Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「南フランス日時計街道」上野秀恒編・解説(クロック文化研究所)

2010-02-05 | エッセイ・実用書・その他
「南フランス日時計街道 壁に描かれたアートたち」上野秀恒 編・解説/ 熊瀬川紀 写真(クロック文化研究所)を読みました。
プロバンス、アルプ、コート・ダジュールはそれぞれ日照量が多い地方。当地を何度も訪れ日時計を1000枚以上の写真におさめた熊瀬川氏の写真の中から約100点を選び、特徴的なものに解説を加えた写真集が本書です。
旅人に時を知らせ、その意匠で目を楽しませてくれる。それぞれの家のさまざまな味付けを見せる南フランスの日時計。
巻末には日時計の写真のみがずらりと並べられ、図鑑のような趣で見ているだけで楽しいです。目盛りだけを打ったシンプルなものから、鳥や蔓草模様、十二星座を描いたものなど意匠はさまざま。私はつりがね草が描いてある紫色の日時計が素敵だなと思いました。

昔は機械式時計は故障も多く、日時計と併用して使われていたんだとか。
確かに、雨の日はあったとしてもお日さまに故障はありませんもんね。
7~4時(ものによっては6時くらいまで)の目盛りのみで用を成せた昔の時間感覚に思いをはせるのも楽しいです。

日本だと地面においてある日時計はよく見ますが、南仏のように壁に描かれてある日時計はあまり見たことがありません。もしいつか旅行することがあったら、ぜひ見てみたいです。

週末うちのベランダに棒をたてて、こどもと日時計つくってみようかな。


「絵本をつくりたい!」成美堂出版

2010-01-24 | エッセイ・実用書・その他
「絵本をつくりたい!」成美堂出版を読みました。
絵本をつくってみたいけど、どうすればいいの?
ストーリーの組み立て方や絵の描き方、製本の仕方まで、ポイントをわかりやすく解説した実用書。人気の絵本作家たちの画材選びや発想法、テクニックもまとめて紹介されています。

全編カラーでとても見やすい本です。荒井良二さん、山本容子さん、100%ORANGEさんなど執筆陣が豪華!
毎日夜の読み聞かせで、娘たちに何となく絵本を読んでいますが、絵本の文と絵のつくりを語りのリズム(拍)で説明した章にはなるほど納得でした。まぁ、それが分かったから魅力的な絵本が作れるかどうかはまた別の話ですが・・・。

現役の絵本作家の方々が一枚の絵を仕上げるまでの過程も面白かったです。
みなさんいろいろな画材をひとつの絵の中に使っているのに、まとまった感じが出せているのはさすがプロ。

クリエイターのてづくり絵本の章では、さまざまな変り種絵本を紹介。
渡辺リリコさんのマッチ箱絵本がかわいらしかったです。
本格的に絵本作家を志す方には物足りない内容だと思いますが、絵本をつくりたいというワクワク感を高めてくれ、絵本作りが初めての人にはとてもよい本だと思いました。

「南の島ぐるぐる」k.m.p.著(メディアファクトリー)

2009-11-25 | エッセイ・実用書・その他
「南の島ぐるぐる」k.m.p.著(メディアファクトリー)を読みました。
女性ふたりのユニットk.m.p.の南の島の楽しみ方をつづった旅行記コミック。
楽園さがして行ったのはバリ島から飛行機で20分のロンボク島。
そこからさらに小さなアイル島、メノ島、トラワンガン島まで船で。
帰りにはバリ島でひとやすみ。
水周り、虫、停電に悩まされた、豪華リゾートじゃない南の島。
海辺のレストラン、海まで10秒で1200円のコテージ、海の星、空の星。
サーフィンもしない、登山もしない著者たちの、小さな島ぐるぐる日記です。

海の中に手をいれるだけで、プランクトンが驚いてキラキラするのが見えるほど美しい海にかこまれたメノ島。
不便に悩まされた滞在中だけれど、帰ってみると「おもしろかったねー・・・」。
この気持ち、旅する人の多くが共感するのではないでしょうか。

