Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「ぶらんこ乗り」いしいしんじ著(理論社)

2006-07-29 | 児童書・ヤングアダルト
「ぶらんこ乗り」いしいしんじ著(理論社)を読みました。
ぶらんこが上手で、指を鳴らすのが得意な男の子。声を失い、でも動物と話ができる、つくり話の天才。彼はもういない、わたしの弟。
姉である「わたし」に残された古いノートに描かれた真実。
いしいしんじさんが初めててがけた長編小説がこの作品です。

冒頭から過去をふりかえるように描かれたこの作品。
どんな楽しい思い出にも、面白い話にも悲しみの影がくっついているような感じがします。
弟の「吐き気がでるような声」ってどんなのかなあと想像しました。(しかし想像できませんでした・・・。この作品は映像化不可能!)
ふたりの両親の話はとてもあたたかくて、そしてつらかったです。
指輪の入った小箱、絵葉書、そして「指の音」のお腹に書かれたメッセージ・・・。
後半の物語の運びはいしいさんにしか描けない、本当に優しく胸に響く世界。

これから私が大切なものを失ってしまいそうなとき、失ってしまったとき、またきっと手にとって読み返すであろう作品です。




「ポーの話」いしいしんじ著(新潮社)

2006-07-29 | 児童書・ヤングアダルト
「ポーの話」いしいしんじ著(新潮社)を読みました。
泥の川が流れる橋の多い街。太古から岸辺に住みつく「うなぎ女」たちを母として、ポーは生まれました。ポーは人間離れした体を持ち、魚のように水の中を泳ぐことができます。やがてポーは、稀代の盗人「メリーゴーランド」と知りあいます。ですがある夏、500年ぶりの土砂降りが町を襲いポーは新たな旅に出ることになります。
野生児・ポーは文明を知らず教育も受けず人間関係の機微を知らず 、世間の悪にも善にもそまらずにあらゆることを見聞きし、消化していきます。
窃盗、麻薬、環境破壊・・・ポーをとりまく世界は暗く悪意に満ちています。
しかし、だからこそ象が喜悦するバナナや犬じいさんの愛情や、海辺の村の人々のもてなしがきらきらと特別に輝いて見えます。

ですが、個人的には最後世捨て人のようになってしまったポーの姿がちょっと残念かも・・・・かといって普通に陸で生活しているポーもやはり想像できないか・・・むつかしい。
なぜうなぎを飲み込んだポーがあのような姿になったのか?
ポーの行く末とともにもう少し考えてみたい課題です。


「お縫い子テルミー」栗田有起著(集英社)

2006-07-26 | 児童書・ヤングアダルト
「お縫い子テルミー」栗田有起著(集英社)を読みました。
主人公はテルミーこと照美。彼女は依頼主の家に住み込み、服を仕立てる「流しのお縫い子」。生まれ育った島をあとにして歌舞伎町を目指して上京した16歳のテルミー。彼女はそこでホステスとして働き、店で歌う女装の歌手・シナイちゃんに恋をします。表題作のほかにアルバイトをして「ひと夏の経験」を買う小学五年生、小松君の夏休みをつづる『ABARE・DAICO』も収録されています。
テルミーの布への愛情、ひとつひとつ手縫いでつくるドレスを想像してうっとり・・・。テルミーのどうしてもかなわない恋心は私にはとても共感できました。
シナイちゃんに恥ずかしくないように生きていきたいと思い、その気持ちを抱えていく度量があるテルミーはすごい。私が16歳の時はとにかく恋愛を成就させようとやっきになって的外れなことをしていたような気がします・・・。
もっともっとテルミーのつくる洋服の世界に浸っていたい、続編が読みたいと思う作品でした。
『ABARE・DAICO』も小学校5年生にしては家の事情から、家事などをこなすしっかりした男の子が登場しますが、語り口がとぼけていて肩の力をぬいて楽しめます。
周囲の誤解から小松君が抱えたお腹の中のどろどろは、本当につらい体験だったろうと思いました。
でも「乗り越える」とか「回復する」とかじゃなく、心の傷は抱えていくお腹の広さをもたないといけないのかな・・・両作品を読んでそんなことを思いました。

