」と、リシュリュー枢機卿直属の「親衛隊」が対立しています。ダルタニャンはこのふたつの派閥の争いをきっかけに三銃士のアトス、ポルトス、アラミスと親しくするようになります。
ルイ13世、リシュリューほか実在した人物の名前が随所に出てきて面白いです。
国王妃の秘密の恋にまきこまれたダルタニャンと三銃士、王妃の秘密は守られるのか?ダルタニャンと謎の男・ロシュフォールとの決着はつくのか?
舞台はイギリスへ向かいます。以下中巻へ!

「トニーノの歌う魔法」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著(野口絵美訳)徳間書店

2007-03-18 | 児童書・ヤングアダルト
「トニーノの歌う魔法」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著(野口絵美訳)徳間書店を読みました。
ジブリ映画「ハウルの動く城」の原作者としても知られるD・W・ジョーンズさんの大魔法使いクレストマンシー・シリーズの作品。

魔法の呪文作りで名高い二つの家が反目しあう、イタリアの小国カプローナ。
両家の魔法の力がなぜか弱まって、他国に侵略されそうな危機の中、活路は失われた“天使の歌”をふたたび見出すことしかありません。
ですがが両家の大人たちは互いに相手方を責め、クレストマンシーの「危機は邪悪な大魔法使いのせいだ」という忠告にも耳をかしません。
そんなとき、両家の子どもたち・トニーノとアンジェリカが「呼び出しの魔法」に惑わされて行方不明になります。
「子どもをさらった」と非難しあい、盛大な魔法合戦をくり広げる大人たちをよそに、トニーノの兄パオロとアンジェリカの姉レナータは、力を合わせて弟妹を探し始めます。一方トニーノたちは、目覚めてみると、人形の大きさにされ、人形の家に閉じこめられていました。

魔法がいっぱい、歌がいっぱいのカラフルなファンタジー。
カプローナの魔法とは歌うこと。「適切なメロディーに適切な歌詞がのり適切な歌い手が歌えば魔法は強力なものになる」・・・まるで「魔法」ではなく「音楽」そのものを語っている言葉のようですね。
マルコが歌いながら金色の梨の木を現すシーンはとても美しいです。
呪文が上手にかけられないトニーノとアンジェリカが、知恵を絞って相手を出し抜く様子が面白い。両家のネコもいい味を出しています。