Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「日本神話がわかる。」AERA Mook(朝日新聞社)

2006-08-30 | 児童書・ヤングアダルト
「日本神話がわかる。」AERA Mook(朝日新聞社)を読みました。
「古事記」「日本書紀」を中心に日本神話を広く論じた一冊。
アイヌや沖縄神話も含めて紹介されているのが面白かったです。
心理学、民俗学、歴史学など様々な角度からのアプローチがあり、執筆者も田辺聖子さんや梅原猛さん、市川猿之助さん、河合隼雄さんなど豪華。
さまざまな人が論じているのでひとつの神話でもいろいろな見方が提示されていて読んでいて興味深かったです。
伊勢神宮について語るのは現行の天皇制に触れずにはいられないから避ける人が多いのかな??と思うのは私のかんぐりかもしれませんが、出雲神話について語る論が多かったです。
河合隼雄さんの「日本神話の中核はからっぽ」論が面白かった。


「トリツカレ男」いしいしんじ著(ビリケン出版)

2006-08-30 | 児童書・ヤングアダルト
「トリツカレ男」いしいしんじ著(ビリケン出版)を読みました。
いろんなものにとりつかれてしまう男、ジュゼッペ。
あるときはオペラにとりつかれ歌いまくる毎日、あるときは三段跳びにとりつかれ世界記録をマーク。そんな尋常でないトリツカレ男が無口な少女ペチカに恋をします。

恋をしたジュゼッペがペチカに近づき、ペチカの望みをかなえるさまは魔法のよう。映画「ライフオブビューティフル」 の前半を思い出しました。
誰かにトリツカレルってこんなに深いものなんだーとがぜんジュゼッペ(&はつかねずみ)を応援してしまいました。
ラストまぎわは「憑かれる」ちょっと怖いシーンも・・・。
最終章は文句なしの読後感でした。

「アムステルダムの犬」いしいしんじ著(講談社)

2006-08-30 | 外国の作家
「アムステルダムの犬」いしいしんじ著(講談社)を読みました。
「自称」路上似顔絵書道家と食事の前には必ず踊るアホノラ犬との一週間。いしいしんじさんが二十代の時に旅したアムステルダムでの模様を描いたもので、いしいさんのデビュー作でもあります。
いしいしんじさんの本は国籍不明で童話のような民話のような雰囲気、話には暗さもあるけど最後は心があったかくなる、そんな本が多いと思います。
でもこの本はただただ笑うのみ!
絵も書もへたっぴい。
毎日のしめくくりに書かれる書にも脱力。(5/1の「おちていく」は絶品)
全編大阪弁で語られているのも、珍しくて楽しかったです。
こんな風に心のままにその日ぐらしの旅、いいな~。うらやましいです。


「舶来文学 柴田商店 -国産品もあります」柴田元幸著(新書館)

2006-08-28 | 柴田元幸
「舶来文学 柴田商店 -国産品もあります」柴田元幸著(新書館)を読みました。
アメリカ文学からイギリス、中欧などさまざまな外国文学と、日本のさまざまなジャンルの本などいろいろな本をとりまぜた興味深い134冊の読書案内。
柴田さんの本棚をのぞいているようで楽しい一冊。
「靴下あらかじめ折り込み方式」を論じた「中二階」が読んでみたいです。


「私だけがいえる 簡単すぎる名画鑑賞術」西岡文彦著(講談社)

2006-08-24 | 児童書・ヤングアダルト
「私だけがいえる 簡単すぎる名画鑑賞術」西岡文彦著(講談社)を読みました。
「中学生にもわかる文章」を念頭においた美術の導入書。
「モナ・リザ」の実物を見た人はなぜがっかりするのか?など、難しい美術用語を使わずに語られる作品論は本当に楽しくわかりやすいです。
ほかにモネ、ルノアール、ゴッホから現代芸術まで、12の名画を軸に、作家論と歴史とのかかわりを絡めながら幅広く論じられています。
「名画なのだからいい絵なのだな、と思わずに自分の目で見たときのなんで?という感覚を大事にしたほうがいい」という筆者の言葉、肩の力がぬけて絵を見るのがラクになります。
そして絵そのものを楽しむことと同時に、その作品の時代背景や、先達の開拓した技術を発展させていった歴史を知ると、もっとその作品が楽しめるのだなあと感じました。
歴史という目でみると、現代絵画の現状はどうなのでしょうね。
最近の新しい歩みは映像の方にいってしまったのかなあ・・・。



「白の鳥と黒の鳥」いしいしんじ著(角川書店)

2006-08-24 | 児童書・ヤングアダルト
「白の鳥と黒の鳥」いしいしんじ著(角川書店)を読みました。
いしいしんじさんがさまざまな人々を描いた短篇集。
後に出版された「雪屋のロッスさん」よりより大人っぽいイメージ。
老いたオカマさんの紫の部屋、ホームレスの歌合戦などユーモラスなような、せつないような絶妙な風景を切り取ります。
私が一番衝撃的だったのは、酒飲みの父親に愛されない双子、青男と赤男。
ふたりでひとりのような存在だったふたり、でもふたりにはお互いこそが逃れられない檻だったのかなあ・・・と心が寒くなりました。


「コーネルの箱」チャールズ・シミック著(柴田元幸訳)文藝春秋

2006-08-23 | 柴田元幸
「コーネルの箱」チャールズ・シミック著(柴田元幸訳)文藝春秋を読みました。
コラージュを用いて不思議な箱をいくつも作ったジョゼフ・コーネル。
彼はニューヨークの古本屋や小道具屋を漁って手に入れた小物を木箱に収めて、小さな宇宙を作り上げました。
そのコーネルの箱について、ピューリツァー賞を受賞したシミックが詩のような文章で語っています。カラー写真が多いのがうれしい一冊。

