Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「モンテ・クリスト伯(上)」アレクサンドル・デュマ著(竹村猛編訳)岩波書店

2007-02-28 | 児童書・ヤングアダルト
「モンテ・クリスト伯(上)」アレクサンドル・デュマ著(竹村猛編訳)岩波書店を読みました。
主人公の名はエドモン・ダンテス。彼は20歳の若さですが腕をかわれ新しく船長に内定し、最愛の恋人と結婚する予定の将来を嘱望された青年。しかし陰謀によって披露宴の席上で突然逮捕され牢獄に囚われの身となります。
獄中で囚人の神父の導きで教養を身につけたダンテスは14年後脱獄し、モンテ・クリスト伯と名乗り復讐を開始します。
この岩波書店版は縮訳版ですが「あらすじのみ」という感じもしないけれど中だるみもなく、面白くのめりこんでしまいます。原本は読んだことはないのですが、上手に縮訳されているのではないでしょうか。
まだ上巻なのでダンテスの復讐はまだやっと足がかりをつけたといったところ。
これからどういう風に展開するのか楽しみ。


「迷宮美術館 第三集」NHK制作チーム(河出書房新社)

2007-02-27 | エッセイ・実用書・その他
「迷宮美術館 第三集」NHK「迷宮美術館」制作チーム(河出書房新社)を読みました。
NHKテレビ放送中(BS2日曜夜11時~/総合金曜夜8時~)の「迷宮美術館」の書籍版。名画に秘められた謎や不思議、画家の人生に隠された真相にスポットを当てて紹介されています。豊富な図版と独特の切り口で、美術の世界をわかりやすく案内。第三集は日本で見られる名画を中心にまとめられています。
特に日本画は気軽に読める美術書が少ないと感じていたのでこの本でとりあげられていたのはとてもうれしいです。
信長が描かせた屏風絵は誰にプレゼントしたものか?歌川広重の傑作にある痛恨のミスとは?などなどクイズ形式で楽しめるのもうれしい。
番組では住吉アナの毎回テーマにあわせたかわいい衣装や段田さんの講談、中村有司さんのパントマイムなど美術以外にもいろいろ楽しめます。

「痴人の愛」谷崎潤一郎著(中央公論社)

2007-02-26 | 日本の作家
「痴人の愛」谷崎潤一郎著(中央公論社)を読みました。
15歳の美少女ナオミを貴婦人にしたてるべくもらいうけた28歳の譲治。その若々しい肢体にひかれ、やがて彼は成熟した淫蕩なまでのナオミの魅力のとりこになっていきます。女の魔性に跪く譲治の惑乱と陶酔を描いた傑作です。

文庫版では河野多恵子さんが解説を書かれているのですが、「譲治のマゾヒズム」とまとめているのは正直どうかなあ、と思いました。確かにラストシーンは鮮烈でグロテスクだと私も思いましたが。
でもこの話が男女逆だとしたらそんなに眉をひそめる話でもないと思うのです。
浮気性の男に、その男に騙され待ち続ける女。よくある可哀想な話(男の人によっては美談というかも)です。でも「痴人の愛」のように男女が逆だとこんなに滑稽で特別な話のようになってしまうのはなぜでしょう。
譲治が、またはナオミが特に変わった人間だ、とは私には感じられないのです。

それにしても譲治がナオミから離れられないのはナオミの肉体だけが理由ではないのでしょうね。作中で「強い酒に絶えず酔ったような心地」とある通り、じらされ裏切られ辱められたあげく、ふいっとこちらに笑いかけて甘えてくる、そのナオミの一挙一動に応じて譲治の気持ちが天国と地獄を繰り返す。
それが麻薬のように彼をとらえて離さないのでしょう。きっと譲治には性悪女であってもナオミ以外の女性じゃものたりなくてダメなんだろうなー。



「キューバ日記」いしいしんじ著(マガジンハウス)

2007-02-25 | いしいしんじ
「キューバ日記」いしいしんじ著(マガジンハウス)を読みました。
2006年4月ほぼ1ヶ月にわたるキューバ旅行の記録です。著者のスケッチとすべて犬と猫の写真がところどころに挿入されています。
キューバ音楽、ラムや葉巻の香り、しなしなサラダに謎の水。
言葉あそび(だじゃれ)が多くて脱力。薬オースギ、よくこんなにクンメー、鳥煮ダーほかほか。
ひざしがまぶしくて建物がカラフルで石畳が光って「異国」を感じさせる写真がきれい。

