Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「永遠の出口」森絵都著(集英社)

2006-10-29 | 児童書・ヤングアダルト
「永遠の出口」森絵都著(集英社)を読みました。
主人公は少女紀子。彼女の小学3年生から高校を卒業するまでの日々をつづった連作短編集です。
小学生の時の誕生日会をめぐる小さな事件。ぐれかかった中学時代。高校に進んでからの初めてのアルバイト。初めてつきあった保田くんとの恋。
サンリオグッズやガラスの仮面、ブルーハーツなど70年~80年代の風物を背景に物語は語られます。
どうしてあの子はかわいくないのにもてるのか?
どうしてあの子のいうことは正論なのに私の心にとどかないのか?など
小学校、中学校時代、私もこういうこと考えてたな・・・という気持ちが丁寧に語られていて、ひとつひとつにうなずいてしまう作品ばかりでした。
自分のこと(というより、自分がどう見られているかということ)ばかり考えていて周りがぜんぜん見えていなかった中学時代。
自分が思い描いていた夢のような世界と、現実の世界が違ったときのとまどい・驚きを覚えたアルバイトでの経験。
一緒にいるだけでいっぱいいっぱいで、何も伝えられなかった初めてつきあった男の子。
ドラマチックな事件はない、でもいろいろなことを感じる毎日が少しずつ自分を変えていき大人になる、それを実感させてくれる本でした。




「くっすん大黒」町田康著(文藝春秋)

2006-10-15 | 児童書・ヤングアダルト
「くっすん大黒」町田康著(文藝春秋)を読みました。
三年前、ふと働くのが嫌になって仕事を辞め、毎日酒を飲んでぶらぶらしていたら妻が家を出て行ってしまった主人公。
誰もいない部屋に転がっている不愉快きわまりない金属の大黒さま。
「さま」なんかつけんでいい、大黒、今日こそ捨ててこます!
町田さんのデビュー作で、97年に第19回野間文芸新人賞、第7回ドゥマゴ文学賞を受賞しました。
主人公の語り口調が乱暴で自由でおもしろーい!
登場人物の会話も、主人公が思いついたことも地の文も歌も、すべてぐっちゃぐちゃになっている独特の文章、で、とにかく笑えて面白い!
吉田おばはんとかチャーミイとか、妄想桜井とか出てくる人物たちがみんな妖怪じみていてまた面白い。
酒びたりでお金もなくて眉唾ものの仕事も引き受けて・・・状況はかなり深刻なのになぜこんなに笑えるのか・・・。そしてなぜ最後にせつないような気持ちが残るのか・・・。町田さんにしか書けない作品。
同時収録の「河原のアパラ」も必読!


「絵描きの植田さん」いしいしんじ:著 植田真:絵(ポプラ社)

2006-10-11 | 児童書・ヤングアダルト
「絵描きの植田さん」いしいしんじ:著 植田真:絵(ポプラ社)を読みました。
絵描きの植田さんはある事故以来耳が聞こえなくなりました。
彼の住む村に、ある日、母娘が引っ越してきます。
少女メリとすごすうちに、徐々に植田さんの心がほぐれていきます。
そして植田さんは絵を描きにいった森で雪の事故にまきこまれ、彼を追っていったメリも遭難してしまいます。
いしいさんの文章を植田真さんの絵が彩った美しい物語です。

いしいさんの短編の中では一番好きなお話かも・・・。
土着的なお話なのですが、情景は泥臭くなく美しくて描写がカラフルで、何より最後にとてもあたたかい気持ちになります。
メリが描く美しいスケートのエッジ、植田さんの描く色とりどりの野鳥、オシダさんの無骨な優しさ・・・うーん、何も言うことない。
もう一回読み返そうっと。



「インストール」 綿矢りさ著(河出書房新社)

2006-10-05 | 児童書・ヤングアダルト
「インストール」 綿矢りさ著(河出書房新社)を読みました。
学校生活、受験勉強からドロップアウトすることを決めた高校生の朝子。
彼女は登校拒否を続ける間、ゴミ捨て場で出会った小学生、かずよしに誘われ古いコンピューターでとあるアルバイトを始めます。
この作品は第三八回文藝賞を受賞しました。

チャットやネット用語など、今読むと少し説明がくどく、やや古びている感じは受けますがそれは時代の流れなので仕方ないですね。
朝子が若い女の子であることをうとましく思う気持ち、女子高生という世間がもつ価値感と自分自身との溝、若さや時間、あふれる可能性があると思われながらも何もしたいもの、できるものが見つからない自分へのいらだち、同級生との違和感、変人に見られたいやけっぱちな気持ち・・・など、朝子のいろんな気持ちがよく伝わってきました。
ネットの住人の書き分けなどもよく書かれていて全体的にとても読みやすくて面白かったです。
ネットの住人にも実体がある、と感じ始めたふたり。
そのことと時を同じくして、ふたり自身の母親という生身の存在とぶつかりあうことになる話運びが巧みだなーと思いました。



