Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「空中ブランコ」奥田英朗著 文藝春秋

2005-06-09 | 柴田元幸
「空中ブランコ」奥田英朗著 文藝春秋を読みました。
短編集、精神科医伊良部のシリーズ二作目。前作は「イン・ザ・プール」です。
空中ブランコがある日うまく飛べなくなるサーカス団員、先端恐怖症のヤクザ、コントロールがきかなくなる三塁手。さまざまな患者達が伊良部のもとを訪れ、自分自身を受けとめていきます。
伊良部のキャラクターが秀逸。笑える容貌・子どものような言動・非常識な行動。
作品を読んでいると決して伊良部が「治した」とは感じないのですが、やっぱり伊良部と触れ合ったことでそれぞれが「変わった」んだなあ、名(迷?)医だなあと感じてしまいます。
私が一番印象に残ったのが義父のカツラをとりたい欲望に駆られる医師の話。
学生のときはふざけたことが好きだったのに、35歳を過ぎて、年齢や医師という職業、周囲の視線にしばられていつのまにか自分を檻の中に閉じ込めてしまった依頼主。
「ねばならない」の世界に生きると苦しいよなあと共感しました。
最後の女性作家の話は、作者の奥田さん自身の考えも透けて見えるような印象を受けました。





「ダ・ヴィンチ・コード」ダン・ブラウン著 角川書店

2005-06-08 | 柴田元幸
「ダ・ヴィンチ・コード 上・下」ダン・ブラウン著(越前敏弥訳) 角川書店を読みました。
フランス・イギリスを舞台にし、殺人事件の謎解きをからめた歴史ミステリー。
ルーブル美術館で起きた館長の殺人事件をきっかけに物語は始まります。館長は死の直前、暗号を犯行現場に残しました。被害者の孫娘ソフィー・ヌヴーと、高名な象徴学者のロバート・ラングドンは暗号を解きあかすうちに、キリスト教の謎、秘密結社の核心に足を踏み入れていきます。

ダ・ヴィンチの絵画を下敷きに、西洋史・キリスト教の謎を解く知的な要素がたっぷり詰まったミステリー。殺人犯を追うテンポのよい展開が基調にあるため、学術書のような難しさがなく一気に読んでしまいました。ディズニーの「リトル・マーメイド」への言及など、過去と現代が入り混じったエンターテイメント性の高い作品。世界的なベストセラーなのも納得。面白かったです。
荒俣宏さんが解説を担当しています。


「幽霊たち」 ポール・オースター著 新潮社

2005-06-02 | 柴田元幸
「幽霊たち」ポール・オースター著(柴田元幸訳)新潮社を読みました。
主人公の私立探偵ブルーは、変装した男ホワイトから「ブラックを見張るように」と依頼を受けます。
しかし、ブラックの日常には何の変化もありません。ブルーはブラックの正体やホワイトの目的を推理して、空想の世界に彷徨います。次第にブルーは、不安と焦燥、疑惑に駆られるようになります。
ポール・オースターの代表作、ニューヨーク三部作の二作目です。

ブラックを日々ながめ、彼のことを考えているうちにブルーの「自我」が透けてなくなり、幽霊のようになっていく。
作中で描かれる「作家が作品を書いているときははそこにいながらそこにいない」という台詞とブルーの姿が重なります。
すでに死んでしまったものたち、そこにいながらそこにいない自分、幽霊たちであふれている世界。
妄想と現実が入り混じるクライマックス、誰が「自分」で「彼」なのか?
めまいのするような不思議な読後感のある作品です。

「幻夜」東野圭吾著 集英社

2005-06-01 | 柴田元幸
「幻夜」東野圭吾著 集英社を読みました。
舞台は1995年、西宮。主人公雅也の父の通夜の翌朝起きた大地震から物語は始まります。
美冬という謎の女性に秘密を握られる主人公。
雅也は美冬とその後の人生を歩んでいくことになります。

美冬の周到な計画と冷酷さ、演技の巧みさが本当におそろしい。
彼女の素顔は誰もわからない。結局美冬は誰も信じていないんだなあと強く感じました。
結局真相は藪の中。「あーそうか。こうやって終わるのか・・・」とせつないようなもやもやしたものが残りました。