朝顔を洗ってタオルで顔をぬぐうと、自分のほかに、彼女の顔も鏡に映っていた。
鏡の中の彼女はだんだん近づいてきて、前売り券を歯ブラシの隣に置いたが、なにもいわない。以前1度「最近根をつめすぎだからたまには映画でもみていらっしゃい」といったことがあったから今回はいわないという顔つきだった。
タイトルもみずにその前売り券をポケットに突っ込み、「どこの映画館?」と聞いたが、彼女は、きびすを返して奥に消えた。「いつものとこ」ということだろう。
もう僕の気持ちは映画をみることに走り出していた。
ここのところ生活が不規則で、時間の感覚がわからなかったが、取り敢えず駅への道を急いだ。
映画をみることになったのだから、まずは乗れる一番早い電車に乗らなければならない、ただそれだけの理由で足を速めた。
果たしてすべてがセッティングしてあったかのように、プラットフォームから踏み出した僕の足の行方には、ちょうど扉が開いた列車がいて、僕を招き入れた。
僕はその自動的な神の配剤に満足しつつ、片手を吊り革に、前売り券をポケットから取り出した。
『魂萌え!(桐野夏生原作)』は、起きてから電車に乗るまでをこんな風に創作したくなる映画だった。
鏡の中の彼女はだんだん近づいてきて、前売り券を歯ブラシの隣に置いたが、なにもいわない。以前1度「最近根をつめすぎだからたまには映画でもみていらっしゃい」といったことがあったから今回はいわないという顔つきだった。
タイトルもみずにその前売り券をポケットに突っ込み、「どこの映画館?」と聞いたが、彼女は、きびすを返して奥に消えた。「いつものとこ」ということだろう。
もう僕の気持ちは映画をみることに走り出していた。
ここのところ生活が不規則で、時間の感覚がわからなかったが、取り敢えず駅への道を急いだ。
映画をみることになったのだから、まずは乗れる一番早い電車に乗らなければならない、ただそれだけの理由で足を速めた。
果たしてすべてがセッティングしてあったかのように、プラットフォームから踏み出した僕の足の行方には、ちょうど扉が開いた列車がいて、僕を招き入れた。
僕はその自動的な神の配剤に満足しつつ、片手を吊り革に、前売り券をポケットから取り出した。
『魂萌え!(桐野夏生原作)』は、起きてから電車に乗るまでをこんな風に創作したくなる映画だった。