驚くべき論文がニューヨークタイムズに掲載された。
http://www.nytimes.com/2009/08/27/opinion/27iht-edhatoyama.html?pagewanted=1&_r=1&sq=hatoyama&st=cse&scp=1
鳩山由紀夫の “A New Path for Japan” だ。その要旨は次のように報道されている。
東アジアで通貨統合、安保協力=民主・鳩山氏が米紙に寄稿
【ワシントン時事】民主党の鳩山由紀夫代表は27日付の米紙ニューヨーク・タイムズに「日本の新たな道」と題する論文を寄稿、東アジア地域で通貨統合や恒久的な安全保障の枠組みづくりを目指す考えを示した。
鳩山氏は「イラク戦争の失敗と経済危機により、米国主導のグローバリズムの時代は終焉(しゅうえん)し、多極化の時代に向かっている」と指摘。その上で、持論の「友愛」精神から導かれる国家目標として「東アジア共同体」創設を提唱した。
さらに、その具体化のため、安定した経済協力と安全保障の枠組みをつくるべきだと主張、「それが米中両国のはざまで日本の政治的、経済的な独立を守るための適切な道だ」と強調している。(2009/08/27-10:45)
私なりの感想を加えよう。
まず、冒頭の文章がすごい。
In the post-Cold War period, Japan has been continually buffeted by the winds of market fundamentalism in a U.S.-led movement that is more usually called globalization. In the fundamentalist pursuit of capitalism people are treated not as an end but as a means. Consequently, human dignity is lost.
冷戦後、日本は絶えず米国主導の市場原理主義(通常はグローバリゼーションと呼ばれる)の嵐にほんろうされてきた。原理主義的な資本主義の追求のなかで、人々は単なる手段として扱われ、その結果、人間としての尊厳が失われた。
また、こうも書いている。
I also feel that as a result of the failure of the Iraq war and the financial crisis, the era of U.S.-led globalism is coming to an end and that we are moving toward an era of multipolarity.
私はまた、イラク戦争の失敗と金融危機により、米国主導のグローバリズムの時代が終わりに近づき、多極化の時代に向かいつつあると感じている。
ここにあるのは、これまでの米国のありようへの全面的な否定だ。反米主義と取られても仕方がないだろう。
Fraternity as I mean it can be described as a principle that aims to adjust to the excesses of the current globalized brand of capitalism and accommodate the local economic practices that have been fostered through our traditions.
友愛とは、近年の世界的な資本主義の行き過ぎを是正するとともに、私たちの伝統の中ではぐくまれてきた地域経済活動に適応するための原則を意味している。
この論文では、鳩山の唱える「友愛」は “fraternity” と訳されている。”friendship” ではないことに注目したい。
“fraternity” は兄弟の情、同胞愛、同業者仲間、などと訳され、狭い範囲(仲間内)の連帯感、友情を指す言葉だ。
鳩山由紀夫にとっての「仲間」とは、日本人だけでなく朝鮮人や中国人を含むのであり、そこから、「友愛」は「東アジア共同体」に自然に結び付くということだろう。
つまり、鳩山にとって、fraternity は globalization の対極に位置する概念であり、「地域主義」を意味しているのだ。
このような地域主義(経済のブロック化)は、はたして世界に平和と安定をもたらすのだろうか。何よりも、鳩山は、中国という巨大国家に日本が飲み込まれるという恐怖を感じないのだろうか。
この論文は、米国に正面から絶縁状をたたきつけるようなものであり、その無神経さには驚くほかないが、他にも無神経な記述がある。
ASEAN, Japan, China (including Hong Kong), South Korea and Taiwan now account for one quarter of the world’s gross domestic product.
ASEAN、日本、中国(香港を含む)、韓国および台湾はいまや世界のGDPの四分の一を占めている。
ここでは、中国と台湾を完全に区別している。台湾は中国の一部と主張する中国への配慮はみじんもない。「友愛」が泣くような無神経さではないか。
鳩山はあちこちに「東アジア共同体」や「通貨統合」について書いていることから、決して単なる理想論や夢物語を語っているわけではなく、本気で実現を目指そうとしていると推定される。
一国の最高指導者になろうとしている男の「とんでもない妄想」に付き合おうとする我が日本国民の愚かさには絶望を禁じ得ない。