Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「ネクロポリス(上)」恩田陸著(朝日新聞社)

2006-03-28 | 児童書・ヤングアダルト
「ネクロポリス(上)」恩田陸著(朝日新聞社)を読みました。
舞台は死者が現われる土地、V.ファー。
そこで行われる「ヒガン」の儀式中に連続殺人事件が起こります。
日本とイギリスの要素がいりまじる、ミステリー&ファンタジー小説です。
恩田陸さんの小説は初めて読んだのですが、ぐんぐん引き込まれる舞台設定、物語の作り方がすごい。
「くがたち」とか「みささぎ」とか、現代的な登場人物たちが古代の行事や場所に親しんでいるギャップが面白い。
マリコやハナ、教授といった個性きわだつ脇役たちも楽しいです。
ジミーとテリーの正体があかされる下巻を読むのが、今から楽しみ!

「ガラテイア2.2」リチャード・パワーズ(若島正訳)みすず書房

2006-03-22 | 外国の作家
「ガラテイア2.2」リチャード・パワーズ(若島正訳)みすず書房を読みました。
主人公は作者と同名の「作家リチャード・パワーズ」。
数年間のオランダでの生活を終えて帰国した彼は、「高等科学研究センター」のアメリカ駐在人間性研究者としての職に就きます。
そこで彼が出会ったのは、風変わりな神経学者のフィリップ・レンツです。
レンツの研究はコンピュータベースの神経組織をもつ人工頭脳の開発。
いつしか2人は協力しあい、あるプロジェクトに乗り出します。
そのプロジェクトとは「人工頭脳に英文学を教え込み、難解な修士試験に合格させる」というものでした。
プロジェクトが進むにつれて、彼らのつくり出した人工頭脳H号機はすさまじい勢いで情報を吸収し、その興味はしだいに世俗的なことに向いてきます。
じきにH号機は自分の名前や性別、人種、存在意義を教えてくれと言いはじめます。
彼女の育成(開発)と、パワーズ自身の過去と現在の恋愛、友人たちとの関係がからみあって描かれる、半自伝的な作品です。

機械であっても、文学(人間の考え、生き方)をプログラムされるうちに「感じる」ということを学ぶことが当たり前のような不思議なような、奇妙な感覚がありました。そういう人工頭脳に対して、主人公パワーズが子供のような愛着を覚えるのもまた当然のこと。
心って何なのだろう?感じることを覚えたヘレンでもあくまで「ニセモノ」の命なのかな?現在進んでいる人工頭脳はこれからどういう倫理的問題にぶつかるのだろうと感じさせられる作品でした。





「パワーズ・ブック」柴田元幸編(みすず書房)

2006-03-20 | 柴田元幸
「パワーズ・ブック」柴田元幸編(みすず書房)を読みました。
作家リチャード・パワーズのインタビューや、本国アメリカで書かれたパワーズ論、高橋源一郎さんや坪内祐三さんなどによるパワーズ論等を収録したものです。
現在パワーズの作品で翻訳されているものはデビュー作「舞踏会に向かう三人の農夫」と、「ガラティア2.2」のみですが、巻末には未訳の作品のダイジェスト紹介もあります。
パワーズの作品の魅力は重層的で、一口に語るのはとても難しいです。
過去・現在・未来が重なり、幻想と現実が交差して、感情と思索、笑いと悲しみが同居する。
今年の9月にはみすず書房から「囚人のジレンマ」が刊行予定とのこと。楽しみです。


「ポートレイト・イン・ジャズ」絵・和田誠/文・村上春樹(新潮社)