「小犬のカシタンカ」アントン・チェーホフ著(難波平太郎訳)新風社

2007-02-25 | 児童書・ヤングアダルト
「小犬のカシタンカ」アントン・チェーホフ著(難波平太郎訳)新風社を読みました。
指物師の主人とはぐれてしまった小犬のカシタンカ。疲れきって泣いているところを助けてくれたのは、見知らぬ小父さん。
ロシアでは、学校の副読本にも採用されたことがあるそうです。ですます調でチェーホフの話がやわらかい雰囲気で翻訳されています。『おでこの子犬』も併録。
話に出てくる動物たちがみんなキャラクターが違って面白い。
カシタンカにとっておじさんのところがよかったのか、指物師のところがよかったのかは私には微妙に思われましたが、うーん・・・。
でも野良ではなく飼い犬であることを選ぶ以上誰かを飼い主に選ばなければならないですからね・・・。
ちょっとオースターの「ティンブクトゥ」も思い出しました。

「リチャード・ブローティガン」藤本和子著(新潮社)

2007-02-23 | エッセイ・実用書・その他
「リチャード・ブローティガン」藤本和子著(新潮社)を読みました。
藤本さんが1973年のサンフランシスコで偶然見かけた金髪の男性はリチャード・ブローティガン。藤本さんは「アメリカの鱒釣り」を翻訳中であることを話し、その後翻訳者として、友人としてリチャード・ブローティガンと交友を深めます。ブローティガンの風変わりな作品、84年に自殺を遂げるまでを作品をたどりながら語られています。
藤本さんが語るとイメージの自由な羽ばたき(ある一面ではばらばらなイメージの連なり)と思っていたブローティガンの文章の背後に潜むものの存在が浮かび上がるような気がします。友人として、翻訳者として深く読みこんでいるからこそでしょうか。

印象的な言葉は「寄宿詩人」の章で藤本さんが語る言葉。
「名もない、などとわたしも簡単に言うが、そのような言い方は本当は嫌いだ。そう呼ばれる人々にはいつだって名はちゃんとあるし、名もないといってすませるのは語り手の思い上がりにすぎない。物語を書くことの目的のひとつは、「名もない」と一括される人々の名を固有名詞にして呼び戻し、彼らの声を回復することにあると、私も思う」
また、ブローティガン自身の言葉
「作家は判断するものではなく描写するもの」
「○○は○○だと断定する話し方をする人間は好きではないんだ」

ブローティガンの弱いけれど優しいまなざしをさまざまな側面から感じ取れるエピソードがあふれています。

「紙の空から」柴田元幸編訳(晶文社)

2007-02-22 | 柴田元幸
「紙の空から」柴田元幸編訳(晶文社)を読みました。
雑誌PAPER SKYに連載中の、旅をテーマにした14篇のアンソロジーです。
各短編にはカラー挿絵つきでイメージがふくらみます。
それぞれいろいろな味わいがあって面白いのですが、特に私がいいなと思ったのはマグナス・ミルズの「夜走る人々」とハワード・ネメロフの「夢博物館」。
ミルズの作品はとにかく笑えます。
騒音の中で「えぇ?」「あぁ?」とちぐはぐな会話をするトラックドライバーと助手。片岡鶴太郎さんのおばあさんのコントを思い出してしまった。オチも最高!
ネメロフの作品は、夢を見て反芻するのが大好きな私にとって男の言葉はとても共感できるものでした「夢を見て覚えておくことで人生の経験を倍にできる」という考え方は魅力的。
でも同時に彼の現実世界からの乖離っぷりに怖さも感じました。



「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ著(土屋政雄訳)早川書房

2007-02-21 | 柴田元幸
「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ著(土屋政雄訳)早川書房を読みました。
語り手は現在31歳のキャシー。彼女は優秀な介護人で提供者と呼ばれる人々の世話をしています。彼女はイギリスの美しい田園地方ヘールシャムの私立学校で、子ども時代を過ごしました。そこでは子どもたちは外界から保護され、自分たちは特別な子どもなのだと教えられています。キャシーはヘールシャム時代の友人二人と再会し、記憶をさかのぼります。図画工作に極端に力をいれた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちの不思議な態度。
彼女は過去を振り返ってはじめて、自分たちの子ども時代と現在の生き方の真実が見え、それに対峙せざるを得なくなります。

