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日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「贖罪(しょくざい)」イアン・マキューアン(小山太一訳)新潮社

2007-04-28 | 村上春樹
「贖罪(しょくざい)」イアン・マキューアン(小山太一訳)新潮社を読みました。
ブッカー賞を受賞した『アムステルダム』の作者イアン・マキューアンの長編小説。村上春樹さんが以前期間限定で開いていたHP(内容は『ひとつ、村上さんでやってみるか』にまとめられています)の中で「最近読んで良かった作品」として紹介されていました。
舞台は1935年の夏から始まります。
主人公は13歳の少女ブライオニー・タリス。彼女は兄リーオンを迎えるために自作劇「アラベラの試練」を準備していました。親の事情からブライオニーと同居することになった、従姉弟のローラ、双子のジャクソンとピエロはこの劇の上演にあまり乗り気ではなく、ブライオニーの意欲は薄れていく一方。
彼女がある事件を偶然見たのはそんな日のこと。姉のセシリーアがある男性の前で裸で庭の噴水に飛び込む姿を見たのです。
同日兄のリーオンは、見栄えはしないがチョコレート会社を経営する金持ちの男をタリス家に連れてきます。
一同が会した食事会。そして起こるある事件。全員の運命を変わっていきます。

第1部は富裕な家庭の家族の様子から事件にいたるまでの丁寧な描写。
第一部は読みながらちょっと間延びしてるなと思ったのですが、第二部のナチスドイツと戦うイギリス軍にいたロビーの語りから、第三部までの流れは圧倒的。
読んでよかったと本当に思った本です。

いくつかの誤解と取り返しのつかない事件。戦争のむごさ。
誰がどのように「贖罪」を行うのか。
これはぜひあらすじだけでなく実際に読んでみてほしい作品です。

恋人たちふたりの真の結末には胸が迫って、泣く気もなかったのにいつのまにか涙が出ていました。
ここまで大きなものではなくても、誰の心にも人には軽々しく言えない「誰かを深く傷つけ、取り返しのつかないものにした」過去はあるのではないでしょうか。
そういう過去については、いくら深く悔いて謝罪したとしても、相手はもちろんのこと、自分も自分のことをいつまでも許せないものなのだと思います。