「雪屋のロッスさん」いしいしんじ著(メディアファクトリー)

2006-07-25 | 児童書・ヤングアダルト
「雪屋のロッスさん」いしいしんじ著(メディアファクトリー)を読みました。
雪をふらせるロッスさん、大泥棒の前田さん、似顔絵描きのローばあさん、サラリーマンの斉藤さんなどなど・・・。さまざまな人や物たちのそれぞれの営みを描いたスケッチのような超短編集。
民話のような話から風刺的な話、心あたたまる話、せつない話、ファンタジー色の強いものからショート・ショートのようなものまで、さまざまな話が楽しめます。
私が一番印象に残ったのは銭湯の話。
よりそうように働く夫婦の姿に胸がじんときました。
自分の仕事に誇りを持ってもくもくと働く姿、あこがれます。
いしいさんもそういう人たちを好きだからこのような作品を書いたんだろうなあと感じました。


「草のかんむり」伊井直行著(講談社)

2006-07-21 | 児童書・ヤングアダルト
「草のかんむり」伊井直行著(講談社)を読みました。
本人もよくわからないまま、蛙にされてしまった平凡な予備校生のぼくが主人公。
人間に戻るためにぼくは麦子という女性に助けを求めます。麦子はグリム童話『蛙王子』の研究に取りくみますが、ぼくの体には変化なし!
設定はファンタジックですが、読んでいるうちに現実の話のように思えて、するすると読んでしまった素敵なお話でした。
それはきっとかえるの視力の話や生態の話などが詳細に描かれていて、いかにもありそうだと感じさせるからだと思います。
麦子との生活はふたりの気持ちがリアルで、普通の男女関係のように読んでしまい、「あ、「ぼく」はかえるなんだ」と途中ではっと気づいてそのおかしさに我ながら複雑な気分になりました。
表題「くさのかんむり」の意味がわかってから、ラストまでの流れはとってもよかったです。あたたかい気持ちになりました。

「母の発達」笙野頼子著(河出書房新社)

2006-07-20 | 児童書・ヤングアダルト
「母の発達」笙野頼子著(河出書房新社)を読みました。
母親に抑圧されて育った娘。
最初の「母の縮小」の物語は娘の進路に口を出し、遊びに行くとイヤミをいい、娘の問いかけを無視し、かと思うとたちさりぎわに「汚い」と捨て台詞を残し・・・苦しい娘と母親の関係が語られます。
かと思うと、次の「母の発達」の物語から話は急展開。
家を出られないまま40代になった主人公のヤツノ。
彼女が殺しても母は死ななかった・・・。
「あ」のお母さんから「ん」のお母さんまで、分裂しながら増殖するおかあさん。
でも自由奔放でいたずらでやりたい放題、以前の母との関係とは違ってきます。
そして最終章で踊る大回転お母さん!
娘らしくしなくていいんだ、母親らしくしなくていいんだーと
アホになれる楽しい一冊。
50音の母には「よ・頼子の母」も登場。

「麦ふみクーツェ」いしいしんじ著(理論社)

2006-07-18 | 児童書・ヤングアダルト
「麦ふみクーツェ」いしいしんじ著(理論社)を読みました。
ある日聞こえてきた不思議な音。「とん たたん とん」
麦ふみをするクーツェにであう、大きな体の主人公「ねこ」。
素数にとりつかれた数学者である父親。音楽を信奉する祖父。
3人は「ひどい暮らし」の街を出て、海辺の小さな街にやってきました。
その街で祖父は吹奏楽団をたちあげ、父は小学校の教員につきます。
街をおそう奇妙な災難や事故。その中でねこは音楽の道を志し、やがて家族の秘密を知ることになります。

いしいしんじさんの本を読むのはこの作品が初めてでした。
「誰々に似てる」というのは作家に失礼かな・・・と思うのですが、でもやっぱり文体やモチーフに宮沢賢治さんを思い出してしまいました。
街を襲う未曾有の大事件はちょっと村上春樹さんの作品も彷彿させるかな。