勝気なルース、いじめられっこのトミー、ごく普通の学生生活の後ろにある残酷な事実。悲しみでもなく驚きでもなく「特別な子」の背後にある現実が淡々とした文章で語られており現在のテクノロジーの進歩と倫理について深く考えさせられます。作中で出てくる「モーニングデール・スキャンダル」は私たちが心の底で思っていることをずばりと言い当てられたようなきまずさがありました。
能力が優れた子供を生むと親である自分たちが「虐げられる側」になるから、そのような研究はよろしくない、でも自分たちが困ったときには利用できる人間が欲しい・・・。この矛盾。
マダムが語った「わたしを離さないで」の真意、胸に迫ります。
ちなみに解説は柴田元幸さん。


「わたしの名は紅」オルハン・パムク著(和久井路子訳)藤原書店

2007-02-19 | 外国の作家
「わたしの名は紅(あか)」オルハン・パムク著(和久井路子訳)藤原書店を読みました。
昨年ノーベル文学賞を受賞したこの作品。
日本では受賞予想NO1の村上春樹さんをおしのけて受賞するなんてどんな人だか、と半ばけんか腰で読み始めたのですが、冒頭からひきつけられ一気に読了。
大江健三郎さんは難しくてわからなかったので、ノーベル賞作品って難解な作品ばかりかと思っていたのですが私の偏見でした。
とにかくとにかくとても面白かったです。まわりの人にも強く勧めたい一冊。

舞台はスレイマン帝の二代後のオスマン・トルコ帝国。東西文明が交錯する都市イスタンブルで展開する細密画師たちの物語です。
冒頭の語り手は死体。何者かに殺された細密画師、犯人は誰なのか?細密画師はなぜ殺されたのか?
その後、章ごとに語り手が変わりながら物語は進んでいきます。
語り手が人物だけでなく犬、金貨、紅(赤色)が語るというのもとても面白い。
比喩を何度もたたみかけるような美しく巧みな文章にもうっとり。
犯人さがしのミステリーの面白さ、カラとシュキュレの愛の物語、オスマン帝国とヨーロッパの宗教を背景とする画法の違いなど、物語にはさまざまな要素がたっぷり詰まっています。
モスクを遠方にあるからという理由でほかのものより小さく書く遠近法は神への冒涜ではないのか?
スルタンの容貌をありのままに描き肖像画を拝するのは人を神のように見せる異端行為ではないのか?
偶像崇拝を禁ずるイスラム教と芸術との拮抗。
イスラム文化とヨーロッパ文化との相違、畏れと憧れ。
「ダヴィンチコード」も連想される、読み応えある絵画と歴史のミステリーです。
読み終わったあとに犯人の会話を読み返してみると、ラストを予見するような記述があってびっくり・・・話作りが巧み。
犯人を追い詰めるシーンは緊迫感あふれ、とても印象的なシーンです。
ちなみに私の犯人予想は外れました。みなさんは当てられるでしょうか?



「装丁物語」和田誠著(白水社)

2007-02-09 | エッセイ・実用書・その他
「装丁物語」和田誠著(白水社)を読みました。
イラストレーター和田誠さんが、自分がてがけた作品をもとに、発想のコツやノウハウ、作家たちとの交流など、装丁をさまざまな側面から語ったエッセイです。
和田さんが25年以上にわたって手がけた装丁は千冊を超えるそうです。すごいですね。

本を読んでいてすごいなーと思ったのは、「装丁がその本の内容にいかに添えるか」 を第一に考えていること。売りたい根性の派手なデザインや、「和田デザイン」というような決まった枠に装丁をあてはめるのではないということ。
そのため、実際に装丁されたものを見ると写真、イラスト、グラフィックデザイン、文字だけのものなど本当に切り口がさまざま。
同じ作家の書いたものでも小説と評論ではまた表紙の雰囲気を変えています。

和田さんのアイディアは豊富で本当に面白いです。
タイトルに映画字幕の文字を使ったり、オビで隠れる部分に遊び心の絵を入れたり。丸谷才一さんの「樹影譚」では表題作を表紙に使わないで、同時収録の「鈍感な青年」の舞台になっている佃島の神社の額模様を使うなんて奥がふか~い!
「話のオチは一番絵にしやすいけれど、それをあえて未読の読者のために書かないようにする」という工夫、実は大変だろうなあと思います。私もこのブログを書いていて誰かに「この本面白そうだな」と思ってもらえたらとてもうれしいけれど、話の肝を省いて話の面白さを表現するのはとても難しい。(というわけで私はちょくちょくネタバレもしています)
そして和田さん自身の著作には実験的によりシンプルな装丁をするというのも面白いと思いました。裏表紙のバーコード問題は、気にしたことなかった・・・。デザイナーには悩み深い問題でしょうね。

これからはもう少し意識的に装丁を気にしてみようと思います。