コーネルの箱は初めて見たのですが、どれもこれも手元においてゆっくり眺めていたいものばかり。
エジプトの墓を思わせる箱、貿易風の吹いてくる箱、ピアノの音色が聞こえてくる箱、風の薔薇と名づけられた化石を集めた箱・・・。うっとり。

千葉の佐倉にある川村記念美術館ではコーネルの箱の実物(本に記載されているものではないと思いますが・・・)が見られるそうです。
ぜひ行ってこの目で見てみたいです。もって帰りたくなっちゃうかも。

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2006.9.17
追記です。上記の↑川村記念美術館に行ってきました!
美術館のまわりは大きな池や芝生が広がりとても気持ちのいい場所です。
モネやピサロ、ピカソやシャガール、レンブラントという名画も楽しめます。
コーネルの箱は以下の5点が展示されていました。

無題(ピアノ) 1947-48年頃
無題(オウムと蝶の住まい) 1948年頃
無題(ラ・ベラ[パルミジャニーノ]) 1950-56年頃
無題(星ホテル) 1956年頃
鳥たちの天空航法

実際に見てみると大きな箱なんだなーというのが感想です。成人の胴体くらい?
ピアノのオルゴールを実際に聞けたり、裏側に星座表が貼られていたり、すみっこにヒトデがあったりして発見がいっぱい。
ぜひこの本を読んでコーネルの作品に感銘を受けた方は実際に行ってみてほしいなあと思います。




「メロンが食べたい」安西水丸著(実業之日本社)

2006-08-23 | 児童書・ヤングアダルト
「メロンが食べたい」安西水丸著(実業之日本社)を読みました。
『週刊小説』に97年から99年にかけて連載されていたエッセイを集めたものです。
水丸さんのイラストも楽しい60編。
どうしてゲイジュツカをきどる人にはマオカラーシャツが多いのか?
似顔絵が苦手な話。
フランスで行った名も知らない島。
色紙を頼まれて書くと双方困った顔になってしまう・・・など
気取らない日々の思いや好き嫌いなどを語ったもの。

私はあんまり「アレが嫌い」「あれは変」と言う人は好きではないのですが、水丸さんは「あれはキライ、こういうのがスキ」と人生を楽しもうとする心がセットになっていて、読んでいてとても楽しかったです。





「スペシャリストの帽子」ケリー・リンク著(金子ゆき子・佐田千織訳)早川書房

2006-08-21 | 柴田元幸
「スペシャリストの帽子」ケリー・リンク著(金子ゆき子・佐田千織訳)早川書房を読みました。
表題作は十歳の双子の姉妹が主人公。ふたりが母親を亡くして初めて迎える夏、屋根裏部屋で、二人は帽子でない帽子〈スペシャリストの帽子〉を手に入れます。
この作品は世界幻想文学大賞を受賞しています。
ほかに既婚者としか関係を持たないルイーズと、チェリストとしか関係を持たないルイーズ、二人のルイーズを描くネビュラ賞受賞の「ルイーズのゴースト」など、全11篇がおさめられています。解説は柴田元幸さん。

全体的に民話のようなおちのない不思議な話が多くて、その世界にひきこまれます。私が一番面白かったのは「ルイーズのゴースト」。
毛のはえた不思議なゴーストに脱力。不気味だけどちょっとかわいい。妖怪っぽい。
きままに生きているルイーズですが、実は誰か自分を必要としてくれる存在が欲しい、面倒でも自分が手をかけられる何かが欲しい、と渇望している様子に共感しました。
雪の女王のパロディやギリシャ神話の神が現代に舞い降りたりと、その作風は多彩。ケリー・リンクさんのほかの作品ももっと読んでみたいです。


「どこにもない国」柴田元幸編訳(松柏社)

2006-08-18 | 柴田元幸
「どこにもない国」柴田元幸編訳(松柏社)を読みました。
現代アメリカの幻想小説を集めた編訳書です。

収録作品は以下のとおり。

エリック・マコーマック「地下堂の査察」
ピーター・ケアリー「Do You Love Me ?」
ジョイス・キャロル・オーツ「どこへ行くの、どこ行ってたの?」
ティリアム・T・ヴォルマン「失われた物語たちの墓」
ケン・カルファス「見えないショッピング・モール」
レベッカ・ブラウン「魔法」
スティーヴン・ミルハウザー「雪人間」
ニコルソン・ベイカー「下層士」
ケリー・リンク「ザ・ホルトラク」

どの作品も、どこか別の夢のような世界を描いたものではなく、あるものは日常にやわらかくしのびよる暴力の影だったり、またあるものはどこかの国にありそうな暗い地下堂だったり、現代社会の戯画だったり・・・。
あとがきで柴田元幸さんが「もちろん、「どこにもない国」は「どこにでもある国」である」と語っていますが、まさにそのとおりだと思います。
いつでも日常の横にあり、いつすりかわるかわからないような非日常を描いた作品が多いと思います。
一番印象的だったのはジョイス・キャロル・オーツの「どこへ行くの、どこ行ってたの?」。
15歳のコニーにすりよる年齢不詳の男。性と暴力の匂い。恐怖と、男にすべてをゆだねる脱力感。
読後この作品は男とコニーの一場面という話におさまらないものだと思いました。15歳で将来をキラキラと思い描いている少女が、年をとるうちにその空想をうち砕かれ、妥協し心を失っていくような将来をも暗示させるような気がしました。