Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「むずかしい愛」柴田元幸編訳(朝日新聞社)

2005-11-26 | 柴田元幸
「むずかしい愛」柴田元幸編訳(朝日新聞社)を読みました。
不思議な愛の話を集めたアンソロジー。収録作品は以下のとおり。

私たちがやったこと(レベッカ・ブラウン)
ピアノ調律師の妻たち(ウィリアム・トレヴァー)
完璧な花婿(ヘレン・シンプソン)
ホテル(グレアム・スウィフト)
テレサへの手紙(ウォルター・モズリイ)
ロバート・ヘレンディーンの発明(スティーヴン・ミルハウザー)
満足のいくこと(V.S.プリチェット)
雪(ジョン・クロウリー)

印象的だったのは盲目のピアノ調律師の話。
生者の存在感が死者の記憶の上にどんどん上書きされていく事実に共感。
少し話は違いますがよく「人はどうして小さな頃の気持ちを忘れてしまうのだろう」というフレーズを聞きますが、忘れるのではなく、大人としての気持ちが上書きされていくだけではないかなと私はよく感じるので、そんなことも思いながら作品を読みました。
冒頭のレベッカ・ブラウンの話はお互いの耳と目を焼く恋人どうしの話。
いろいろなことを感じ、考えさせられる作品。
「雪」も記憶の不思議さへの考察が興味深く、面白く読みました。

アンソロジーはいまひとつ好きになれなかったり、印象が薄かったりという作品も混じりがちだと思いますが、柴田さんのアンソロジーはどれも存在感があり面白いのがすごい!

「夜の姉妹団」柴田元幸編訳(朝日新聞社)

2005-11-24 | 柴田元幸
「夜の姉妹団」柴田元幸編訳(朝日新聞社)を読みました。
スティーヴン・ミルハウザー、レベッカ・ブラウン、ジョン・クロウリー、ウィル・セルフなど、現代作家の英米短篇集です。
表題作はミルハウザーの作品。少女たちが闇の中へと消えていくその訳は?はっきりとした結末のない不思議な話。
レベッカ・ブラウンの「結婚の悦び」の終わりのない新婚旅行は寓話のような奇妙な話です。
ダイベックの「僕たちはしなかった」は自分の学生の時をしみじみ思い出してしまうような、リアルな話。
ジェームズ・パーディの「いつかそのうち」は家主を神のように追い求める主人公の姿がせつなかった。
ルイ・ド・ベニエールのキャットフードのラベル収集の話「ラベル」が面白かったです。
ウィル・セルフの「北ロンドン死者の書」はまじめなのにユーモラスで面白かった。最後の母親が職場に電話してくるなんて・・・のくだりは思わず笑ってしまいました。

全体的に奇妙で面白い話が多くて、柴田さんの作品を見る目はさすが、と思いました。
とても楽しいアンソロジーでした。


「オランダ大好き!」松崎八千代監修(JTB)

2005-11-24 | 柴田元幸
「オランダ大好き!」松崎八千代監修(JTB)を読みました。
オランダといえばゴッホ、風車、チューリップの知識程度の私ですが、この本にはオランダを興味深いたくさんの知識がつまっていて楽しく読みました。
オレンジの色をモチーフにした祭り、国民に愛されているオランダ皇室、
ニシンの食べ方、シンタクロースなどなど。
街もきれいで、きどらない雰囲気。いつか行ってみたい国、オランダ。

「東京奇譚集」村上春樹著(新潮社)

2005-11-18 | 柴田元幸
「東京奇譚集」村上春樹著(新潮社)を再読しました。
「日々移動する腎臓のかたちをした石」が気になって、腎臓の形を調べてみたところ、そらまめのような形らしい。
「日々移動するそらまめのかたちをした石」じゃほんわかした話になるもんね・・・。
キリエさんって実在のモデルがいるのでしょうか?とても魅力的な女性だと思います。
最後に主人公が「大事なのはすべてを受け入れるということだ」と語っていますが、人間関係だけでなく、人生のすべてにおいてそれはとても大切で、かつ難しいことだと思います。
村上さんだったか、誰が言ったか忘れましたが、以前読んだ本の中で「人の本当の強さとは何かを手に入れようとくじけずがんばるというようなものではなく、理不尽で不条理なことに出会ったときに、苦しみながらそれを受け入れようとする心のことではないか」という言葉がありました。
村上さんの小説を読んでいるとよくその言葉が思い出されます。
そして私もそんな状況に対峙することになったら、「本当の強さ」を手に入れられるのだろうかと思うのです。



「ナイン・インタビューズ」柴田元幸編・訳(新潮社)

2005-11-17 | 柴田元幸
「ナイン・インタビューズ」柴田元幸編・訳(新潮社)を読みました。
9人の作家(シリ・ハストヴェット、アート・スピーゲルマン、T・R・ピアソン、スチュアート・ダイベック、リチャード・パワーズ、レベッカ・ブラウン、カズオ・イシグロ、ポール・オースター、村上春樹)のインタビューが英語と日本語(柴田訳)で掲載されています。
CD付きで、作者本人の声が聞けるのもうれしい企画。CDには8人(村上春樹を除く)のインタビューが収録されています。
柴田先生の声ってこんな声だったんだ・・・。
私は「シカゴ育ち」を読んでとても好きだったので、ダイベックのインタビューは楽しかったです。
村上春樹さんのインタビューでは『「タイタニック」のみどころ』なんてエッセイ書いて欲しいなあと思いました。
未読で、興味をそそられたのはカズオ・イシグロの「わたしたちが孤児だったころ」。
もしこのような本の第二弾が出るのなら、ぜひミルハウザーのインタビューが聞きたいなと思います。


「一人の男が飛行機から飛び降りる」バリー・ユアグロー著(柴田元幸訳)新潮社

2005-11-15 | 柴田元幸
「一人の男が飛行機から飛び降りる」バリー・ユアグロー著(柴田元幸訳)新潮社を読みました。
夢のような不思議な話を集めた149の超短編集。
訳者あとがきでディヴィッド・バーンがこの小説について「崇高と滑稽が合体している」と評しているそうですが、まさにそのとおり。
父の形の風船やジャングルにとらわれた(ふりをしている)女のようなおかしみのある短編、石鹸をたべ泡を出している美しい少女、月にかかるはしごのようなとても美しい情景を描いた短編など、さまざまな味が楽しめる作品です。
日本の小説でいうと村上春樹さんの「夜のくもざる」のイメージに近いかも?
現代的でいて民話のような不条理さもある面白い短編集でした。