2006-03-14 | 村上春樹
「ポートレイト・イン・ジャズ」絵・和田誠/文・村上春樹(新潮社)を読みました。
和田誠さんが描くジャズ・ミュージシャンの肖像に、村上春樹さんがエッセイを添えたもの。私はジャズはまったく聴かないのでよくわからないのですが、一般の認識からいうとマニアックな選択が多い?らしいです。文庫版では単行本二冊分+あらたにボーナス・トラック三篇(アート・ペッパー/フランク・シナトラ/ギル・エヴァンズ)が加えられています。
和田誠さんの絵には見飽きないよさがあります。
色も深みがあってきれいだし、表情豊かだし、本当に楽器の音色が聞こえてきそう。でもねぇ・・・ちょっとバケモノみたいな肖像画もあります。オスカー・ピーターソンってほんとうにこんな人なのかな・・・。「しっぽの先までエネルギーが満ち溢れている」人らしいですが、首、ないよ。(笑)
村上さんの文章は、まず音楽を聞く悦びをそっくり文章に移し変えられる多彩な言葉遣いに驚かされます。
音楽の素晴らしさをジャンルの違う「文章」というものであらわすことはとても難しいことだと思います。少なくとも私にはできません。
でも村上春樹さんにはそれがため息が出るくらい素晴らしい文章でできるんですよね。スゴイ・・・。
本と並行して、同名でオムニバスCDも2枚発売されていますので、そのCDを聴きながら一人ずつゆっくり読みすすむのがおすすめ。
ひとつひとつの文章にパワーがありますので、一気に読むと体に悪いかも?
村上さん自身のその曲・ミュージシャンにまつわる記憶や想いが一緒に語られており、物語のように音が浮かび上がります。
また黒人もいい、白人もいい。スウィングしてもしなくても、ビッグ・バンドもモダン・ジャズもいい、という感じで、能書きなしにジャズをとことんエンジョイしている感じも素敵です。
ジャズ・ファンでない私でもこれだけ楽しめる本ってすごい。

「ダブル/ダブル」マイケル・リチャードソン編(柴田元幸/菅原克也 共訳)白水社

2006-03-12 | 柴田元幸
「ダブル/ダブル」マイケル・リチャードソン編(柴田元幸/菅原克也 共訳)白水社を読みました。
双子や分身、鏡の像や影…分身をテーマにしたアンソロジー。
収録作家はジョン・バースやポール・ボウルズなど。
私が面白いと思ったのは冒頭のアンデルセンの「影」。
権力欲が強く、老獪な「影」。それにくらべてのんきにも見え、影のいわれるがままに行動してしまう「哲学者」。
ふたりが入れ替わってしまうラストは、寓話のように感じました。
それからルース・レンデルの「分身」も印象的でした。
主人公の婚約者のリーザ。そしてリーザによく似た、でもリーザより13歳も年上のゾーイ。
主人公がゾーイに「僕はあなたに、もしこう言ってよければ、より好ましい別のリーザ、彼女の人生にもうひとつの道が開けていたならそうなっていただろう13年先のリーザを見ているのです。」というセリフが考えさせられました。
「自分と似た人」というと私は自分と年も背格好も似ている人を想像しますが、目をこらせば「そうなったかもしれない自分」「そうなるであろう自分」と、世の中にはたくさんの「自分」があふれているのですね。
両方の女性を失った主人公の破滅、現実と幻想をたくみに織り込んだ作品だと思いました。


「その名にちなんで」ジュンパ・ラヒリ著(小川高義訳)新潮社

2006-03-10 | 外国の作家
「その名にちなんで」ジュンパ・ラヒリ著(小川高義訳)新潮クレスト・ブックスを読みました。
若き日の父が、辛くも死を免れたとき手にしていた本にちなんで、「ゴーゴリ」と名づけられた少年が主人公。彼は命名の理由を知らず、やがてその名を恥じるようになります。
生家を離れ、大学に進学したのを機に、ついに「ニキル」に改名をします。
新しい名前とともにゴーゴリはいくつもの恋愛を重ね、成長・変化していきます。

(ここからネタバレあります)

主人公の両親アシマとアショケとその息子ゴーゴリと妹ソニア、また両親の故郷インドと、現在のアメリカの暮らし。そのふたつの世代や場所に反発し、理解し、次第に自分のルーツとして受け入れていく過程がよく感じられました。
それにしてもゴーゴリの妻モウシュミの裏切りはあんまりだ・・と思いました。
ここまで長いことページを読み進めてきて最後ゴーゴリにこんなさびしいクリスマスを味わわせるなんて・・・まあそのおかげで父のことに思いをはせられたのかもしれませんが・・・。
個人的にはハッピーエンドがよかったな。

「これだけは、村上さんに言っておこう」村上春樹著(朝日新聞社)