耳が聴こえないダーマ君の手品の話は、じーんときてしまいました。

カシュナッツがなっている木を見たり、トッケーの声を聞いて夜を過ごしたり。
ふたりで不便も素敵も共有することで、ひとり旅の何倍もすばらしい時間を過ごしていて、うらやましい旅の相棒同士だなぁと感じました。




「たらふくまんぷくシンガポール」坂口あや著(スリーエーネットワーク)

2009-11-18 | エッセイ・実用書・その他
「たらふくまんぷくシンガポール」坂口あや著(スリーエーネットワーク)
口福満願をモットーに世界各地を食べ歩くフードライターの著者。
訪れたのはアジアンフードのクロスポイント、シンガポール。
食べ歩くだけでは満足できず、現地の家庭でレシピも取材。
中華、インド、マレー、ニョニャ…、人種のるつぼ、料理も盛りだくさんのシンガポール紀行記です。

毎日朝早くから夜遅くまであちこち行きまくり食べる食べる食べる!!
この著者あやさんと友人でイラスト担当のさわかさんの食いっぷりとタフネスに、読んでいてちょっと・・・疲れてしまった。

でもシンガポールの食、とってもおいしそうです。
三大料理、チリクラブ、キャロットケーキ、チキンライスは必食なのですね。
食だけでなく、地元の人の暮らしぶりもわかって面白かったです。
行ってみたいな、シンガポール。


「奇跡のリンゴ」石川拓治著(幻冬社)

2009-10-20 | エッセイ・実用書・その他
「奇跡のリンゴ」石川拓治著(幻冬社)を読みました。
絶対不可能と言われたリンゴの無農薬・無肥料栽培を成功させた木村秋則(あきのり)さんをノンフィクションライターの著者が取材したもの。
「奇跡のリンゴ」が実るまでの苦難の歴史が語られています。

今朝の新聞でサントリーが開発した青いバラの記事がのっており、青いバラの努力ももちろんすごいことだけれど、木村さんが企業のバックアップもなく、自分の家の畑をつかって、一家困窮を極め周囲の非難を浴びながらなしとげた偉業は、本当にすばらしいことだなと改めて思いました。
全部葉をおとしたりんご畑が再び葉をつけるまで8年!
私だったらきっと3年つづけばいいほう・・・。腹の据わり方が違います。

進退窮まったときに見た山の中のドングリの木は神の啓示のようです。
その後さらに数年たち、リンゴが満開の花をつけたところはちょっと泣けてしまいました。これがドラマではなく実話なんですから。

私たちは体は「今」に在りながら心は「過去」か「未来」に飛んでいることがよくあると思います。でも木村さんはただただ「今」目の前にあるリンゴに真剣勝負で挑んでいる。

今まで常識ではありえないと思われてきた桜の木の剪定に成功し、樹齢を重ねている弘前の桜も連想しました。常識にとらわれない青森の人の底力はすごい。

本の中では、木村さんの農業法は成功した今でも、多くのリンゴ農家が反発していると書かれていました。「なぜ無農薬でもリンゴが作れるのに、農薬を使うのか」と今までの自分たちのやり方が糾弾されているように感じるのだと。
その気持ちはわかるけれど・・・でもやっぱり私は無農薬のリンゴが食べたい。
木村さんのリンゴ畑に追随する農家が増えてくれるとうれしい。
その後のリポートも知りたいです!

「小豆島」壺井栄著(光風社出版)

2009-09-09 | エッセイ・実用書・その他
「小豆島」壺井栄著(光風社出版)を読みました。
故郷小豆島の幼い日の思い出、人、風景、風習を語る随筆集です。
「暮しの手帳」編集長の松浦弥太郎さんが「文章に品がある」「できごとを公平にただありのままに描いているのがいい」と薦めていたので読みました。
実は私、有名な「二十四の瞳」の方は未読。

今は通り過ぎた時代の、島の思い出。
著者は10人兄弟で途中実家が倒産し貧しい暮らしをしていたそうですが、その事実は淡々と語られ、むしろ温かい思い出が多く語られます。