「淋しいおさかな」別役実著(PHP研究所)

2006-10-05 | 児童書・ヤングアダルト
「淋しいおさかな」別役実著(PHP研究所)を読みました。
今から30年ほど前にNHKの幼児向け番組「おはなしこんにちは」の中で朗読された童話を集めた22編の童話集。今月文庫で復刊されました。
心に風が吹くようなしんみりとした話が多く、大人向けの童話と宣伝では語られていますが、私は小学生のとき読んで、ほかの童話にはない、もの淋しい雰囲気にとても惹かれたので、やっぱり子供向けのお話でもあると思います。
不思議な童話集です。
舞台は国籍も不明な数々の街。乗務員だけで満員の電車。猫貸家の老婆が歩く路地、ふなと話す老人、星を売るセールスマン・・・。
表題作はとりわけ印象的です。
「淋しい」という気持ちがわからない少女が「淋しいおさかな」の夢をみて旅に出るお話です。「はー・・・「おはなし」ってこういうものだな・・・」と腑に落ちます。
寓話的な話も多いのですが、あえて「こういう話」とくくらずに、読んだその時々で感じたものを大事にしたいと思う短編集です。

「怪奇小説傑作集4 フランス編」G・アポリネールほか(青柳瑞穂・澁澤龍彦訳)東京創元社

2006-10-04 | 児童書・ヤングアダルト
「怪奇小説傑作集4 フランス編」G・アポリネールほか(青柳瑞穂・澁澤龍彦訳)東京創元社を読みました。

収録作品は以下のとおり。
ロドリゴあるいは呪縛の塔 マルキ・ド・サド著
ギスモンド城の幽霊 シャルル・ノディエ著
シャルル十一世の幻覚 プロスペル・メリメ著 
緑色の怪物 ジェラール・ド・ネルヴァル著 
解剖学者ドン・ベサリウス ペトリュス・ボレル著
草叢のダイアモンド グザヴィエ・フォルヌレ著 
死女の恋 テオフィル・ゴーティエ著
罪のなかの幸福 バルベエ・ドルヴィリ著
フルートとハープ アルフォンス・カル著
勇み肌の男 エルネスト・エロ著
恋愛の科学 シャルル・クロス著 
手 ギー・ド・モーパッサン著 
奇妙な死 アルフォンス・アレ著 
仮面の孔 ジャン・ロラン著
フォントフレード館の秘密 アンリ・ド・レニエ著
列車〇八一 マルセル・シュオッブ著
幽霊船 クロード・ファレール著
オノレ・シュブラックの消滅 ギヨーム・アポリネール著
ミスタア虞 ポール・モーラン著 
自転車の怪 アンリ・トロワイヤ著
最初の舞踏会 レオノラ・カリントン著 

澁澤龍彦さんの70枚に及ぶ名解説も収録されています。
幽霊の話や未来の幻覚、怖い話だけでなく恋愛を数値で研究する面白い(皮肉な)話、蛍が人間の運命を予見して光る幻想的な話など、さまざまな味わいの不思議な話が収められています。
どれも本当に面白いのですが、私が一番印象に残ったのはバルベエ・ドルヴィリの「罪のなかの幸福」です。
双子の神のような幸福に包まれた男女。でも彼らが地上の法律では結ばれなかったとき、ふたりはどのような道を選んだのか、罪の中でこそ幸せは輝くのか・・・物語は主治医である医師の目線で語られます。
解説の澁澤さんいわく、幻想怪奇小説といえばドイツやイギリスが有名で、フランス文学はともすれば怪奇を見る人間そのもののほうに筆が進んでしまうと語っていますが、同じ不思議なものごとを語るにも、お国柄が現れるんですね。面白い。


「人生を救え!」町田康著(いしいしんじとの対談収録)毎日新聞社

2006-10-03 | 児童書・ヤングアダルト
「人生を救え!」町田康著(いしいしんじとの対談収録)毎日新聞社を読みました。
本の前半は町田康さんが毎日新聞日曜版に1年間連載した人生相談。
後半はいしいしんじとの路上対談が収録されています。
人生相談はちゃかしているような内容もあるけど、結構ためになるなあ・・・と思う回答も多く思わず読みふけってしまいました。
「人の失敗が許せない」という女性に対して、「誰でも人の失敗は許せないものですが、人の失敗を叱責しておいて自分が失敗したときはあーわりーわりーでは誰でも気分がよくないものです。でもあなたはきっとあまり失敗をしないので人の失敗が許せないのでは。ここはひとつ意識してあなた自身のハードルを下げてみてはどうでしょう?」などなど。
「彼氏ができません」という20代後半の女性には「恋人というあなたが決めた枠にこの人は大きすぎる、小さすぎると縛られすぎているのではないのかな。心を開いて夜な夜なワイルドサイドを歩き回ろう!」とアドバイスも「ほぉ~」と思いました。
後半のいしいさんとの対談は浅草、丸の内、お台場と対談場所を移し、ぶらぶら語りとツッコミ。対談によりそう現地の写真付き。