Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「オテル モル」栗田有起著(集英社)

2006-06-27 | 児童書・ヤングアダルト
「オテル モル」栗田有起著(集英社)を読みました。
しあわせな眠りと夢を提供する不思議なホテル、オテル・ド・モル・ドルモン・ビアン(通称オテル モル)。そのホテルのフロントで働き出した主人公希里。希里には双子の妹沙衣がいます。沙衣は病院に入院しており両親はそのつきそいで病院の近くに暮らし、希里は沙衣の娘で自身の姪、美亜とその父親西村さんと3人で暮らしています。

語り口は淡々としていますが、主人公含め、その設定はかなりハード。
でもあえてそのぐちゃぐちゃさをきれいにまとめようとせず、そのまま受け入れてなんとかしのいでいく、というような希里の気持ちがじんわり伝わってきます。
オテルは大きくてあたたかで、人を裸のまま包んでくれる穴倉みたい。私も宿泊してみたいです。
登場人物のなかでは、西村さんがとても不思議な人物で気になりました。
作品自体が大きな序章のようで、希里や沙衣のこれからが気になりました。


「LOVE」古川日出男著(祥伝社)

2006-06-23 | 児童書・ヤングアダルト
「LOVE」古川日出男著(祥伝社)を読みました。
目黒川周辺を舞台にしたさまざまな年齢のひとびとと猫を描いた連作短篇集(著者いわく巨大な短編)です。三島由紀夫賞を受賞しました。
どの作品も異なる年齢・立場の見知らぬ人間たちが、あるひとつの場所をキーワードに不思議な係わり合いをもっていく物語です。
そしてそれらの物語の間に、次の作品の序曲のように猫の短い文章がはさまれています。
目黒、品川、五反田といった狭い東京の一区画を詳細に描写する文章。
東京の雑踏と裏通りという人間たちの世界と、そこかしこに「みしっ」とはびこっている猫や鳥や川、海という自然の野生。
読後感は「濃密」・・・です。

一番好きだった作品は小学生のジャキと彼の自転車が主人公で、鯨塚を舞台にした「ブルー/ブルース」。
さすらいの料理人とか猫を数える老女(50代だけど妖怪のような存在感)とか、小学校の学区をこえたうさぎネットワークとか、かなりキッカイな登場人物だらけなのですが、主人公の素直さ、まっすぐ伸びていく自転車の軌跡のイメージが、作品を気持ちの良いバランスで保っているなという印象を受けました。




「わがタイプライターの物語」ポール・オースター著サム・メッサー絵(新潮社)

2006-06-17 | 柴田元幸
「わがタイプライターの物語」ポール・オースター著サム・メッサー絵(柴田元幸訳)新潮社を読みました。
ポール・オースターは執筆の清書にいまだオリンピア・タイプライターを愛用しています。(ただ出版社の規約により、最近は完成稿をデータ化するのにパソコンも使用しているとのこと)
ポール・オースターのタイプライターへの愛着と、オースター以上にそのタイプライターに惚れこんだサム・メッサーの絵とで綴られる短い本です。
タイプライターを描いたものや、オースターの肖像などカラー挿画とスケッチは39点収録されています。
眺めていて思うのはサム・メッサーの絵のダイナミックなタッチとユーモラスな表情。タイプライターが今にもひとりでしゃべりだしそうです。
キーにたっぷり盛られた油絵の具の感触がつたわってきて、私も思わずキーを押してしまいました。
オースターの「我々は同じ過去を共有し、同じ未来を共有してもいる・・・。」に共感。新しい便利な機能をもつ道具もいいけれど、使い慣れた道具は自分にとって特別な価値がありますよね。