Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「最後の瞬間のすごく大きな変化」グレイス・ペイリー著(村上春樹訳)文藝春秋

2005-12-23 | 柴田元幸
「最後の瞬間のすごく大きな変化」グレイス・ペイリー著(村上春樹訳)文藝春秋を読みました。
ユダヤ系アメリカ人の筆者が、市井の人々の生活を題材にした短編集です。
現在77歳の著者は、40年間のキャリアで3冊の短篇集と寡作の小説家ですが、作家仲間を含め、アメリカで根強い人気を誇る方だそうです。
一番気に入った作品は「長距離ランナー」。
ランニングをしていてたまたま昔の家を見つけ、ひょんなきっかけからそこで数週間暮らすことになる・・・普通はありえない話なのに、ふとそんなこともありそうな気がする不思議な話です。
全体を通じて筆者の愛情、懐の深さを強く感じます。
「こどもは本当にうるさい」といいながら、「私にはこどもの短所をみつけられない」と語ったり、「男は逃げるだけ」といいながら、前の夫のいいところを語ったり・・・。
訳者の村上春樹さんが「二律背反性こそグレイス・ペイリーの魅力」という意味がよくわかります。
なにげない情景なのに、「こどもはかかとを神様にみせながら芝生に寝転がっていた」という詩的な表現にもしびれました。
何度も再読して味わいたい短編集でした。

「舞踏会へ向かう三人の農夫」リチャード・パワーズ著(みすず書房)

2005-12-23 | 柴田元幸
「舞踏会へ向かう三人の農夫」リチャード・パワーズ著(柴田元幸訳)みすず書房を読みました。
物語は1914年のうららかな春、プロイセンで撮られた一枚の写真からはじまります。(小説の表紙にもなっています)
写真に撮られた三人の農夫の運命、その写真を眺めるピーター・メイズの現在の生活、一見別々に思えたふたつの物語が意外な展開を見せ、からみあいます。
小説の域を逸脱しているような緻密な思索の文章をはさみ、現代アメリカ文学最強の新人といわれているリチャード・パワーズのデビュー作です。
写真や戦争、20世紀についての考察などかなり固めの文章のところは正直飛ばし読み・・・だったのですが、ストーリー自体は面白かったです。
あとがきで訳者の柴田さんがこの小説を「知的でありながら優しさ・温かさを感じる」と表現していますが、まさにそのとおり。
ピーター、フーベルト、アドルフの三人は、本当にこんな人生を送った人物がいたのではないかというリアリズムがあります。
ピーター・メイズの現代の生活も、風刺的なユニークな文章が多くて、とにかく筆者の文章力に脱帽。
遺産の話もさまざまな伏線が聞いていて「あぁ!」という感じで面白かったです。

「意味がなければスイングはない」村上春樹著(文藝春秋)

2005-12-17 | 柴田元幸
「意味がなければスイングはない」村上春樹著(文藝春秋)を読みました。
シューベルトからスタン・ゲッツ、ブルース・スプリングスティーン、スガシカオまで、村上さんが語る音楽についての十篇。
音楽家(ミュージシャン)の音楽の軌跡から音楽論まで、資料集めから、それを文章に起こすまでの労力にまず感嘆しました。
私も大学のとき卒業論文を書くときに実感したのですが、ある人物の生い立ちや性向を膨大な資料から読みやすくまとめるのはとてつもない苦労があると思うのです。
村上さんは「楽しんで書いた」と語っていますがその力技に驚嘆です。
文章もわかりやすく、かつその音楽を聴きたいなあという気持ちにさせてくれてとてもよかったです。
また、村上さんの小説の中で「?」と思ったセリフのなぞがこのエッセイでいくつか解けました。
「海辺のカフカ」で大島さんがシューベルトのソナタについて、「僕には退屈する時間はあるけど飽きる時間はない」という意味のセリフを語りますが、このエッセイを読んで少し大島さんの言っている意味がつかめたような気がします。
また「東京奇譚集」の中の「腎臓の~」の短編の中で主人公が「職業とは愛なんだ。便宜的な結婚のようなものではなく」と語りますが、これはプーランクのセリフだったのですね。
そんな小説の謎解きの楽しみもあって面白く読めました。
それにしても、ゼルキンとルービンシュタイン、ふたりの演奏を同じ曲で4回ずつ続けてきいて「聞き飽きない」という村上さん、マニアックすぎ・・・。