でもそんな既視感は初めのうち、読む進むうちにどっぷりいしいさんオリジナルの世界にはまってしまいました。
ひとつひとつの物語がどれも印象的で心に残ります。
一番強い印象を受けたのがセールスマン。
あ、でも用務員さんも郵便局長さんも・・・やっぱりひとりに絞れない。
主人公のねこも素直で朴訥で、だからこそクーツェの音が聞こえたのかなあと思います。
長編ですが中だるみも感じず、とても楽しい時間を過ごさせてくれた素敵な一冊でした。


「哲学者かく笑えり」土屋賢二著(マンガ・いしいひさいち)講談社

2006-07-14 | 児童書・ヤングアダルト
「哲学者かく笑えり」土屋賢二著(マンガ・いしいひさいち)講談社を読みました。
笑える思索、哲学にいたる?へ理屈、さまざまなエッセイと、土屋さんが英国留学時に先輩とやりとりした滞英往復書簡録が収録されています。
面白いと思ったのは「男とはなにか」の章。
男性の「かっこいいと思われたい」と「外見に気を使いすぎる男といわれたくない」との心の矛盾。男性にとって異性とは究極的には「許せる」「許せない」のふたつしかない、など笑いながらなぜかふむふむとうなずいてしまう不思議なツチヤ哲学。
いしいひさいちさんが描く女性徒たちも面白いです。




「青いチューリップ」新藤悦子著(講談社)

2006-07-14 | 児童書・ヤングアダルト
「青いチューリップ」新藤悦子著(講談社)を読みました。
舞台はスレイマン帝が治めているオスマンの国。羊飼いの少年・ネフィは父とともに、青いチューリップの球根を手に都イスタンブルに住むアーデム教授を訪ねます。ネフィはスレイマン帝がのぞむ「本当に“青い”チューリップ」を咲かせるために、教授とともにチューリップの交配に挑みます。しかし教授の妻は青いチューリップを咲かせると不吉なことが起こると強くいさめます。
そして青いチューリップのつぼみがふくらんだとき・・・
オスマンの国を西から東へと広く旅する歴史と冒険の物語。
作者の新藤悦子さんはトルコを中心としたノンフィクション作家。面白くて一気に読んでしまった作品なので、児童文学はこの作品が初めてだと作者紹介を読み、びっくりしました。
イズニックタイルが初めて「赤」を生み出した物語。
イスタンブルの処刑の秘密。
東トルコのノウルーズの春の祭りなど、ネフィの冒険譚と実際の歴史がよりあわさって児童文学の枠におさめておくにはもったいない、深い読み応えのある作品でした。

「樹上のゆりかご」荻原規子著(理論社)

2006-07-14 | 児童書・ヤングアダルト
「樹上のゆりかご」荻原規子著(理論社)を読みました。
主人公は高校二年生の上田ひろみ。彼女が巻きこまれるようにしてかかわることになったのは生徒会執行部の活動。合唱祭、演劇コンクールに体育祭、そしてある日大きな事件が起こります。主人公が友人たちと過ごす「ゆりかご」の中のような不安定な学生生活をつづったミステリアスな物語です。
主人公は「これは王国のかぎ」の主人公の成長した姿だそうですが、特に「これは~」を読んでいなくても、この作品だけで十分に楽しめます。
荻原さんには珍しくリアリズムの作品。荻原さんの自伝的な要素も強いのかな・・・という気がします。
上田ひろみちゃんが本当に等身大の女の子で、気負わずひねくれず落ち込んだり悩んだりする姿に共感してしまいました。彼女が夢乃にあこがれながら、実際に夢乃
に手をさしのべられると拒否してしまったり・・・そんなとまどいがよく伝わってきました。
近衛有理さんについては私は「う~ん・・・」理解したくない、派ですがこれはあくまで物語だから、こういうことがあってもいいのかなー・・・。
最後にちょっともんもんとした気持ちが残りました。