Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「トゥルー・ストーリーズ」ポール・オースター著(新潮社)

2005-04-15 | 柴田元幸
「トゥルー・ストーリーズ」ポール・オースター著(柴田元幸訳)新潮社を読みました。
著者の自伝的文章と、折々の文章が収録されています。
「赤いノートブック」は小説のような偶然が折り重なった事実をつづったもの。
物事を動かしているのは自分の意志よりむしろ偶然かもなと感じます。
「その日暮らし」は貧乏をいかにしのいでいったかの自分史談。
飢えの末つくった最後の食事のオニオンパイを焦がしてしまった話はみじめ。
でも、笑える・・・。
ものを書くことについて、「書き手になるということは選ぶというより選ばれるのであって、一生長く辛い道を歩く覚悟を決めるしかない」という文章には感じるものがありました。
オースターのような独特な文章、小説を書ける人でも、ものを書いて生活していることを「幸運」と考えている。
作家とは職業のひとつではなく、その人の生き方なんですね。

「探検ロマン世界遺産」モロッコ(2005.4.14放送分 NHK20時~)

2005-04-14 | トルコ関連
「探検ロマン世界遺産」(2005.4.14放送分 NHK20時~)を見ました。
今回取り上げられたのはモロッコの迷宮都市フェズ。
城壁の中は9600もの路地がはりめぐらされた街。
一見無秩序のようですが、門から中央に向かってのびる大路(商業路)は道幅も定められており、そこからは公路が伸びています。
そしてそこからさらに細く伸びているのは私路。
都市の中は30の地区に分かれており、それぞれの地区には5つの施設をつくることが定めらています。
ひとつはモスク(イスラム寺院)、ふたつめはコーランの学校(小学生以下の子どもたちが通います)、
みっつめはハマム(公衆浴場)、よっつめはパン屋、最後は水場です。
住居は全体に茶色でも、実はさまざまな色と形があります。
市場にはさまざまな果物と香辛料、革製品や金細工が並び色鮮やか。
さまざまなものが混在していて面白い街だなと思いました。
フェズはぜひいってみたい私の「自分遺産」のひとつです。
http://yokohama.cool.ne.jp/straighttravel/colum.htm

モロッコ、いつかは訪れてみたいなぁ。


「失われし書庫」ジョン・ダニング著(宮脇孝雄訳)早川書房

2005-04-11 | 柴田元幸
「失われし書庫」ジョン・ダニング著(宮脇孝雄訳)早川書房を読みました。
主人公・古本屋クリフ・ジェーンウェイのシリーズ三作目。
クリフはイギリスの探検家リチャード・バートン著作の稀覯本を手にいれます。
ある日老婦人が現れます。
彼女は「その本は騙し取られたもので、祖父の書庫のひとつだ」と主張します。
彼女の頼みでクリフは失われた蔵書の探索を始めます。

今作ではバートンのアメリカ滞在の空白期間をめぐる歴史小説の風合いが強くなっています。
前二作に比べて古本のうんちく、殺人の犯人を解き明かすミステリーの要素は少なめ。
南北戦争の開戦のひきがねとなったのはバートンの言葉だった、など本当だったら興味深いなあと思うエピソードがちりばめられた作品です。
日本ではリチャード・バートンはあまり有名ではないのではないでしょうか。
(私もこの作品で初めて知りました。)
多くの外国語をあやつり、現地にとけこんだ冒険家。きっととても奥の深い人物だったのでしょうね。

「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」J・K・ローリング著(静山社)

2005-04-08 | 柴田元幸
「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団 上・下」J・K・ローリング著(松岡佑子訳)静山社 を読みました。
ハリー・ポッター・シリーズの第五作目。
15歳のハリー・ポッターは思春期のまっただ中。いらだちや反抗心、恋わずらいなど、ハリーの人間くささがより強く出ている作品です。
新聞記事によるハリーへの偏見、魔法省から派遣された新任教師・アンブリッジとの闘い、間近に控えた試験対策、クィディッチの禁止、不気味な夢など、ハリーにのしかかる困難はより強まります。
父やシリウス、ダンブルドアなど、今まで無条件に尊敬していた人々も、完璧ではなくひとりの人間であることを知りハリーは成長していきます。
人は善人・悪人とはっきり分けられないことを読者である私たちも実感させられる作品。
ハリーたちが同級生だけで魔法省に乗り込み、死喰い人たちと対峙する下巻の盛り上がりは圧巻。
映像だとどのように描かれるのか、映画化も今から楽しみです。

「トラウマの国」高橋秀実著(新潮社)

2005-04-07 | 柴田元幸
「トラウマの国」高橋秀実著(新潮社)を読みました。
ゆとり教育、資格取得に燃える人々、ビジネスマンの英語、妻によるDV、せわしないスローライフ、
自分史とは何か、などなど興味のひかれる話題を高橋さん独特の視点で取材し、語ります。
高橋さんのルポで面白いのは、ある状況に対して賢しげな解釈を加えず、なにより当事者の「生の声」を大事にする姿勢。そして高橋さんの絶妙のツッコミ。

子供たちが今一番求めているのはやすらぎ。
食べ終わった茶碗の始末の悪い夫に芽生える殺意。
田舎暮らしはもてあます時間との闘い。
「不幸」を描く自分史。

もしこれが新聞やテレビの取材だったら、当人が話さないだろうなぁと感じる「本音の台詞」が多くて、とても面白かったです。
私が印象的だったのは話し方学校のユーモア講座の取材。
「石焼き芋」の朗読とか・・・講義の内容に大きな疑問符。
この講義をまじめに受けている状況がすでにユーモアだよね・・・。