祖母が鹿の角を山で拾い、それをなぜとっておかなかったかと少女時代の著者が責めた話。
桃と柳で美しく飾られるひなの節句。
みかんの種を飲むと頭からみかんの木が生えると姉におどかされた夜。
適当ににぎって豆を兄弟によりわけたのに、ぴったり数が同じだったお母さんの不思議な手のひら。

小豆島には行ったことがない私なのに、壺井さんの筆を通して島を見ると、不思議に懐かしさを覚えてしまいます。

「笑う食卓」立石敏雄著(阪急コミュニケーションズ)

2009-08-29 | エッセイ・実用書・その他
「笑う食卓」立石敏雄著(阪急コミュニケーションズ)を読みました。
人呼んで「原稿も書く遊び人」。自称「理科少年的主夫」「深窓の貧乏人」。
夫人は女性誌編集長。同居人は猫のヒジカタクン。
「なんとなく」を座右の銘とする晩飯当番の著者の「生活と意見」。
雑誌「pen」に連載されていた同名の食エッセイの、1999年の第1回から2007年までの8年分全188本を完全収録した本です。

ところどころに出てくる簡単な料理がおいしそう。
うちで試しに作ってみて美味しかったのが乳酒、甘くないきんぴら、ごぼうだけの柳川鍋。

でも料理本ではないので、大半のエッセイはレシピではなく、日々の食について思うことの語りです。
似たようなテーマのエッセイも多く(加工食品を食べて奥さんに叱られる、若者の食生活を憂う、など。)、本も分厚いので完全収録ではなく抜粋にして、もう少し薄い本にした方が読みやすく手にもとりやすいだろうと思いました。

「菊地君の本屋 ヴィレッジヴァンガード物語」永江朗著(アルメディア)

2009-08-19 | エッセイ・実用書・その他
「菊地君の本屋 ヴィレッジヴァンガード物語」永江朗著(アルメディア)を読みました。
最近「本屋」本を集中して読んでおります。
世の中にはいろいろな専門書店がありますが、その中でも個性的で楽しい本屋がビレッジヴァンガード。

あえて「専門書店」の「なんでも揃ってます」の啓蒙感をなくし、新刊にこだわらず、書誌番号にこだわらず、「この本の隣にこの本を並べるんだ!?」という驚きと楽しさを大事にする。
本の隣に服も雑貨もCDもお菓子もおく。平台はビリヤードの台。店の上には本物の飛行機。
こういう複合型書店も最近は増えてきましたし、書店のPOPも注目されるようになってきましたが、ヴィレッジヴァンガードが始めた頃は、お客さんもとても新鮮な驚きで通いつめたんでしょうね。

「お客には親切にしたい。でもお客との距離は確かに難しい。特定のお客からの甘えを他の客が見ると、なんだあれはっていうことになる。友達になったら買ってくれなくなる。お客はみんな平等だ。特定の客への特別待遇は、他の客から見ると不愉快だ。」

あ、これ。よくわかります。
常連が増えるのはその店が愛されている証だけれど、店員と常連がずっとしゃべているような店は、あまりいい感じを受けません。
店員として「親切」と「馴れ合い」の線引きは難しいところだと思いますが。

そして印象的だったのはこの言葉。
「ぼくはやっぱり本屋の日常業務が好きだ。棚の整理が終わって、店内を見回すと、本の背がきれいに並んでいる時のあの感じ。他の仕事では味わえないものがこの仕事にはある。」

ヴィレッジヴァンガードのような、今までの「書店」の常識を破った本屋をつくった菊地さん。アクが強い人なんだろうなぁ、なんて勝手に思い込んで読んだらこういうシンプルな言葉を目にしてちょっと驚いたりしました・・・。

専門用語が多くて「?」な部分もありましたが、逆にそれが菊地さんの肉声を聞いている感覚で面白かったです。

「だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ」都築響一著(晶文社)