「三つの小さな王国」スティーヴン・ミルハウザー著(柴田元幸訳)白水社

2005-12-09 | 柴田元幸
「三つの小さな王国」スティーヴン・ミルハウザー著(柴田元幸訳)白水社を読みました。
絵の細部に異常なこだわりを見せる漫画家、中世の城に展開する王と王妃の確執、呪われた画家の運命、それぞれを描いた三つの短編集です。
冒頭の「J・フランクリン・ペインの小さな王国」が面白かったです。
すべて手書きにこだわるアニメーション、詳細に緻密に描くライスペーパー、うごめく背景、地下世界へのこだわり。
娘との交流もじんわりとしてよかったです。
ほか二編は「小説」とは形式が少し変わっていて興味深い作品。

「不運な女」リチャード・ブローティガン著(藤本和子訳)新潮社

2005-12-05 | 柴田元幸
「不運な女」リチャード・ブローティガン著(藤本和子訳)新潮社を読みました。
サンフランシスコ、カナダ、バークレー、アラスカ、ハワイ、シカゴ…『アメリカの鱒釣り』から20年、47歳の孤独な男が、死んだ女友だちの不運に寄り添いながら旅をします。
日本製のノートに書きつけられた、過ぎゆく時間をみつめる旅。
ひとり娘が著者の遺品のなかから発見した小品です。
フランスでは94年に出版されていましたが、日本訳は今年の秋に出版されました。

ブローティガンの比喩の巧みさ、想像力のはばたきには本当に感嘆するばかり。
馬蹄の詰まったバケツを置いたような音ですわる。
アリスのウサギの座る陪審員席。
スーパーのレジでは前の女性が鉄道から荷をおろす。
龍が原因による骨折。

作中では主人公は首をつった女性の部屋に住み、癌を宣告され死ぬという意識になじんだ女友達に思いをはせるなど、「死」のイメージがあふれています。
この作品の直後に著者がピストル自殺したことをしのばせる作品です。





「世界の肌ざわり」柴田元幸・斎藤英治編訳(白水社)

2005-12-05 | 柴田元幸
「世界の肌ざわり」柴田元幸・斎藤英治編訳(白水社)を読みました。
編訳者が偏愛する小説を集めた、現代アメリカの短編集。収録作品は以下のとおり。

ラザール・マルキン、天国へ行く(スティーヴ・スターン)
世界の肌ざわり(リチャード・ボーシュ)
見張り(リック・バス)
アット・ザ・ホップ(ロン・カールソン)
シュロイダーシュピッツェ(マーク・ヘルプリン)
T・S・エリオット不朽の名作をめぐる知られざる真実―完全版書誌に向けてのノート(シンシア・オジック)
母の話(ジェイムズ・エイジー)
フーディーニ(シリ・ハストヴェット)

個人的にいいなと思ったのは「アット・ザ・ホップ」。
多感な少年時代の語り口の翻訳が柴田さんは本当にうまいなあと思います。
「ラザール・マルキン・・・」の天国の描写はなんだかとても温かく美しくて、印象的でした。
「世界の肌ざわり」はおじいさんの孫に対する想いにじわっとくる短編。
跳び箱飛べたのかな?
「見張り」は気の狂った息子、裸の女たちと暮らす70代の父、倦怠感を抱える自転車乗り、と不思議な風合いの短編。
どれもカラフルで面白い短編ばかりでした。




「おとなの自由研究」デイリーポータルZ編集部(アスペクト)

2005-12-05 | 柴田元幸
「おとなの自由研究」デイリーポータルZ編集部(アスペクト)を読みました。
毎日更新されるサイト、デイリーポータルZに掲載されたレポートを再構成したもの。
野草でつくるカフェ飯、八丈島に光るキノコを見に行く、糸電話で市外通話など、楽しくてマネしてみたい企画がもりだくさん。
個人的には林さんのレポートがお気に入り。