2006-03-09 | 村上春樹
「これだけは、村上さんに言っておこう」村上春樹著(朝日新聞社)を読みました。
村上さんが開いていた「村上朝日堂ホームページ」に寄せられた読者との交換メール330通を新たに編集したもの。
また、台湾、韓国の読者からの質問に答えた未発表回答も収録されています。
『そうだ、村上さんに聞いてみよう』の続編です。絵は安西水丸の描き下ろし。
一読して、村上さんの質問に対する真摯な受け答えに感じ入ります。
「今、落ち込んでいます」というだけの抽象的なメールにも優しいことばを送ってくれる村上さん、すごい。
全体的にカジュアルな感じの日本のメールに対して、韓国・台湾の作品分析的な固いメールとが対照的でした。
村上さんの「妻と別れたあと、ひょっこり蛇使いの娘と再婚したりしてね」のコメントが笑えました。

「鳩よ!2001年8月号」特集:柴田元幸アメリカ文学おもちゃ箱(マガジンハウス)

2006-03-09 | 柴田元幸
雑誌「鳩よ!2001年8月号」特集:柴田元幸アメリカ文学おもちゃ箱(マガジンハウス)を読みました。
ブライアン・ウィルソンの歌詞やシコーリャックのマンガなど、原文とともに柴田さんの翻訳が楽しめます。
特にみどころは、柴田さんが本人からもらったという、非売品のダイベックの冊子からの短篇3つ。
なかでも「靄(もや)の物語」はとても美しくてためいき・・・。
「句読点は人格の問題」や、「時制にいい加減になるな」など、柴田さんの翻訳に対するこだわりも随所にちりばめられていて、興味深い特集でした。



「くらのかみ」小野不由美著(講談社)

2006-03-03 | 児童書・ヤングアダルト
「くらのかみ」小野不由美著(講談社)を読みました。
「十二国記」でも有名な小野不由美さんが描く、少年少女を主人公にし、田舎の古民家を舞台にしたミステリーです。
始まりは家の蔵で行った「四人ゲーム」。
まっくらな部屋の四隅に四人の人間が立ち、肩を順番に叩きながら部屋をぐるぐる回ります。とうぜん四人では成立しないはずのゲームを始めたところ、忽然と五人目が出現します。でもみんな最初からいたとしか思えない顔ぶればかり。
この家は行者に祟られ座敷童子に守られているという言い伝えを持つ屋敷。
後継者選びのために親族一同が呼び集められたのですが、後継ぎの資格をもつ者の食事にのみ毒が入れられる事件や、真夜中にきしむ井戸、沼から聞こえる読経の声、人魂・・・さまざまな怪異が続出します。
子供たちは謎を解くべく奮闘します。
遺産相続をめぐるどろどろとした確執と犯人探しの面白さ、座敷わらしという異形のものが現れるファンタジーの面と、さまざまな要素がよりあわされた作品。
犯人がふたりいた・・・というからくりが面白かったです。
三郎おにいさんのキャラクタがよい。

「甘美なる来世へ」T・R・ピアソン(柴田元幸訳)みすず書房

2006-03-03 | 柴田元幸
「甘美なる来世へ」T・R・ピアソン(柴田元幸訳)みすず書房を読んだのだが、
これはアメリカ南部の架空の田舎町、ニーリーで巻き起こる、脱線につぐ脱線の物語なのであり、ピアソンの文体を生かした翻訳がとても面白く、凌駕(りょうが)や折檻(せっかん)など普段使わないような難しい文語を多用しながら、日々のこまこまとした出来事をつづるのが面白く、楽しみにしていた新聞をぬらしてしまった話、マッカーサーに似ている女性に惚れる男性、つりざおの太くもなく細くもないちょうど中央の相手をこらしめるのにうってつけの部分をつかった話、くすくすと笑いながら読み進めるうちに、いつのまにか青年ベントン・リンチの話がどんどんねじまがった方向に進んでいき、ぼーっとして馬面の、なんのとりえもないようなリンチが銃を手に入れ強盗を働き、人を殺し、いつのまにかぞっとする話になっているのであるが、彼が警官に撃ち殺され、ベントンをそそのかしていた妻は被害者を装い、最後にはなんだかせつないものが残るのであるが、それにしてもこのずらずらずらという文体はなんだか読んでいるうちにクセになってしまい、心地よいようなくどいような麻薬のような効果があるのだった。
あー読むのは面白いのに、書くのは疲れた。。。
そんな冗長な文章を面白く読ませるピアソン(&翻訳家の柴田さん)はすごい!