2009-08-18 | エッセイ・実用書・その他
「だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ」都築響一著(晶文社)を読みました。
東京では出会えない個性派書店を求めて、人口2200人の山村から奄美大島、はてはタイ・バンコクにまで足をのばす。台湾の知られざるビジュアル・ブックの美しさに息を呑み、「今やらなければ間に合わない」と語る出版社主のことばに深くうなづく。「スキャナーのように」表面を完璧に写しとる写真家・篠山紀信や、「希有なジャーナリスト」でもあったデザイナー・堀内誠一ら、その時々に出会った人たちの仕事に心打たれる。
気になる本と本屋を追いかけた、15年間170冊の書志貫徹。
個性的な本屋紹介と、あまり人がとりあげない本を意識して都築さんが書評としてとりあげたものを、まとめた本です。

一年のうち2/3は旅暮らし、これから作りたい本が2~300はあるという都築さんのバイタリティに圧倒されます!
本屋のオリジナル文庫帯があるという盛岡のさわや書店にびっくり。
バンコクの紀伊国屋書店では、日本では絶版になった「アジアを舞台にした日本の文庫」が復刊されていて買えるらしいです。
レディース雑誌「ティーンズロード」の書評も面白かった。

著者あとがきより。
「本書に再録した中には、とうに絶版になったり、出版社が消滅したりして、手に入りにくい本もずいぶんある。でも、これは自分の体験からつくづく思うのだが、自分にとって絶対に必要な本なら、いつの日か、かならず手に入る。出会うべき運命の本ならば、いつかかならず出会う。
だからもし、この中に一冊でも気になる本が見つかったら、あきらめずに探し続けて欲しい。その一冊が、どこか埃にまみれた本棚の暗がりで、ずっと君を待っていると信じて。
だって、ほんとうに、だれも買わない本は、だれかが買ってあげなきゃならないのだ。」

「場末」に面白さを見出し、「名所も何もないただの田舎」めぐりに惹かれる。
毎月何千冊と発行されるピカピカの新刊の並んだ平台ではなく、店の角の棚にひっそりと並んだ本に光をあてる。
世間の大多数とは違うところに価値観を見出す。
そしてそれを楽しく私たちに伝えてくれる都築さんの視点に、私も「新しい目」が開かれる思いです。

「すごい本屋!」井原万見子著(朝日新聞出版)

2009-08-09 | エッセイ・実用書・その他
「すごい本屋!」井原万見子著(朝日新聞出版)を読みました。
イハラ・ハートショップは和歌山県の山奥にある、住人約100人の村の小さな本屋。地域には店がないため、食品や日用雑貨も一緒に売っています。
そんな本屋が『怪傑ゾロリ』の原ゆたかさんのサイン会、
写真家・今森光彦さんとの交流会、都築響一さんのトーク・イベントなど、
村の子どもたちと次々と楽しい「事件」を起こしていきます。
過疎や出版不況のなか、「田舎の子どもたちにもたくさんの本との出会いを」という思いで動き続ける井原店長の挑戦の日々がつづられた本です。

私の住むマンションが10部屋×10階建てで100世帯、住人400人弱・・・と考えると、うちのマンションより、ハートショップのある村全体の人口の方が少ない!
そんななかで子供たちにもっと本を読む機会を与えようと努力し、店長ひとりで店が休めない中、旅費を算段して東京の出版社まで出向き、著名な作家の方々を呼ぶ熱意、バイタリティ。
本当に「すごい本屋!」です。
当時アリス館の編集長をしていらした後路さんがハートショップを訪れた際の言葉が印象的でした。

「こんなお店、はじめてみたぞ!そうか、本はラーメンやパンや醤油と同じ日用品なのだ!としごく納得させられる。」

この言葉、とても素敵です。

実用書は別として、本に即時的な実利を求める考え方(恋愛のノウハウや、悲しみを癒す方法を本に教えてもらうこと)は、私はあまり好きではないのです。
だから本を「実用品」と考えることにはなじめません。
けれど「日用品」と考えることは好き!
微妙・・・な違い?

田舎だからこそネット書店で本を買う人が多いと思いますが、書店で手にとって本を見、書店の方と言葉を交わす喜びはネットでは味わえないもの。
これからもイハラ・ハートショップにはがんばってほしいです!